ぶ ど う の 癌 腫 病 

2011年 6月 3日 .

前書き

 果樹産地を巡回すると、幹の地上付近の接ぎ木の部分に癌腫が発生する症状を良く見かけます。果樹農家の間ではクランクオール(私の耳にはそのように聞こえますが・・・正確にはクラウンゴールだと思います)ができてしまったといっています。このクラウンゴールは、樹そのものの根元がコルク状になったり、更に悪化すると腐敗してしまう病気です。進行しますと樹が枯れ死してしまい、改植しなければなりません。そのようなことで現場では大変恐れられている病気です。また、この症状はバラにも多く見受けられ、更には、トマト・キュウリなどの果菜類に於いても“根こぶ”として多く見受けられます。

ぶどう栽培では、この病気には有効な対策がないまま今日に至っているのが現状ですが、つい最近(2011年3月)の報道紙によりますと、 この病気に細菌を使った生物農薬で拮抗防御してしまう。そのような技術を完成させる計画だそうです。 ブドウ農家にとっては夢のような技術ですが、それでは、このクラウンゴールはどのようなメカニズムで発生するのか? そのような事を学んでみたいと思います。

まずは状況の写真から・・・


  T・Sim.農園

  写真−1                  撮影:’10.12.10
癌腫病の初期(巨峰)
  写真−2                  撮影:’10.12.10
癌腫病の中期(巨峰)
継ぎ木のすぐ上の部分が少し膨れて来ています。 同左写真を近づいて見ました。

  写真−3                 撮影:’10.12.10
癌腫病(巨峰)
  写真−4                  撮影:’10.12.10
癌腫病(巨峰)
継ぎ木の部分は“コブ”が発生しています。組織は完全に養分を吸われた状態で“カスカス”の状態です。 コブの組織部分はポロポロと簡単に剥がす事が出来ます。髄の部分だけが残りました。


  M・Yos.農園

  写真−5                  撮影:’10.12.10
巨峰
  写真−6                  撮影:’10.08.03
巨峰
この農家でも同じ状態です。 癌腫が出来ています。


  M・Kaz.農園

  写真−7                  撮影:’08.09.14
巨峰
  写真−8                  撮影:’08.09.14
巨峰
この農家は成木です。栄養状態が悪い園地ですが、疲れた状態の樹です。樹皮の部分に生き生きした感じがありません。 地上部の生え際は腐敗して、手で揺らすとグラグラします。根が張っていません。しかし、癌腫は出来ていません。

  写真−9                  撮影:’09.11.23
正常な株元(巨峰)
  写真−10                 撮影:’09.11.23
正常な株元(巨峰)
この写真は上の写真−7・8にたっぷりと養分を含ませた土を盛りました。勿論、圃場にもたっぷりと施肥しています。 樹が見違えるように生き生きしています。これが同じ樹???と言う感じです。 左写真と同じ圃場です。このように園地の土壌改良をすれば、全く樹の姿が変わりました。その他に分ったことは、 この写真はありませんが、盛った土を除いて良く見てみると腐敗して傷んだ根際の所から“ひげ根”が出ていました。

  N・Kik.農園 & M・Huj.農園

  写真−11                 撮影:’09.11.26
正常な継ぎ木の部分(甲斐乙女)
  写真−12                 撮影:’10.06.06
正常な継ぎ木の部分(巨峰)
5年生くらいの樹です。継ぎ木の部分もきれいに形成されています。 この農家も問題ありません。気になるのは、折角、根が張るような台木を選定しているにもかかわらず、 継ぎ木をした部分が紐で絞られたように括(くび)れています。 時々、このような状態の樹を見受けますが、これでは養分が通り難くならないのでしょうか?


 以上見たようなこれらの癌腫は細菌が傷口から侵入する事により、根や地上部に“こぶ状”の組織を形成する。 この病気に感染すれば作物は生育不良や枯れ死する事になり、農家の間では大変厄介な病気とされています。それでは、何が原因でそして病気が発生し、そのメカニズムはどのような経過をたどっていくのか? 植物生理学的に説明をします。

植物の外敵防御

植物は本来、土に根を支えられている以上、常に土壌に生息している菌類と共生せねばならず、その外敵となり得る菌類からの感染を防ごうとしている。 そこで、植物はある能力を備える。例えば、ワサビ・生姜の辛み成分、野生生物の薬用成分、桜(桜餅)や笹(ちまき)などのように食品を長持ちさせるような薬用成分などが、その能力である。

