“ 土 作 り と 栽 培 ” 講 座 

《 作物の生育環境に適した土作り 》
やらねばならぬ事、やってはいけない事
更新日:2022年 7月30日 (■印)   .

INDEX
T.前書き.
U.まとめ表.
V.解説
 1)土壌.
 2)有機物(堆肥).
 3)定植.
 4)マルチング.
 5)灌水.
 6)用水の調整.
 7)肥料(窒素).
 8) 〃 (燐酸).
 9) 〃 (加里).
10) 〃 (石灰).
11) 〃 (苦土).
12)微量要素.
13)栽培環境.
14)全体的な管理.


T. 前書き

 このページは2007年3月24日、豊穣会の設立総会の時、貴重な時間を頂戴して講演をしたときの内容であります。当日、時間がまったく足りず、説明が途中で終わってしまいました。 その不足した部分や項目を調べ直し、ここに追加・整理・加筆して書したものです。日頃の農作業に役立て戴ければ幸いに存じます。

 全国各地を巡回しながら、農家の人たちと植物栽培に関して語り合う機会が多いのですが、その際、皆さんは病気が止まらないとか、生産物が希望する価格で売れないなどという営農的な悩みを相当お持ちであるということも良く理解ができました。そして、感じたことは、その営農活動のなかでの最大の問題点は、今まで知識として学んできたことや教わったことに多くの誤った認識があるということでした。そこで、今回はその対話の中で私が感じ取ったことを纏めて見ました。

 さて、栽培の基本的な考え方は各地の地理的・気象的な環境条件などによっても大きく違うような気がします。つまり、地理的な条件で言えば、いま営農を行っている圃場の位置関係のことです。日本の地殻は石灰岩が多いようです、また塩分が出湧する地区もあります。そのような事実の把握ができていないのではないかということがあります。特に、皆さんは塩分については問題意識を持っていますが、石灰岩層などということになると全く重要視されてないと思います。

 処が、このことは河川の水や井戸水を利用して農作業を行っていく訳ですから、毎回の潅水に関わって来ます。強いては、作柄の出来・不出来を左右する重要な要件となるはずです。先ずは、このような基本的な事柄から認識しておく必要があります。

 例えば、佐賀県で分かったことは、特産のいちごの“さがほのか”に病気が多く農家は大変困っているという情報がありました。現地に行って周りの環境を調査した処、佐賀県の南部地区つまり有明海沿岸側は太古の時代はその殆どが海であり、現在の広大なその地区の農地は干拓地であります。農家はそのような地で営農をしている訳です。そして、そこにはクリークという灌漑用水路があり、現状はその水路水を利用して営農をしています。

 また、その水路の水は市内を流れる一級河川の嘉瀬川が流れ込んで水源となっているのですが、困ったことに、その嘉瀬川を流れる水のpHが7.2(H2O)という数値であります。さらに、安定した用水を確保するために井戸を持った農家もあります。ところが、この井戸水でさえpHが7.2とか7.4と言うような数値が現状であり、中には塩水が出るような場所もあったり、塩水が出るのでは、これでは削井しても使えないといった話もあります。

 或る苺農家に行くと、圃場の横の用水路(クリーク)から取水している水のPHが9.4もあるというのです。びっくりして、詳しく調べて見ました。話を聞けば、クリークの法面の護岸を強化するのに消石灰を使って固めていて、そのすぐ傍の部分から取水していました。その原因は消石灰が溶けたアルカリ分が影響しているのではないかと原因を推測している訳です。このように現地で色々な話を聞いて見ると、その土地の条件によってその苦悩があるわけで、その現状を分析して見るとその解決方法も見出せるものと思います。

 そのようなことが判明した現在では、そのように水のpHが高い状況(塩水は使用できないが)に対しての処方は、その用水のpHを6.0まで下げて使用するという方法でアルカリ障害を回避し、うどん粉病や萎黄病といった病魔からの苦難を取り除いています。それでは、そのような病気を取除くのに何故このように手間を掛けて用水のpHを調整しなければならないのか?このようなことを初めてお聞きの方は疑問を抱かれる事と思います。そのようなことの裏付けなどを含めて、ここでは解説したいと思います。


U. まとめ表
 表−@
項目 関連事項
掲載ページ
やるべき事 やってはいけない事
又は、好ましくない事
特   記
1 土 壌 (2)
(14)
<大原則>
  • 土壌とは元々岩石が風化した電子を持たない無機物である。
  • 土壌は常に根を支えているだけ
      (生育は肥料の養分で管理をする)
  • 水はけの良い圃場作り
  • 暗渠設備の導入
  • 水はけ具合は畝の高低で調整
  • 土壌が硬くならない資材を使用
      (例えば、×消石灰)
  • 水はけが良い土壌は根に多くの酸素を供給できる
  • 2 有機物 (13)
    (14)
    (15)
    (16)
    (17)
  • 有機物投入は必須
  • 乾物重量3トン、湿物は6トン/10a
  • 完熟物を使用し出来るだけ深耕
  • 乾燥物と完熟物は別物、要確認!!
  • <未発酵の堆肥>⇒使用不可!!
  • 匂いがする
  • カビが生えている
  • キノコが立つ物

  • <外材を使用したバーク堆肥>
  • 塩(NaCl)害の危険性がある
  • 有機物は硝酸化成を早める
  • アンモニア態窒素を硝酸態窒素へ
      (土が安定する)
  • 輸入外材の貯木場は港湾が多い
      (NaClを含有)
  • 3 苗と定植 (49)
  • 苗には深い緑色で艶があり、しっかりした太い茎で作る(良い苗は活着も早い)
  • 有機物を含んだ、土つくりのできた圃場に植える
  • 定植後の灌水には必ずクエン酸を用いて活着を早める
  • 定植したら直ぐにクエン酸水をかける(植え付けながらかけていくと植え傷みが少なくなる)
  • 弱々しく色のあせた苗(出来るなら種の段階でも選抜したい)
  • 花芽が早いなどの理由で養分を与えなのは間違い!!
  • 未発酵堆肥は使用厳禁!!
  • 昔からいう“苗半作、本圃半作”の本当の意味⇒初期栄養不良の作物は奇形が多い
  • 定植用クエン酸水の作り方 ⇒ 食物添加用クエン酸500g/水1000g
  • 正確な土壌分析をして、不足している養分だけを与える
  • 多収量は最良の苗と土作りの出来た圃場から
  • 4 マルチング
  • 黒、またはシルバーの遮光ネットを採用(98%カット)
  • 透明の(廃も含め)農ビ・農ポリは雑草の原因になる
  • 特に、農業用ビニール(農ビ)にはそこに含まれる可塑剤(良く伸びるようにする材料=重金属を含む)が溶出し、生育阻害の恐れ
  • 雑草対策を第一に考える
  • 地温を保つ為などと考えない
  • 農ビ・農ポリのマルチでは灌水の邪魔
  • 5 灌 水
  • 畝から通路に溢れるようにかける
  • 溶液の点滴灌水は不可、水なら可

  • <配管の設置>
  • 配管方法⇒均等散水の“ループ配管”
  • 配管は遮光ネットの上に置く
  • マルチの内側にチューブを置く
    ⇒マルチを持上げる⇒散水が広がる
    ⇒根が広がる
  • 糖度を上げるため、水を与えないなど考えない(生育不良と不良率増加)

  • <灌水チューブ(パイプ)敷設の注意点>
  • 点滴仕様は使わない
  • 少水量の物は使わない
  • 根元だけに集中してかけない
    (ポリマルチの上にチューブを置いてはいけない⇒株元が濃度障害になる)
  • 水と炭酸ガスで糖を作り、その糖で活性をしている⇒光合成の理論に沿った栽培
  • 点滴では同じところに集中して液肥がかかる⇒浸透圧増⇒濃度障害
  • 6 用水調整 (9)
    (33)
    (43)
    (45)
    <潅水に使う用水>
  • 必ずpH5.5 〜 6.5の範囲に調整
  • 葉面散布では調整しない
  • 5.5以下では石灰欠乏
  • 7.0以上ではアルカリ障害が多発
  • 至適pHで酵素の活性化
  • 至適pHで肥料の溶解度を高める
  • コンクリート製品ではアルカリ分が溶出し、pHを押し上げる⇒根を傷める(U字溝・タンク・防護壁・基礎石・護岸石などセメントを使ったもの⇒新設の場合は特に気をつける)
  • 7 肥 料
    (窒素)
    (13)
    (15)
  • 硝酸態窒素を主体に使う。
  • (果菜類の殆んどは好硝酸性窒素作物)
  • アンモニア・尿素は使わない。

  •  (アンモニア害が多発する)
    窒素還元
  • 蛋白質は健康体を作る
  • アミノ酸は美味しさの源となる
  • 8 肥 料
    (燐酸)
  • 燐酸を入れると・・・
    1.味が良くなる
    2.花では色が良くなる
    という誤った認識。
  • 左記の理由で燐酸を多く用いる⇒リン酸過剰⇒燐酸の過剰は他の金属と結合して難溶の金属となる
  • 配合肥料を用いる⇒次第に過剰になる
  •  ADP ⇔ ATP
  • エネルギーはPの出入りで発生する
  • 光合成のエネルギー源となる
  • 9 肥 料
    (加里)
  • 塩化加里
  • 硝酸加里
  • 硫酸加里
  •  の使い分け
  • 吸った養分を送る為の水分調整
  • Naの害を緩和
    カリウムポンプ=Kを体外から取入れる
    ナトリウムポンプ=Naを体外に排出
  •  <膨圧>
  • 効率的光合成できるよう直立させる
  •   〃  〃   葉の角度を保つ
  • 気孔の開閉をする力
  • 10 肥 料
    (石灰)
    (4)
    (27)
    (29)
    (30)
  • 硝酸石灰
     NO3:11.8%
     CaO:23.6%
  • 炭酸石灰
     CaO:53.0%
  • 炭酸苦土石灰
     CaO:53.0%
     MgO:5〜15%
  • 塩化石灰
     CaO:38.3%
  • 過燐酸石灰
     P2O5:16.5〜19.0%
     CaO:28.0%
  •  などを目的に応じて使い分ける
    ×消石灰
    (高いpHと圃場の固化)
    ×生石灰
    (高pH、熱を発する)
    △硫酸石灰
    (石膏=難溶。水を含むと固くなる。ギブス・ブロンズ像を作る時に使う)
    △有機石灰(難溶)
  • ペクチンと反応し果肉の基となる中層を形成する⇒果がしっかりして重たくなる

  • * 有機石灰とは、
    牡蠣・貝殻(炭酸石灰分)
    価格:2.000〜3,000/20kg
    * 炭酸石灰とは、
    古代の貝殻・サンゴの化石
    価格:400〜500/20kg
    11 肥 料
    (苦土)
    (4)
  • 炭酸苦土石灰
  • 塩化マグネシウム
  • 硫酸マグネシウム
  •  の使い分け
    苦土を用いると、、、、
  • 味が良くなると言う理由で多肥する

  • 結果、、、、
    過剰土壌となり障害が発生
      ⇒ 脱塩に苦労(流亡しにくい)
  • 葉緑体の核となる葉緑素を作る
  • 炭水化物代謝や蛋白質の合成などの生理作用を促す酵素に深く関与
  • 12
    微量要素
    (5) (39)
    (37) (40)
    (38) (42)
  • 有機酸微量要素を使う
  • EDTAは使わない。
  •  (クエン酸回路が阻害される)
  • 酵素を活性化し植物代謝を良くする
  • 品質の向上
  • 13
    栽培環境
    (2)  <湿度>
  • 栽培環境は湿度80%以上を保つ
  •  <風速>
  • 風速0.2〜1.5m/s
     (光合成速度が上昇)
  •  <光条件>
  • 光飽和点までの光の量を確保する
  • 多すぎる光量は遮光し調整
     (葉緑体の光定位運動)

  • 過乾燥にしない
     (過乾燥では病気多発)
  • 植物に風を当てない
     (過乾燥の原因)

  • 光飽和点以上は生育を阻害⇒遮光

  • 湿度上昇は作物の最適温度を押上る
  • 適度の風速は光合成速度を速くする
  • 光量不足は節間が徒長し病弱となる
  • 葉緑体の光定位運動
     (クロロシスの発生⇒生理障害)
  • 14 全体的
    な管理
    (2)
  • 土壌分析で管理⇒標準値に修正
  • 要素欠乏にしない(相助効果)
  • 土壌pHはH2Oを採用する
  • 肥料を入れすぎない
  • 浸透圧に悪影響
  • 拮抗作用の懸念
  • トベネックの樽の法則を遵守
  • 養分バランスが重要⇒標準値にする
  • 無理に<石灰/苦土>比,<苦土/加里>比を合わせない⇒根の浸透圧を重視
  • V. 解説
    1)土壌NHK『高校講座』のページ |理科総合|〜生命が土を作り、土が生命をはぐくむ〜

    項目 関連事項
    掲載ページ
    やるべき事 やってはいけない事
    又は、好ましくない事
    特   記
    1 土 壌 (2)
    (14)
    <大原則>
  • 土壌とは元々岩石が風化した電子を持たない無機物である。
  • 土壌は常に根を支えているだけ
      (生育は肥料の養分で管理をする)
  • 水はけの良い圃場作り
  • 暗渠設備の導入
  • 水はけ具合は畝の高低で調整
  • 土壌が硬くならない資材を使用
      (例えば、×消石灰)
  • 水はけが良い土壌は根に多くの酸素を供給できる
  •  地球誕生時の地質は岩石と考えられている。その地質は、まだ電子のない砂の状態の無機物であったとされる。土壌とはそのような砂や石・岩が風化し、後ほど誕生する植物や動物などの生物の死骸が有機物となって含まれたものである。 勿論、その中には栄養分としての多量要素や微量要素などの肥料としての要素も含まれた。そこで、我々はこの土壌に栄養があるなどと考えるからこそ、間違いが生じるわけである。 我々は、ここでの土壌は“ただ単に植物の根を支えているだけ”と考えるべきである。

     つまり、土壌に含まれる有機物の栄養分は、植物が本当に良い状態で成長した場合には、ほんの一ヶ月の肥料分としても満たないのである。だから、常に良い状態を維持するためには都度養分を与えるようにすべきである。 また、圃場は常に水はけを良くしておく必要がある。水はけの良い土壌は根に酸素を多く供給できる状態にある。この酸素(O2)の働きは根圏微生物が必要とする酸素、根の新生に必要とする酸素、それと根の新生と生活のために必要とする酸素である。 特に、根圏微生物の必要とする酸素の割合が多い。場合によっては、この水はけを良くするために暗渠を敷設する必要もある。また、畝の高低についてもその圃場の水位などの特性を考慮しながら決定することが大事である。

