想いと呪文と、代償と
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 「ハウル、お湯が沸いたぜ!」


 カルシファーの言葉を待っていたかのように、ハウルはソフィーを抱き上げて風呂場へと向かった。

 マイケルに風呂場から出るように視線だけで促し、毛布と厚手の上着を脱がせて、薄手の下着布だけを残す。

 そして、そのまま熱めのお湯が張られた風呂へとソフィーを沈める。


 しかし、意識が無いためかソフィーの身体は水面へと浮かび上がってきてしまう。

 そこでハウルは、乾きかけた自分の服が再び濡れるのも構わずに、ソフィーの身体が湯に浸かるように両腕で支えてやった。


 「ソフィー」


 声をかけてやるが、返事はない。

 ハウルは、ソフィーの冷え切った腕や背中をゆっくりとお湯の中でさすり始めた。


 「ソフィー?」   


 もう一度、名前を呼ぶ。

 すると、しばらくしてソフィーがハウルの声に答えるかのように薄く目を開けた。


 「ハウ……ル?」


 消え入るような声で、小さく呟く。

 微かだがソフィーから返答が返ってきたことに、ハウルは安堵の溜息をついた。

 そして、ソフィーの顔にかかっている濡れた前髪をかきあげてやりながら微笑む。


 「………大丈夫かい?」


 そんなハウルの問いかけに、ソフィーは小さく頷いた。

 しかし、すぐに目を閉じてしまう。


 水音が、風呂場に大きく響いて。

 ハウルは、青の双眸を細めて見せた。 


 手から伝わってくるソフィーの肌は、まるでなめらかな冷たい陶器のようで。

 こんなに熱い湯に浸かっているというのに、体温が戻ってくる様子が全く見られない。


 「……………」


 ハウルは、しばらくの間ソフィーの身体を無言でさすり続けていたが、突然何かを思いついたように湯の中からあげた。
 
 そして、水分を含んで重くなった薄手の服の上から、「かんそ こな」をふりかける。

 すると一瞬のうちにして、ソフィーの服と髪が乾いた。

 そのまま再び毛布にくるんでやる。


 そして、暖炉の前に長椅子を持ってきて、そこにソフィーを運ぶ。

 そのまま、ソフィーが起きないように静かに寝かせてやった。

 カルシファーも気を使っているのだろう、いつもより火力を強めている様子で。


 「…………」

 
 そんな二人の様子を、マイケルは黙って見ているしか出来なかった。

 しかしマイケルとて、こんな状況で何も考えずにはいられない。

 そこで、チラリと呪文の書かれた例の紙に目を伸ばした。
  

 そういえば。

 さっきハウルさんは、この紙に書かれた呪文を見ながら『もうこの紙面には存在しない』って言っていた。

 と、いうことは。

 「何か」があの呪文の書かれた紙の中に存在していたということ。 

 そして、ソフィーさんが剥がしてしまったロウは、きっと封印の役割をしていたのではないだろうか。
 
 だから、その「何か」が、封印が破れて出て行ってしまって………

 それで。ソフィーさんが。えっと。


 う〜〜〜〜〜ん…………


 自分の持っている知識をフル回転して、マイケルは考え込んだ。

 思わず、その場にしゃがみこむ。


 考え込んで。考えまくって。

 結果。
 

 「………ソフィーさんに、何があったんですか?」


 ハウルに聞くのが、一番早いという結果にたどりついたのだった。