読者からの質問と回答 01191 〜 01200

W.N.さんからの質問 #01200

疎な閉集合族が与えられたとき.閉包が高々1個のその要素としか交わらないような開集合からなる開被覆のとりたいのですが,どうとればよいでしょうか.

X を任意の開被覆がσ-局所有限な開細分をもつ T_1 正則空間とし, {F_α} を X の疎な閉集合族とします.
このとき X の開被覆であって,その任意の元の閉包が {F_α} の2つ以上の元と交わらないようなものをとりたいのですが, どうとればよいのでしょうか?
{X - F_α} を考えればいいのかと思ったのですが,うまくできませんでした.

お答えします:

族 {F_α} は疎だから,X の任意の点 x に対して, 高々1個の {F_α} の元としか交わらないような x の近傍 U_x が存在する.
いま X は正則空間だから,その閉包が U_x に含まれるような x の開近傍 V_x をとることができる.
このとき,{V_x : x ∈ X} が X の求める開被覆である.

ご質問の最初の X の条件は不要なように思いますが,いかがでしょうか.
取り急ぎ,回答まで.


N さんからの質問 #01199

『はじめての集合と位相』の第7章,定理7.18 (Tukey の補題) の証明について教えて下さい.

はじめまして. 『はじめての集合と位相』を手に取り勉強している社会人です.
第7章の Zorn の補題に入ってから急速に難しくなったように思います.
定理7.18 (Tukey の補題) の証明で,90ページの11行目の数式

B_0 = A ⊂≠ f(A) ∈ B_0

の後の「これは矛盾である」との記述が,何と矛盾しているのか理解できません.
初歩的な質問と思われるかもしれませんが, 教えていただけないでしょうか.

お答えします:

11行目の数式の左辺の和集合 A = ∪B_0 は, 集合族 B_0 に属するすべての集合の和集合です. したがって,A は B_0 に属するすべての集合を部分集合として含みます.
すなわち,次のことが成立します.

(∀B ∈ B_0)(B ⊆ A). - - - (1)

一方,11行目の数式の後半は,次のことを主張しています.

f(A) ∈ B_0 であるが,f(A) は A の部分集合でない.- - - (2)

上の (1) と (2) は矛盾である.
いかがでしょうか.

Tukey の補題の証明は,私も難しいと思います.
疑問点をおろそかにされない N さんの姿勢,大切と思います.
最後になりましたが, 『はじめての集合と位相』のご購読に御礼申し上げます.


I さんからの質問 #01198

数学の背景的な知識を独習するには,どうすればよいですか.

講義で学ぶような背景的な知識を自習しながら学びたいと思うのですが, 背景的な知識を独習するには,どうすればよいでしょうか. アドバイス頂ければ嬉しいです.

お答えします:

私は,数学書を読む際には,平行してできるだけ多くの他書を見るようにしています. 数学の場合,どの本を見ても書かれている命題には変わりはないのですが, 解説の視点や,証明方法,関連する話題等は,著者によって異なりますので, 参考になることが多々あります. 背景的な知識に触れた本にも,出会う機会があるのではないでしょうか.


T さんからの質問 #01197

『はじめての集合と位相』の第 5 章,命題 5.13 の証明,整数 a のとり方について教えて下さい.

『はじめての集合と位相』の第 5 章,命題 5.13 の証明について,
a = -b + 1, a = -b + 2 はどのようにして導かれたものなのでしょうか.
自分では理解することができませんでしたので,教えていただけないでしょうか.

お答えします:

ここでは,
-b < x ≦ -b + 1
を満たす整数 b が存在することから,
a - 1 ≦ x < a 
を満たす整数 a の存在を導いています.

-b < x < -b + 1 のときは,a - 1 = -b とおけばよい.
このとき,a = -b + 1. 
x = -b + 1 のときは,a - 1 = -b + 1 とおけばよい.
このとき,a = -b + 2. 

