読者からの質問と回答 01061 〜 01070

H.N.さんからの質問 #01070

全射 f : X --> Y が導く同値関係〜について,|X/〜| = |Y| が成立する理由を教えて下さい.

問題: 集合 X から集合 Y への全射 f が与えられたとする.
X の任意の2元 x_1, x_2 について,f(x_1) = f(x_2) のとき x_1〜x_2 と定める.このとき,
|X/〜| = |Y|
が成り立つことを証明せよ.
ここで,X/〜 は同値関係〜による X の商集合,|・| は集合の濃度を表す.

問題の内容から,X/〜 から Y への全単射は存在せず,本当に上式が成り立つのかな? と疑問に感じております. といいますのも,X の任意の元について f(x_1) = f(x_2) となるわけですから, 集合 Y の元はただ1つのみとなると思うのです.

お答えします:

問題の等式は成立します.
まず簡単な具体例で考えられてはいかがでしょうか.

X = {a, b, c, d, e}, Y = {1, 2, 3} として,全射 f : X --> Y を
f(a) = 1, f(b) = 2, f(c) = 3, f(d) = 2, f(e) = 1
で定める.
この写像 f : X --> Y について上の同値関係〜を考えると,
写像 f の定め方より f(a) = f(e) だから,a〜e.
同様に,f(b) = f(d) だから b〜d.
また,明らかに a〜a, b〜b, c〜c も成立する.
結果として,
X/〜 = {{a, e}, {b, d}, {c}}.
すなわち,商集合 X/〜 は 3個の元 {a, e}, {b, d}, {c} を持つので,|X/〜| = 3.
一方 |Y| = 3 だから,|X/〜| = |Y|.

上の例の場合,f(a) と f(b) は異なるので a〜b は成立しません.
したがって,H.N.さんの「X の任意の元について f(x_1) = f(x_2) となるわけですから」 と書かれた部分は誤解があるように思います.
再考してみて下さい.

問題の本質は上の例で尽くされていますので,一般的な証明まであと一歩です.
商集合 X/〜 について自分に合った参考書で復習されるとよいと思います.


H.N.さんからの質問 #01069

写像 R^2 --> R; (x, y) --> x が連続開写像である理由を教えて下さい.

ユークリッド平面 R^2 から実数直線 R^1 への写像 f を次のように定める.
R^2 ∋ p = (x_1 , x_2) に対して,f(p) = x_1. 
このとき,f : R^2 --> R^1 が連続開写像であることの証明を教えて下さい.

お答えします:

この写像 f を(第1座標への)射影とよびます.
射影の連続性については, 『はじめよう位相空間』 系4.13 に証明があります.
開写像であることを示すためには,次の補題を使うと便利です.

補題『はじめよう位相空間』補題8.9).
R^n の部分集合 A が R^n の開集合であるためには,任意の点 p ∈ A に対して,
U(p, ε) ⊆ A 
をみたす p の ε-近傍が存在することが必要十分.

写像 f が開写像であることの証明:
R^2 の開集合 A に対して,f(A) が R^1 の開集合であることを示せばよい.
f(A) の任意の点 x をとると,f(p) = x をみたす点 p ∈ A が存在する.
いま A は R^2 の開集合だから,上の補題より,
U(R^2, p, ε) ⊆ A
をみたす p の ε-近傍が存在する.このとき,次が成立する(なぜか?).
U(R^1, x, ε) ⊆ f(A).
ゆえに,再び上の補題より,f(A) は R^1 の開集合である.


H.N.さんからの質問 #01068

集合 [a, b) × [c, d) は R^2 の開集合ですか?また,Sorgenfrey 平面の開集合ですか?

次の問題についてご指導頂きたく,よろしくお願い致します.