     土壌を柔らかく作る場合、肥料として不適な資材がある。石灰分としての消石灰と生石灰である。消石灰は昔から漆喰を作るのに使われてきた。漆喰壁のその作り方は、消石灰とふ海苔と粘土に水を加えて、それを足で踏み混ぜてつくり、 それを壁剤として仕上げる。それが漆喰壁である。つまり、圃場で消石灰+わら(有機物)+土(粘土)を機械で混ぜて進んでいく。この作業を毎年繰り返した為、その圃場の地下50cm位の処には固い岩盤層が出来ていることが多い。 消石灰は単にpH調整とか、カルシウムの供給とかいう単純な考えではいけないのである。生石灰は、これに水を加えると激しく温度を発して消石灰となる。本来、農業用肥料としての消石灰は硫酸アンモニアと併用して使われてきた。 これは硫酸と石灰分が反応して硫酸石灰(石膏=これも水を含むと固くなる。その性質を利用してブロンズ像を作る時の型材に使われたり、ギブスなどに使われたりする。)が生成され、そこにアンモニアが残って窒素成分となるとしたものだが、 実際には上記の漆喰壁の状態になっているようだ。つまり、土壌が硬くなりつつあるということである。

     最後に、圃場は常に弱酸性になるよう土壌肥料の成分量は標準土壌にしておく必要がある。この項はこの最終項『14)全体的な管理』で解説する。


    2) 有機物(堆肥)

    項目 関連事項
    掲載ページ
    やるべき事 やってはいけない事
    又は、好ましくない事
    特   記
    2 有機物 (13)
    (14)
    (15)
    (16)
    (17)
  • 有機物投入は必須
  • 乾物重量3トン、湿物は6トン/10a
  • 完熟物を使用し出来るだけ深耕
  • 乾燥物と完熟物は別物、要確認!!
  • <未発酵の堆肥>⇒使用不可!!
  • 匂いがする
  • カビが生えている
  • キノコが立つ物
  • <外材を使用したバーク堆肥>

  • 塩(NaCl)害の危険性がある
  • 有機物は硝酸化成を早める
  • アンモニア態窒素を硝酸態窒素へ
      (土が安定する)
  • 輸入外材の貯木場は港湾がある
      (海水=NaClを含有)
  •   持久力のある土壌をつくろうと思えば有機物の投入は必須である。勿論、有機物の無い栽培方法も可能である。この場合、肥料を素早く溶かして効果を高める高額な工業薬品を糧として用いる必要がある。 例えば、窒素分ならアンモニア態は使えないことになるので硝酸態窒素を使わねばならない。石灰ならば即効性の硝酸カルシウムを使うことになる。然も、効果の早い速効性成分を使うだけに要素が欠乏するのも早い。 つまり、管理が大変となる。

     そこで、有機物の利用しながら安価な遅効性の固形肥料を使って栽培をするわけだが、 その利点は有機物を使うことで土壌中の硝酸化成菌が活性化して大繁殖し土壌中のアンモニア態窒素を硝酸態窒素に素早く変化させる。しかも、有機物がもたらす有機酸の効果をも期待できることになる。 この有機物の投入という作業は、植物にとっては害となる窒素分(アンモニア)を益となる窒素(硝酸)に変えてしまうという離れわざをいとも簡単にやってのける。 更に、この窒素の変化が土壌の酸度にも微妙に好影響を与えることになる。ここが『有機栽培』の肝の部分になっている。
     (注)賢い栽培法:安価な遅効性の固形肥料を使いながら、要所で即効性可溶性の肥料、つまり養液栽培に使う肥料を使う。

     アンモニア態窒素は土壌のpHを上昇させる。つまり、土壌はアルカリ側になると、その土壌は不安定になる。俗にいう“成り疲れ”とか“株疲れ”といった現象がその症状である。 逆に、硝酸態窒素は(−)の電子を含んでいるため土壌のpHを酸性側にしてくれる。このことが土壌を安定させてくれる最大の要因となるのである。 そして、その硝酸態窒素は植物体内に取り込まれ、そこで微量要素の力を借りた酵素が盛んに作用してアミノ酸や蛋白質に変化(還元)していく。ここが植物の代謝という植物栽培の根幹と成るところである。 この植物の代謝は窒素の働きの項の説明となるが、有機物はその最も重要な部分の入り口になるため、この有機物の投入という作業を無視するわけにはいかないのである。

     次に、それでは有機物なら何でも良いのか?と聞かれると、その答えは“NO!!”である。もし、この有機物に未熟な物を使った場合、必ず発酵最終工程期にカビが生え、悪臭が立ち込め、きのこが目立つ様になってくる。 このときアンモニアが猛烈に害を及ぼし始める。所謂、アンモニアの害となるのである。最近は木の皮のマルチなど行う農家が増加傾向にある。これは未熟・完熟といった農事の基本事柄を全く考えない一番悪い栽培法である。注意をすること。

     有機物の分解は炭素Cと窒素Nの比で表される。C/N比という用語で表わされるのがそれである。この比、C:Nは10:1に近づくほど分解は進んでいく。 従って、尿や糞(N)とおが屑(C)の混合物は早く(常温で約3ヶ月間位)分解し、バークなどの木の皮は分解が進まない。しかし、何れは土の中の窒素分と反応してアンモニアの害を及ぼす事となる。 この事実を、バークを使用している農家に尋ねると、その殆どの人は“きのこは立たない”という。しかし、その現実はその発生の時期が遅い為、多分その現象に気がついていないのではないかと推察できる。何故なら、生命を絶たれた生物は必ずカビ(菌)が宿り、分解されて土に帰るからである。これが自然の摂理なのである。下の写真の@・Aは臭いがする有機物を追肥とした圃場と、B・Cは追肥していない圃場。同一農家の2箇所の圃場の写真である。

    写真−@ トマト(撮影日:’08年02月03日)
    未発酵堆肥を追肥
    写真−A トマト(撮影日:’08年02月03日)
    アンモニアの害
    臭いがする有機物を追肥しました。1週間後の写真です。カビが生えています。
    このように影響を受け易い生長部に害が認められます。アンモニアの害です。

    写真−B トマト(撮影日:’08年02月03日)
    未発酵堆肥を入れてない
    写真−C トマト(撮影日:’08年02月03日)
    無害のトマト
    この圃場には有機物を入れていません。
    この様に石灰欠乏が少し目立ちますが、害は出ていません。

    写真−D 生姜(撮影日:’09年03月22日)
    未発酵堆肥を使った為、きのこが発生
    写真−E 生姜(撮影日:’09年03月22日)
    ハウス生姜のアンモニアの害
    肥料屋さんに薦められるまま堆肥を使いました。“毎年、このようなキノコが発生します”とのことでした。使ったこの堆肥は未熟でした。
      このように成長点に近いところで障害が出ています。毎年このような状態に成るから、これが正常だと思っていたということでした。

    私はピートモス(pH調整していないもの)を良く使用する。この利点は完全に発酵を終えており、未熟と言った不安から解放されること。 その上、肥料成分を少しでも和らげてくれる、つまり、土壌に含まれる余分な成分を薄めてくれることにある。肥料分は少なければ入れればよい。 多いのは脱塩(肥料塩)処理に困るし大変手間もかかる。

    下は、いちご園にて。通路にバークを敷いた写真。
    写真−F いちご園にて(撮影日:’08年02月07日)
    生バークを使用してきのこが発生
    写真−G いちご園にて(撮影日:’08年02月07日)
    生バークを使用してきのこが発生
    バークを入れてもキノコは立たないと言う農家の圃場で見られた。臭いこそしなかったがきのこが発生している。
    同左、場所を変えて撮影。初期の段階だが、より湿っている処の方が早く発生していた。


    3) 苗と定植

    項目 関連事項
    掲載ページ
    やるべき事 やってはいけない事
    又は、好ましくない事
    特   記
    3 苗と定植 (49)
  • 苗には深い緑色で艶があり、しっかりした太い茎で作る(良い苗は活着も早い)
  • 有機物を含んだ、土つくりのできた圃場に植える
  • 定植後の灌水には必ずクエン酸を用いて活着を早める
  • 定植したら直ぐにクエン酸水をかける(植え付けながらかけていくと植え傷みが少なくなる)
  • 弱々しく色のあせた苗(出来るなら種の段階でも選抜したい)
  • 花芽が早いなどの理由で養分を与えなのは間違い!!
  • 未発酵堆肥は使用厳禁!!
  • 昔からいう“苗半作、本圃半作”の本当の意味⇒初期栄養不良の作物は奇形が多い
  • 定植用クエン酸水の作り方 ⇒ 食物添加用クエン酸500g/水1000g
  • 正確な土壌分析をして、不足している養分だけを与える
  • 多収量は最良の苗と土作りの出来た圃場から
  •  定植について考えるとき、私が各地を巡回して感じることは、皆さん達が今から定植をしようとする苗が弱々しく、障害を抱えた苗であることが気になる。特に、苺の農家に行くと、そのことを強く感じる。 これは何に起因しているかというと、花芽を早く確実に作るという技術のためと説明を受けている。 いわゆる“窒素を切る”という言葉で表現され、窒素を与えない、または、他の要素肥料を与えなことで花芽の分化を早く・確実に行えるという説が根拠になっているらしい。

     農家には、“苗半作、本圃半作”ということが代々伝えられている。これは、しっかりした苗作りをして、その苗を本圃に植える。つまり、野菜をしっかり作るには苗床から本圃へ良い苗の状態で引き続き、収穫工程では最良の収穫を迎えようという意味だと思う。 ところが、最近では“弱々しい苗を本圃に植えると、その弱々しい苗は今までの反動で本圃の肥料分をガツガツ吸収しはじめるからいいのだ”という人もいる。果たして、本当にそうなるのだろうか。

     “肥料を与えなかったら、花芽は本当に早く形成されるのだろうか?”と考えさせられる。私はこのことをもっと自然に考えるべきではないかと思う。例えば、植物に肥料を与えなかったとしたら、そのぶん、その植物はほかの仲間より早く枯れてしまう。 その場合、その枯れかかった植物は早く子孫を残そうとする。そのため、花芽を早く形成し、しかも大きく目立つように咲こうとする。これは虫を早く確実に呼び寄せるための手段である。次の世代を作るために早く結実しようとするためではないのか。

     このことを念頭に置きながら植物をよく観察すると元気の良い作物は花芽が遅く、しかも花は小さく咲く。そして、元気な状態で生育をするので、果実が熟すのも当然のこと遅い。種を慌てて作って地面に落果させ、子孫苗を作る必要がないからだ。 だから、そのような果実は成長が長く続くので大きくなる。反面、栄養不良で育った果実はどうしても熟すのが早くなる。大きくなる前に熟してしまうのは、早く熟して地面の土に落ちたり、鳥に食べてもらって、 より早く広い範囲で子孫を残したいからではないのか。また、出来損ないの実は美味しくできる。水をかけないでつくるトマトのように出来損ないが美味しく出来るのは、他の果実より優先的に鳥に食べてもらい、 糞の中に混じった子孫(種子)を方々へ撒き散らして欲しいからではないか。だから出来損ないというか、出来の悪い果実は美味しいのだろう、などと考える。美味しく出来た作物の圃場には迷惑なくらい鳥や昆虫が良く寄って来るのはその所為だとも考える。

     つまり苺を例にすると、花芽を早くつくるために肥料を与えない。そのために栄養分は不足し、萎黄病は蔓延し炭素病も出ている。 この不都合な事態は回復することもなく結局は、植え替えと言う作業で解決しようとしている。ところが、養分のないところに何回植え替えても結果は同じだと思うのだが、、、、
    以下は2例の苺のクラウン部をカッターで切って見た。苗は要素の欠乏を来たしていて栄養の通る導管・師管を傷めてしまっているのが良くわかる。

    写真−@ いちご        
    いちご炭素病
    写真−A いちご        
    いちご炭素病
    いちごの茎部の写真です。これは俗に言う炭素病と言われる症状を来たした茎の写真です、通導部が半分以上壊死して木質化(部)しています。これでは養分の移動ができません。
    いちごの茎と根部の写真です。成長が止まったままと言う事で、根を抜いて断面を見る事にしました。組織が壊死して茶褐色(部)になっています。通導部の組織は壊死しています、根の部分は木質化して細根も殆どありませんでした。

    写真−B いちご(撮影日:’08年02月20日)
    いちご
    写真−C いちご(撮影日:’08年02月20日)
    いちご
    いちごの茎部の写真です。これは俗に言う萎黄病の症状でした。導管は壊死寸前。木質化しています。
    左の写真のクラウン部です。柔組織部の木質化が進んでいます。

    写真−D いちご(撮影日:’08年03月03日)
    いちご
    写真−E いちご(撮影日:’07年10月25日)
    いちご
    萎黄病で困っていると言う農家にて撮影。良く出来た苗を養分の少い培地に定植したが、うまく育たず木質化しています。
    萎黄病の茎の写真です。

    写真−F いちご(撮影日:’07年11月28日)
    いちご
    写真−G いちご(撮影日:’07年11月28日
    いちご
    花芽を進ませるために肥料を与えなかったいちごの出来上がりの果実の写真です。折角、果が実り出荷の手はずでしたが、これでは出荷が出来ません。
    組織がうまく分裂しませんから、どうしてもこのような奇形果になります。花芽を早く作ってもこのような実では意味がありません。11月から12月のスーパーのいちご売り場では、これ程ではなくても、軽度の奇形の果実を結構多く見かけます。 一方、このような症状は受粉が上手く行かなかったからという説もありますが、通期間の発生率を観察してみてその症状が初期段階に多数見受けられるのは一概にそうともいえないようです。

    写真−H 茎の断面模式図
    茎の断面模式図

    茎の断面模式図
      写真−I いちごの葉柄部        
    いちごの葉柄部(ホウ素欠乏)
    “植物の水の運ばれ方” 
     NHK高校講座 “植物をとりまく環境”
     いちごの葉柄部の顕微鏡写真です。
    特殊な試薬で赤く染まっている部分が導管・師管です。

