ジギタリス





出口無き、道無き道をソフィーはひたすら歩いた。
足元は覚束ないが、歩けないこともないと勇む彼女は実に颯爽としている。
しかし所詮は老婆になってしまった体力、どんなに抗っても長くは続かなかった。

雪道を歩いているのと同じだ。
道がない、足元の覚束ない場所を歩くだけでも充分人間は老若男女問わずに疲れてしまうものであるのに、ソフィーはそれ以上の難易度が高い場所に居て、それでも胸を張って堂々と歩こうと己を奮い立たせている。

それはそれで美しいのだが――――彼女に寄り添い歩くハウルの心配は全く別の所にあった。少しだけ肘に力を込めて無言で彼女に止まるようにと優しく促す。
当然ソフィーは立ち止まり、疲労のためかいくらか上がった息を堪えて振り向く。

ここは漆黒の闇に飲まれた空間であるため、ソフィーからではハウルの表情を察することができない。今まで結構な時間を長く歩き続けてきたというのに、突然それを拒むような仕草をしたのだから・・・きっと、何かの気配を感じ取ったのだろう、くらいには思ってはいたのだが。


・・・ソフィーは、まだハウルの有する”ブラックホール”を完全には把握していないようである。男性にしては華奢で美しい容姿からは到底想像もできないほどの深みを持っていることを、未だに知らぬままなのである。・・・さらに言ってしまえば、それを司っているのは彼女自身であるという事実すら全く感じ取っていないのである。



「ハウル?・・・どうしたの?」
「・・・」



ソフィーがハウルに答えを要求するときは、決まって母親が息子に優しく諭すような声色になる。いつもの彼であれば、この質問の後、必ずと言ってもよいほどに素直にぽつりぽつりと彼女へと語り始めるのだが・・・。


この時は、違った。


彼は何の返答もせず。
ソフィーのやせ細った老婆の手を優しく力を込めて握るだけである。


さすがの彼女も、だんだん不安になってきた。
ハウルが返答しない理由を、”具合が悪いのではないか”・・・と判断したからだ。

ソフィーの記憶は、ハウルと”契約”し、その後起床したはいいが階下に降りることを許されずに彼の部屋へと逆戻りし・・・再び床についた所で途絶えてしまっている。
故に、ハウルが今の今までどういった経緯でここまで来たのかをソフィーは全く知らないままなのだ。・・・先ほどのハウルの話によると、”魔力を使い切った”らしい。

それを知って、不安にならないわけがなかった。
それは18歳であろうが90歳であろうが変わらずに譲れない感情だ。



・・・ったのだ・・・が。




突然。






暖かな、空気を感じた。









感じたかと、思うと。
























「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

























・・・ぷは。





次に聞いたのは、そんな間抜けな空気を吸う音だった。





頭の中が真っ白になった。
今の彼女の髪の色と良い勝負なまでに純白な世界に一瞬突入した。
それに自分がしっかりと呼吸ができているかどうかすらも危うかった。
・・・苦しくないからしているのだろう・・・というかそのようなことはどうでもよろしい。



・・・今。




ハウルは、老婆である自分に何をしたというのか。





「・・・は、・・・ハウル・・・」
「・・・ん?」



気付けば、そこは次第に暗黒世界では無くなっている。
青白い、星の光のようなものが次第に降り注ぎ・・・お互いの表情が確認できるほどに視力は回復した。

そこで初めてソフィーは、ハウルが微笑んでいることを知ったのだ。


「・・・い・・・今のは・・・」



不安やら、怒りたいやら、不思議やらでソフィーの心は大混乱だ。
あれだけ心配させといて何を笑っているの、それに今の今まで一言もしゃべらずに私にあわせて延々と歩き続けていた理由は何なの、それよりも何よりも今さっきのは一体どういう意味なの・・・とまくし立ててやりたいがそれもできない。

