時間の呪文 −20− |
『教えて、カルシファー』 ハウルが、そしてカルシファーさえもが深入りするなと忠告したにも関わらず、ソフィーは頑なに意見を変えようとはせずに。 カルシファーは、もう諦めたと言わんばかりに、げんなりとした表情をしてみせる。 心なしか、炎が小さく揺れて。 「カルシファー」 急かされるように名前を呼ばれたカルシファーは、横にあった薪を引き寄せつつ仕方なさそうにぼやき始めた。 「……あんたがあの時おいらたちにかけたのは、明らかに魔法のうちの一つさ」 その言葉に、ソフィーは二度三度と瞬きをしてみせる。 「魔法?だって私、魔法は使えないわ」 一瞬呆けるソフィーに、カルシファーは淡々と言葉を続ける。 「でも魔法を使ったのは確かさ。おいらには分かるね」 そう言った時のカルシファーは、何とも得意気に見えて。 そんなカルシファーを見つつ、ソフィーは益々首を傾げてみせた。 だって。 魔法って、あの魔法でしょ? ハウルやマルクルが使う、あの魔法よね?? 「そんなわけ……………」 思わずポツリと呟く。 だって、魔法なんて自分にはさっぱり無縁のものだと思っていたから尚更に。 魔法の使い方なんて分からない。ハウル達が読んでいる魔法の書なんて、読み方すら分からない。 そんな分からずじまいのソフィーに、一体どうやったら魔法が使えるというのか。 そんな考え込むソフィーを横目に、カルシファーは炎をゆらりと揺らしつつ口を開く。 「……ソフィーは自分に魔力がないと思ってるけど、おいらはそうは思わないね。おいらから言わせてもらえば、ソフィーはりっぱな魔法使いさ」 「え……………?」 「ただ、ハウルとかマルクルのとは種類が違うだけさ。ソフィーの魔法は珍しいんだ」 気づかなかったのかい? そんなカルシファーの言葉に、一瞬思考回路が麻痺する。 「……………」 気づかなかったのか、と言われても、心当たりがさっぱり無い。 が故に、魔法使いと言われたところで全くピンと来ないのだ。 ソフィーの中での「魔法使い」なるものは、ハウル達みたいに目に見えて不思議なことを起こせる人物のことで。 はっきり言って、自分にはそんな不思議なこと出来るわけがない。 手をかざして何かを唱えた所で花瓶が浮くわけでもなく、魔法陣を真似て書いたところで風一つ起こせるわけでも無いのだ。 そんなソフィーの、一体どこが魔法使いだというのか。 「……………」 とりあえず、ソフィーは頭の中を整理しつつ過去の記憶を何とか引っ張りだす。 ええと、確かあの日。 カルシファー曰く、私が魔法を使っただろう二人の契約を解いたあの日。 私は――――――――何をした? カルシファーの心臓を、生気を失いかけたハウルに戻そうとしたとき。 そして、カルシファーがハウルの心臓を失くしても、生きていけるのか不安だったとき。 カブの命の火が、消えそうになったとき。 何かしら言葉にして、キスをして。 何かしら、祈って。 どうか、ハウルが心を取り戻しますように。 どうか、カルシファーが千年も生きますように。 そんな、ちょっとした無意識の行動。 あれが、魔法だったっていうの? あれの、どこが魔法?? そんなことを延々と考えていると、ソフィーの耳にマルクルの「あっ」という小さな声が聞こえた。 「何か分かったの?マルクル」 正直、自分の考えでは埒があかないと思い始めていたソフィーは、ここぞとばかりにマルクルへと期待の目を向けた。 するとマルクルは、ソフィーに向かって大きく頷いてみせた。 「うん!確か前に本で読んだことがある!あの時ソフィーが使ったのは、きっと言葉の魔法………」 と、その時。 部屋の中にカシャンという金属音がわずかに響く。 見ると、扉の色が黒へと変わっていて。 「ハウルさん!」 マルクルが声を上げると同時に、ハウルが部屋の中へと入ってきた。 「ハウル………?」 なんて、グッドタイミング。 いや、バッドタイミングと言うべきか。 そう。 ルーイに関わることを良く思ってないだろうハウルのご帰宅で、ソフィーの一番知りたかった話の部分が、これで強制終了となってしまうであろうことは間違いなかったのだ。 |