    『 定植というテーマのまとめ 』
    @ 苗は深い緑色で艶があり、しっかりした太い茎でつくる。
    A 有機物が入って、しっかり土づくりの出来た圃場に植える。
      できれば正確な土壌分析をして、不足分のみを肥料一覧表から選定して与える。多い分は自然減を待つ。
      肥料成分の過不足はしっかり把握しておく。
    A 生育過程での生育停滞時期を無くすることが多収量の重要な鍵となる。
      (栽培に失敗して植物を傷めると、それを回復させようとする時間および日数は傷めた期間の3倍かかる。)
    B 定植時の植え痛みに対しての防衛策
         ・・・・定植後は必ずクエン酸溶液を使用した灌水を行う。使い方は“クエン酸回路 (クレブス回路・TCA回路)”の1.項を参考。
               (約2時間後には元気な姿になります)
    C 灌水の際の水は必ずpH6.0前後で使う。pH7.0(H2Oにて)を超えるとアルカリ障害が発生する。
         (アルカリ障害の写真


    4) マルチング

    項目 関連事項
    掲載ページ
    やるべき事 やってはいけない事
    又は、好ましくない事
    特   記
    4 マルチング
  • 黒、またはシルバーの遮光ネットを採用(98%カット)
  • 透明の(廃も含め)農ビ・農ポリは雑草の原因になる
  • 特に、農業用ビニール(農ビ)にはそこに含まれる可塑剤(良く伸びるようにする材料=重金属を含む)が溶出し、生育阻害の恐れ
  • 雑草対策を第一に考える
  • 地温を保つ為などと考えない
  • 農ビ・農ポリのマルチでは灌水の邪魔
  •  定植とマルチを被せる方法は前後するかもしれないが、マルチを敷いて丸い穴をあけ、その穴に株を植えこむ。または、定植をした後にマルチを被せ、苗で膨らんだところを刃物で切り裂きその株頭を覗かせる。さて、マルチを敷いていくことになるが、マルチに透明の廃農ビを敷く農家がある。この事柄は少なくとも2つの重大な問題があるように思う。

     1番目は農ビ、即ち農業用ビニールを使用することである。この農ビニールには粘りを持たせるために可塑剤を含ませている。その可塑剤はビニールがよく伸びて展張し易いようにする添加剤である。農ビが農ポリと違って良く伸びるのはこのような可塑剤を使用しているからである。塩ビ管でも熱を加えると自在に曲げることができる。だから塩ビ管にも可塑剤を添加する。更には、塩ビ管を燃やすと燃えずに燻るだけで強烈な異臭がする。傍に立って居られない。煙を吸えば大変咳き込む。重金属を含んでいるからだ。この可塑剤の重金属は植物にとっても有害である。その問題点とは、ビニールが劣化してくると、この重金属そのものが溶出して植物に害を及ぼす ことが十分に考えられるからだ。

     2番目の問題として、屋根材としての透明の農ビ・農ポリは太陽の光線が射し延べ、当然のこと雑草が生い茂る。やがてその草は枯れ、腐敗する過程でアンモニアが発生し、その成分が土に滲み込む可能性がある。さらには、茸が立つなどアンモニアの害が懸念される。元々、この発想は根の活性化のために根圏の土を暖めたいというのが、その導入理由らしい。しかし、私が思うには植物は地熱温度(約13℃)に対応出来ているので、しっかり土作りさえすればこの限りではないと確信している。13℃でも根は十分に動く、そういう意味では、この透明の農ビ・農ポリのマルチングは寧ろマイナス要因の方が大きいと考えている。

     上記のように、マルチには黒、若しくはシルバーで光線を透さない物が良い。更に一番いいのは遮光ネットのような藁を織った形状の物である。これは灌水の際に肥料分の溶けた水を圃場全面に散布できるようにしたいからである。このことは収穫の中盤から終盤の追肥の過程で重要な意味を持ってくる。

    写真−@
    ゴルフ場のグリーンの霜よけに使っていた防霜シートをもらってきてマルチイング
    写真−A
    ゴルフ場のグリーンの霜よけに使っていた防霜シートをもらってきてマルチイング
    ゴルフ場のグリーンの霜よけに使っていた防霜シートをもらってきてマルチにした。今まではマルチが無かったので除草が大変だった。草とりをすれば作物の根を傷めることもあった。これで雑草対策は解決した。
    ゴルフ場は、降霜の予想がでると、早朝から全員総出で、グリーンに防霜シートを敷いてまわります。これがまた大変な重労働らしいです。そのシートが不要になり貰い受けました。
    ここも左同様、もらってきてシートをマルチにした。ここはトマト栽培のハウス、終了後の写真。通路までマルチにした。マルチの使用状況は3年目。
    写真−@・Aいずれも、この上に灌水チューブまたはパイプを置くようにしている。この方法だと自分で調整した液肥を畝や通路まで全体的にたっぷりと掛ける事が出来る


    5) 灌水

    項目 関連事項
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    やるべき事 やってはいけない事
    又は、好ましくない事
    特   記
    5 灌 水
  • 畝から通路に溢れるようにかける
  • 溶液の点滴灌水は不可、水なら可

  • <配管の設置>
  • 配管方法⇒均等散水の“ループ配管”
  • 配管は遮光ネットの上に置く
  • マルチの内側にチューブを置く
    ⇒マルチを持上げる⇒散水が広がる
    ⇒根が広がる
  • 糖度を上げるため、水を与えないなど考えない(生育不良と不良率増加)

  • <灌水チューブ(パイプ)敷設の注意点>
  • 点滴仕様は使わない
  • 少水量の物は使わない
  • 根元だけに集中してかけない
    (ポリマルチの上にチューブを置いてはいけない⇒株元が濃度障害になる)
  • 水と炭酸ガスで糖を作り、その糖で活性をしている⇒光合成の理論に沿った栽培
  • 点滴では同じところに集中して液肥がかかる⇒浸透圧増⇒濃度障害

  • 日本の農業における灌水の考え方は、私にとっては少し理解が出来ない点が多い。

    例えば、水を多くかけると根が腐れるとか、水をかけると水っぽくなる、などといろんなことをいう人がいる。例えば、確かにトマトなどのように養液栽培で栽培したものは水っぽくなる傾向にある。(それが何故かは窒素の項 にて説明をするとして)また、土耕栽培では水をかけすぎると根腐れを起こすこともあるという。このような会話は、結果だけを議論しているのに過ぎない。このようなとき、その圃場の水の捌け具合はどうだろうか?とか、 水を与えた時には、いつまでも水が溜まっていないか?とか、掛けた水のpHはどの位あるのか?など、その原因と思われる要因の議論から始めた方が良いと思う。そこで、水を多くかけて生育が悪くなるかどうか、その要因を考えてみる。

     先ず、水を多くかけて根腐れを起こすのなら、水耕や礫耕などで栽培する方法ではすべて行えないはず。しかし、現実には土耕栽培よりは養液栽培の方が実績を上げているケースの方が多い。 養液栽培設備では根の部分は100%の水に漬かったままである。しかし、根が腐れることはない。それでは、その根が腐らないのは何故か?それは、その根が漬かっている養液栽培の培養液管理は当然のことながらやっている。 そのほか重要なことは、その培養液にはいつも強制的に酸素の供給をするように設計されているということである。つまり、根には大量の酸素がいつも行き渡るようになっている。

    そのことが養液栽培では根が腐らないことの最大の要因なのである。だから、土壌の養分の管理が出来ていて、水はけが良く、土壌において酸素の供給がしっかりできているならば、根腐れを来たすことはないはずである。 逆に、3日も4日も圃場に水が溜まった状態だとしたら作物は酸欠を来し、根腐れも来たしてしまう。また、例外的には水稲や蓮根は何時も水に浸かったままでも成長しているが、このような作物は葉の部分から空気を導き入れる構造になっている。 稲ならば茎の部分が空洞に、また蓮根などでは葉の付け根の所に小さな穴があり、茎から根にかけて空洞になっているなどが確認できる。つまり、空気の通り道を有しており、その穴を通して地下部まで空気が運ばれる。

     次に、根腐れの原因には石灰の欠乏がある。また、そのほかの肥料成分が過少でも過多の場合でも根腐れとなる。更に、水のpHが低くても良くないし、高くても良くない。そのpHは5.5〜6.5にする必要がある。 特に、pHが7.0以上になるとアルカリ障害が酷くなるので注意すべきである。このように根圏のことを抜きにして根腐れの原因ばかりを議論するなど、土壌そのものの状態を抜きにして判断するので、その結論として“水をかけたら根腐れを来たす”だから、“水は少量にしておいた方が良い“という結論になるのである。

     水はなぜ生物にとって重要なのか?それは、生物の75〜90%は水分である。人間でも水がなければ脱水状態となる。農家では最近は、炭酸ガス発生器という機械を導入することが多くなった。しかし、このような機械を導入しようとする農家でさえ、 水を控えて栽培しようとする。植物は炭酸ガス(CO2)と水(H2O)を体内に取り入れて光のエネルギーで光合成をし、糖をつくってそれを消耗しながら生命を維持している。 それなのに何故、水を与えなかったりするのだろうか?日本の農家では、片方では水を切りながら、他方では炭酸ガス発生機を導入してCO2を供給するという、生物学上は考え難い全くあい反する作業を行っているのが現状である。

     水は通路も含めて圃場、つまり、ハウス全体に広くかかるようにする。当然、肥料も畑全体に散布しておく必要がある。このことは、畑全体を大きな栽培ポットと考えたらよい。300坪のハウスなら300坪のポットと考えるくらいのほうが丁度良いと思う。 野菜の根は大きければ大きいほど良く、根は広い範囲で存分に肥料を吸収できるようにしていれば、樹木にも勢いが出てくるし、果実が大量についたときにも樹勢を維持するためのエネルギーも出来てくる。 従って、点滴チューブのように少水量のものの導入は避けたほうが良いように思う。少水量のものは一点にだけ液肥が集中して水がかかる。これが水だけなら仕方がないとしても、肥料成分が入った液肥となると話は少しややこしくなる。 肥料分の(+)電子が土壌コロイドの(−)電子と磁石のように強固に引き合うからである。そのため集中してかかった個所は肥料過多になり、浸透圧は上昇し行く。それが原因となって根の元の部分だけが腐れで、結局はその根の周りの浸透圧の高い部分を超えて根が延びないという不都合な事態が懸念されるのである。

    また過去、私が教示した農家では、マルチシートの上に塩ビのパイプを敷設しそのマルチの上から植物の根元に向かって水を供給する例があった。当然のことながら株元に肥料養分は集中して流れ込んでくるので、その部分だけに養分が偏り、 茎元の周りの部分は養分過多となっていた。後日訪問したとき間一髪枯れる寸前という事態になっていたので、慌てて養分の供給をやめて水だけにしてもらったことがあった。そのような事態も経験したことがあった。 このように、昔ながらの塩ビ管の配管では大量の水が短時間でかかりるので大変良いと思うが、量がかかるだけに最悪の事態をも来す恐れがあるので是非気をつけて頂きたい。このようなケースでこのマルチが遮光ネットのようにどこからでも水が土壌に落ち 込むようになっていたらベストであったと思う。それは昔、雑草が生えるのを防ぐために敷き並べた藁のようにすべきである。更に、この場合の配管方法は周りを太いパイプで一周するループ式といわれる方法で施工することがポイントである。 この方式だと、灌水パイプの両端から水が圧入して来るのでパイプ内の圧力を一定に保つことが出来、各々の散水口から均等量の散水をすることが出来る。

    奈良先端科学技術大学院大学バイオサイエンス研究科教授の横田明穂博士の研究によると 『畑の作物生産物に必要な水の量の実測では、1キロの作物生産に500〜600キロの水が必要である』と書してある。(日本農業新聞から)

    そこで、いちごを9月定植〜5月迄の栽培期間約8ヶ月間、6トン(6,000kg)/10a当を出荷した場合の必要灌水量を計算してみると、
     
    栽培期間の必要灌水量は 6×500=3,000トン
    1ヶ月の平均必要水量は 3,000 ÷8ヶ月=375トン
    1日の必要水量は 375÷30日=12.5トン となる。


    更に、トマト栽培で収穫量20トン、栽培期間(9月定植〜7月初旬終了)は10ヶ月間(8ヶ月収穫)とした場合では、
    栽培期間の必要灌水量は 20×500=10,000トン
    1ヶ月の平均必要水量は 10,000 ÷10ヶ月=1,000トン
    1日の必要水量は 1,000÷30日=33.33トン となる。


    それでは、土耕のように地面からの蒸発がなく、地中に用水が奪われる事も無い、タンク設置の養液循環式の礫耕栽培装置に於けるトマトの栽培試験データが手元にあるので比較してみると・・・・

    トマト20段栽培。期間は9月定植〜7月初旬終了の10ヶ月間(収穫は8ヶ月間)。その時、1株当りの収量は13.167kg、
    その期間に要した水量は406.20g(Kg)/1株 となっているが、纏めると下表のようになる。

    < 米澤農業研究所 >
      栽培10ヶ月間の用水量 栽培1ヶ月間の用水量 1日の用水量
     トマトの収量が13.1675Kg 406.20 Kg 40.62Kg 1.35Kg
     トマトの収量を1Kgに換算すると 30.85Kg 3.09Kg 0.1028Kg
     20.000Kg(20トン)に換算すると 616,973.60Kg 61,697.36Kg 2,056.57Kg


    このように、葉面からの蒸散だけが唯一減水の要因となる養液栽培と比較した場合、横田教授のいうこの500kgという数値の用水量はかなり多めの灌水量になるが、 これは地中に吸われていく水分、または暗渠などを通って失われる水の量や地面から蒸発する量等がそれほど多いと考えても良いのではないか。 また、我々は苺の栽培で3〜5月ともなれば5〜7トンは常に灌水している状態であるから、 この500kgと言う数値は苺の生育が本当に旺盛ならこの量に近い用水は必要ではないだろうかと考えられる。

    但し、灌水の場合には下記の6)項を参考にして必ずpH調整をした上で行うことを念のために申し添える。


    6) 用水の調整

    項目 関連事項
    掲載ページ
    やるべき事 やってはいけない事
    又は、好ましくない事
    特   記
    6 用水調整 (9)
    (33)
    (43)
    (45)
    <潅水に使う用水>
  • 必ずpH5.5 〜 6.5の範囲に調整
  • 葉面散布では調整しない
  • 5.5以下では石灰欠乏
  • 7.0以上ではアルカリ障害が多発
  • 至適pHで酵素の活性化
  • 至適pHで肥料の溶解度を高める
  • コンクリート製品ではアルカリ分が溶出し、pHを押し上げる⇒根を傷める(U字溝・タンク・防護壁・基礎石・護岸石などセメントを使ったもの⇒新設の場合は特に気をつける)