すっかりソフィーは。
”文字通り”、ハウルに全てを吸い尽くされてしまったかのようだ。



・・・しかし。


ハウルはまた、瞳を細めて微笑みかけるのだ。
男の艶と、少年の無邪気さとが織り成す、無意識のうちの危うい色香で。
実に満たされた顔をしているのは何故か。




否。


答えはあまりにも簡単だ。



「ソフィーに僕を”食べて”もらったのさ」
「・・・・・・・・・・はぁ!?」



・・・いや・・・少なくともソフィーにとっては難解か。



「素人は知らないみたいだけど。・・・ヒトの体内には誰にだって”魔力”がある。それを使いこなせる人間が極僅かってだけの話さ」



へえ、そうなの・・・とは思ったが、この返答はソフィーの望む返答ではない。



「可愛そうに・・・君は”しったかぶり”のせいで多大な勘違いをされた。君自身の尊いものを”魔力”だって決め付けられたのさ」



美しい彼の長い指先が、額に掛かっていた彼女の髪を梳く。
彼の表情から・・・笑みがすっかり消えうせている。



「そして、間違った呪いを掛けられた。・・・かなり強い呪いを受けたんだね・・・」



両頬を、両手で包み込まれる。
いつもはいくらかひんやりとしたハウルの手だが、今は暖かい。
心地よく、けれども身体のどこかがゾクリとする不思議な感覚。
彼に触れられるときはいつもこの感覚に苦しめられる。

心地よいけれど―――恐ろしい感覚。



「今の君が年を取った状態なのもそのせいさ。元々無いものを無理やり奪われて、吸い尽くされてしまったんだ」



再び。
唇に・・・暖かい、空気。



「だから僕の魔力を分けてあげる。毎晩これを繰り返せば、元通りになるよ」



そうすれば、そのうち正常な身体の時間を取り戻すと言うのだ。
さすがの彼も一度で全てを彼女に与えるということは無謀なことであるらしい。
さらに、彼の話によると、魔法使いは魔力を自在に使いこなすことはできるが、その分魔力を身体から失うと生命の危機に陥ってしまうらしいのだ。常に強力な魔力と命の均衡を保っていなければいつぞやかのようにハウルは再び魔王へと変じてしまうことになるのだろう。・・・彼はそこまでは語らなかったが。


黙り込んでしまったソフィーに、ハウルはきょとんと小首をかしげた。
説明を分かっていないのだろうか・・・といったような無垢な瞳だ。


・・・彼は、優しい。
誰にでも優しいのではあろうが、ソフィーに向ける優しさはずばぬけている。
それこそ、恐ろしいと感じるまでに。


臆病な彼が、堂々と命の源とも言うべき魔力を無償で与えてくれているのだ。



・・・と、彼女は素直にハウルの自分に対する愛情に感激した・・・





のだが。







ちょっと、待て。







重要な問題にようやくソフィーは気が付いた。
先ほどよりもわずかに若さを取り戻し、90歳から70歳程度の姿になっていることなど、もとよりソフィーにとってはどうでもよいことらしい。
それよりもなによりも、引っかかった事があるのだ。



「・・・ちょっと、待って」
「?」
「・・・魔法使いって、魔力は大事よね?」
「そうだね」
「・・・でも、色々なお仕事とかしていくうちに、失敗しちゃったりするのよね?」
「ああ、見習い期間は良く失敗するよ。ある程度魔法が使えるようになると、ついつい調子に乗って色々試してみたくなるんだよね」



僕も色々試して大失敗して、魔力を使い切る寸前まで行ってよく死に掛けたっけ・・・と、決して懐かしい思い出を微笑みを交えつつ語るようなことではない内容を、ハウルはあはは、とまで笑いながら能天気にソフィーに言うが・・・


