読者からの質問と回答 01201 〜 01210

H.S.さんからの質問 #01210

Dieudonne 完備空間の2つの定義の同値性について教えて下さい.

質問があります. Dieudonne 完備空間 X の定義における次の (1), (2) の同値性がわかりません.
(1) X のユニバーサルユニフォーミティは完備である.
(2) X は距離空間の直積の閉集合に同相である.
お時間のある時で結構ですのでよろしくお願いします.

お答えします:

(1) => (2):
X から距離空間への連続写像全体の集合を F = {f_a : a ∈ A} とし,
各 a ∈ A に対して,f_a : X ---> M_a とかく.
すべての M_a の直積空間を M とし,p_a : M ---> M_a を a-座標への射影とする.
次に,写像 f: X ---> M を,すべての a ∈ A に対して,
p_a o f = f_a 
が成立するように定義する.
このとき,X が完全正則 T_1 空間で,F が X 上のすべての実数値連続関数を含むことから,f は埋蔵写像である.
すなわち,f は X から M の部分空間 f(X) への同相写像である.
さらに,(1) より,f(X) は M の閉集合である.

最後のところでは,次の補題を使います.

補題. X の任意の正規被覆 U に対して,ある a ∈ A と M_a の開被覆 W が存在して, {f_a^{-1}(V) : V ∈ W} は U の細分である.

この補題の証明は少し面倒ですが, 下記の参考書の補題 29.8 の証明が使えます.
森田紀一著『位相空間論』岩波全書 331.

(2) => (1):
次の3つの事実から導かれる.
任意の距離空間は (1) を満たす.
(1) を満たす空間の直積空間はまた (1) を満たす.
(1) を満たす空間の閉部分空間はまた (1) を満たす.

以上,細部の証明は埋めて頂ければと思います.

お返事が遅れまして,大変失礼しました. 質問者がお送り下さったメール・アドレスは現在使用しておりませんので,ご質問をすぐに拝見することができませんでした.
質問者の皆さまは,ホームページ「位相空間・質問箱」に記載のアドレスをお使い下さるよう,お願いいたします.


R.O.さんからの質問 #01209

第14章,演習問題 2 について,ヒント等頂けたらと思います.

現在、大学の数学科で学んでいるものです.
先生の書かれた 『はじめての集合・位相』の演習問題で質問があります.
14章の演習問題2なのですが,(1) <=> (3) => (2) は示せたのですが,
(2) => (1) または (2) => (3) の示し方が分かりません.
(2) の条件を使って,距離関数が有界になる(点を固定すれば連続関数になる)ことや,対偶をとることなど考えてみたのですが,うまくいきません.
これを示すためのヒント等頂けたらと思います.

お答えします:

(2) => (3) の対偶を示すのがよいと思います.
すなわち, 空でない閉集合の列 F_1 ⊇ F_2 ⊇・・・で共通部分が空であるものが存在したとき, X 上に非有界な実数値連続関数が存在することを示します.
以下,証明の概略を書きますので,細部は埋めて下さい.

空でない閉集合の列 F_1 ⊇ F_2 ⊇・・・で共通部分が空であるものが存在したとする.

(1) 各 n に対して,X が距離空間であることから, X 上の実数値連続関数 f_n で,次の条件を満たすものをとることができる.
x ∈ F_n ならば f_n(x) = 0, 
x ∈ X - F_n ならば 0 < f_n(x) ≦ 2^{-n}.

(2) 次に,X 上の実数値関数 f を,次によって定義する.
f(x) = f_1(x) + f_2(x) + ・・・(無限級数の和).

(3) 関数 f は連続である.

(4) すべての x ∈ X で f(x) > 0 である.

(5) ゆえに,関数 g=1/f が定義できる.
このとき, g は X 上の非有界な実数値連続関数である.

いかがでしょうか.無事,問題解決されることを祈っています.
最後になりましたが,『はじめての集合と位相』のご購読に御礼申し上げます.


K.K.さんからの質問 #01208

第11章,定理11.11の証明について,質問 #01024 と同様な疑問があります.

『はじめよう位相空間』の次の定理について, 質問 #01024 と同様の疑問があります.

定理11.11 コンパクト空間 X の任意の閉集合 A はコンパクトである.

証明 X における A の任意の開被覆 U をとる.
U にさらに X の開集合をつけ加えて,X の開被覆 U’ を作る.
X はコンパクトだから,U’ は有限部分被覆 {U_1, U_2,・・・, U_m} を含む.
U_1, U_2, ・・・, U_m の中で A との交わりが空でないものを U_1, U_2, ・・・, U_n とすれば,
{U_1, U_2, ・・・, U_n} ⊆ U であり, A ⊆ U_1 ∪ U_2 ∪・・・∪ U_n が成り立つ.
すなわち,A の任意の開被覆 U は有限被覆を含むので,A はコンパクトである.
証明終.