  •  この項で灌水に使用する用水のpH調整がなぜ必要なのか、過去どのような経験でこの結論に辿り着いたかを前置きとして少し述べる。

     昭和56・57年の2期間を香川県と岡山県の3農協のいちごを我が研究所が指導していた経緯がある。このpH調整という重大さを最初に気が付いたのは56年の香川県の2農協管内である。 いちごの栽培も中期に入り株疲れの目立つ時期だった。現地で指導巡回していた時、10軒の農家(国庫補助を受けたハウス団地形式の経営)すべてが“どうも今までの状態と違い、生育がおかしいのです”と言う。 確認すると葉の周縁が枯れ上がっており、明らかにアルカリ障害の症状を呈している。葉露も今までは着いていたものが近頃は着かないと言う。

    話を聞いていくと、ここの地区は裏山から湧き出た水がハウス横のコンクリート製の側溝を流れ伝ってくる。灌水にはその水路水をくみ上げていた。 そのpHは、通年はぼ6.8(H2O)前後であり、イチゴに与える水としては“少し高いかな”と思うくらいで、然程の懸念は抱いていなかった。その場で念のためにという事で、持参していた 簡易pH計(比色式)で水路の水に試薬を注ぎ覗いて見ると、そのpHは7.2〜7.4を示していた。そこで、私達は研究所から指示を受けた通り用水をタンクに汲み、 硝酸を用いてpHを6.2まで下げて灌水をするようにしたのである。

    後日、現地から連絡があり、生育の状態が回復基調にあるというのでひと安心した次第である。私は、そのとき単なる水なのにpHが高い・低いということでこんなにも生育状態が変わるのか!ということを強く感じたのを記憶している。 更に、このpH上昇が前年度に降雨量が少なかったための渇水の影響である、ということに起因しているという情報分析力の大事さを感じ取ったのだった。 (注=この地区の地殻構造は塩水が湧き出るのが特徴の和泉砂岩帯で、雨の少ない年は塩分が濃縮されて湧き出てくるらしい)

    そのほかにも、今まで相談を受けて来た農家には、これだけの精密な土壌分析をして、 完璧なくらいの施肥管理をやっていたにも拘らず、思ったより結果の出ない農家もあった。今考えれば、このようなpHの状況を察知できなかったのだ、と改めて想いを巡らすわけである。然しながら、上記したような状況例を克服してからは、 殆どの農家に於いて成果を挙げるこができるようになったのである。

     日本には唯一100%自給できる工業製品としてセメントがある。その原料は石灰岩を砕いでつくる。日本にはその石灰岩が全国の至る所で産出できる。 日本の河川や温泉を調べていくと、このような地殻の構造の影響により石灰質の水が至るところで湧き出る。塩分を含んだ水も湧き出る。 これは大陸誕生のその昔、日本陸地は海底にあったとされており、地殻変動と共に隆起して現在の日本は出来たというのが通説である。

    そこにはあたかも石油が海底に埋蔵されているのと同じように、海水も化石水として地殻に埋もれているのである。温泉地に行くと『ナトリウム炭酸泉』などと表示している。舐めてみると少し塩っぽい。その成分をNa とCl ****ppmとか、***mg/Lなどと表示されているのがそうである。 その埋蔵水をくみ上げているのが温泉であって、その湧き出て流れ出したのがpHの高い塩分を含んだ水であり河川である。 (参考資料:日本の河川のpH集)

    また、日本には酸性を示す湧水のある所も多い。日本各地の火山帯には硫黄の成分を多く含んだ地質があり強酸性を示す。例えば、群馬県には強酸性の泉質、そして林羅山の日本の三名泉として有名な草津温泉がある。 この温泉から出る水質のpHは2.1〜2.4である。その温泉水は湯川を通り利根川水系の吾妻川に流れ込む。この湯川は、昔は“死の川”とも呼ばれるように強酸性の河川であり生物は生息できなかった。 ここに国交省は石灰粉を加え河川水を中和する国営事業 を行っている。

    ついでながら、この河川水について非常に幸運な農家もある。場所は長野県の小布施町。この地は上記にある草津温泉の西側に位置し丁度、白根山・万座山を跨いだように位置する。つまり、硫黄分を多く含む典型的な火山質地層で、 昔は山頂に硫黄鉱山があったとされる。この小布施町付近の農家が使う水は、pHの高い千曲川(pH7.0〜7.2=夏場に計測)に白根山系の水脈をもつpHの低い松川(pHは携帯式比色計では計測不能だった、 多分2.0前後であろうと思われる)が流れ込んで混ざり合い、圃場横の水路にはそのお互いの水が流れ込んで、その水のpHが6.4位となっている。また、地下水もその水脈が有るらしく、井戸水においてもpH6.0という。

     このように全国各地、様々なpHの用水で栽培をしていることになるが、全体的に観察してみると、pHの高いところの産地での出来具合には苦労が多いような気がする。そして、更に、このような農家に栽培に関して問うてみると、 その意見は一同に“水を掛けると悪くなる”という声が圧倒的に多いことが特筆できる。また反面、pHが6.0〜6.6の範囲の農家では、水のpHなど意識もせず多くかける傾向にあることもわかった。私がお世話になっている長野県のりんごやぶどう、 その他の果樹関連の栽培研究している熱心な肥料業者があるが、そのオーナーにその情報を教示した。

    早速、彼は水のpH調査に奔走した。その結論は“今まで、どうしてかな〜”と不思議に考えていた事柄が、そのpHの説明・理論を聞かされたとき、あらためてその疑問点が解決できたと喜んでいただいたことは記憶に新しい。 現在では、取引先の農家全域にpHの調整を促して実績をあげている。そのことが勉強会の発足とそのメンバー連の集い、つまり『豊穣会』の設立へと発展するのである。

     では、何故pHを調整しなくてはならないのか?それは生物の生理学上大きな理由がある。植物にしろ、動物にしろ、営み、つまり生理学的には、その代謝が促進されるには酵素が欠かせないものである。その酵素の作用には、 さらに無機の金属が欠かせないものである。CaやMgはアルカリ側でよく溶けるが、FeやCuは酸性側でよく溶ける。特に酸性側で重要な意味を持っているのが硼素(B)の働きである。

    Wikipediaの硼素の生物への影響、硼素を詳しく研究した 京都大学農学部植物栄養学研究室の研究結果や独立行政法人 農業・食品産業技術総合研究機構中央農業総合研究センター:土壌作物分析診断手法高度化研究チーム を参考にしていただくと、その重要性が良くわかる。“細胞壁の合成や細胞膜の完全性の維持 ” という意味では、
    ・ホウ素(B)は常に与え続けなければならない
    ・ホウ素(B)はちょっと他の部位から持ってくる事は出来ない、つまり移動しない
    ・ホウ素(B)は欠乏した時点からその症状に不具合が生じる
    と私は言い続けている。

    従って、硼素が欠乏したり、硼素がその効果を阻害する条件となった場合、その細胞壁は破壊される。結果、症状として茎割れや裂果(Ca欠乏ではない裂果)、硬果硬果などの症状を来す。これらの不具合な部位は、細胞壁や細胞膜が木質化したものと考えて良い。また、Bは導管の保護という重要な機能がある。導管が傷んでしまえば養分の通り路はなくなってしまう。養分を細胞の先端まで届けることは出来ない。 そのうえ、葉などで合成された物質の移動路である師管までも傷んでしまうこととなる。

     うどん粉の発生に至っては、植物の壊死した細胞にカビが寄生して分解し、そして大地に戻っている姿である。つまり、この病気の元々の原因はBの欠乏に起因するところであると断定しても良い。 このことを“かび病だ!!”“うどん粉病だ!!”と病気にしたがるのがこの農業界の常だが、私はいう!“これは病気でも何んでもない。私たちにとっては、ただ単にホウ素欠乏だけである”と!!

     植物が最良の状態で成長をするのに必要な各々肥料成分は、土壌の反応(pH)と肥料要素の溶解・利用度( Troug表 )を見ると全体的にはpH6.8が良い。 しかし、蛋白質やアミノ酸の形成過程にはFeやCuやMnが作用し、成長に対してはZnが大きく影響する。Moも必要だが、この要素はアルカリ側でよく溶けている。 このモリブデン(Mo)を除けば微量要素の部分は殆どが酸性側でよく溶けて、利用されているということで、このことが“植物は弱酸性で栽培することが基本である”という最大の理由であり、裏付けとなるものでもある。

    つまり、pHが高いときは、微量要素が溶解・利用されないため酵素は活性化せず、そこでの代謝は極端に悪くなる。更には、窒素に於いても微量要素が効かないためその還元ができず、 アミノ酸を経て蛋白質に変化しないが故、植物は病気になりがちとなる。という窒素還元工程理論を理解して頂きたいのである。反対に、pHが低い場合にはCaやK、Mgなどの欠乏を来たす。特に、Caは極度の欠乏を来たし葉が黄化してしまう。土壌のpHは必ず5.5〜6.5の範囲で調整することを強く希望する。また、ここで特筆しておきたいのは、生育の良い状態が暫く続くと、 次に来るのが株疲れというか成り疲れの現象である。このような時期の土壌pHは必ず上昇している。 この場合、出来るだけ土壌のpHを下げる必要があるし、灌水のpHでも5.5まで下げて散水をする。このようにして少しでも土壌の弱酸性化を心がける必要がある

     最後に、以上のようなことでpH調整と液肥調製の為のタンクを備えたいという人のために注意点を一筆。樹脂やステンレスなどでは問題ないがコンクリート製のタンクではセメント分のアルカリ分が強烈に溶出し て、pH6.0の水でも日が経つと9.0以上を示すことが多々ある。新設の際の初期処理として、燐酸をトン当たり1kg入れてよく攪拌し、1週間ぐらい放置し捨てる。その作業を3回位繰り返す。 燐酸と石灰を反応させて処理するのであるが、出来れば防水シートのような物や防水塗料を塗って、水がセメントの影響を受けないようにしる方がベストである。

     例−1.セメントの側溝やU字溝で造られた水路・・・・pH9.4 <日照りの続く日は水が流れず、停滞したまま>(奈良県:ぶどう栽培)
      −2.コンクリート製のタンク(50トン)使用・・・・pH4.4の雨水がpH9.6へ(長崎県:びわ栽培)
      −3.新設のコンクリート護岸壁のクリーク水をくみ上げて使用・・・・pH11。大量の雨でpH7.0に降下するも再び上昇してpH11へ(佐賀県:いちご栽培)

    尚、pHの調整法については 『 原水のpHの調整法とその必要性 』 を参照のこと。


    灌水時の用水のpHは、土壌のpH(KCl)が、、、
    7.5〜8.0では希硫酸か硝酸を用いて約5.5とし、
    7.0〜7.5では      〃   約6.0として使用する。(灌水が5.0以下では酸性の障害を来たすことになるので注意)
    また、@ リン酸系にて下げる場合は土壌成分にリン酸が過剰か欠乏かどうかで判断し、過剰の場合は使用できない。
       A 灌水の際に液肥(特に窒素成分がアンモニアを主体とした肥料)を加えた場合、その用水のpHが上昇するので要注意。
       B pHの測定値について ・・・・ KClとH2Oの差は通常では0.2〜0.3位。その差が1.0などの差で表示される場合は機器を再度校正して測定する。


    7) 肥料(窒素)

    項目 関連事項
    掲載ページ
    やるべき事 やってはいけない事
    又は、好ましくない事
    特   記
    7 肥 料
    (窒素)
    (13)
    (15)
  • 硝酸態窒素を主体にして使う。
  • (果菜類の殆どは好硝酸性窒素作物)
  • アンモニア・尿素は使わない
  •  (アンモニア害が多発する)
  • (窒素のアンモニア還元)
  • 蛋白質は健康体を作る
  • アミノ酸は美味しさの源となる
  •  最近のこの農業界の窒素に対する位置づけ方には非常に残念に思うことが多い。
    それは、注−3)窒素をアミノ酸やたんぱく質にうまく変化させる技術がない為に、『減窒素』を指導している機関があるという事実である。これは、窒素成分のその重要性の理解・認識不足とその要素の軽視である。 窒素は炭素・酸素・水素・硫黄と共に蛋白質やアミノ酸、そのほか生理上の重要な化合物の構成要素となっている。その窒素には、アンモニア態窒素と硝酸態窒素があるが、その適量は硝酸態窒素が20〜30kg/10aである。 アンモニア態窒素は土中に多く存在すると害が出やすく、その量は0〜3kg/10a迄とすべきである。

    また、果菜類は窒素成分として主に硝酸態を要求する。片や、アンモニア態窒素は土壌中に過剰に存在すれば害を及ぼす。これがアンモニアの障害である。 つまり、多くの農家の人たちや農業関連に従事する人はこのアンモニア障害のことを、総して窒素の害と表現しているようである。

    注−3) 窒素をアミノ酸やたんぱく質にうまく変化させる技術
    (タンパク質は含有アミノ酸の種類と結合の仕方により、 それぞれ固有の香や味を
    形成
    して、そのコクや風味を作っている。植物体では次のような形で形成される)

    『 植物体に於ける硝酸のアンモニア還元 』

    植物体に於ける硝酸のアンモニア還元

    植物が吸収した硝酸態窒素はモリブデンフラビン酵素の働きによって酸素を1個取られて亜硝酸となり順次たんぱく質に変化していく。そこには、必ず触媒としての金属が必要であり、その金属で酵素は活性化することになる。

     モリブデン(Mo)、鉄(Fe)、マンガン(Mn)、のいずれが欠乏しても、たんぱく質は植物体内では形成されない。特に、最入り口のMoが欠乏した場合、窒素として吸収された硝酸は植物の体内にそのまま残留することとなる。 この場合、そのような窒素植物を食したら苦く感じる。ひどい場合、翌朝目を覚ますと目ヤニが出るようになる。つまり、適量の窒素を投与して上記のような微量要素を使うことによってアンモニア還元さえしておけば、 各種のミネラルやたんぱく質・アミノ酸を多分に含んだ安全で美味しい栄養価の高い食べ物となるのである。