・・・それが、ソフィーにとって決定的だった。
同時に、無性に腹が立ってきた。



「・・・その時、ハウルはどうしたの?」
「どう、って?」
「・・・魔力を、使いきっちゃって。・・・ほうっておいたら、死んじゃうんでしょう?」
「うん」



・・・うん、と来たものだ。
もはやソフィーは怒りたいやら悲しいやら悔しいやらで訳がわからない。

だが。


次の瞬間、彼女の口を突いて出たのは。





老婆になっても心は乙女のまま・・・という事実を如実に証明する言葉だった。








「・・・うそつき」
「・・・」





ハウルは目を丸くした。
突然の言葉に驚いたようであるが、それは彼女が少女らしい言葉を発したことではなく、その言葉そのものの意味に対してだろう。

それに、彼女の顔を見ると。
・・・なんと、今にも泣いてしまいそうな顔をしているではないか。

これにはハウルも完全にまいってしまった。
彼が今最も怖がっているのは、戦争の余波でもサリマンでもなく、ソフィーの癇癪と涙であろう。これに勝るものは恐らくは後にも先にも現れないに決まっている。



「・・・ソフィー・・・?」
「ハウルの嘘つき!」
「はぁ?」
「もう、信じられない!ハウルの馬鹿!大嫌い!」
「―――――――・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」



言うだけ言って、彼に多大なダメージを与えたことにも気付かず・・・否、構わず、ソフィーは踵を返してずんずんと彼を置いて歩き始めた。
ハウルにとってはわけもわからぬまま勝手に事が始まり、目まぐるしく展開し、いつのまにか完結されてしまった挙句、”馬鹿”と”大嫌い”というキングスベリー精鋭軍艦の空爆よりも遥かに強力な爆弾を思い切り頭上から叩きつけられたため、しばらく呆然とそんな彼女の背中を眺めていたが。


はっと、我に返り。


気がつけば、すぐにソフィーに追いついていた。
・・・当然だ。焦った彼は無意識のうちにその背中に漆黒の翼を出現させ文字通りソフィーへと”飛んで”いたのだから。



「待っ・・・、て!」



それでも極力彼女に痛みを与えないようにと、いくらか鋭くなった爪を有した手で彼女の手首を掴んだ。・・・それでも充分に強い力で、ソフィーには痛く感じたに違いない。




そこで初めて彼女は、ハウルを思い切り傷つけてしまったことに気がついた。
同時に、いくらか冷静になっていった。
なったとたんに、自分のことがとてつもなく恥ずかしくなってしまった。

先ほどは直感で、ハウルに真意を確かめることもせず・・・否、確かめずとももう答えは分かり切ってしまったためにソフィーは絶望したのだろう。

だがそれは、決してこれからの未来において、ハウルとソフィーの間に立つ障害にはならない程度のことなのだ。


只単に、恋に慣れない純粋な少女の気持ちが、頭に血を上らせてしまっただけの話なのだ。・・・結果、あのようなみっともない取り乱した姿を晒すこととなってしまった。



・・・さらに。



「待ってよソフィー!僕を置いていかないで!」



この、言葉と。



「どうして怒っているの?・・・大嫌いだなんて、酷いじゃないか・・・」



その、縋るような眼差しと声色に。

・・・ソフィーは、完全に敗北した。



どう頑張っても、ハウルのこんな表情や声には勝てそうにもないことは最初から分かってはいたが・・・まさかあのたった一言が彼にここまでダメージを与えるとは思ってもみなかったのだろう。ハウルがどれだけソフィーを愛してやまないかを、彼女はちっとも分かっていないのだ。無論のこと、彼が自分に対して愛情を抱いていることは分かるには分かってはいるが―――己の過小評価は、ハウル公認の、ソフィーの短所なのだ。



しかし、こうまでなられてしまうと、ソフィーは癇癪の理由を伝えづらくなってしまう。
感情の一時的な高ぶりが彼女のあの発言と怒りを発散させたわけなのだが・・・
言ってしまえば、実にくだらないことなのだ。
言えばハウルは呆れてしまうかもしれない。
そんなくだらない事で怒るな、と。

