想いと呪文と、代償と −4− |
「ハウル、お湯が沸いたぜ!」 カルシファーの言葉を待っていたかのように、ハウルはソフィーを抱き上げて風呂場へと向かった。 マイケルに風呂場から出るように視線だけで促し、毛布と厚手の上着を脱がせて、薄手の下着布だけを残す。 そして、そのまま熱めのお湯が張られた風呂へとソフィーを沈める。 しかし、意識が無いためかソフィーの身体は水面へと浮かび上がってきてしまう。 そこでハウルは、乾きかけた自分の服が再び濡れるのも構わずに、ソフィーの身体が湯に浸かるように両腕で支えてやった。 「ソフィー」 声をかけてやるが、返事はない。 ハウルは、ソフィーの冷え切った腕や背中をゆっくりとお湯の中でさすり始めた。 「ソフィー?」 もう一度、名前を呼ぶ。 すると、しばらくしてソフィーがハウルの声に答えるかのように薄く目を開けた。 「ハウ……ル?」 消え入るような声で、小さく呟く。 微かだがソフィーから返答が返ってきたことに、ハウルは安堵の溜息をついた。 そして、ソフィーの顔にかかっている濡れた前髪をかきあげてやりながら微笑む。 「………大丈夫かい?」 そんなハウルの問いかけに、ソフィーは小さく頷いた。 しかし、すぐに目を閉じてしまう。 水音が、風呂場に大きく響いて。 ハウルは、青の双眸を細めて見せた。 手から伝わってくるソフィーの肌は、まるでなめらかな冷たい陶器のようで。 こんなに熱い湯に浸かっているというのに、体温が戻ってくる様子が全く見られない。 「……………」 ハウルは、しばらくの間ソフィーの身体を無言でさすり続けていたが、突然何かを思いついたように湯の中からあげた。 そして、水分を含んで重くなった薄手の服の上から、「かんそ こな」をふりかける。 すると一瞬のうちにして、ソフィーの服と髪が乾いた。 そのまま再び毛布にくるんでやる。 そして、暖炉の前に長椅子を持ってきて、そこにソフィーを運ぶ。 そのまま、ソフィーが起きないように静かに寝かせてやった。 カルシファーも気を使っているのだろう、いつもより火力を強めている様子で。 「…………」 そんな二人の様子を、マイケルは黙って見ているしか出来なかった。 しかしマイケルとて、こんな状況で何も考えずにはいられない。 そこで、チラリと呪文の書かれた例の紙に目を伸ばした。 そういえば。 さっきハウルさんは、この紙に書かれた呪文を見ながら『もうこの紙面には存在しない』って言っていた。 と、いうことは。 「何か」があの呪文の書かれた紙の中に存在していたということ。 そして、ソフィーさんが剥がしてしまったロウは、きっと封印の役割をしていたのではないだろうか。 だから、その「何か」が、封印が破れて出て行ってしまって……… それで。ソフィーさんが。えっと。 う〜〜〜〜〜ん………… 自分の持っている知識をフル回転して、マイケルは考え込んだ。 思わず、その場にしゃがみこむ。 考え込んで。考えまくって。 結果。 「………ソフィーさんに、何があったんですか?」 ハウルに聞くのが、一番早いという結果にたどりついたのだった。 |