     香り、そして旨味、つまりその源となっているアミノ酸と糖度・酸度の3物質の絡み具合はその作物の風味を決する。そして、そこに細胞分裂が密になりその細胞数も増加して、その中にその風味がびっしりと詰め込まれる。 それがカルシウムとホウ素の働きである。またカルシウムは果肉組織の姿を整え、更に収穫量にも大きく影響してくる。つまり、高品質の作物を最高の姿で最高量収穫出来るのは、カルシウムの働きに起因するところが多い。良い作物は比重が高くなる。 そのような夢を実現するために私たちが考えて来たことは、以上に示す『植物体に於ける硝酸のアンモニア還元』なのである。ここは果菜栽培の最重要なポイントとなる。

     そこで、現在のこの農産物を取り巻く業界のように“残留窒素が多いから窒素の施肥量を減じよう、”などと考えたら研究は進まない。私たちは植物の生理を理学的に捉えて来たのである。 窒素を如何に上手にたんぱく質に変え光合成を良くし代謝を進めて丈夫な作物をて育てることが出来るかどうか、ここが果菜栽培の最大のポイントだと思う。私たちはこの重要なポイントをミネラル、 特に微量要素といわれる元素が重要な働きをしていると考えてきたのである。

     新聞や雑誌で“海水を汲み上げて圃場に撒いて栽培を試みたら、意外と美味しく上手に出来た”といったような記事を目にした。またこれを実践している農家もあると聞いている。 この話には海水が良いのではなく海水に含まれるミネラル分が良いという論理が抜けているように思う。このようなことを続ければ、圃場にはナトリウム(Na)は蓄積され、 何れその害は出てくる。

     そして、植物を栽培するに当っての海水の微量なミネラル量では、全く足りないというのが私たちの答えであって、そのことよりは、寧ろ、NaClの害の方が懸念される。

     私たちは、この『植物体に於ける硝酸のアンモニア還元』を目指す為には
    @pHのことを常に考え、土壌のpH・灌水時の用水のpHの影響
    A微量要素はEDTAで良いのか、また、最良の状態に育てるには、微量要素はどれ位必要なのか?
    B硼素の重要性
    C酵素のはたらき
     等、その他様々な事柄を学んで来た。その中には後述するような項目すべてが微妙に関与してくるので、よく理解をして頂きたいと思う。


    窒素の(土の中での変化と植物体内での)変化では、、、

    石灰窒素(CaCN) ⇒ シアナミド(CNNH) ⇒ 尿素(HNCONH) ⇒ アンモニア(NH)  ⇒ 硝酸HNO ⇒ 植物が吸収して『植物体に於ける硝酸のアンモニア還元』へ進み、植物体内で ⇒ 亜硝酸 ⇒ 次亜硝酸 ⇒  ヒドロキシルアミン ⇒ アンモニア  ⇒ アミノ酸 ⇒ 蛋白質、、、、 へと変化する。

     このように、上記過程でも分かるように、栽培期間中はアンモニアや尿素のような化成肥料は使用しないようにすること。理由は、栽培期間中の植物は、窒素成分を素早く要求している。従って、窒素分は直ぐ吸収できる硝酸態窒素で与えることが大事。 尿素やアンモニアでは吸収するまでの過程に時間がかかり過ぎて間に合わないし、根を傷めて必ず障害を来すこととなる。また、尿素やアンモニア態としての窒素は必ず元肥として与え、分解するための期間を要する。 特に、尿素はアンモニアガスが発生するのでハウスでは絶対使用しない(最近は尿素を栽培期間中に使用しているケースを多く見かけるが、この処方では出来上がりの作物が苦くなるなど負の要因があるので絶対に行わないこと)。

     皆さんが窒素を議論するとき、“窒素を施用すると害がある”という。この場合の窒素は、多分アンモニア態窒素のことを指しているといって良い。また、硝酸態窒素が人体に害を及ぼすという考え方も多くなって来ている。 その野菜に含まれる窒素成分を少なくする対策として、窒素の施用を控えようとする農家や研究者もあると聞く。特に、研究者があるというのには驚きである。 このような残留硝酸態窒素の危険性については フランスの医学者J.リロンデル & J-L.リロンデルの共著書で“硝酸塩は本当に危険か(崩れた有害仮説と真実)”という本も越野正義訳農文協出版から発刊されているので、 この本参考にして議論をして戴きたい。

     このようなことを取り上げて、現在のこの日本の台所を守るべく日本農業界は減窒素の方向に進んでいるわけである。更に、聞くところによると、最近では硝酸態窒素を補給するべく硝酸アンモン(通称:硝安)が10袋(20kg入り) 以上の購入には規制があるという。その理由は危険物だからという。つまり、その為に農家はわざわざ9袋の注文を、日を変えて注文しているという。日本農業の窒素に対する位置付けはこの程度の考えであるかという事実の証明だと思う。 関係者にはより一層の研究をして頂きたいと念ずるのである。かっては、野菜産地の農家はこの硝安は頻繁に使っていた。農協の倉庫には山積みにしてあり、いつでも使えるように在庫があった。勿論、農家は大量に使うから価格も安かった。 (参考までに、昭和53年当時くらいには、20kgが1袋で@1800くらいと記憶している。ついでにいつも使う肥料の当時メモによると硫安@780,石灰窒素@2220,尿素@1600,硫酸加里@1610,塩化加里@1170,炭酸苦土石灰@300(25kg)だった。

     そこで我々は、昨年から水稲の栽培において硝酸態窒素を施用した実験栽培を試みてみた。水稲は一般的には好アンモニア態窒素作物だといわれているものの、我々はこの育苗の肥料成分に養液栽培に使用する園試処方の標準養液を用いてみた。 そこで分かったことは、根の張りも良く葉の大きさ、艶といい申し分のない良好な状態である。本田の窒素分としての元肥には硝安(30kg/10a)を使用してみたが、状態は大変良い。 ただ、湛水した水田では追肥が非常にやりにくいということも良く分かった。

     窒素肥料はそれを施さなかった場合の減収度と他の肥料を施さなかった場合の減収度を比較した場合、窒素の方に遥かにはっきりと表れる。反面、入れすぎて過剰になった場合の減収度が多くなるのも窒素である。 植物は窒素をどの要素よりも早く吸収する。従って、その多少は生育に大きな変化を来たす、そのことが他のどのような要素よりも施肥法が難しいとされる所以である。

    窒素の飢餓現象

     分解していない稲わらや籾穀・木材チップなどのような炭素率の大きい有機物を土に施すと一時的に窒素の飢餓状態を来たす。

     例えば稲わらの炭素率は74、籾穀は72であり、その分解の理想とされるC/N=10になるには大量の窒素注 )−4
    が必要となる。 そして、その土の中での窒素は発酵分解過程で必要なものと植物の生育過程に必要なものとの双方で必要となる。この双方の過程は大量の窒素を必要とするために土の中に存在する窒素では一時的に不足することになる。 つまり、窒素は飢餓の状態が生じることとなる。この状態を窒素の飢餓現象という。

     また、未発酵の有機物は、この飢餓状態と発酵の最終工程であるアンモニアの発生という、植物栽培時における2重の不具合を来す原因となる。従って、元肥としての有機物には必ず完熟した有機物を使用しなければならない。

    注 )−4
    炭素率が74の稲わら100kgの炭素は423kg、窒素の成分は約5.7kgである、発酵に必要な炭素率10にするには36.6kg(硝安なら107.6kg)を追加する必要があり、そのほかにも生育のために20kgほどが必要で、 この量の窒素を一度に追肥した場合には大過剰となる。また、稲わらの中には稲わら菌が生息しており、一年間生息をすることが知られている。わらを有機物として使用する場合には、刈りたてではなく一年経過したものを使うようにする。 つまり、稲わらを単独ですき込むことは決して有益な手段になるとは言えず、むしろ、害となる公算のほうが大きい。よって、稲わらのような炭素率の大きいものは牛糞などにすき込んで、圃場以外の場所で充分に発酵させたものを使う必要がある。


    8) 肥料(燐酸)

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    8 肥 料
    (燐酸)
  • 燐酸を入れると・・・
    1.味が良くなる
    2.花では色が良くなる
    という誤った認識。
  • 左記の理由で燐酸を多く用いる⇒リン酸過剰⇒燐酸の過剰は他の金属と結合して難溶の金属となる
  • 配合肥料を用いる⇒次第に過剰になる
  •  ADP ⇔ ATP
  • エネルギーはPの出入りで発生する
  • 光合成のエネルギー源となる

  •  土壌を分析した時、このリン酸(全リン酸 注 )−5として分析)の項目はいつも異常なほど数値が高く表れる。
    その標準値50kg/10aだが3倍以上の4〜500kgはいつも見かける。そして、そのときのリン酸過剰の土壌で栽培している植物見るとその症状を明確に見分けることができる。その姿は、葉をみるとわかりやすいい。葉は必ず暗緑色、俗にいう“ドス黒い”葉色になっている。
    注 )−5 全リン酸=水溶性リン酸+難溶性リン酸

     この異常に高く検出される数値の裏にはリン酸に対する誤った認識があることも、農家との談話の中で察することができる。その認識にはリン酸は味を良くするとか、花では色合いが良くなる、といったような誤った認識である。しかしながら、この認識も全く間違いであると完全否定するものでもないが、それは、リン酸が不足すると植物代謝がうまく行われず、弱々しい植物となるからである。そうなれば、当然のことながら、健康的な色合いは発せないということである。だから、その認識は、間接的な言い方ならば、それはそれで正しいともいえる。しかしながら、やはり、ここではもっと理学的に証明された、つまり、私たちが高校生物で学習したものでこのリン酸を理解をしていただきたいと思うのである。

    リン酸の働き

     植物は代謝、つまり生きていく為には様々な物質の生産をしたり分解をしなければならない。この時、その作用を行うにはエネルギーが必要となる。そのエネルギーの源になるのがリン酸であり、リン酸の主たる働きでもある。

     植物体は養分を根や葉面から吸収して体内で化合物を合成し分解する。また成長の段階では様々な代謝を行っている。そして、その代謝は酵素の反応によって行われているのはいうまでもない。植物のこのエネルギーは、ある種のリン酸化合物に一旦貯蔵されて必要な部位に運ばれて利用される。このとき、特に重要な働きをする化合物が『アデノシン』と呼ばれる誘導体である。この誘導体にリン酸が結合する数により、

       アデノシン一リン酸(AMP=Adenosin Mono Phosphate)
       アデノシン二リン酸(ADP=Adenosin Double Phosphate)
       アデノシン三リン酸(ATP=Adenosin Tri Phosphate)

    と呼ばれている。

     植物体内に於けるブドウ糖から澱粉を合成する過程を考えてみると、まず糖は呼吸によって分解されて炭酸ガスと水になる。このとき放出されるエネルギーの一部はリン酸2個を持つADPと無機のリン酸(1個)とから、リン酸3個を持ったATPが合成され、 このATPに一旦貯蔵されることとなる。他方、ATPはブドウ糖が複雑な過程を経て澱粉を合成する際エネルギーを放出する。その時、リン酸1個を放出しADPとなる。このように、リン酸(P)が出たり入ったりしてエネルギーは発せられているのである。 このようなリン酸とエネルギーの関係は人体の筋肉運動などのエネルギーにも同じことが言える。

     以上述べたように、リン酸が花の色を良くしたり、果実の味を良くしたりと言う表現は理学書には1行たりとも出て来ない。 だけど何故か、皆さんはこの高価なリン酸肥料を下表で示したように、大変多く用いているのが良く分かる。

    リン酸塩は1年間で50kg/10aで充分である。

    リン酸の過剰

     土壌中の過剰のリン酸は不効率な吸収となる。下の表は全リン酸の量に対して吸収が可能となる水溶性のリン酸がどの位の割合で存在するのか、カーネーション栽培で検証してみた。その土壌分析データーを示す。

    表−1 < 分析者:米澤農業研究所 >
    注) P2O5の項のTotal全リン酸、H2Oは水溶性リン酸、%は水溶性/全リン酸を示す。
     
    p H
    NH4−N
    NO3−N
    P2O5
    K2O
    CaO
    MgO
    H2O
    KCl
    Total
    H2O
      唐 津
    7.70
    7.36
    2.43
    14.08
    709.20
    13.59
    1.91
    47.74
    636.96
    120.96
    滋賀ー@
    5.88
    5.78
    9.41
    47.36
    721.02
    10.05
    1.39
    63.58
    462.99
     49.39
    滋賀ーA
    4.50
    4.13
    6.69
    31.35
    487.58
    15.96
    3.27
    39.06
    260.96
     43.34
    滋賀ーB
    6.08
    5.41
    4.19
     5.45
    341.59
    18.91
    5.53
     7.88
    310.06
     46.37

     ここで注目すべきは、分析値に表れる全リン酸の値は多ければ多いほど、 吸収される水溶性リン酸の割合値が少なくなるという現象をしっかり見て理解して頂きたい。つまり、リン酸過剰は、そのほとんどを輸入に頼っている肥料であり、その高価なリン酸肥料を我々は不効率に使っていることになる。

    過剰のリン酸はどのような形で存在するのか?⇒リン酸過剰の拮抗現象として、加里・銅・亜鉛・マンガンの吸収率が激減する。

    リン酸は
    銅と化合して・・・・・・・・リン酸銅 Cu3(PO42
    亜鉛と 〃  ・・・・・・・・リン酸亜鉛 Zn3(PO42 ・・・・・水に不溶
    鉄と   〃  ・・・・・・・・リン酸第二鉄 FePO4   ・・・・・  〃
    マンガン 〃 ・・・・・・・リン酸マンガン MnPO4 ・・・・・難溶
    アルミニウム 〃 ・・・・リン酸アルミニウム AlPO4 ・・・水に不溶
    石灰  〃  ・・・・・・・・リン酸三石灰Ca3PO4 ・・・・・難溶

    ・湛水中にのリン酸の存在は、、、、

         (乾土では)             (湛水すると)
        リン酸第二鉄    ⇒    リン酸第一鉄+遊離リン酸(水溶)
     FePO4(難溶=無効態P)    Fe3(PO42(易溶)
       となってリン酸が遊離するため土壌は酸性化となり、吸収し易くなる。

    ・有機物を使用した場合のリン酸の存在は、、、、

        (乾土では)       (有機物投与で)
        リン酸第二鉄+有機物    ⇒   有機酸Fe+PO4
       FePO4(難溶=無効態P)        (遊離→有効態P)
       となり、リン酸が遊離するため土壌は酸性化となり、吸収し易くなる。
    注)土壌に無機の金属のまま施肥しても、土壌中のリン酸と化合して無効態となる。


