環境にやさしい有機合成化学(環境調和型有機合成反応)によるものづくりを目指しています。
石油などの枯渇資源を利用する化学として発展してきた現在の有機化学を利用すれば、時間と労力をかければどんな分子でも合成できるといっても過言ではありません。しかしながら、これまでの有機合成は、原料と反応溶媒は枯渇資源の石油由来であるばかりでなく、反応で生じる目的物と副生成物を分離する際に膨大なエネルギーを必要とし、かつ大量の廃棄物が発生していました。
アナスタスらは以下のようなグリーンケミストリーの12原則を提案しました。この考え方は広く活用されています。
- 廃棄物は、生成してから処理するのではなく、生成しないようにする。
- 合成は、使った原料をできるだけ製品の中に取り込むように設計する。
- 合成は、人の健康や環境に対して毒性が少ない物質を使い、また有害物質が生成しないように設計する。
- 化学製品は、その機能・効用を損なわず、毒性を下げるように設計する。
- 溶媒、分離剤などの反応補助物質はできるかぎり使わないか、もし使っても無害なものを選ぶ。
- エネルギー消費は、環境や経済への影響を考えて最少にする。合成は室温、大気圧で行う。
- 原料物質は、技術的、経済的に可能なかぎり、枯渇性でなく再生可能なものを使う。
- 保護基の着脱、一時的修飾などの反応分子の修飾は可能なかぎり避ける。
- 量論反応よりも選択的触媒反応がよい。
- 化学製品は、使用後、環境中に残留せず無害物に分解するように設計する。
- 進んだ計測技術により、プロセスのリアルタイムモニタリングを行い、有害物質の生成を抑制する。
- 化学物質の排出、爆発、火災などの化学事故の可能性を最小にするよう選択する。
これらのことを踏まえた理想的な有機合成は下図のようになります。つまり、安価かつ入手が容易な再生可能な資源から室温、大気圧下、水中(もしくは溶媒を用いないで)で、高活性かつ高選択的な触媒を用いて、短時間の反応、できるだけ少ない工程で100%の収率で廃棄物を排出しないで目的物を得るということです。
私たちは、上記のような理想的な有機合成を目指し、再生可能資源として糖もしくは天然から容易に入手可能なアミノ酸を原料にして、医薬品のリード化合物となる天然物などの有用物質の合成を行います。その際、これまでに培ってきたフルオラスケミストリーの技術の他、新しい反応場や反応媒体さらには触媒化学の技術を取り込むことによって環境にやさしい(環境調和型)有機合成反応の開発を実施します。
さらに、ものづくりだけでなく、汚染物質の効率的な化学的分解(資源化)についても取り組みます。
研究テーマ
リサイクル可能なフルオラス不斉有機触媒の開発
フェイズタグ法を用いた天然物の迅速合成
糖を出発原料とする高活性不斉有機触媒の開発
糖誘導体の新しい反応による有用物質への変換
生物分子科学研究室(〜2011年)
研究テーマ
フルオラスケミストリーを基盤とした以下のような研究を行っています。
新しいフルオラス保護基の開発
フルオラスタグ法を用いた海洋天然物の全合成
フルオラスミックスチャー合成法によるペプチド性天然物のライブラリー合成