問題:
A = {x ∈ R : a ≦ x < b} = [a, b)  (a < b),
B = {y ∈ R : c ≦ y < d} = [c, d)  (c < d)
とするとき,次の問いに答えよ.
(1) 集合 A × B は R^2 の開集合であるか?(R^2 は2次元ユークリッド空間)
(2) 集合 A × B は S^2 の開集合であるか?(S^2 は Sorgenfrey直線 S の直積空間)

註. Sorgenfrey 直線 S とは,実数直線 R に [a, b) の形の半開区間全体からなる集合族を基底とする位相構造を与えてできる位相空間 S のことをいう.

お答えします:

正解と理由の概略を説明しますので,参考にして考えて下さい.

(1) A × B は R^2 の開集合ではない.
理由: もし A × B が R^2 の開集合ならば,任意の点 p ∈ A × B に対して,
U(p, ε) ⊆ A × B をみたす p の ε-近傍が存在しなければならない.
『はじめよう位相空間』 補題 8.9 参照.)
ところが,点 p = (a, c) ∈ A × B に対しては,そのような ε-近傍が存在しない(なぜか?).

(2) A × B は S^2 の開集合である.
理由: 一般に,A と B が位相空間 X の開集合ならば,A × B は直積位相空間 X^2 の 開集合である.
『解いてみよう位相空間』 問題10.24 参照.)
いま A と B は S の開集合(なぜか?)だから,上の事実より, A × B は S^2 の開集合である.


H.N.さんからの質問 #01067

全射 f: X --> (Y, S) に対し,T = {f^-1(U) : U ∈ S} X の位相構造であることを教えて下さい.

学生時代は数学が得意な私でありましたが,幾何学は非常に理解が難しいです.
早速ですが,次の問題についてご教授頂きたく,よろしくお願い致します.

問題:集合 X から位相空間 (Y, S) への全射 f が与えられたとき,次を証明せよ.
(1) Τ = {f^{-1}(U) : U ∈ S} とおくとき,Τ は X 上の位相である.
(2) Τ は f を (X, Τ) から (Y, S) への連続写像とする X 上の最小の位相である.

(1) については,元の数が3つ程度の簡単な集合の事例をつくってやってみました.
最初はなるほど・・・と思っていたのですが,
X = {a, b, c}, Y = {1, 2, 3} として次の全射の場合,どうなりますでしょうか?
f(a) --> {1}, f(b) --> {2, 3}, f(c) はなし.
空集合 φ の扱いにミソがありそうな気がするのですが・・・.
一般的な証明の方法や手順については,わかりません.

お答えします:

簡単な例を使って問題を考えてみることは大変よい方法です. ただし,上の例の場合,写像 f の定め方に問題があります.

問題 (1) について:
一般に,集合 X の部分集合族 T が位相(=位相構造)であることを証明するためには, T が位相の定義の3条件 (O1), (O2), (O3) を満たすことを示します.
(O1) φ ∈ T かつ X ∈ T(ただし,φ は空集合を表す).
(O2) T に属する集合の和集合はまた T に属する.
(O3) T に属する有限個の集合の共通部分はまた T に属する.

問題 (1) の場合,S は Y の位相ですので,(O1), (O2), (O3) を満たしています. この事実から,T が (O1), (O2), (O3) を満たすことを導くことが目標です.
ここでは,T が (O1) を満たすことだけを示します.
S は Y の位相だから S は (O1) を満たす.
すなわち,φ ∈ S かつ Y ∈ S
f^-1(φ) = φ だから φ ∈ T.
f^-1(Y) = X だから X ∈ T.
ゆえに,T は (O1) をみたす.

(O2) と (O3) を満たすことは,写像 f : X --> Y と Y の部分集合族 {U_a: a ∈ A} に対して,次の2つの等式が成立することから,それぞれ,導かれます.
f^{-1}(∪{U_a : a ∈ A}) = ∪{f^{-1}(U_a) : a ∈ A},
f^{-1}(∩{U_a : a ∈ A}) = ∩{f^{-1}(U_a) : a ∈ A}.
『はじめよう位相空間』 定理A.6 (3), (4)(216ページ)参照.