    9) 肥料(加里)

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    9 肥 料
    (加里)
  • 塩化加里
  • 硝酸加里
  • 硫酸加里
  •  の使い分け
  • 吸った養分を送る為の水分調整
  • Naの害を緩和
    カリウムポンプ=Kを体外から取入れる
    ナトリウムポンプ=Naを体外に排出
  •  <膨圧>
  • 効率的に光合成できるよう直立させる
  •   〃  〃    葉の角度を保つ
  • 気孔の開閉をする力
  •  加里(カリウム)は、肥料の3要素といわれ、重要な要素として扱われている。また、加里は窒素や石灰・苦土のように組織の構成要素とはならず、細胞液中で単独のイオンとして存在している。 加里は、細胞内での水分の調節の働きをして細胞内の膨圧を調整している。そのため植物は直立できるし、葉の角度も太陽光の方を向くよう維持できる。

    更には、膨圧による気孔の開閉も行うことができる。そのように、植物細胞の新陳代謝を良くするためには、この膨圧は適度に保つ必要があり、その為には加里濃度を充分に保つ必要がある。 そのほか、加里が適度に存在することでATPが効率的に生成されることもわかっている。したがって、加里が欠乏すると呼吸量が減少する。その差には20%くらいの違いを示すとされている。また、加里は若い部位(根を含む)に集積するとされている。

    加里欠乏の写真
    加里は水分の調節をして細胞の膨圧を調整している。加里が欠乏した場合には先端まで圧力が伝わらず、細胞は先端が壊死した状態つまり先端が枯れ死した症状になる。

      写真−@ きうり        
    きうりの加里欠乏
      写真−A きうり        
    きうりの加里欠乏
     先端が枯れた部分( 印 )です。  葉の周縁の枯れと先細りの果。

      写真−B ねぎ        
    ねぎの加里欠乏
      写真−C なす        
    なすの加里欠乏
     先端が枯れた部分です。  葉の先端( 印 )の黄化。 また、先端部の縁( 印 )にも黄化が確認できる。これも加里欠乏の特長である。

      写真−D ぶどう(撮影日:’07年07月23日)
    ぶどうの加里欠乏
      写真−E カーネーション(撮影日:’08年03月18日)
    カーネーションの加里欠乏
     先端が黄色く枯れた部分が加里欠乏。  葉の先端の黄化。

     加里成分は通常N:P:Kの配合肥料で施肥することが多い。土壌分析をして加里が不足している場合は必ず単肥で与えるよう心がけて欲しい。加里が不足しているとき配合肥料で修正すると、 ほとんどの場合でリン酸の大過剰リン酸が大過剰(全リン酸の分析値を参照)を来していることが多い。また、単肥としての加里肥料には塩化加里(塩素を含む)、硝酸加里(窒素を含む)、 硫酸加里(硫黄を含む)があるので、どの肥料を使用するかは、その現状に応じて選択するようにする。

    ◆塩化加里(Kcl)の使用ポイント
     塩素(英語名: chlorine)は、一般には軽視される傾向にあるが、塩素(Cl)は微量要素としての必須元素である。概ね15kg/10a以上になると過剰障害となるが、欠乏すると植物体の緑色が抜けて白化する。 この葉などで白化する症状・現象をクロロシス(萎黄病・黄白化現象)と表現するが、これはクロロース(ギリシャ語で「黄緑色」を意味するChloros)に由来する。

    灌水の際、井戸水や河川水だけを常用していると塩素が欠乏することがある。 その場合は塩化加里にて塩素を補給する必要がある。但し、水道水を使用した場合、塩素は殺菌(滅菌)剤カルキとして使われているので必然的に供給していることになる。従って、水道水を利用すれば欠乏を来たすことはない。 水道水使用では寧ろ、塩素の過剰障害に配慮すべきである。

     過剰症状・・・葉の周縁が白化する。
             リン酸の欠乏症状。(拮抗作用による)
     欠乏症状・・・花などの首曲がり

    また、葉が薄く巾の広い栽培物では翌日、葉が萎れることがある。これは大きな障害ではないが、その症状は水道水の消毒に使用する次亜塩素酸カルシウム(CaCl(ClO)・H2O)=通称カルキ又はさらし粉が水・養分の吸収を妨げている現象なので、 このような場合は水道水をタンクに一夜貯め置きして塩素分を蒸散させて使用すると解決できる。

    ◆硝酸加里(KNO3)の使用ポイント
     硝酸根(NO3)のNはアミノ酸や蛋白質の重要な部分を占める元素であり、 健全で美味しい作物を作るっためには不可欠の要素である。それ故に肥料の3大要素として最重要視されているのは周知の通りである。私達は土耕栽培において有機物を取り入れるために堆肥を使用することが多い。その必要量は大体乾物なら3トン〜湿ったもので6トンを投与する。その際、例えば牛糞堆肥(窒素分1.8%、水分84.3%)3.000 〜 6.000kgを使った場合ならアンモニア態や硝酸態の全窒素として約8.5kg〜16.9kgが補給された事になる。これで窒素分は、もともと圃場に存在する窒素と合わせると充分過ぎるくらい投与されたわけだが、このケースで新たに窒素分を補給すれば、反って過剰になり危険である。従って、このケースで加里を投与したい場合には、塩素を含む塩化加里または硫酸根を含む硫酸加里で補給すべきである。但し、堆肥には加里分を4%、つまり成分として18.8kg〜37.6kgの加里を含んでいるので、その扱いについては十分考慮しなければならない。

    他方、堆肥を使用しない場合や使用量が少なかった場合もある。このようなケースでは作物に直ぐに吸収される即効性の窒素分が必要であり、アンモニア⇒硝酸と変化していく過程が必要なアンモニア態窒素は使い難く、 直ぐに吸収できる形の硝酸態窒素を含む加里で与えるのが賢明ある。つまり、高価ではあるが硝酸加里を使う必要がある。

    ◆硫酸加里(K2SO4)の使用ポイント
     硫酸根の硫黄(S)は必須元素である。Sは通常、硫酸苦土や硫酸加里を使用しておけば欠乏を来たすことはない。それ故、双方の肥料を施したときには必然的に硫黄分が投入されるため、さほど議論をされない元素である。 しかし、この硫黄はアミノ酸やビタミンを作る際の重要な元素でもある。

    加里分の補給には、硫酸根の補給ができ、しかも、硫酸加里はその成分が54.1%と多いことと安価だし、使用するには最適である。このとき、塩化加里でも加里の補給はできるが、それは塩素の補給が必要なときに使用する。 また、硝酸加里は高価なのが難点である。そのような使い方をしていただきたい。

    欠乏が出易い硫黄(S)の限界値は、、、
     全硫黄として ・・・20mg/乾土100g=20kg/10a
               (土壌20gに純水50gを加えて2000回以上の振とうした後、No.5-A濾紙で濾過し、その濾過液に対し硫黄分の定量分析を行う)
     有効態硫黄 ・・・・0.3mg/乾土100g=300g/10a
              (酢酸ナトリウム液による抽出法により分析する)

    『加里のまとめ』
    ・加里分の補給には硫酸加里を使用するのが賢明である。(安価であり、硫酸根の補給が出来て、加里成分が54.1%と多い)
    ・塩化加里は塩素の補給が必要なとき使用する。
    ・硝酸加里は高価である。(加里と窒素を急速に補給したいとき使用する)


    10) 肥料(石灰)

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    特   記
    10 肥 料
    (石灰)
    (4)
    (27)
    (29)
    (30)
  • 硝酸石灰
     NO3:11.8%
     CaO:23.6%
  • 炭酸石灰
     CaO:53.0%
  • 炭酸苦土石灰
     CaO:53.0%
     MgO:5〜15%
  • 塩化石灰
     CaO:38.3%
  • 過燐酸石灰
     P2O5:16.5〜19.0%
     CaO:28.0%
  •  などを目的に応じて使い分ける
    ×消石灰
    (高いpHと圃場の固化)

    ×生石灰
    (高pH、熱を発する)

    △硫酸石灰
    (石膏=難溶。水を含むと固くなる。ギブス・ブロンズ像を作る時に使う)

    △有機石灰(難溶)
  • ペクチンと反応し果肉の基となる中層を形成⇒果がしっかりして重たくなる

  • * 有機石灰とは、
    牡蠣・貝殻(炭酸石灰分)
    価格:2.000〜3,000/20kg

    * 炭酸石灰とは、
    古代の貝殻・サンゴの化石
    価格:400〜500/20kg

     医学ではカルシウム(Ca)という要素については、比較的重要視されて議論されていると思う。例えば、Caが欠乏すると骨粗しょう症になって骨折し易くなるとか、人体の細胞の間はコラーゲンという物質で結ばれ、 Caの働きはこのコラーゲンを丈夫にして癌の細胞が入り込めないようにするとされている。また、わたしもお世話になって服用している血圧の降圧剤です。血管壁の細胞にCaが流入すると血管が収縮し血圧が上がる。そのCaが細胞内に入るのを抑え、 その結果血管が広がり血圧を下げる。いわゆるカルシウム拮抗剤といわれるもの(“おくすり110番”から引用)。このようなことを根拠にCaと向き合っている。 ねずみの実験ではCaを充分に与えて、そのねずみに癌細胞を移植しても癌が発生しなかったという報告もある。また、Caは出血時の血液を凝固させ、また、ちょっとした事でいらいらすると言ったような神経刺激の調整にも影響しているとしている。 特に、我々の成長期にはCa成分の多い小魚や煮干を頭から食べなさいとか良く言われたものである。現在は検査方法が発達しており、欠乏の症状を感じれば医療機関で検査をして、欠乏気味の場合には医者が薬を処方してくれる。

     一方、農業界における石灰は、一応の認識はされているものの、その重要性に対する認識度は薄いと思わざるをえない。窒素(N)・リン酸(P)・加里(K)は3大要素として配合肥料などで常に投与しているものの、 このカルシウム(Ca)については本当に大切な要素として意識している農家は少なく、仮に投与している農家でも全く不足気味となっている。そのために高度の栽培技術を持った農家でも収量が伸びないと悩んでいる農家は少なくない。 また、この収量減の原因には、このCaの不足が大きく起因していると考えている農家および指導者は少ないようだ。Caは収量に大きく関与する要素だからNPKの三要素以上に考慮しないといけないと思うし、 Caが単なるpH調整だけではないということを認識しておく必要がある。特に、pHの調整なら成分の多い消石灰で良い、というような短絡的な思考に私は懸念している。

    ここに土壌分析の資料があるので参考にされたい。ほとんどの農家で石灰欠乏が目立つ、話を聞けば石灰など与えた事がないという。その結果の石灰の数値(印部)である。

    表−@  分析結果表 (分析日:2008年08月14日) <分析者 : 中隈水質土壌分析室>
    単位 mg/乾土100g(≒kg/10a)
      酸 度
    (pH)
    アンモニア
    (NH4-N)
    硝酸
    (NO3-N)
    全リン酸
    (P2O5)
    加里
    (K2O)
    石灰
    (CaO)
    苦土
    (MgO)
    可給態鉄
    (Fe)
    苺−S・T@ 5.3 5.1 5.0 234.5 161.3 106.3 81.6 0.07
    苺−S・TA 5.1 4.0 10.1 257.0 173.4 100.7 82.6 0.08
    苺−T・K@ 4.9 5.5 1.9 176.0 28.9 148.2 62.7 0.15
    苺−K・K@ 5.0 4.7 2.0 97.0 4.2 72.4 8.6 0.14
    トマト-I・H@ 5.2 4.9 3.4 141.0 27.1 134.3 37.6 0.29
    欠乏   1.0 30 5.0 280 20  
    標準 6.0〜6.2 2〜3 30 50 50 320 30 2.7
    過剰   4.2 35 58.2 75.1 380.8 36  
    極限量   2〜3 40 60 80 400 40  

     近年では、この農業界も土壌の分析をして土壌の管理をすることが多くなった。しかし、この石灰(CaO)の数値については、この上表では精密分析でしているので数値的には問題は生じないと思うが、現行の分析はそのほとんどが簡易分析法なので数値は不正確極まりない。その場合の数値は、上表と比較すれば2〜3倍くらいの数値になるものと思われる。それゆえ、分析値としては到底採用することが出来ない。また、CaO分を追肥したとしても、そこでは消石灰を使ったりするので土壌のpHを高めすぎたり注)−@、土壌を硬くするようなことが見受けられる。同じように、苦土分が不要な場合でも苦土石灰を投与するので苦土過剰を来たした重たい土壌となり、病気の発生率を高めているケースが多い。
      注)−@ 消石灰 3g + pH6.38の井戸水1g ⇒ pH12.43の水 となる。

    植物と石灰
    植物に於けるカルシウムの存在は葉や茎に多く、種子や果実には比較的少ないといわれている。

    石灰はペクチン酸と化合してペクチン酸石灰となり細胞と細胞の間に存在してその細胞を接合し、細胞の中に存在する液(原形質液)が外に漏れ出るのを防止する役目をしている。このペクチン酸石灰のことを中葉または中層と呼んでいる。また、ペクチン酸は果実の熟成過程で重要な役割をしており、果実生長の初期には不溶性で、成熟が進むと共に可溶性に変じて柔軟になる。

    石灰が欠乏すると中葉の形成は不充分となり細胞と細胞の接合は緩む。そのうえ細胞の分裂は鈍化し、根や新芽の生長点は破壊されて黄化する。更に、次第に褐変し、壊死してしまう。動物体内での石灰は骨格をつくり(主成分はリン酸カルシウム)、 例えば人では、石灰が欠乏すれば腰が曲がり骨折し易くなる。このように石灰の欠乏は植物でも動物においても健康上の不具合な状態を来すこととなる。

     トマトやキュウリのように果を順次収穫していくと、収穫に比例して石灰が必要となる。その場合、石灰の葉面散布をするが、その散布剤には白濁しないものを選ぶ。葉に白濁したものが付着した状態では光合成が鈍化するので注意をする。 このようなケースでは水に容易に溶ける安価でしかも少し粘着力のある水溶性の塩化カルシウムを使うのが賢明である。また、塩素は害になるという人もいる。しかし、塩素は植物にとって必要な微量元素であり、これを使用したからといって、今までに害になった経験もないし、全く問題は生じていない(葉面散布濃度は全ての肥料で0.3%溶液=3kg/1000gとする)。但し、ブドウのようにブルームが表面に付いていないと商品価値が下がるもの、花や果実が汚れて品質が下がるものについては注意を要する。

