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12.取り戻した心をあなたへ



 その夜、和成は夢を見た。
 雲ひとつない夜空に丸い月がぽっかりと浮かんで、辺りを明るく照らしている。
 月光に照らされたどこまでも続く銀色の砂浜を、紗也と一緒に裸足で歩いていた。
 静かに打ち寄せる波の音を聞きながら、立ち止まって暗い水面を眺める。紗也が腕に掴まり笑顔で見上げた。
「ずっと一緒にいてね」
 和成は微笑んで紗也を抱き寄せる。
「もちろんです。誓ったではないですか。あなたとあなたの国を一生お守りすると」
 あの満月の夜と同じ、紗也のぬくもりと匂いをかみしめながら目を閉じた。
 目を開くと自室の天井が目に入る。
 紗也と共にある未来など考えるだけ愚かだった頃には、決して見る事のなかった夢。
 あの暗い水面は海だったのだろうか。いつか戦のない平和な世になったら、見に行きたいと紗也が言っていた。戦のない世の中になったら海を見に行こう。
 知らない間に涙があふれて枕を濡らしていた事に気付く。昼間あれだけ泣いたので、涙などとうに涸れたと思っていた。
 久しぶりに姿を見せた月が部屋の中を青白く照らしている。夜明けにはまだ程遠い。
 和成はそっと目を閉じる。そして流れる涙もそのままに、あまりにも平和で残酷なまでに幸せな夢の余韻にしばし浸っていた。
 少しして起き上がると、涙を拭い廊下へ出る。そのまま中庭へ降りて空を見上げた。
 二週間ぶりに姿を見せた下弦の月は、静かに和成を見下ろしている。
 あの夜満月の下で立てた誓い、紗也を守る事は果たせなかったが紗也の国を守る事はまだできる。
 和成は月を見上げて微笑んだ。
「じきにお伺いしますと申しましたが、もう少しお待ち下さい。あなたの望む世の中を献上いたしたいと存じます。そこからご覧になっていて下さい。この国が、秋津が、私の手で変わっていく様を」
 さぁ、国を動かそう。紗也の夢見た未来に向かって。
 和成は月を見上げて目を閉じると、大きく深呼吸をした。



 翌日、杉森国君主に就任した和成は外交に手腕を発揮し、わずか十年で二大国灘元、浦部を併合。就任から十五年後には秋津島全土を統一。秋津国初代国王となり、長く歴史に語り継がれる事となる。




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