もし上の証明が正しければ,A が X の開集合でもコンパクトということになってしまうのですが.

お答えします:

上の証明が正しくないところは,次の箇所です.

{U_1, U_2, ・・・, U_n} ⊆ U

これが成立するためには, 最初にとった A の開被覆 U に付け加える X の開集合として, A と交わらない X の開集合をとっておく必要があります.
そのために,定理11.11では,A が X の閉集合であることが仮定されています.
いかがでしょうか.

最後になりましたが,『はじめよう位相空間』のご購読に御礼申し上げます.


N さんからの質問 #01207

点列の収束を使う証明の中で,ε の代わりに 1/n を使うのはなぜでしょうか.

命題「距離空間 X の点 a が X の部分集合 A の触点ならば,a が A のある点列 {a_n} の極限点となる」の証明において, 点 a の ε-近傍 B(a, ε) をとる際に,近傍の半径としてεではなく 1/n が使われていることがあります. なぜ,εの代わりに 1/n を用いるのでしょうか.εではいけないのでしょうか?

お答えします:

ε の代わりに 1/n を用いる理由は,点列 {a_n} を定義するためです.
いかがでしょうか.


N さんからの質問 #01206

「集積点 ∪ 孤立点 = 極限点」という理解は正しいでしょうか.

集積点と極限点について混同しています.
「極限点には集積点と孤立点がある(集積点 ∪ 孤立点 = 極限点)」
という理解は正しいのでしょうか?
例えば,R の部分集合 A = (0, 3) ∪ {5} において,
点列 {5, 5, 5, … } は孤立点の極限点であり,点列 {3+1/n} や {2+1/n} は集積点の極限点であるという捉え方です.

お答えします:

正しいのですが,「集積点 ∪ 孤立点 = 極限点」はよい表現とは言えません.
なぜなら, 集積点や孤立点は部分集合に対して定義される概念で, 極限点は点列に対して定義される概念だからです.

正確には,「距離空間の部分集合 A の点列の極限点は,A の集積点である場合と A の孤立点である場合がある」と書かれるとよいと思います.

後の例の場合は,次のように書くと,より明確になるのではないでしょうか.

点列 {5, 5, 5, …} の極限点 5 は部分集合 A の孤立点である.
点列 {3+1/n} の極限点 3 は部分集合 A の集積点である.
点列 {2+1/n} の極限点 2 は部分集合 A の集積点である.

いかがでしょうか.


N さんからの質問 #01205

自然数や整数の空間の完備性について教えて下さい.

私は,位相に興味をもち,学びはじめた市井の1学徒です.
理系に在籍しなかったこともあって,入り口で悪戦苦闘しております.
目下,次の疑問に直面し,理解に困難を来しています.

距離空間において,有限個の点は離散閉集合でかつ完備です.
しかるに一方,自然数や整数の集合は,同じく離散・閉集合でありながら完備ではありません. この違い,矛盾は,どのように捉え,理解したらよいのでしょうか?

お答えします:

キー・ポイントは, 距離空間の完備性は,距離関数の定め方に依存する概念だということです.
自然数の集合 N や整数の集合 Z に対しても,距離関数の定め方によって,完備になる場合と完備にならない場合があります.

上のご質問の場合,集合 NZ に,どのような距離関数が定められているかがわかりませんが, もし通常の距離関数,すなわち,
d(x, y) = |x - y| 
で定義される距離関数が定められている場合は,距離空間 (N, d) や (Z, d) は完備です.

鍵は,NZ 上の通常の距離関数 d は,
(*) x ≠ y => d(x, y) ≧ 1
を満たすということです.

上の事実 (*) を使って,距離空間 (N, d) が完備であることを証明します.
そのために,(N, d) の任意の基本列(=コーシー列){x_n} をとる.
基本列の定義から,ある番号 k が存在して,
m, n ≧ k => d(x_m, x_n) < 1/2
> が成り立つ.このとき,上の事実 (*) より
m, n ≧ k => x_m = x_n.
したがって,
n ≧ k => x_n = x_k.
ゆえに,{x_n} は点 x_k に収束する.
結果として,(N, d) は完備である.

つまり,(N, d) の基本列は,有限個の項を除いて同じ点になるので, 収束するということです.

以上,疑問は解消されたでしょうか.
N さんの勉強が進むことを祈っています.

折り返し,N さんから,御礼と共に下記の2点の質問を頂きました.

質問1.

