右はカンブリア紀の怪物たち。ハルキゲニアは上下反対のもあります。
(群馬県立自然史博物館)
生物はそれぞれが落ち込んだ「起こり易い谷」の中で一見安定しているように見えますが、常に蠢いているのでしょう。
1991年、カリフォルニア州である池が凍結しサメハダイモリが全滅しました。452頭のイモリの肢を調べたシャピンは、とんでもない量の変異を確認したそうです。
およそ1/3のイモリが肢に重大な奇形を抱えていました。何個かの骨が融合していたり、
何もないところから余分の足首の骨が生じている例もありました。これだけ野放しの変異があれば、
自然淘汰は何でも好きなものを作り出せそうだったと言います。
しかし、実際にはそれらの変異は極めて限定されており、しかも偏っていました。
肢を形成する細胞集団で骨の融合や余分な骨の出現が頻繁に起こっていたのです。
また骨の融合の一例は遠い親戚であるアメリカサンショウウオの標準的な特徴だったし、
足首の骨が余分に生ずる例は、2億6000年前の両生類の化石と同じでした。(注)
全く新しい変異、例えば羽毛や翼が生えてきたり、皮膚の色が変化したものはなかったのです。「野放しの変異」とはいっても、そこには何らかの方向性と制約があったのでしょう。
そして、これらの膨大な変異の中には、池の凍結という環境の変化に適応して子孫を残せるものはありませんでした。もしこの「野放しの変異」の範囲内で「環境への適応」が可能だったのなら、旱魃に耐えて変化したガラパゴスフィンチと同様、池の凍結に適応した新しいイモリが誕生していたかも知れません。
他の見方をすれば、足に数多くの奇形を生じさせていた変異の源は、池の環境への対応ではなかった可能性があります。といって変異が全てランダムでもないのは、肢の部分だけに奇形が集中していたことからも、生物に放射線を当てれば変異が増えること等からも明らかでしょう。
また同じ疑問が出てきます。では、変異の方向と制約を支配しているルールは、何でしょう?
次は、これまで文献の間を迷走してきた結果を整理してみます。
(注)サメハダイモリの件は、ジンマーの「水辺で起きた大進化」によりました。
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