だが、嘘を吐き、軽くごまかしたところでハウルにはすぐに見抜かれてしまうだろう。



仕方が無かった。




ソフィーは、ぽつりぽつりと。
本当のことを、彼へと語り始めた。




「・・・何度も、魔力を使い果たしかけたのでしょう?」
「うん。見習い時代に」
「・・・その度に、誰かに魔力を与えてもらってたのよね?」
「うん。でないと下手すりゃ死んじゃうからね」



はあ、と。
ソフィーは悲しげに瞳を伏せてため息を一つ吐いた。
そんな彼女に、やはりハウルは心配そうに顔を寄せるが。

次に瞳をゆっくりと開いた彼女に、再びあの言葉を言われてしまう。



「・・・うそつき」
「・・・え?」



また”大嫌い”と言われてしまうのかと恐れたのか。
ハウルの声色が少しだけ弱々しくなる。
自尊心の高い彼であること、”馬鹿”という発言も相当堪えるはずであるが・・・全くそれに関しては何も言及しないところをみると、相当”大嫌い”という発言はショックであったことが見て取れる。

それは、子どもの心のままであっても、男としてソフィーに恋する彼にとっては昨日の”大好き”が突然”大嫌い”に格下げされてしまったのだから当然だろう。



だがしかし。
ハウルには何故”うそつき”呼ばわりされなければならないのかが分からない。



「ソフィー。僕がいつソフィーに嘘を吐いたと言うんだい?」
「・・・あなた・・・初めてのキスは誰としたの?」
「?・・・だから、ソフィーがくれたのが初めてだって・・・」
「嘘。・・・あなたが見習いのとき、私はあなたの傍にいなかったわ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「それに、私は魔法使いじゃないから・・・いたとしても、魔力を使い果たしかけたあなたに魔力を分けてあげることもできなかったわ」






・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ああ。





「・・・ごめんなさい・・・私、馬鹿みたいね。こんなことで怒るだなんて・・・」
「・・・・・・・」
「人工呼吸みたいなものなんでしょうけど・・・、・・・私、酷い子だわ。それでも胸が痛くなるの。・・・頭に血が上っちゃったわ」
「・・・・・・・」






ハウルは、ようやくソフィーが怒った理由を見出した。
見出した瞬間――――何故か、なんともいえない感情が胸を襲った。
優しくて、暖かくて、次から次へとこみ上げて、どうしようもない感情だ。
自然と微笑んでしまうのを自覚した。




「・・・ソフィー」
「・・・」
「魔法使い専門医って、知ってる?」




その、ハウルの発言に。
ばっと顔をあげたソフィーの表情は・・・年齢は確かに高齢だが、とても豊かで。
純粋な恋する少女であることを無意識のうちに誇示していた。

それに、彼は優しく微笑んで。



「見習い時代に無茶をするのは、力の加減を知るのには重要な時期なんだ。むやみやたらにふざけて使っているわけじゃないさ」
「・・・、ええ」
「その時期に色々試して、自分に適した魔法を知る。それも大事な学習過程でね。当然一番危険な時期だから・・・それ専門の医者を学校内に必ず呼んであるのさ。ちなみに魔法医じゃなくても、魔力供給は基本的に呪文と札・・・札が無かったら治癒魔法と同じ要領でやれば充分なことなんだよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」



つまり、”口移し”というやり方は実際には無いんだよ・・・ということであるらしい。
ソフィーは呆然と、そんな彼の話を黙って聞いている。

気がつけば、その身体を彼の漆黒の翼が包み込んでいる。
両腕も、しっかりと彼女を抱いている。

・・・わずかの時間とはいえ、実際に置いて行かれたことが怖かったのだろう。
ソフィーは自分の早とちりが許せず、また、恥ずかしくてたまらなかった。


・・・が。


どうしてこんなに自分は頭の回転が速いのだろう。
ソフィーがまた一つ、ある重要なことに気がついた。



「・・・なら・・・どうして、さっきは、・・・その、口移しで・・・」



恐る恐る問い詰めるソフィーに、一瞬ハウルはきょとん、とした後・・・瞳を徐々に細めて微笑んでみせる。・・・ハウルの美貌には次第に、少しずつ慣れてきたソフィーであったが―――未だにこの”大人の笑み”には慣れない。
老婆であっても、心臓が暴れだして・・・止まらない。
今の話題が話題なだけに・・・である。