その他、物理的な防御法として、細胞の外側にある外壁層(クチクラ層)、つまり外側の固い細胞の部分を有する。 また、桃の果実や大葉・ブドウの葉のように表面を毛で覆っている物もある。更には、細菌に外壁を突破された時、その部分が分解したり解毒化して、 防御している。考え方によっては、この癌腫はこのような外敵(細菌)に対する“激しい抵抗の跡”と推理する事も出来る。

外敵侵入と癌腫発生

それでは、細菌は細胞膜の中にどうやって入り込むのか??、まず、@として組織壁を分解し、菌糸を送り込む。(糸状菌の場合など) A管を通して毒素を送り込む。(細菌の場合)B傷口から入り込んだり、虫が媒体となってその口器を通して細菌を送り込む(ウィルスの場合)。 そして、最後にCアグロバクテリウム(根頭ガン腫病菌)<wikipedia>遺伝因子<wikipedia>を送り込む。 つまり、傷口や細胞膜の弱いところから自分の持っている遺伝子の一部を核の中に送り込み、そこで異常分裂し増殖する。 このC項のとき、激しく防御しようとしてクラウンゴールを形成する。

クラウンゴールの形成過程
クラウンゴールの形成過程
< 放送大学講義資料から>    .
腫瘍を形成するのに必須の遺伝因子(TIプラスミド<TI plasmid>)を持ったアグロバテリウムが植物体の傷口から侵入すると、 その傷口から分泌されるフェノール性のアセトシリゴンと反応して、TIプラスミドにあるVLR領域の遺伝子を活性化する。 VLR領域の遺伝子に活性化されたT−DNAは植物細胞に入り込み、その核の中で増殖する。 T−DNAにはオーキシンやサイトカイニンを合成する植物ホルモンが含まれているので、 その核ではオーキシン・サイトカイニンが異常増殖する事となる。これが腫瘍化の始まりである。
   注)オーキシン・サイトカイニン・・・細胞の分裂を促進するホルモン


  癌腫

  写真−13                 撮影:’11.06.02
植木の癌腫
  写真−14                 撮影:’11.06.06
植木の癌腫
 癌腫形成の樹です。  横に切断します。

  写真−15                 撮影:’11.06.02
植木の癌腫(縦断面)
  写真−16                 撮影:’11.06.06
植木の癌腫(横断面)
 癌腫の内部(縦断面)。  癌腫の内部(横断面)。


反面、この応用利点として、クラウンゴールの利用がある。 クラウンゴールは自分が持っている性質上、独占的な遺伝子を植物の中に埋め込む事ができる。 そのような特異な性質を利用して、自分だけが使えるようなものを植物に作らせる事ができる。病害抵抗性植物はそのような性質を利用したものである。

以上は研究室からの論文である。


 さて、以上のように癌腫という病気の原因は、このようにかなり詳しく解明されている。 また、それだけでなくクラウンゴールの応用技術をも行えるような技術水準まで来ている。 一方で農家は、ブドウに限らず園芸作物では接ぎ木という手段で、より根張りの良い樹木を作ろうとしている。 そうする事によって、耐病性が増すのと同時に収穫量も多くする事が出来る。ところがここで問題なのは、 この癌腫の元となる菌は傷口を目掛けて侵入して来ると言う事である。

つまり、農業ではこの相反する二つの事実が重なるのである。それは、接ぎ木と言う技術の元に幹に傷を付けてしまうと言う事実。 そして、癌腫の出来やすい環境を作っていると言う事実である。それなら、その解決手段として、そこに癌腫を回避する技術を確立させるべきである。 私はブドウだけではなく、色々な作物の栽培の実際を多く見て来た経験から、この事を現場からの目でも考察してみた。

実際の栽培現場では、クラウンゴールの発生が多い圃場、発生していない圃場、 発生している圃場でも発生の無い場所や発生している場所がある。実際に数多くの栽培現場を見て廻って、 様々なケースで考えて見た場合、幾多の栽培圃場でも作物が植わっている幹周辺の土壌を対比しながら推察してみれば、 そこでは“これは病気だ”と一概に決め付けてはいけないと言う事も理解ができた。