いかがでしょうか.


K.K.さんからの質問 #01196

『はじめよう位相空間』の続編の予定はあるでしょうか.

『はじめよう位相空間』の続編で基本群やホモロジー群を扱ったものがあれば本当に助かるのですが,刊行のご予定はございますでしょうか?
もし続編のご予定がないのであれば,よい演習書をご存知でしたらご紹介いただけませんか?
よろしくお願いいたします.

お答えします:

残念ながら,現在のところ,基本群やホモロジー群に関する続編の予定はありません.
すでにご存知かも知れませんが,また演習書ではありませんが, 参考書を3冊,ご紹介します.

松本幸夫著『トポロジー入門』岩波書店,1985. 
今でも簡単に手に入るかどうか分かりませんが, 基本群について,大変ていねいに解説されています.

阿原一志著『計算で身につくトポロジー』共立出版,2013. 
本書の前書きには「微分積分も線形代数も確率統計も苦手だという人も (本書を読めば)ホモロジー群だけはわかるのではないか」と書かれています.
現在のところ,もっとも初学者の方を向いている参考書ではないでしょうか.

小林貞一著『トポロジー』近代科学社,1987. 
ホモロジー群について,細部まできちんと書かれた参考書だと思います.
基本群についても触れています.

他にも良書はあると思います.
それらに巡り会われて,一層,勉強が進むことを祈っています.
最後になりましたが,『はじめよう位相空間』のご購読に,御礼申し上げます.


H.S.さんからの質問 #01195

Jones の定理の証明を教えていただけると有り難いのですが.

Jones の定理: 2^{aleph_0} < 2^{aleph_1} を仮定すれば,可分な正規空間は aleph_1 コンパクトである.

ここで,位相空間 X が aleph_1 コンパクトであるとは, X の任意の閉離散部分集合の濃度が高々可算であることをいう. Jones の証明の概略か,あるいは,その論文だけでも教えていただけると有り難いのですが. よろしくお願いいたします.

お答えします:

Jones の定理の証明をお知らせします.

証明: もし X が aleph_1 コンパクトでなければ, X には濃度 aleph_1 の閉離散部分集合 A が存在する. このとき,A 上の実数値連続関数全体の集合の濃度は 2^{aleph_1}. X の正規性から A 上の実数値連続関数は X 上へ連続拡張されるので, X 上の実数値連続関数全体の集合 C(X) の濃度は 2^{aleph_1} 以上になる.
一方,X は可分だから,C(X) の濃度は 2^{aleph_0}.
結果として,2^{aleph_0} = |C(X)| ≧ 2^{aleph_1}.
これは仮定に矛盾する.

以上,お役に立てば幸いです.


H.S.さんからの質問 #01194

命題「可算 extent をもつパラコンパクト空間はリンデレーフである」の証明を教えていただけませんか.

お忙しいところ大変恐縮ですが,わからない証明があります.

命題: 可算 extent をもつパラコンパクト空間はリンデレーフである.

ここで,位相空間 X が可算 extent をもつとは,X の任意の閉離散部分集合の濃度が高々可算であることをいう.
証明の概略で結構ですので,お時間があるときに教えていただけると大変ありがたいのですが・・・.

お答えします:

ご質問の命題の証明には,X が T_1空間であることを仮定する必要があるように思います. その仮定の下で,ご質問の命題は,次の命題から導かれます.

命題: 可算 extent をもつ T_1空間 X の任意の局所有限開被覆 U の濃度は高々可算である.

証明: 局所有限開被覆 U の空でない各要素 V から点 p(V) を1つずつとることにより,写像
p : U ---> X
が定義できる. U が局所有限であることから,次の (1), (2) が成り立つ.

(1) p は finite-to-one 写像である.
(2) 集合 {p(V) : V ∈ U} は X の閉離散集合である(ここで,T_1が必要).

