■「うわさのミニ巫女」大解剖 第一回

(こちらの文章は本作をすべて読んだ人向けです。未読の方はこちらをどうぞ)

4061487884 うわさのミニ巫女―おみくじのひみつ (講談社青い鳥文庫)
柴野 理奈子
中島 みなみ
講談社 2007-10

by G-Tools

この第一巻の物語は伏線の張り方も上手く、構成が実によく出来ている。
偶然や勘違いが次々に連鎖して行き、結果的にすべて丸く収まり、まわりの人たちも、主人公の結実自身もハッピーになるという、 さすがにちょっと出来すぎなんじゃない、と思ってしまうくらいいろんなことが上手くいってしまうお話になっている。
あまりによく出来すぎていて、さすがに嘘っぽいな、と思ってしまうかもしれない。
しかし、そのよく出来すぎた物語が不思議に心地いいのも確かだ。
そのフシギさの正体に、ここでは踏み込んでみたい。

とりあえず本編で起きる「偶然」を列挙して見よう。
そもそものきっかけが、主人公「斉藤結実」が名前が一文字違いの天才フィギュアスケート小学生「斉藤麻由美」と勘違いされ神社で巫女の格好をして、写真のモデルをすることになるところから端を発する。
さらにそこでいろいろな偶然がかさなって結実がたまたまいたずらで書いた「手書きおみくじ」を参拝客に渡してしまい、これが何故か的中して、話題になってしまう。
また、結実がうっかり麻由美が怪我をすることをお祈りしてしまったことが原因なのか、実際、麻由美が怪我をしてしまう。
しかしこの災いが転じて、裕実が神社に通うようになったことと、話題になってしまった「手書きおみくじ」のおかげで、なかなか友達のできなかった結実が麻由美と友達になるきっかけが生まれる。
その他に、他人を助けるつもりで渡した手書きおみくじがクラスメートの戸山に渡って、結実の所に戻ってきたり・・・
と、ここまで偶然が重なるとそれは「必然」なのでは、と勘ぐりたくなる。

そしてこれらの偶然が実は必然ではないか?と思わせる「何か」の答えが本作のメインの素材であるところの「巫女」と「神社」にあることに気づいたとき、ゾクリとくる面白さがある。
言葉や文字に霊力がやどるという神道特有の言霊の考え、神社という霊的な場と「おみくじ」というアイテム、神社に訪れる人々の祈りや願い。
結実が書いたおみくじに見えざるものの力が介在して、人々に幸福をもたらしたとしたら・・・
そしてそれを裏付けるように、結実は、幼い頃から書道を習い、祖母や母から書には描いた人の気持ちが表れることを再三再四叩きこまれており、書道をはじめ文字や言葉に対する感覚は鍛えられている。
また本編では言霊や祝詞、神社の役割について、丁寧な解説がされていて遠まわしに読者にその意味を意識できるように配慮されている。
もしかしたら結実の書いたおみくじに言霊が宿っているのかもしれない、結実の書いたおみくじが本当に人々に幸福をもたらしているのでは・・・と思わせるだけの材料がしっかりと用意されているのだ。
さらにこじつけるなら、「実を結ぶ」と書いて「結実」、古くから豊穣を祈願し感謝してきた神道や神社的に見て、なんともめでたい御名前。神さまに「愛で」られてもおかしくない!

まったくファンタジーやフシギ要素のないはずの作品だったのに、ちょと見方を変えてみると、実にフシギな偶然と必然が交錯するファンタジーに思えてくる!
ここがこの作品の面白さなのではないだろうか。

もちろんこれは、あくまでそういう解釈が成り立つというだけで、本編で、結実自身にフシギな力があるという自覚を持ったりしないし、行間でも、そういったことには一切踏み込んでもいない。
だからこそ、この作品の持つふわっとした幸福に満ちた読後感、不思議感がより一層引き立っているともいえるだろう。

「うわさのミニ巫女」大解剖 第二回へ
4062850273 龍笛のひみつ ―うわさのミニ巫女―
柴野 理奈子
中島 みなみ
講談社 2008-05

by G-Tools
4062850605 おまもりのひみつ―うわさのミニ巫女 (講談社青い鳥文庫)
柴野 理奈子
中島 みなみ
講談社 2008-11

by G-Tools