第七回 2001.10.3 UP エロアニメだってイイ物はイイ! え〜、すいません。今回取り上げる作品は18禁エロアニメです。ですので興味のない人は読み飛ばしちゃってもかまわないのですが、わざわざ取り上げるのは、もちろん「作品」としてそれが、完成度が高く面白かったからだということはご理解ください。
「初夜〜バージンナイト〜」 (原作・田中ユタカ) この作品は、レンタルで借りて、それほど期待して見たわけではない。が、見て正直驚いた。エロアニメでなくても、驚いたかも知れないが、あくまでエロアニメとして真正面から作られていることに、脱帽せざるを得ない。そういう作品だ。
このエロアニメの特筆すべき点をいくつか上げて、解説していきたい。
美術への気合の入れ方、レイアウト・場面設計という役職があるのがエロアニメらしくない。
最初に見て驚くのは、スタッフ名がクレジットされるオープニング。ピアノのテーマ曲が流れる中、恋人ふたりが家を出てレンタルビデオ屋までゆったり歩いていくというシーンにクレジットがかかるのだが、ここでの美術及びレイアウトがものすごく良く出来ている。
普通のエロアニメで、キャラの作画に気合の入っているものは珍しくないが、美術、背景に気合の入ったものはほとんど見たことがない。この時点で「あれ?なんかこれただのエロアニメと違うんじゃ?」と思い、だらっと寝転がって見ていたのを思わず、体を起こして座りなおしてしまった。
そしてさらに驚くべきは、場面設計(第二回の「ロケハンするアニメはいい!」を参照)という役職が設定されている点だ。その為、単に美術の描きこみがしっかりしているだけでなく、彼氏の部屋の中の間取りなどがちゃんと設計されていて、作品全体に日常的なリアリティ、空気感が作り出されている。
では、何故に、美術、場面設計を駆使してここまで日常的リアリティ、空気感を作り出すのかと問えば、それは「これから初エッチする恋人」の情感を盛り上げる為に他ならない。演出としてここまでやったエロアニメを私は他に知らない。
エロ漫画が原作なのに、原作の持ち味を壊すどころか生かしきっているところが「エロアニメ」らしくない。
田中ユタカの漫画は常に登場人物が恋人同志のふたりしかおらず、回りくどい設定や物語はなく、「Hをする恋人の心と体の交わり」だけを描く。恋人同士のSEXそのひとコマただそれだけ。重要なのは物語性よりもHシーンと男女の(特に男の側の)心情を描くことにある。作り手たちが、その原作の持ち味を十二分に理解し、アニメとして昇華させている。
エロアニメの多くはいい加減に作られているものなのだが、漫画原作モノは特に酷いモノが多い。それを考えると、このクオリティー、完成度の高さはいったい何事がおきたのか?と考えたくなる。
原作の出版元である竹書房自体がソフトの発売元となり、他のソフト会社に任せてしまっていない。つまり出版社主導で企画が進められたものと思われる。それ故に原作を大切にし、クオリティの高い作品を作ることが出来たのではないだろうか。おそらく意識としては成人指定ではあるが一般的なOVA作品の予算とクオリティという意識で製作されたのではないかと考えられる。
これでホントにペイするのかどうか知れないが、レンタルで見た後、私は思わずDVDを購入してしまった。
願わくば同じスタッフで同様の質を持った新作を作ってもらいたいものだ。というわけで悔しいので主要スタッフを紹介しておきたい。
スタッフに関して余談 場面設計・レイアウト・原画で参加している中山久司氏、「この人の名前は絶対どっかで見たことがあると」思って調べてみたら、「デジモンアドベンチャーぼくらのウォーゲーム」(第一回細田守監督に注目せよ!」参照)でキャラデザ・作画監督として参加していた方でした。これにはビックリ。まさかこんな所で繋がりがあるとは。
あと「千と千尋の神隠し」でも原画として参加してました。うーん、こんな人が平気で18禁の作品に名前出しちゃっていいものなのかなあ。気になって監督他スタッフもGoogleで検索してみたら、一般作に普通に参加している人ばかりだった。エロアニメではペンネーム使うのが普通かと思っていけど、時代は変わったものだ。
監督の奥野浩行氏はネットで調べた限りでは、アニメーター出身で、これ以外での監督作はなく、初監督作品となるようだ。それでいてレイアウトやキャラの演技にこだわったある意味私好みの作品を作ってくれるとは。今後に少し期待して見たい。
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