特集! 中岡俊哉先生
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中岡先生略歴
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中岡俊哉(なかおかとしや)。本名・岡本俊雄。大正十五年十一月十五日、東京生まれ。昭和十七年に渡満し、終戦後は北京放送局のアナウンサー局長を務める。昭和三十二年に帰国後は、PR通信社に勤めながらドキュメンタリー作家となり、超常現象を探求しながら世界一〇八カ国をまわる。平成十三年九月二十四日死去。
主な著書は、「テレパシー入門」「ハンドパワーの秘密」「密教呪術入門」「神通力の秘密」「死後の世界を見た」など、四百冊以上。
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中岡先生賛歌
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不遇の人である。昨今の京極夏彦氏の人気や、水木しげる先生の再評価を思うと、中岡先生に対する評価は不当に低いと言わざるをえない。
「世界の怪獣」など、一部の著作には眉唾な内容があることも確かだ。子供心にも「インチキ臭い」という言葉が、何度も脳裏をかすめた。しかし、それにもまして不思議なものに対する興味を抱かせるその筆に、いったい何人の子供たちが魅了されたことだろうか。
中岡先生ご自身、幽霊はともかく、怪獣や宇宙人の乗り物としての空飛ぶ円盤の存在は信じてなかったのかもしれない。しかしリアルともヴァーチャルとも線引きできない「もの」たちに対する愛情を持って文章を書いていたからこそ、子供たちの心を掴んだのではないだろうか。子供はいくつになっても、不思議なものが好きなのだ。
そんな中岡先生にこそ、この台詞がふさわしい。
「世の中には本当のことと嘘のことがございます。どちらとも知れず曖昧だからこそ面白いのだと思います。本当と嘘の白黒を分けてしまえば、安全なかわりに何の面白味もございませんでしょう」(小野不由美作 「東亰異聞」より)
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世界の怪獣
秋田書店刊 初版1967年
荒俣宏氏やジャン=ジャック・バルロワ氏の未知動物学の本には絶対に出てこない、見たことも聞いたこともない怪獣が、これでもかというくらい紹介されています。南村喬之、深谷徹哉、梅田紀代志各先生の挿絵と相まって、怪獣オーラが出まくり。

「トンデモ本の逆襲」で有名になってしまったゲークラダギゴンも良い味を出していますが、白眉は前半の地味な未知生物(UMA)たちに関するレポート。日付や土地名が詳細なのに、人物の名前がフルネームでないのは、被害者のプライバシーを尊重しているからでしょうか。たまに大学教授とか研究者のコメントも入っていてますが、肩書きが紹介されていないのも、権威主義には屈しないという意思の表れでしょう。

それにしても、中岡先生の博識と調査能力には脱帽。これだけのバリエーションを誇るUMA系の本は、世界中を探してもこの本だけかと思われます。先生の未知動物学に対する業績は、ペーター・アーマイゼンハウフェン博士のそれに、勝るとも劣らぬものではないでしょうか。

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新・世界の怪獣
秋田書店刊 初版1971年
「世界の怪獣」で未知動物学に一石を投じた中岡先生が、今度はフィクションという形で未知動物学の啓蒙を図ったのが、本書「新・世界の怪獣」。後年、その努力が認められ、「トンデモ本の逆襲」では、地底怪獣テゴンと宇宙獣人アプタが紹介されています。

フィクションとはいえ、そこは学問の徒、中岡先生。前書きで「ここに登場する怪獣たちは、なんらかのかたちで実在するものをモデルにして書きあげたものであって(後略)」と宣言されています。先生の詳細な描写を元に、杉尾輝利、水気隆義、境木康雄各先生が描く、怪獣たちの勇姿がすばらしい。

中岡先生が亡くなられた現在、宇宙怪獣バグンと、ガス怪獣ドルゴのモデルとなった未知動物が、先生の手によって明らかにされる機会が永遠に失われてしまったのが残念です。おそらくアフリカの奥地とか、チベットの山奥にある、我々が名前も知らない地方に今も生息しているんでしょう。きっと。