「・・・言っておくけど、僕はいくらソフィーでも無償で魔力はあげないよ」
「・・・え・・・」
「カルシファーと同じさ。何か、それと同等の代償を貰わなければ僕は魔力を提供できない。悪魔と契約していた時はどうとでもなったけど、今の僕は只の人間に過ぎないからね。タダ、というわけにはいかないんだ」
「・・・で、でも・・・私何も取られていないわ」



ハウルの説明は実に分かりやすく、ソフィーもハウルの言葉にはあっさりと納得したのだが・・・いつ、自分がハウルに”何”を取られたのかは分からなかった。
カルシファーの際は、自らの髪を与えたためそれはそれで理解できた。
しかし・・・どう考えてもハウルに何かを与えた覚えはソフィーには無かったのだ。



・・・けれど。
ハウルはまた、ゾクリとするほどの美しい微笑をソフィーへと送り。



「だから、貰ったじゃないか」
「・・・」



ハウルが言っていたように”ソフィーがいるから元気になった”ためか、先ほどよりも”鳥らしい”姿になった彼の、鋭い爪が・・・信じられないほどに優しく。

老婆の姿の、ソフィーの唇をなぞる。






・・・ここまで、されれば。
いくら鈍感なソフィーでも気がつく。






老婆になっても恋はできるという現象は現実か。
老婆になってもときめきは少女のままか。
それよりも、そんな行動をあくまでも無意識にしてのけるハウルが怖い。
魔力という多大な力を与える代償が、その程度でいいのか。
いやそれ以前に、ハウルは”毎晩”続けると言っていたような。



考えることも。
頭に浮かんでは消える考えも。
それら全てが一連ではなく、ばらばらで、ピースの合わないパズルの寄せ集め。



静かで無邪気でありながら、恋愛という現象に身を投じる事は、ソフィーから冷静という冷静を根こそぎ奪いさらっていく。





ようやく形成できた言葉は、このようなものだった。




「・・・あなた、こんなおばあちゃんとキスして嬉しいの?」




実に、ソフィーらしい率直な言葉であったが。
それに彼は躊躇うことなく、涼しげな青い瞳を細めて無邪気に笑って言った。




「いけない?嬉しいよ、とても」

















そんな二人の姿は、年齢など実に馬鹿らしく感じるほどの純粋な恋人同士だった。
青いワンピースに身を包んだ老婆と、それを守るようにも、逃さないようにも見える漆黒の翼を有した美麗な魔法使い。

その、姿も。
交わされる言葉の一つ一つも、全てが真摯で純粋で。


何人たりとも、二人を分かつ事は許されないようだ。








そう。














たとえ、キングスベリーの王室付き魔法使いであったとしても。



















「・・・貴方たち、ひとの攻撃呪縛の中で何をやっているのです?」
「―――――・・・・・・・・・・・・・・・・!?」




聞き覚えのある美しい女性の声に、ソフィーははじかれるようにそちらを見る。
一方のハウルと言えば、相も変わらず漆黒の翼でソフィーを抱いたままだ。



「・・・サリマン・・・」



久々に感じる威厳に、ソフィーはハウルに固くなった身をよせる。
何故だか分からないが、彼女に対してソフィーは何かしらの重圧を感じたらしい。
そもそも、何故ここにサリマンがいるのか分からない・・・と、思ったのだが。




その回答は、聞かずとも分かった。





二人は漆黒の世界から。





いつのまにか、王宮の温室に居たのだから。