想いと呪文と、代償と
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 「えっと、今日は……」


 それなりに人通りのあるがやがや町。

 その通りを、ソフィーは買うものを考えつつ歩いていた。


 ―――――今日の夕飯は何にしようかしら。

 そういえばベーコンの残りも少なかったわよね。 

 それに、ハウルは朝は絶対にパンが無いといやだって我がまま言うから、忘れずに買っていかなきゃ。


 そうそう。そういえば、石鹸も切れてたし油も切れてたわ。

 ハウルの部屋のスス取りに使う新しい掃除用具も欲しいわね。


 それから、それから―――――――


 「……………」


 ふと。

 ソフィーは、つい真剣に考えこんでいる自分に気がついた。

 思わず、顔を赤らめる。


 な、何だか。

 何だかこんなことを真剣に考えてる自分って。


 「奥さん」みたいじゃない〜〜〜〜っ!!


 思わず顔を伏せる。

 うつむいた顔は、赤いまま。


 もちろん、ソフィーはすでに「ジェンキンス」の姓を名乗っている。

 「奥さん」という代名詞で間違いはないのだが。  


 今はまだ聞きなれない、その単語。
  
 「ソフィー・ジェンキンス」という、その名前。


 そう。ようは。

 照れる、のだ。


 だって、ちょっと前まで私は「ソフィー・ハッター」だったわけで。

 それなのに、こんな時にハウルの妻だってことをストレートに思いしらされる。

 正直、自分だってまだ自覚があまり無い。


 まるで、自分が自分じゃ無くなってしまうような、この感覚。

 頭の中で、何かがトロトロと甘いものに変わっていくような、この感覚。

 でも、それはちっとも悪い気はしなくて。


 嬉しいやら恥ずかしいやら、複雑な気持ちでソフィーは小さく咳払いをした。 


 「…………?」


 そこでようやく、ソフィーは自分の体調の変化に気がついた。
 

 どうも興奮したせいか、頭がボーっとする。

 足取りも、ままならない。


 「……?風邪でもひいたのかしら」



 ソフィーはあまり深く考えずに、額を押さえながら空を仰いだ。

 見ると、空一面を厚い雲が覆っていて。


 この分だと、もうすぐで雨が降るだろう。

 洗濯物を干してきたが、マイケルは取り入れてくれてるだろうか。


 「い…っ急がなきゃ」


 ようやく、こんなことをしている場合じゃないと気がついたソフィーは、寄るお店をもう一度頭の中で整理してから、先ほどより歩調を早めた。