その理由は、発生している樹木には共通の発生要件があるようである。その要件とは、

クラウンゴールの発生圃場の状況(果樹)
<発生圃場の状況に見る問題点> <問題の原因推定>
<留意点>
<対策>
@ 2〜3年生で、且つ、接ぎ木である。 接ぎ木の部分に集中して発生し、その部分は未完成。
・果樹の接合部分の組織修復には思ったより時間がかかる。この間は樹木に負荷(負担)をかけないようにする。
・新植をするまでに徹底的な土作りをする。
A @のような樹に房を多く着けた。 果実は養分を優先的に吸収する。(子孫優先生長)
・導管や師管(栄養の行き来する道)が完全でないのに負荷を掛ければ慢性的な養分不足となり樹木は弱る。(詳しくは後述)
・新植の際、2〜3年間は房を着けず樹木作りに専念する。
B 土作りが上手く出来ていない。 慢性的な養分不足。
・特に、石灰とホウ素欠乏による影響は大。
・石灰欠乏はひ弱な樹になり、成長度も鈍る。土壌分析(簡易分析は不適)を行い、養分の適量とバランスを保つ。
C 有機物の絶対量が少ない。 保肥・保水・保気力・緩衝性を増大させる。
・土壌菌で根を活性化させるのに有機物は絶対必要。菌活性の為の空気供給。
・果樹園は一旦、植樹したら掘り返す事はできないので、新植前にしっかり投入しておく。 少なくとも50cm深。 (注)
D 潅水の絶対量の不足 土壌深く水が浸み込んでいない。
・潅水をたっぷりする事で肥料分を溶かし、土壌に多量の空気を送り込む。
・圃場全体に斑なく、且つ均等に掛かる様にする。出来るなら葉にも掛かるよう頭上の方が良い。
E 潅水方法。(pH調整) 用水路の水が7.0以上を示している。夏場の渇水期には更に上昇する。
・潅水は弱酸性水を使用しないと微量要素が効かなくなり、植物代謝がうまく行われなず、病気がちになる。
・pH調整剤(硫酸か硝酸)で、そのpHを6.2前後に必ず調整して散水する。
F 水はけが悪い。 有機物が少ないため土壌が絞まっている。SSで土を踏み固めている。
・排水が悪いと、根の酸素不足を来し根腐れを起こす。暗渠が不備なところは、明渠を施す。
・特に、梅雨時期には根圏の酸欠を来し、根腐れが原因のベト病など病気が多発する。
G pHの高い水が圃場に流入している。 用水路のジョイント部や破損部から圃場に侵入。
・用水路を構成している水路(U字溝など)のセメントが影響しているのか、それとも河川水が本質的に高いのか?
・用水路をチェックして修復する。新しい用水路はセメントの成分が溶出し、pHが高くなるから、特に注意。


 『果樹園を始める時のポイント』
新しい果樹園作りを始める様子を数多く見て来て強く思うのは、園地にはいきなり植樹をせず、 初年度は園地を遊ばせるつもりで土作りに専念した方が良い。大事な事は、果樹園の場合は、一度植樹をしてしまうとその深い部分の耕起は中々する事が出来ない。 そこで、最初に十分な量の堆肥を厚く(少なくとも50cm以上)漉き込み、何度も耕起して、その堆肥を熟成させる。 このことは、結果的に植樹が1年遅れてしまう事になるが、地力が付けば3年目からの収量は大幅に多くなり、結果的には得策となる筈である。 良い果樹園とは水はけの良い、且つ適度の水持ちのする圃場である。このような圃場は酸素の供給量も多く、 根や土壌微生物の活性化に対しても良い結果が得られ、病気も少なくなるのは、当然のことである。


果菜類(トマト)の場合

次の写真はクラウンゴールと類似した病気、つまり“根こぶ”の写真である。

  写真−17                 撮影:’78. 7.16
トマトの根こぶ
  写真−18                 撮影日:’  不明
苦瓜の根の部分
トマトの根の部分。の部分でクラウンオール、つまり“根こぶ”が発生している。 この農家の苦瓜も写真では判別し難いが、根こぶらしき形跡が見える(印)。 何れにしろ、根こぶが“出来ている”“出来ていない”の前に土作りが出来ていない。これでは栽培の呈を成さない。 特に、B欠乏が酷い。

上の2枚の写真は土作りが上手く出来ていないために重要な細根が無く、成長に合致するだけの養分が成長部に 供給出来ていないのではないか、と言う疑問が残る。養分が不足すると、次の写真のような症状も発生する。