    石灰について詳しくは、“植物と土壌に於ける石灰と苦土について”   のページへ
    石灰とアルカリ性の関係は、“アルカリ性の原因”   のページへ
    カルシウム欠乏と対策は、“カルシウム欠乏と対策”  のページを参照下さい。


    11) 肥料(苦土)

    項目 関連事項
    掲載ページ
    やるべき事 やってはいけない事
    又は、好ましくない事
    特   記
    11 肥 料
    (苦土)
    (4)
  • 炭酸苦土石灰
  • 塩化マグネシウム
  • 硫酸マグネシウム
  •  の使い分け
    苦土を用いると、、、、
  • 味が良くなると言う理由で多肥する

  • 結果、、、、
    過剰土壌となり障害が発生
      ⇒ 脱塩に苦労(流亡しにくい)
  • 葉緑体の核となる葉緑素を作る
  • 炭水化物代謝や蛋白質の合成などの生理作用を促す酵素に深く関与
  •  苦土肥料は使い方を誤ると大変厄介な要素成分である。苦土の必要標準量は30kg/10a、欠乏を来たす量は20kg以下、過剰の極限量は40kgである。つまり、下表−@(土壌中の肥料成分の欠乏・標準・過剰・極限量)で示すように、上限・下限の差20kgで栽培する必要がある。Mgが過剰となったので大量の水によって流亡させようと試みた。(表−Aは灌水と肥料流亡率 )

    表−@ 土壌中の肥料成分の欠乏・標準・過剰・極限量
    単位 mg/乾土100g(≒kg/10a)
      酸 度
    (pH)
    アンモニア
    (NH4-N)
    硝酸
    (NO3-N)
    全リン酸
    (P2O5)
    加里
    (K2O)
    石灰
    (CaO)
    苦土
    (MgO)
    可給態鉄
    (Fe)
    欠乏   1.0 30 5.0 280 20  
    標準 6.0〜6.2 2〜3 30 50 50 320 30 2.7
    過剰   4.2 35 58.2 75.1 380.8 36  
    極限量   2〜3 40 60 80 400 40  

     水はけの良いベンチ栽培で、坪当たり5トンの水を掛けてみた。結果、8.16%しか流亡してなかった。普通の圃場なら殆んど抜けないと考えた方が良い。このように大量の灌水を試みてもほとんど期待が出来ないのが苦土の除塩である。ついでながら、このことは加里肥料にも同じようなことがい言える。しかしながら、加里の欠乏からここまでは大丈夫という極限量までの範囲は5 〜 80kgとなっている。だから加里は少ない目にやっておけば良いと言うことにもなる。これに対して、Mgは非常に限られた範囲で投与しないと直ぐ過剰障害を来たすこととなる。

    表−A 灌水と肥料流亡率
    分析者:米澤農業研究所
    単位mg/乾土100g(≒Kg/10a)
    分 析 日 pH
    (KCl)
    アンモニア
    (NH4-N)
    硝酸
    (NO3-N)
    全リン酸
    (P2O5
    加里
    (K2O)
    石灰
    (CaO)
    苦土
    (MgO)
    53.01.07 A 5.78 9.41 47.36 721.02 63.58 462.99 49.39
    53.02.23 B 5.14 8.09 20.55 531.90 57.66 329.71 45.36
    流亡率 (A-B)/A% 14.02 56.61 26.23 9.31 28.79 8.16

     農家に配信される元肥の指針を見かける。この指針によると、ここは石灰分だけを補給したいのに苦土石灰200kgとある。この200kgという量を見て感じることは、元肥としての石灰の量なら“丁度良いかな”と思われる。しかし、苦土(苦土石灰のうちMgOの成分が10%とした場合)の量として見た場合、その処方では苦土分が20kg施されたことになるので、このケースでは残存量のMgOを考えるなら炭酸石灰100kgと苦土石灰100kgの200kgにして投与するのが正しいのではないか、つまりMgOは10kgの投与が良いのではないかと思われる。但し、苦土石灰5%分を使えと指定するのなら、これは正しいといえる。このような点が気にかかる。

    1作において、ほぼ完璧に収穫したときの苦土分の必要量を予測すると、作物によっても多少の差異はあると思うが、苺では概ね20 〜 30kg/10aとなっている(苺収穫の記録を参照)、これを硫酸苦土に換算すると ( 20 〜 30kg ÷ 16.4 % = )121.9 〜 182.9kg 、10%成分の苦土石灰なら( 30kg ÷ 10 % =)300kgである。

    表−Bは“トマトの礫耕栽培に於ける肥料の吸収に関する資料”である。ここでも苦土分は約30kgとなっており、苺の栽培とほぼ同じになることが理解できる。

     表−B トマトの礫耕栽培に於ける肥料の吸収試験データ
    分析者:米澤農業研究所
     栽培品種 @おおみや A強力米寿
     試験期間:S52年8月5日 〜 S53年7月10日までの長段栽培
     栽培状況:おおみや・・・20段,強力米寿・・・23段
    使用薬品名 施肥量 施肥成分量
    g/1株 kg/2500株 成分率(%) (kg)
    硝酸石灰 224.4 561.1 CaO:23.6
    NO3-N:11.8
    132.42
    66.20
    硝酸加里 160.0 400.0 K2O:46.6
    NO3-N:13.9
    186.40
    55.60
    硫酸加里 33.0 82.5 K2O:54.1 44.63
    硫酸苦土 75.0 187.5 MgO:16.4 30.75
    リン酸1アンモン 96.0 240.0 P2O5:61.7
    148.08
     表−C 収量
    分析者:米澤農業研究所
    品 種 名
    1株当りの重量(kg) 1株当りの個数 収量2500株(トン)
    おおみや 13.17 74.5 32.9
    強力米寿 12.74 89.9 31.8


    このように、いちごを6〜7トン収穫する農家、またトマトの栽培試験データの結果を見ても大体、上記で示した数字20〜30kgになる。ただし、施肥は収穫量に比例してその量を加減をしていかないと過剰になったり、 欠乏になったりするので注意をする。しかしながら、過去、農家での土壌分析を数多くおこなってきたが、その現状を見てみると、なんらかの項目で過剰になっている圃場が多い。特に、苦土では、“電気伝導度(EC)と施肥”の第1表と第2表の苦土の分析項目を見ていただきたい。32点の分析全てが過剰であることが良く分かる。

     どうしてこのような現状になったのか? 

    考えられることは・・・・
    @苦土石灰は、苦土(MgO)を含んでいるという認識がない。
    A問題なのは石灰を補給するなら『苦土石灰』だという認識しかない。
    B苦土は硫酸苦土という認識である。
    C石灰資材には炭酸石灰という単一石灰として、そしてpHが7.0という土壌にやさしい肥料があるのに、石灰分の補給をする場合の資材に炭酸石灰ではなく苦土分含有の苦土石灰を使ってしまい、結果的に苦土分が入り過剰になる。
    D苦土を用いると果実が美味しくなる、という誤った認識のためのに多投与する。
    Eその他
    ・消石灰は、pHが高すぎるという認識がない。
    ・消石灰は、土壌のpH調整に使うなら成分が多い方が良いという単純な認識。
    ・消石灰は白壁をつくるとき、土を固化する建材(漆喰材)であるという認識がない。
    ・硫酸石灰は、石膏だという認識がない。安価な炭酸石灰で良いのに高価な石膏材を勧められるまま使ってしまう。
    以上が、石灰資材を使ったときの不具合発生原因として考えられるので、考え方を整理してこの資材を用いていただきたい。

     つまり、多く見受けられるケースとして、苦土と石灰を元肥にする場合には苦土分は硫酸苦土を用い、石灰は苦土石灰で投与してしまう。これでは苦土分がダブって入ることになる。然も、石灰は1回当りの量が100〜200kgと大量になるので当然過剰になることが懸念される。このような時、私たちは苦土を含まない炭酸石灰が欲しくて、農協や業者に注文するも在庫が無く入手が困難である。その背景には、“石灰は苦土分を含まない炭酸カルシウムを施肥するという習慣がない”このようなことではないかと推察する次第である。

    葉の緑と苦土の働きについて (NHK『高校講座』のページ |2020年度 生物基礎|〜第5回光合成〜)

    葉緑素は
     a 型(緑 色)  C55H72O5N4Mg
     b 型(黄緑色)  C55H70O6N4Mg
       の化学式で示される通り、炭素55、水素72、酸素5、窒素4個の中にMgが1個含まれ、そのMgが核となって構成されている。

    葉緑素( クロロフィル:chlorophyll )
    ・ 植物や藻類、細菌に含まれる不可欠の緑色の色素で光合成に於いて中心的な役割を持つ。

    葉緑体( クロロプラスト:chloroplast )
    ・ 葉緑素を含む色素体で、光合成の全過程が行われる細胞の光合成器官である。
    ・ 高等植物の葉緑体は直径5μm、厚さ2〜3μmの円盤状で、 細胞当り数十個含まれている。

    ★ 苦土が欠乏すれば、植物の葉はどうして黄化するのか?

      T.葉緑素の模式図−@
    どうして葉は黄化するのか?@

    そのT.どうして葉は黄化するのか?

    葉緑素にはその分子式でも分かる通り、Mg原子が核となりその固体を形成している。Mgが欠乏すれば、葉緑素の構造は成り立たなくなり、その緑色は淡くなり、やがて黄色くなる。


      U.葉緑素の模式図−A
    どうして葉は黄化するのか?A

    そのU.どうして葉は黄化するのか?

    (石灰+苦土)+ペクチン酸 →→ 中層を形成している →
     → 細胞と細胞は中層で密着している →→ 細胞内液の流出を防止

    (石灰+苦土)が欠乏した場合 →→ 中層の消滅する →
     → 細胞内液が流出する →→ 葉緑体流出 →→ 葉は黄化する


    12) 微量要素

     
    項目
    関連事項
    掲載ページ
    やるべき事
    やってはいけない事
    又は、好ましくない事
    特   記
    12
    微量要素
    (5) (39)
    (37) (40)
    (38) (42)
  • 有機酸微量要素を使う
  • EDTAは使わない。
  •  (クエン酸回路が阻害される)
  • 酵素を活性化し植物代謝を良くする
  • 品質の向上
  •  微量要素には2通りの種類があることを認識して欲しい。
    1類目はエチレン・ジアミン四酢酸(EthyleneDiaminTetraacetic Acid キレート鉄の場合の分子式:C10H12H2O8NaFe・3H2O)と呼ばれ、略してEDTAと言っている。

    2類目はクエン酸鉄と呼ぶもので、これには鉄・銅・亜鉛・マンガン・モリブデン・(コバルト)の金属のほかホウ素を加え、更にクエン酸などの有機酸を加えてキレート化合させたものである。いわゆる、有機酸微量要素と呼ばれるもので、グリーンアップはここに属する。皆さんが肥料に糖蜜を加えたとか木酢液を加えたというのは、つまりは有機酸を加えたことになり、知らずのまま有機酸態の肥料を作っていたことになる。

    注)その昔、キレートは大変高価でとても農業では使えず、クエン酸鉄が主流だった。その後、EDTAが大量に生産されるようになって安価になり容易に使えるようになった。一方、農業では主に養液栽培において養液の中で酸化沈殿することもなく非常に安定した形で存在できるとされ、多く導入されるようになった。

     <クエン酸鉄の使い方のむつかしさ>
    今から約40年位前になるが、突然、私の所に水耕栽培の装置メーカーから電話があった。その担当者がいうには“我が社の設備を導入している農家から紹介を受けたのだが、御社の製造する微量要素を使うと元気になって調子が良いといっているので、当社でも使ってみたい”という。私は“この微量要素は有機酸態ですよ!”というと、即座に“有機酸は病気になるのでいらない”といって電話を切られてしまった。この有機酸は病気になりやすいというのは通説だったらしい。

     そこで、その言葉の意味を考えてみる。先ずは、下の写真を見ていただきたい。双方、同じように管理をしているにもかかわらず短期間でありながら苗の生長に差があることがおわかりであろう。

    写真−@ とまと << 生育のテスト >>(撮影日:’08年7月14日)
    微量要素の比較テスト。左側(黄色印)がEDTA、右側(赤色印)は有機酸微量要素(グリーンアップ)を使用した
    写真−A とまと << 生育のテスト >>(撮影日:’08年7月14日)
    とまとの苗。左はEDTAの葉面散布、右は有機酸微量要素の葉面散布。
    印 は大塚A・B液の培養液とし微量要素にはEDTAを使用。葉面散布にもその液肥を使用した。右側の 印は園試処方注>-@の液肥にグリーンアップ(トン当たり200cc)を使用した。ただし、トレーが一枚だけなので液肥は如雨露にてかけ流した。そこに、同じその液肥を葉面散布した。

    テストの開始は7月5日。これらの写真は9日後の7月14日の写真である。その差が確認できる。しかも、 印のトレーの苗は初期不良として廃棄したものをテストに使用したものである。つまり、不良苗だった。

    写真@の苗の写真。右側がグリーンアップを使った苗。良い苗とは言えないが、明らかに成長が早いのが判る。

    写真−B とまと << @の近視 >>(撮影日:’08年7月14日)
    とまとの苗。上部(黄印)はEDTAを使う。下部(赤印)は有機酸微量要素(グリーンアップ)を使用した。
    写真−C とまと << Aの定植直後 >>(撮影日:’08年7月18日)
    赤の境界から左がグリーンアップを使用。右はEDTAを使用したものを定植。
    7月14日の写真@を角度を変えて拡大。
    印の盛り上がった部分がグリーンアップと園試処方注>−@
    印はEDTAとA・B液処方注>−Aの液肥である。
    7月17日にベットに定植直後の写真(赤のナイロンテープが境界)。12日間でこれだけの差が生じる。

    注)− @ 硝酸石灰950g・硝酸加里810g・硫酸苦土500g・リン酸1アンモニウム155g・(グリーンアップ200cc/1トン当たり)
        A 大塚ハウスS1号1500g・ハウス2号1000g

     上記の写真を見ると、印の部分の苗はたっぷりと時間をかけて育った感じのする苗である。他方、有機酸微量要素を使った方の苗は生長が早いのがわかる。しかし、生長が早いと喜んではいられない。その理由は、肥培管理がその生長に対して十分ではなく、何れの写真を見てもカルシウムの欠乏が目立ち、徒長が進んでいる点である。

