第六回 2001.5.23
ながらく待たされたOVA「R.O.D」の第一巻が発売された。
この作品、世間的には、小説版も手がけているスタジオオルフェの倉田英之の原作・脚本ということで注目を集めているのではないかと思う。しかし私にとっては、個人的にものすごく贔屓にしている監督である舛成孝二氏が作るということで、ずーっと楽しみにしていたのだ。
舛成孝二監督は、特別強い個性や作家性を持った演出家というわけではない。しかし、この数年、その仕事には、注目すべき点が多々ある。
舛成孝二の演出の肝は、キャラクターをたたせる為の演技や仕草、小道具の使い方にあると思われる。演出としては極当然のことをしているに過ぎないのだが、ここまでこだわりを感じさせ、丁寧に作っている監督はそうはいない。それ故に、フィルムの隅々にまで、気が配られており、繰り返し見たくなる魅力を持ち得る。「R.O.D」においてもそれは如何なく発揮されている。(と、これを書いている最中に「リスキーセフティー」見たくなって舛成コンテ回を見直してしまった。)
私が舛成孝二氏を意識したのはけっこう以前のことだ。「NG騎士ラムネ&40」という作品にアホのようにはまっていた時期があり、そこで、絵コンテ・演出として舛成氏は参加(当時は「ますなりこうじ」とひらがな表記)しており、氏の担当した回の出来は抜きん出ていた。OVA版「NG騎士ラムネ&40EX」では監督を務めたが、これは当時必ずしも満足の行くものではなかった。が、私が舛成孝二の名前をはっきりと意識するきっかけとなった。
その後、彼の仕事は、TVアニメの演出・コンテ以外では、OVAの監督が主となるが、本数的にはかならずしも多くない。一番目立つ仕事といえば、AIC・パイオニア系作品のED演出だったりする。このEDが手抜きなのかセンスなのかわからない微妙な味わいで、それを追いかけるという楽しみを提供してくれていた。しかしOVA作品に関しては、作られた当時は企画的に興味を引かず倦厭していた。
再び舛成孝二の名前を意識し直すのは、「アンドロイドアナMAICO2010」からとなる。この作品からスタッフクレジットで漢字表記するようになったため「ますなりこうじ」と同一人物だとは、当初気付かなかった(クレジット表記を漢字からひらがなにする人は多いけど逆は珍しいと思う)「MAICO2010」脚本・黒田洋介の巧みな構成と舛成孝二の丁寧な仕事があいまって、思わぬ秀作となった。続く「臣士魔法劇場リスキー☆セフティ」も黒田洋介と組んでの仕事となったわけだが、これが私の嗜好のツボに見事にハマる作品となった。
ツボが何かと一言で言うならば「眼鏡」なのだが。
黒田洋介にしても、倉田英之にしても、他作品で「眼鏡っ娘キャラ」を出している。(黒田「くるみ2式」倉田「まりんとメラン」)だが、他作品と比べてみた時、舛成作品において、「眼鏡」はキャラを立たせるための小道具として用いられている点で、大きく違う。眼鏡好きとして、その演出手法に惚れこまずにはいられない。
個人的にその能力に信頼を寄せている監督が、自分の嗜好に沿う作品を作ってくれるということは、私にとって本当に珍しい事である。面白くても嗜好にそぐわない、嗜好的にはOKだけど作品的にはNGということは実に多い。
自分が以前好きだった作品に参加していた演出家が、徐々に力をつけ円熟にいたり、私の個人的嗜好に応えてくれる作品を作っている。
私がアニメを見る上での(スタッフを重視するという)思想的な立ち位置と嗜好的な立ち位置の幸福な一致がここにある。
そういう意味で「リスキー」に続いて「R.O.D」を作ってくれた舛成孝二監督は、今現在のところ相当エコ贔屓したくなる監督のひとりである。世間的にそれほど認知もされていないしヒット作にいまだ関わっていないという点でも判官贔屓に拍車がかかるというものであろう。
願わくば今後も私の嗜好に応えてくれる作品を手がけてくれることを祈りつつ、舛成監督を応援していきたい。
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