  写真−19                 撮影:’11. 3. 1
トマトの根際部
  写真−20                 撮影:’11. 3. 1
トマトの根際部
トマトの根から茎に至る部分。この接ぎ木上部の“ブツブツ”の木肌は一種のクラウンゴールではないかと考えられる。 接ぎ木のラインより下の部分は注−1)絨毛<ジュウモウ>も発育し、至極く正常な茎である。 別の株。このような症状が発生した株を至る所で見る事が出来る。この発生した箇所の写真は2枚共、 接ぎ木部のすぐ上の位置となっている。ライン下方は絨毛も見える正常な茎である。 また、この株の生長点の様子は写真−21、下葉の様子は写真−22である。
注−1) 英名 villus @【解】[小腸粘膜の]絨毛。細かい突起のような消化された栄養分の吸収を容易にする。
              A【植】長軟毛。植物はこの部分でも空気中の水分と一緒に栄養を吸収している。(杵島注記)


  写真−21                 撮影:’11. 3. 1
生長点
  写真−22                 撮影:’11. 3. 1
下葉の部分
トマトの生長点の部分。石灰欠乏が目立つが、生長そのものは良い。しかしながら、その下位部を見てみると・・・・(写真−22〜24のように・・・) 下葉の様子。亜鉛やマンガン、モリブデンと言った微量要素が欠乏している。


  

  写真−23                 撮影:’11. 1.20
トマトのつる割れ
  写真−24                 撮影:’11. 2. 5
トマトのつる割れ
これは“ツル割れ”(ホウ素欠乏)の症状。 他の株でも同様の症状。割れ口がパックリと開いている。


上の写真(19〜24)の6枚を見て考察すると・・・
まず、その圃場の土壌の養分値が下の分析表である。また、その採取は’11年1月5日。 つまり、上の写真は分析土の採取から、2か月後の写真(23・24)と3か月後の写真(19〜22)である。

  写真−19〜22                                                        分析者:中隈水質土壌分析室
単位mg / 乾土100g ( ≒ Kg / 10a )
分 析 日
肥料投入量
酸度
(PH:Kcl)
アンモニア
(NH4-N)
硝酸
(NO3-N)
全リン酸
(P25
加里
(K2O)
石灰
(CaO)
苦土
(MgO)
可給態鉄
(Fe)
追 肥
標準値 6.0〜6.2 2〜3 30 50 50 320 30 2.7  
’11. 1.11 5.5 0.6 30.0 170.0 66.2 332.9 43.1 1.2 CL:6.8
130 Kg
 20 g/月
           68.9  
2.7
炭酸石灰
微量要素
修正値   0.6 30.0 170.0 66.2 401.8 43.1 3.9 6.8
腐植・・・微
炭酸石灰240Kg追肥の事。

と言う事だが・・・・、
忙し過ぎて施肥出来ていないと言うので、結果的には土の手入れを放置した為、2月・3月は大変荒れた状態だと言う事だった。 この日の時点(土壌採取は元旦開け)での分析値は適度に良い状態だが、これでは一ヶ月先などの養分量を期待する事は出来ない。目に見えて、状態は悪くなったと思われる。


  写真−23・24                                                        分析者:中隈水質土壌分析室
単位mg / 乾土100g ( ≒ Kg / 10a )
分 析 日
肥料投入量
酸度
(PH:Kcl)
アンモニア
(NH4-N)
硝酸
(NO3-N)
全リン酸
(P25
加里
(K2O)
石灰
(CaO)
苦土
(MgO)
可給態鉄
(Fe)
追 肥
標準値 6.0〜6.2 2〜3 30 50 50 320 30 2.7  
’11. 1.11 5.1 1.0 25.0 90.0 48.1 277.0 36.4 2.0 CL:3.1
240 Kg
 20 g/月
          127.2  
2.7
炭酸石灰
微量要素
修正値   1.0 25.0 90.0 48.1 404.2 36.4 4.7 3.1
腐植・・・少
炭酸石灰130Kg追肥の事。

此処でも、施肥出来ていないと言う事だが、特に石灰量が全く足りない。結果、写真のような状態となっている。
写真19〜22と比較して、この圃場の方が石灰が少ない分だけ、症状が酷い。



さて、ここで両者(ブドウ癌腫病とトマトの病気)を比較対比しながら考えて見よう、共通した事柄がある。 それは“癌腫だ!”と決めつけず、その樹や果実が成長するに連れ、それに見合うだけの養分の供給が出来ていないのではないか、と言う絶対的な疑問を抱くべきである。

まず、ブドウ癌腫が発生している部位は接ぎ木をした、すぐ真上の部分である。 その進行過程は接ぎ木をした部位から徐々に上に向かって病んで行く訳だが、他方、トマトの症状では・・・、これも同じように、 接ぎ木から上の部分となっている。あたかも、下葉が枯れ上がって行く様にである。 ブドウにしろ、トマトにしろ、この異常な症状はこの部位だけに集中している。何故か・・・??