問題 (2) について:
T が「f を (X, T) から (Y, S) への連続写像とする X 上の最小の位相」であることを 証明ためには,次の (*) を示します.
(*) U が X の位相で f : (X, U) --> (Y, S) が連続ならば,TU
写像 f : (X, U) --> (Y, S) が連続であるとは, 条件「U ∈ S ならば f^{-1}(U) ∈ U」が成り立つことです.
このことに注意すれば (*) を示すことが出来るのではないでしょうか.

2017/3/8 改


M さんからの質問 #01066

実数全体 R に,空集合と R と有限集合を閉集合とする位相を定めるとき, Z が稠密であることを教えて下さい.

実数全体の集合 R に以下のような通常の位相とは別の位相を定める. すなわち,R の閉集合系 F(R) は,空集合, R および R の有限部分集合全体から成る集合族であるとして R に位相を定める.
この位相のもとで,整数全体の集合 ZR で稠密であること,つまり,R における Z の閉包 Cl ZR に一致する.
どのように証明すればよいでしょうか.

ヒントを与えます:

次の事実を使うとよいと思います.
「位相空間 X の部分集合 A の閉包は,A を含むすべての X の閉集合の 共通部分である.」
『解いてみよう位相空間』 の補題 8.9 参照.
この場合にあてはめると,

Cl Z = ∩{F : Z ⊆ F ∈ F(R)} 

が成立します. ここで,F(R) は上で定めた新しい位相の閉集合系です.
この事実から,Cl Z = R が導かれるのではないでしょうか.


Y.Y.さんからの質問 #01065

n 次直交群の連結成分について教えて下さい.

数学科3回生のYと申します.
実数を成分とする n 次正方行列全体 M(n, R) に通常の位相を考え,
n 次直交群 O(n) = {A ∈ M(n, R) : A^T A = E} に M(n, R) の位相から定まる部分位相を考えます. このとき,O(2),O(3) の連結成分はちょうど2つであることを示せという問題です. ここで,A^T は A の転置行列を表します.
det A = ±1 を使うのは分かったのですが,その後が分からないので何卒よろしくお願い致します.

お答えします:

位相空間・質問箱の「これまでの質問と回答コーナー」の「位相空間と距離空間に関する質問」の中に,
「n 次直交行列全体の集合がコンパクト,非連結であることの証明を教えて下さい」
という質問がありますので,その回答をご覧下さい.

その回答の最後の部分の集合 Y, Z がちょうど O(2) の2つの連結成分です. 実際,O(2) は Y と Z の和集合で,Y と Z は交わりません. さらに,Y, Z は共に閉区間の連続像ですので連結かつコンパクト. すなわち,Y, Z は O(2) の交わらない連結閉集合だから,それらが O(2) の連結成分になります. Y.Y.さんがお気付きの通り,集合 Y, Z がちょうど det A = ±1 に対応する O(2) の 部分集合になっています.
O(3) の場合を考えてみて下さい.


M さんからの質問 #01064

平面 R^2 の閉集合を連続関数の逆像として表す方法を教えて下さい.

次の問題がどうしても分かりません.その解き方とコツを教えて下さい.

問題. 平面 R^2 の閉集合 F に対し, ある連続関数 f : R^2 ---> R が存在して,
F = {(x, y) ∈ R^2 : f(x, y) = 0} 
と表せることを証明せよ.

お答えします:

平面 R^2 において,点 p と集合 F の間の距離 d(p, F) を次のように定める.
d(p, F) = inf{d(p, q) : q ∈ F}
ここで,d(p, q) は2点 p, q 間の通常の距離. このとき,
f : R^2 ---> R; p |---> d(p, F)
と定めると,f が求める連続関数になります. したがって,次の事実 (a), (b) を示せば,証明は完成です.
(a) f は連続関数である.
(b) F が閉集合ならば,F = {p ∈ R^2 : f(p) = 0} が成立する.