X は可算 extent をもつから,(2)より,集合 {p(V) : V ∈ U} の濃度は高々可算.
このとき,(1)より,U の濃度も高々可算である.

T_1空間でなくても成立するかどうかはすぐには分かりませんが, 否定的なように感じます.
取り急ぎ,お返事まで.


W.O.さんからの質問 #01193

『はじめての集合と位相』第 3 章,演習問題 4 と 11 について教えて下さい.

春休みに先生の著書『はじめての集合と位相』を購入しました. 第 3 章の演習問題 4 と 11 がわからないので,教えて下さい.

お答えします:

演習問題 4 について:
以下,空集合を Φ で表します.対偶 

(*) A ∩ B ≠ Φ <==> (A x B) ∩ Δ ≠ Φ

を示すのがよいと思います.

(=>) A ∩ B ≠ 0 ならば,要素 x ∈ A ∩ B が存在する.
このとき,(x, x) ∈ A x B かつ (x, x) ∈ Δ.
ゆえに,(A x B) ∩ Δ ≠ Φ.
(<=) (A x B) ∩ Δ ≠ Φ ならば,要素 (x, y) ∈ (A x B) ∩ Δ が存在する.
このとき,(x, y) ∈ (A x B) だから,x ∈ A かつ y ∈ B.
また,(x, y) ∈ Δ だから,x = y.
ゆえに,A ∩ B ≠ Φ.
以上により,(*) が示された.

演習問題 11 について:
解答を与えますので,理由を考えて下さい.
(1) 単射であるが全射でない.
(2) 全射であるが単射でない.
(3) 全単射である.
(4) 全射でも単射でもない.

演習書 『解いてみよう位相空間・改訂版』の問題 3.14 が参考になるのではないでしょうか.
W.O.さんの勉強が進むことを祈っています.


M.O.さんからの質問 #01192

距離空間の完備化と有理数体の完備化,どちらが先に生まれたのですか?

距離空間の完備化は有理数体 Q の完備化をヒントにして生まれたのですか? それとも距離空間の完備化が先に開発されて,それを使って有理数体 Q の完備化をしているのですか?

お答えします:

答えは前者だと思います.
有理数体 Q から(いわゆる Q の完備化によって)実数を構成する方法は, Dedekind の 1872 の論文に書かれています. したがって,そのアイデアはそれ以前に生まれたものだと考えられます. 一方,距離空間と完備距離空間の概念は Frechet の 1904 の論文で初めて定義されました. また,距離空間の完備化は Hausdorff の 1914 の論文で発表されました.
未発表のアイデアについては分からないのですが, 歴史的な事実のみ記しました. お答えになったでしょうか.お役にたてば幸いです.


H.S.さんからの質問 #01191

Hausdorff 空間からの既約な開写像は位相同型写像ですか.

お忙しいところ大変恐縮ですが,わからないことがあります.
ハウスドルフ空間からの既約な開写像は同相写像ですか?
ここで既約な写像とは,定義域の任意の真部分閉集合の像が終域の真部分集合であるような 全射連続写像を意味します.

お答えします:

ハウスドルフ空間 X で定義された既約な開写像 f: X ---> Y は同相写像です.

なぜなら,f が単射であることを示せば十分であるが,
もし f が単射でないならば, X の異なる2点 x と y で f(x) = f(y) であるものが存在する.
X はハウスドルフだから,x の開近傍 U と y の開近傍 V で,互いに交わらないものが存在する.
このとき,f は開写像だから,f(U) は点 f(x) = f(y) の開近傍.
いま f は点 y で連続だから,y の開近傍 W で,f(W) ⊆ f(U) を満たすものが存在する.
ここで,W は W ⊆ V を満たすようにとれるから,W と U は交わらないと仮定してよい.
このとき,X - W は X の真部分閉集合であるが,f(X - W) = Y.
これは f が既約であることに矛盾する.

以上,いかがでしょうか.


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