その上、樹に負担を掛けずに栽培(摘果をする)したり、生育のスピードを落として栽培すると、この症状は激減する。 この接ぎ木の部位の境界線は何か意味があるのではないか?この部位に集中した症状は、 私たちにそのようなシグナルを送っているように見えないだろうか?河川でもダムや堰を作れば流れる水の量は少なくなる。 下流では様々な問題点も発生する。では、接ぎ木では・・・?

接ぎ木の部分でも、それが完全に修復されるまでには時間がかかる。つまり、導管や師管が完全に接合されていない状態で、 養分を一番必要とする果実を多く着けるなどしたら、その過負荷は最大となり、その成長に必要な養分は全く不足する。 そこで、果実のような生長部は茎の部分の養分をも猛烈な勢いで奪い、その為に茎の部分の最下部の組織から破壊されて行く。 このような過程で不具合が起こるのではないかと言う推察である。

例えば、私は農家の皆さんに話をする時、妊婦のお母さんを良く例に出します。このような、 赤子をお腹に抱えたお母さんは一日に何度も食事が欲しくなります。これはお腹の赤子がどんどん養分を要求している訳です。 昔は、子供が5人も6人もの家族は普通でした。また、その当時はカルシウムを多く摂取できる牛乳も肉もバターも少なく、高価で買えませんでしたから、 この時代のお母さんは、歯が抜けたり体調が悪かったり、年が行くと腰が曲がったりしたお母さんが多くいらっしゃいました。 この歯が抜けたり、腰が曲がったりした症状は自分のカルシウム分を赤子に吸収された結果の症状だったのです。

一般に、農家は果樹だったら果樹ばっかりを栽培するので、野菜の事は見えない場合が多い。 処が、私たちはリンゴ・ブドウ・桃・梨のような果樹から、トマト・きゅうり・イチゴ・キャベツなどの果菜や葉菜まで見て廻る。 その場合、ある作物では症状がはっきり表れる作物と潜在的にしか表れない作物とがあり、普通だったら、何となく通り過ぎてしまうのに、 このようにいろいろ見て廻ると、“アレッ!!”と立ち止まって観察し、色んな事を思いめぐらす。 すると、そのような時このような色々な事例を比較する事で、ほんのりとその答えが見えてくる事がある。

研究者の方々にも同じような事が言えるのではないか?人の病気でも、その道の専門医にかかって検査や治療していたら、 どうしてもその医師の専門的な分野の思考になってしまいがちである。しかし実は、その根本原因は他にあったと言うような話も結構耳にする。 結局、このような例は専門音痴になっているのではないか、と言う事である。物事を決め付けず、つまり、ミクロとマクロの目で見ようと言うのが、この提議の私の本旨である。

このぶどうの癌腫(写真−1〜6)とバラなどにも見られる癌腫の症状 (これは写真−13〜16に見られる症状の方に類似している)とを比較すると、 この2つの症状は、私には違うように見える。写真−13〜16に見られる植木の癌腫は木質部の組織がしっかりと残っている(講義資料によるバラ癌腫の写真はこちらの部類に見える)一方、ブドウの写真では木質部の組織は破壊してしまっており、完全な鬆(“ス”と読みます)の状態(報道紙の写真はこの写真に酷似している)で、手で樹皮を剥がすと簡単に髄の部分だけとなる。 ぶどうの症状は明らかにトマトの状態に類似している。つまり、この原因は養分の生長点移動に伴う不具合の可能性の方が強い、と言う疑問を抱いている。

この症状を更に多くの例を調査する必要があると考えるものの結論的には、この症状は栄養状態の悪化、つまり要素欠乏が主な原因であり、 癌腫は2次的に不具合を来したものに対しての激しい抵抗であり、修復跡ではないか。逆に言うと、傷口を作った場合にはこのような癌腫が発生しやすいので、 その発生を最小限にするにはもっと生育に適した栄養状態にしなくてはならないのではないか。私はこのように考えている。

さて、皆さんはこの提議をどう考えられますでしょうか??


参考資料:                     .
植物の生理 ’04  <放送大学講義資料>     .
農学大辞典 1977年訂正追補版  <養賢堂>


 = 完 = 




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