時の呪文 −9− |
――――――――ハウルにルーイのことを聞かなきゃ! そう決心してソフィーは階段を駆け上ってきた。 駆け上ってきたまではいいのだが。 ふと、風呂場の入口のところまで来て踏みとどまる。 「…………」 そして、ソフィーは何故か扉の前で首を傾げつつ考え始めた。 考えて、考え込んで。 一呼吸ついて。 かと思うと、今度は突然顔を赤くしてみせた。 そして、一歩だけ扉の前から気持ち的に後ずさりをする。 だって。 だってだって、だって。 頭の中で、色々な考えが駆け巡る。 この扉の向こうはお風呂場。 お風呂ってことは、お湯に浸かって身体を洗う場所のはずで。 と、いうことは。 ハウルだって、必然的にいけば…………裸ってこと? むっ、無理〜〜〜〜〜〜っっ!! ソフィーは、思わず顔を伏せてみせた。 より一層赤くなっているだろう頬に、銀色の横髪が触れる。 さっきは、カルシファーとの会話で頭が一杯で気がつかなかったけれど。 風呂場に聞きに行くということは、裸のハウルとご対面をするわけで。 ソフィーはそのことに、さっきまでの勢いはすっかり消えうせたかの様に扉の前をウロウロとし始めた。 階段のところへ戻っては、また扉の前まで来て。 少し考えて、また階段の方へと戻る。 ちょっと立ち止まって、考えて。 また、足を動かし始める。 「うぅ〜〜〜………」 ソフィーは、思わず小さくうめき声をもらした。 ルーイのことを、少しでも早く聞きたいけれど。 この扉を開けた後のことを考えると、何故か身体が固まってしまう。 正直。 ソフィーは前にも、ハウルの裸を見たことがある。 闇の精霊を呼び出して、緑のねばねばを出した「あの時」だ。 しかし。 あの時の自分の身体は、90才の老婆だったわけで。 その上、ハウルに恋をしているのだと完璧に言い切れるほど、自分の気持ちを確信していたわけじゃない。 でも、今の自分は正真正銘ハウルに恋をしてる。 それだけは、はっきりと言える。 しかも、今は若い少女の姿で。 ハウルは自分の気持ちに答えてくれていて。 毎日が「恋」という言葉に振り回されているかのような、そんな状況。 そして、そんな状況の中でハウルの裸を見るということは、老婆の時とは全く訳が違うのだ。 ソフィーは自分でもどうすればいいのか分からずに、扉をジッと見つめてみせた。 ハウルは長湯だし。 少しでも早くルーイのことを聞きたい。 でも。 でもでも、やっぱり。 ……………。 ……………。 ―――――――――やっぱり、ハウルがお風呂上がってからでいいっ!! 結局。 乙女の恥じらいが勝ったのか、ソフィーが一階に戻ろうと階段の所まであわてて引き返した時に。 「ソフィー?」 扉越しに突然、予想もしなかったハウルからの呼びかけが聞こえたものだから。 「えっ?!……きゃっ?!!」 あわててその声に振り向いた時に、スカートの裾をうっかりと踏みつけていたことにも気がつかず。 ズデンッッ!! 「ソフィー?!」 ソフィーは、思い切り床に尻餅をついてしまったのだった。 |
「…………何やってるの?」 後に残るは、服をしっかりと着込んで扉から少しだけ不思議そうな顔を覗かせているハウルと。 真っ赤な顔をしたまま苦笑いしているソフィー。 「あ……ハウル……」 ソフィーはどうにも気まずくて、ルーイのことなどなかなか言い出せない状況に陥ってしまったことに気がついたのだった。 |