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空飛ぶ円盤と宇宙人
小学館刊 初版1975年
例によって詳細な目撃例が豊富に満載されていますが、アダムスキーの扱いが小さいのは、1975年(初版)という時代のせいでしょうか。宇宙科学開発推進機構の藤原由浩氏や宗教家の宗川円学氏も取り上げられています。

円盤を呼ぶ方法や円盤の種類など、円盤情報が満載。円盤の材質や動力源から宇宙人語にまで話がおよび、さすがに「2ヶ月間、ソ連、アメリカなどの9カ国をまわり、(中略)各国の科学者と話し合ってきました」と豪語されただけのことはあります。ちなみに宇宙語でアグウトッベッ!は、こんにちは。アプウーガッ!は、さようなら。

図版も豊富で、「3メートルの宇宙人」とか「FBIに捕まった宇宙人」といった基本は、もちろん押さえられていますね。有名人の円盤目撃例として、風吹ジュンさんや横尾忠則氏のイラストとコメントも掲載されています。風吹さんは忘れたい過去なんでしょうが、横尾先生は現在の方があっちの世界にいっちゃってるからなあ……。
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世界の魔術・妖術
新装版

秋田書店刊 初版1984年
妖怪漫画の巨匠水木しげる先生が紹介した謎の妖怪ズーの出典として、京極夏彦氏が「妖怪馬鹿」で語っていたのがこの本。正確には「魔神ズウー」と表記されています。ズウーは豚のような姿をしており、怒ると大きな鼻の穴から赤と黄色の煙を人に吹きかけて、けだものに変身させてしまう恐ろしい魔神。

この他にも牛頭人身の魔神ワーラスや双頭の魔神チャングー、七つの首を持った火の魔神フォービなどが紹介されていて、どうやら科学全盛の現代でも世界は魔神に支配されているようです。これら素敵な魔神たちの前には、本来なら主役のはずの、本編で紹介されている人間の魔術師、妖術師など役不足。完全に霞んでしまっています。

この世界怪奇スリラー全集では、他に「世界のウルトラ怪事件」「世界の怪奇スリラー」が中岡先生の作品です。特に「ウルトラ怪事件」で紹介されている、タンザニアはタンガニーカ(湖)南西ホムグエンで発見された「化け目の女」の姿は、夢に出てくるほど強烈。逆に「怪奇スリラー」は先生のホームグラウンドである心霊現象を中心に取り扱われているので、単なる怪談が多いのが少し残念ですが、こちらには写真が多く使われており、先生の話が真実であることを証明しています。
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怪奇 わたしは見た
死後の世界

学習研究社刊 初版1975年
幅広い研究活動をされていた中岡先生ですが、本職は心霊研究家です。その先生が子供向けに、死後の世界を解説したのが本書。豊富な事例を用いて、死後の世界の謎を解き明かしています。

その内容ですが、第1章では臨死体験が6例も紹介されています。立花隆氏はその著書「臨死体験」で、科学的な検証結果と明確な論調を用いて臨死体験に否定的な立場をとっていますが、先生の筆による豊富な事例には有無を言わせぬ説得力があります。第2章は霊媒など心霊現象を通して、死者が語る死後の世界。フランスの霊媒師の口を通して語られる、総統ヒトラーの言葉には背筋が凍えます。第3章は宗教的、科学的双方の立場にたった死後の世界観を、第4章では、文学において描かれている死後の世界を紹介しています。

人間が死後の世界に恐怖しながらも、興味を引かれるのは、生きている人間が誰も経験したことがない世界だからだ、と言います。生前、心霊研究に打ち込まれた中岡先生ですが、鬼籍に入られた先生は、死後の世界で何を思われているのでしょうか。

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