フルオラス二相系 (Fluorous Biphase System)

ヘキサンやヘプタンのような炭化水素の水素原子が全てフッ素原子に置き換わった化合物は室温、大気圧下では液体です。これらは一般的な有機溶媒あるいは水とは混じり合いません。このような液体はフッ素系不活性液体と呼ばれ、

  • 優れた電気絶縁性と熱特性を有する。
  • 熱的化学的に安定性が高い。
  • 不活性で金属、プラスチック、ゴムなどを侵さない。
  • 低表面張力、低粘度であり、浸透性に優れている。
  • 不燃性、無毒、無臭で安全性が高い。
  • オゾン破壊係数が0である。
などの性質を持っていることから電子部品・半導体の洗浄、電子機器の冷却電子部品のリーク試験、溶剤などに用いられています。

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 1994年にHorváthとRábaiはフルオラス二相系という新しい反応の方法論を提唱しました (Horváth, I. T.; Rábai, J. Science 1994, 266, 72-75)。
彼らは、フッ素系不活性液体の一つであるパーフルオロメチルシクロヘキサンと一般的な有機溶媒であるトルエンを反応媒体に用いて、パーフルオロアルキル基を有するホスフィンが配位したロジウム触媒による1-オクテンのヒドロホルミル化反応を行いました。反応前の反応系は二相で、1-オクテンはトルエン相(有機相)、フッ素原子を多く含む触媒はパーフルオロメチルシクロヘキサン相(フルオラス相)に溶けています。これを100℃に加熱すると互いに混じり合い、均一系となり反応が進行します。反応後、室温に冷却すると再び二相に分離し、生成物であるアルデヒドは有機相、触媒はフルオラス相に分配されます。反応後の触媒を含むフルオラス相に新たに1-オクテンを加えてヒドロホルミル化反応を行うと反応が進行し、フルオラス二相系によって触媒のリサイクルが行えることが実証されました。
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 パーフルオロオクチル基を3本持つようなフルオラスタグを保護基に導入したヘビーフルオラス保護基を用いて、フルオラス保護体と非保護体をフッ素系溶媒と有機溶媒の二相の液ー液分配(あるいは水を含めた三相)で分離することによって所望する化合物を迅速に合成することができます。この方法をフルオラスタグ法と呼びます。しかしながら、ヘビーフルオラス保護体は一般的な有機溶媒に溶けにくいため、場合によっては取扱が煩雑になることもあります。このような理由からパーフルオロアルキル基を1本だけ有するライトフルオラス保護基を用いてフルオラス固相抽出でフルオラス保護体を分離するフルオラスタグ法が主流になっています。

 フッ素系溶媒と有機溶媒は、その種類と組み合わせによって混和する温度が異なります。その組合せの一部を以下に示します。
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 フッ素原子を含むアルコールを加えると低温では三相、室温付近では二相、少し温めると均一になります(上の表の一番下)。この現象は可逆的で一相になったものを冷やすと二相、最後には三相になります。それぞれの液体は無色透明でわかりにくいので、パーフルオロアルキル基を多数導入したコバルトフタロシアニンを加えると、フッ素原子を多く含む相に溶け込み、下の写真のように相が青くなりわかりやすくなります。ちょっとわかりにくいかも知れませんが、左が一相、中が二相、右は三相になっています。フッ素系溶媒は密度が大きいので下相になります。
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