前問 #01063 に書いた注意を思い出して,(a) と (b) を証明して下さい.
M さんの位相の勉強が進むことを祈っています.


M さんからの質問 #01063

平面 R^2 の次の集合は閉集合ですか?コンパクトですか?

次の問題がどうしても分かりません.その解き方とコツを教えて下さい.

問題. 次のうち,平面 R^2 の閉集合であるものはどれか. また,コンパクト集合であるものはどれか. ただし,R^2 の位相は通常の距離空間としての位相とする.
(1) A = {(x, y) ∈ R^2 : x^2+y^2 ≧ 1},
(2) B = {(x, y) ∈ R^2 : xy ≦ 1},
(3) C = {(x, y) ∈ R^2 : y = 0},
(4) D = {(0, 0)}.

お答えします:

解き方とコツを知りたいということですが, 数学の問題を考える際に最初に必要なことは, その問題の中に出てくる記号と用語の定義を正しく理解することです.
上記の問題について言えば,次の記号と用語の定義を理解していることが大切です.

R^2,閉集合,コンパクト集合,位相,通常の距離空間としての位相.

これらの定義と意味を十分に理解した上で,再度,問題を考えることをお勧めします. 集合 A, B, C, D を図示してみるとよいでしょう.
また 『解いてみよう位相空間』 の第 5 章と第 11 章が参考になると思います.

ここでは,答えのみを書いておきます.
集合 A, B, C は閉集合であるがコンパクトでない.集合 D はコンパクト閉集合である.
理由を考えて下さい.


T.A.さんからの質問 #01062

教えて下さい.3点からなる集合上の位相を列挙せよ.

次の問題について教えて下さい.よろしくお願いします.

問題. 異なる3点 a, b, c からなる集合 X 上の位相は何通りあるか.すべてを列挙せよ.

お答えします:

『はじめよう位相空間』の第10章をご覧下さい.


T.A.さんからの質問 #01061

{a_n} がコーシー列ならば,{a_n+1/3^n} もコーシー列であることの証明の進め方を教えて下さい.

位相幾何学の超・初心者です.はじめまして.
コーシー列の問題です. 多分簡単な問題かとは思いますが,どのように解答を進めるべきか教えてほしいのです.
よろしくお願いします.

問題. {a_n} を Q の中のコーシー列とする.
b_n = a_n + 1/3^n とおくとき,次の問いに答えよ.
(1) {b_n} は Q の中のコーシー列であることを証明せよ.
(2) {a_n} 〜 {b_n}(同値)を証明せよ.

お答えします:

どのように解答を進めるべきかというご質問ですので,解答の方針についてお答えしたいと思います. 数学の問題では,いつでも,
「その問題文の中で使われている用語の定義を確かめて理解する」
ことが第1歩です. 上記の問題 (1) では,
1)まずコーシー列の定義を確かめて下さい. もしテキストをお持ちの場合は,その中に定義が書かれているはずです. 老婆(爺?)心ですが,定義をノートに書き写して,いくつかの具体例を考えてみると理解しやすいと思います. 例えば,次の3つの数列 {a_n}, {b_n}, {c_n} がコーシー列であるかコーシー列でないかを, それぞれ,定義の条件に照らし合わせて確かめてみて下さい.
a_n = 1/n, 
b_n = 2n, 
c_n = 2 の平方根の小数第n位まで.

2)次に,{b_n} が定義の条件を満たすことを示します. 少し詳しく言えば,{a_n} はコーシー列ですので,{a_n} はコーシー列の定義の条件を満たします. この事実を使って,{b_n} もまたその条件をみたすことを示します.

上記の問題 (2) では,コーシー列の 同値関係〜 の定義を確かめて下さい. 次に,{a_n} と {b_n} が同値の定義の条件を満たすことを示します.

以上,方針のみを示しましたが,答になったでしょうか.
T.A.さんの解答が完成することを祈っています.


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