「n ≧ k => x_n = x_k. ゆえに,{x_n} は点 x_k に収束する」とありましたが, これを,下記のように理解しましたが,正しいでしょうか?
例えば,{1, 2, 3, 4, 5, 5, 5, … } のとき, k = 5 とすると,x_n = x_k = 5 となり収束する.
例えば,{∞ - 3, ∞ - 2, ∞ - 1, ∞, ∞, ∞, … }(ただし,∞ は無限大の整数)の場合は, k = ∞ とすると,x_n = x_k = ∞ となり収束する.

お答えします:

前半は,正しいです.
後半は,無限大の整数というものは存在しません.

質問2.

「基本列の定義から,ある番号 k が存在して, m, n ≧ k => d(x_m, x_n) < 1/2」とありますが, この中の「1/2」は,1 未満であれば任意の数でよろしいのでしょうか?
また,この場合,1 > ε > 0のような表記は可能なのでしょうか?

お答えします:

1/2 の代わりに 1 以下の任意の正の実数をとることができます. また,その場合,下記のように書くことが可能です.

1 ≧ ε > 0 である ε をとると,基本列の定義から,ある番号 k が存在して,
m, n ≧ k => d(x_m, x_n) < ε 
が成り立つ.


Y.I.さんからの質問 #01204

第10章,定理10.29の証明中の等式 U(X, x, ε) = U(Y, x, ε) ∩ X がうまく理解できません.

『はじめての集合と位相』を独学で勉強させていただいております社会人です.
部分距離空間について,140 ページの (10.8) 式
U(X, x, ε) = U(Y, x, ε) ∩ X
がε-近傍の定義から成り立つと書かれていますが,うまく理解できません.
何かコメントいただければ幸いです.

お答えします:

140ページの (10.8) 式を証明します.
最初に,ε-近傍の定義を復習しておきます.

U(X, x, ε) の定義より,任意の p に対して,
p ∈ U(X, x, ε) <=> d(x, p) < ε かつ p ∈ X. (1)
U(Y, x, ε) の定義より,任意の p に対して,
p ∈ U(Y, x, ε) <=> d(x, p) < ε かつ p ∈ Y. (2)

次に,X ⊆ Y だから,X = X ∩ Y.
すなわち,任意の p に対して,
p ∈ X <=> p ∈ X かつ p ∈ Y. (3)

以上の準備に基づいて,(10.8) を証明します.
任意の p に対して,
p ∈ U(X, x, ε)
<=> d(x, p) < ε かつ p ∈ X [(1) より]
<=> d(x, p) < ε かつ (p ∈ X かつ p ∈ Y) [(3) より]
<=> d(x, p) < ε かつ (p ∈ Y かつ p ∈ X) [命題2.12, (2) より]
<=> (d(x, p) < ε かつ p ∈ Y) かつ p ∈ X [命題2.12, (4) より]
<=> p ∈ U(Y, x, ε) かつ p ∈ X [(2) より]
<=> p ∈ U(Y, x, ε) ∩ X. [共通部分の定義より]
ゆえに,
U(X, x, ε) = U(Y, x, ε) ∩ X.

以上,お答えになったでしょうか.
最後になりましたが, 『はじめての集合と位相』のご購読に御礼申し上げます.


R.I.さんからの質問 #01203

第8章,演習問題 10, 11 について教えて下さい.

『はじめての集合と位相』の本を購入させていただきました.
第8章の演習問題 10 と 11 について教えていただきたいです.

演習問題 10 はユークリッドの距離に注意し,背理法で証明しなければならないことはわかります. その先はどうすればいいでしょうか?
演習問題 11 は問 9 の結果を用いて,ε=1 としたε-N 論法を用いたいのですがどうすればいいでしょうか?

お答えします:

R.I.さんは学生さんでしょうか.
とりあえずヒントを与えますので,しばらく(2週間位)考えられて, それでもわからなければ,またご質問下さい.

問題 10 について:
背理法を使うという方針,よいと思います.
点 p が B^n の点でないと仮定したとき, 最初に,B^n と交わらないような p の ε-近傍が存在することを示します. 後は,命題 10.10 の証明が参考になると思います.

もしR.I.さんが,B^n が E^n の閉集合であるという事実を知っていたら, 問題 10 の主張は,命題 10.10 から直ちに導かれます.

問題 11 について:
問 9 の結果と ε=1 とした ε-N 論法を用いること,よいと思います.
収束列 {x_n} の極限点を x とし,y_n = y と考えます. このとき,問9の結果から,ある n_0 が存在して,
n > n_0 => |d(x, y) - d(x_n, y)| < 1 が成り立つ.このとき,
n > n_0 => d(y, x_n) < d(x, y) + 1. したがって,δ = d(x, y) + 1 とおくと, δ は有限個の n を除いて題意と満たしています.
あとは,残りの有限個の n をどうするかを考えられてはどうでしょうか.

最後になりましたが, 『はじめての集合と位相』のご購読に御礼申し上げます.


T.N.さんからの質問 #01202

第5章,図5.1 の写像 f: H ---> S^1 の逆写像が不連続である理由を教えて下さい.

はじめまして.
『はじめよう位相空間』の 5 章の図 5.1 について質問があるのメールをさせていただきます.
「写像 f: H ---> S^1 の逆写像 f^{-1} は連続でない」ということが図の主張だと思います. しかし,なぜ連続でないのかがわかりません. 正しい逆写像,連続でない理由を知りたいです. よろしくお願いします.

お答えします:

図の S^1 を原点を中心とする半径1の円,すなわち,
S^1 = {(cos t, sin t) : 0 ≦ t < 2π}
とします.このとき,写像 f は,
f : H ---> S^1 ; t |---> (cos 2πt, sin 2πt).
逆写像 f^{-1} は,
f^{-1}: S^1 ---> H; (cos t, sin t) |---> t/2π.

逆写像 f^{-1} が不連続である理由: Rにおいて 1 に収束するような H の増加数列,
たとえば,
t_n = (n-1)/n,  n ∈ N,
をとり,S^1 の点列
p_n = f(t_n),  n ∈ N,
を考えると,p_n ---> (1, 0).
ところが,f^{-1}(p_n) = t_n は f^{-1}((1, 0)) = 0 に収束しない.
ゆえに,f^{-1} は点 (1, 0) で不連続.

質問者からは,自力で解決できたという追申を頂きました.
参考までに,上の回答を記します.
最後になりましたが, 『はじめよう位相空間』のご購読に御礼申し上げます.


N さんからの質問 #01201

第7章,整列可能定理7.30 の証明に関する問10 の解答について教えて下さい.

『はじめての集合と位相』の定理7.30(整列可能定理)の証明に関する問10 について質問がございます.
整列可能定理の証明の流れについては概ねわかった気がするのですが, 問10 の (C) の成立の証明でわからない箇所があります.

解答の 233 ページにある命題 (A.5) の証明自体はわかったのですが,解答の中の記述
「もし(A.5)が示されたとすると・・・W_λ = W_*(x)が成り立つ」
がいまいち理解できません.
私の解釈では,x = min(W_* - W_λ) と決めた時点で, 任意の y ∈ W_λ について y < x が成立するため W_λ = W_*(x) が成り立つように思え, なぜ命題 (A.5) が必要なのかがよくわかりません.
上の記述について,より詳しく教えていただけないでしょうか.

お答えします:

定理 7.30 の証明中の (c) が成立することは,W_* の定義からほとんど明らかなのですが, 学生時代には,指導教官から 「明らかに成立するというのなら,証明を書いてみよ」とよくいわれました.
ご質問の中の
「任意の y ∈ W_λ について y < x が成立するため W_λ = W_*(x) が成り立つ・・・」
における等式
W_λ = W_*(x)
を,集合の等号の定義にしたがって証明しようとすると,(A.5) が必要になります.
いま,(A.5) が示されたとして,(c) を証明します.

(c) の証明:
任意の λ をとる.
W_λ ≠ W_* のとき,x_0 = min(W_* - W_λ) とおく.
このとき,W_λ = W_*(x_0) が成立することを示せばよい.
そのためには,集合の等号の定義から,
W_λ ⊆ W_*(x_0) と W_*(x_0) ⊆ W_λ が成立することを示す必要がある.

W_λ ⊆ W_*(x_0) を示す:
W_λ の任意の要素が W_*(x_0) の要素であることを示す.
任意の x ∈ W_λ をとる.
ここで,x は W_λ の要素だが,x_0 は W_λ の要素でないので, x ≠ x_0 であることに注意する.
いま,もし x ≧ x_0 ならば,上の注意から,x > x_0.
このとき,(A.5) より,
x_0 ∈ W_*(x) ⊆ W_λ. これは,x_0 が W_λ の要素でないことに矛盾する.
以上により x < x_0 が成り立つから,x ∈ W_*(x_0).
ゆえに,W_λ ⊆ W_*(x_0) が示された.

W_*(x_0) ⊆ W_λ を示す(ここでは (A.5) は不必要):
W_*(x_0) の任意の要素が W_λ の要素であることを示す.
任意の x ∈ W_*(x_0) をとる.
このとき,x < x_0.
もし x が W_λ の要素でないならば,x ∈ W_* - W_λ.
いま x < x_0 だから, これは x_0 が W_* - W_λ の最小元であることに矛盾する.
ゆえに,x ∈ W_λ.
以上により,W_*(x_0) ⊆ W_λ が示された.

以上,(c) の証明を詳しく書いてみました.
『はじめての集合と位相』をていねいに読んで頂いていることに,感謝申し上げます.


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