    つまり、管理者には、この速度の早い生長に対しての的確な肥培管理ができるかどうかという高度な技量が求められる。その栄養、とくに窒素やカルシウムがこのように不足しているのに気がつかず放置した場合このような徒長の現象を来たすのである。その重要なシグナルである生長点の黄化と緑色が薄れている症状を見極め、適格な施肥を行えばこの欠乏(ここではNとCaCa)は回避出来るのである。

    反対に、植物からのこの重要なシグナルを見逃して栄養を与えるタイミングを逸した場合、その植物は欠乏症を来たしてしまう。そして、更に放置した場合には、いよいよ重大事となって、見る人によってはこの過程と症状を病気として見てしまうのであろう。この写真−Bの 印の部分と 印の部分を比較して見ると 印の部分の成長点は極端なCaの欠乏を来たしている。このシグナルを察知して、タイミング良く即効性の硝酸石灰などを用いてこの症状を止めなければならないのであるが、そのタイミングを逸して放置した場合、窒素が不足するために蛋白質は合成されず、そのうえカルシウムも欠乏するので中層も形成されないこととなる。つまり、このようなケースにおける植物の姿は水だけで成長したような柔軟で、徒長した、日持ちのしない弱々しい作物となるのである。

    このようなまま栽培を続ければ、何れ病気と言う状況に突入してしまうのではなかろうか。この有機酸微量要素の利点を知らない方々は、このような欠乏状態が進行して、やがては二次的に病巣が宿るこの過程を“有機酸微量要素を使かったがために病気となった”という上述の通説の緒言なのではなかろうか?と察するのである。

    微量要素の概略は  “微量要素” のページへ
    微量要素の効果は  “グリーンアップの効果” のページへ
    有機酸微量要素は  “有機酸微量要素(グリーンアップ)” のページへ
    微量要素と植物について知りたい方は  “微量要素と植物” のページを参照下さい。


    13) 栽培環境

     
    項目
    関連事項
    掲載ページ
    やるべき事
    やってはいけない事
    又は、好ましくない事
    特   記
    13
    栽培環境
    (2)  <湿度>
  • 栽培環境は湿度80%以上を保つ
  •  <風速>
  • 風速0.2〜1.5m/s
     (光合成速度が上昇)
  •  <光条件>
  • 光飽和点までの光の量を確保する
  • 多すぎる光量は遮光し調整
     (葉緑体の光定位運動)

  • 過乾燥にしない
     (過乾燥では病気多発)
  • 植物に風を当てない
     (過乾燥の原因)

  • 光飽和点以上は生育を阻害⇒遮光

  • 湿度上昇は作物の最適温度を押上る
  • 適度の風速は光合成速度を速くする
  • 光量不足は節間が徒長して病弱となる
  • 葉緑体の光定位運動
     (クロロシスの発生⇒生理障害)

  •  この平成が終わろうとしている近年、大変な猛暑が続いている。地球温暖化の影響か?という意見もある。そのうえ、ここ10年くらい前から温室には防虫ネットを張り巡らせている施設が多くなってきた。しかし、それでは室内温度を必要以上に上昇させて作物を余計に疲れさせているのではないか?という問題を抱えたケースを多く見かけるようになった。この防虫ネットの目的は、施設栽培に於いて減農薬の推進を図るために害虫の侵入を防ごうとするものであって、それにより殺虫剤などの農薬の使用量をできるだけ少なくしようとするものである。そのため、その施設は出入口や天窓そして側窓などの従来なら十分に開口して自然の換気をしてきた箇所を制限しているわけである。そのように、冷気の流入を邪魔するようなネットを張り巡らした施設が大変多くなってきているが、そのためか、ハウス内は40℃を越すような乾燥室の状態である。このネットによる防虫対策は効果があるのかどうかということについては、私個人としては非常に疑問を抱いているのであるが、その議論は他所でやるとして、ここではその換気対策と湿度対策などをどのようにしたら良いのか考えてみたい。

     空気の出入り口に網などを付けた場合どのような影響があるのか?先ず、悪い影響として、それを施したことで、温室の換気効率は悪くなり室内温度は上昇して作物の栽培に悪影響を及ぼすことになる。逆に利点として、例えばガラス温室やビニールハウスの側窓を開いて自然または強制換気をした場合、側窓に近い部分の作物は外からの風の影響をまともに受ける。そうすると、作物は過乾燥になりウドン粉病やカビ病が蔓延する。一度検証してみていただきたい、出入口や側換気部分は意外と病気になる確率は高いのではないか。その原因は外からの風が直接作物に当たるからである。この網が防風ネットの役目をしてくれており意外とその乾燥をネットが和らげてくれているわけである。特に、強風の日はよいと思う。そこで、その利点は良いとして、その悪影響についてはもっと減農薬を推進できる方法はないものか、など模索してみる。

     そのようなことで、そのメッシュの網が温室の換気効率を減退させている。そのため、室内温度は上昇して作物の栽培に悪影響を及ぼすほどの温度上昇を来たし、春先からの温室栽培に苦慮している農家が大変多くなってきている。この防虫ネットという問題には、私は大いに疑問注)を持っている訳だが、何かもっとうまく減農薬を推進できないか、また何とか温度上昇に対しての解決法はないものかどうか、方法を模索してみる。

    注)温室外で強風を当て、衣服に付着した害虫を吹き飛ばす。そして、害虫の侵入防止のために増設した予備室に入る(二重ドアー)。つまり、温室はクリーンルームのような考え方をしないといけない。


     < 防虫ネットと薫煙剤 >

    @ その方法に対する疑問。そのネットは本当に機能しているのか?
     細目のネットを張っているにも関わらず、結構多くの害虫が侵入している事実。
     このような害虫の侵入に対して防御出来ていない現状であるにもかかわらず、ネットを張り巡らせて生産効率を犠牲にしていないか。

    A 仮に害虫が侵入した場合の駆除法。
     害虫の侵入原因:出入口の開閉時の侵入や被服に付着して侵入する。
     殺虫剤には、従来の散布剤(乳剤)を散布するのでなく、薫煙剤または薫蒸剤を使用する。
     この薫煙(蒸)剤は害虫を殺虫するのでなく、温室に侵入しないようにする。つまり、忌避、予防のために薫煙剤を使用する。

    殺虫の為の薫煙剤(DDVP)の使用量は、
    300m3に100g(1袋)が必要とある(農薬要覧から)。10aの温室(約4000m3)なら100gの袋が約14袋必要である。しかし、追い払う予防なら3袋もあれば良いと思われる。3袋を1週間に1度を、4回燻煙する。その後は近づけないためと追い出すために2袋/10a注)を2〜3週間に1回でよい。
    利点・・・・薫煙であるために野菜を洗浄すれば、農薬は簡単に洗い落とすことができる ⇒ 人体に大変やさしい。準備に手間が掛からず処理が簡単。

    害虫の駆除は、害虫を一度温室に入れると卵を産みつけてしまい、その完全な殺虫には卵が孵化するたびに行わなければならない。従って、それが孵化するたびに薫煙をすることになるので金額もかかる。一度殺虫に失敗すると最初の段階からやり直す必要がある。これはどういうことかというと、皆さんたちから、燻煙剤は効きが悪いということをよく聞かされる。詳しく伺うと、必ずしもそうではない。ダニは完全に駆除できている。ただ、一度しか殺虫を行っていないために、殺虫出来ていない卵が孵化して新たに新生のダニが飛び回っているのである。つまり、3回ぐらいは続ける必要がある。
     注)燻煙剤には、家庭用部屋ダニ剤があるので、このような製品も野菜ごとに使えるよう公的機関でテストしてもよいかな?と思われる。(市販品は量産効果で安価)

     

     < 換気 >
     換気扇
    換気扇を運転している間、空気は常に移動している。風速は0.2m〜1.2mくらいで流れている必要がある。葉の気孔は開いていても空気が動かない場合には、葉面境界注)という膜が葉と空気の間にできて、植物は気孔が開いていても体内に炭酸ガスを取り入れることができない。そのために光合成量は少なくなってくる。換気扇や攪拌扇による空気の移動には、炭酸ガス不足を解決する機能があり、その機能で炭酸ガスをより多く体内に取り込むことで、例えば、ぶどうでは色つきが良い、花では鮮明な色に仕上がるといったような声が聞かれる所以である。特に、花卉栽培での換気扇を導入は、花の色が鮮明になるという所以はそのような理由による。

    注)葉面境界とは、空気が葉の面を通過しようとする際には、葉と葉に触っている空気のとの間では空気の抵抗が生じている。その抵抗が滞留した空気との葉面の境界になっているということで、それを打破するには空気の流れを作ることが必要となる。そうすると、空気が葉の面を(舐めて)進むこととなり、炭酸ガスも連続して供給できるようになる。

    この夏場の暑さ対策には換気扇が必要と思われるし、その導入の利点も多い。この換気扇と換気窓を紹介する。
    換気扇を運転して夏場(概ね6月まで)を乗り越えようとするには換気扇は30坪に1台(吐出し量300m3/分が必要、300坪なら10台が必要となる。つまり3,000m3/分を吐出しなければならない。その他、換気扇の反対位置には冷気を吸入する吸気口(電動シャッター・吸気面積1u)が必要となる。吸気口は換気扇の1.5〜2.0倍の面積比で設置する。つまり15〜20台を設置しなければならないし、この換気扇と吸気口を連動した専用の自動制御盤が必要である。

    換気量の求め方、
    ◆ 換気量 =
    1.73×純放射量×ハウス面積 .
    m3/min.
    吸排気口温度差
    ◆ 1.73(定数)は空気密度または空気比熱のこと。

    ◆ 純放射量は、
    2〜4kcal/m2/min.
    春・秋 6〜8kcal/m2/min.
    6〜8kcal/m2/min.

    ◆ 吸排気口温度差について
    この温度差は一般的には6℃で考えます。つまり、換気扇を使っても外気温が30℃の時は、温室内は36℃になるということです。



    下記資料は羽径が100cmのファン特性表
    100cmファンの特性表

    一般的に静圧は2〜3mm/Aq(H2O)で考えます。
    私が産地の現場を訪問してよく見かけるのは、ファンは十分でも吸気口の費用を節約するためにベニヤ板で作って設置している農家がありました。よく見ると、開閉部になる板が重たいために5〜7cmくらいしか開口されていません。このようなことをしていると結局は、ビニールの重ね部や出入口の隙間から吸気をすることになります。これでは全く節約にはなっていません。ハウス内では空気の流れを考えたうえで温度むらをも考えることが大事なのです。ファンの機能を十分に発揮するなら、吸気口は計画通りの台数、つまり、十分に取付けるようにします。ファンは十分であっても、吸気面積が狭いと左の特性表のように5mm⇒7mm⇒9mmと吸気抵抗は多くなり、ハウスの静圧は段々うえの方の高圧部分に移動します(電気代も大幅に増えます)。そうすると、その交点の風量は大幅に減ってしまいます。この時、換気扇はスリップ(空回り)し、羽根は振動しながら回ります。そのため当然のことながら音も大きくなります。最悪、羽根がひび割れし破損することもあります。ビニールがいっぱい内側に引っ張られてはいませんか?吸気口はきちんとした台数を取付けるようにしてください。


    換気扇と攪拌扇は区別する
     ここで注意することは、温室内が暑いといって扇風機や最近流行のボルナルドファンやエアービーム・マザーファンといったような物を導入しようとする人がいる。この種のファンは攪拌扇といわれるもので換気をするものではない。つまり、温室内で暖かい空気をぐるぐる廻しても暑さの対策にはならない。必ず換気扇を使用する。

    写真−@ 換気扇の取り付け例 (撮影日:’09年05月09日)
    天窓の下に取り付けた換気扇

    天窓の直下に取り付けた換気扇。室温が低いときは天窓だけで自然換気をする。室温が上昇してきたら換気扇のスイッチが自動的に入り、天窓の強制換気が始まる。吸気は側面を開口して行う。(温度の設定例:天窓は25℃で全開、27℃で換気扇の運転が始まる)

    この方法では、ハウスの4面を使って吸気ができ、そのバランスもよい。温度のむらを大幅に少なくすることが出来る(温度の均衡加減は側窓の開度で調整する)。さらには、吸気に使う吸気口が不要になるので設備のコストも下がる。


    妻(換気)窓
     現状として、換気扇の設備がないハウスでは、夏場になると側面や妻面を捲り上げて吸排気の窓を開け、暑さを凌いでいる。しかし、春先まではその方法でも間に合うと思うが、梅雨明けの初夏から夏場に向かっての季節になると室温はもう40℃を超えるようになる。作物はそのような高温に耐えられないのは明らかで、植物の生理はストップしてしまう。そうなると被覆材を取除かなければならないということになる。しかし、それでは風の日もあるし、雨の日もある。作物はその影響を受けて傷んでしまう。それ以上に大変なのは天候ごとに行うその作業である。そこで、その解決法として提案できるのが、妻面の吸排気面積をもっと最大限に開口する方法である。現状として、妻面に窓枠資材などを取付けて対策はしているものの、これでは全然開口の面積が足りない。妻面の矢切の部分をもっと大きく開口する方法、これなら吸排気の温度差も“ゼロ”にできており、費用も少なくて効率の良い換気ができると思う。(暖かくなった空気は天井の裏面に集まるので、両方の妻面へ流れるように暖気の流れを作り妻上面を大きく開口して排気をする)

    写真−@ 換気窓 (撮影日:’12年08月03日)
    妻面に取り付けた換気窓

    この写真は、ふつ〜うに見かける換気方法。これでは不十分。上部に暖気が滞留する。出入口の部分にも防虫網を張って解放した方が良い。


    写真−A 換気窓 (撮影日:’12年07月18日)
    妻面を大解放

    換気窓がないので捲り上げた。ないよりはこれで良しと思うが、折角やるなら、、、、矢切部は全部開ける。完全に開口しないと排出の抵抗を作ることになり、その効率は大幅に低下することになる。更に、この換気窓は両褄面に施すこと。
    (注意)写真では出入り口が解放となっている。ここを開けたいのはやまやまだが、ここにはカーテンを垂らすか、防虫網を張っておくようにする。作物に風が直接当ると過乾燥となり傷んでしまう。

    施設園芸では、6〜8月の気候は換気扇でも室温制御はできない。やるなら、ミスト冷房が必要になる。この時期は、『雨よけのハウス』と考えたほうがよい。


    写真−B 換気窓 (撮影日:’12年07月26日
    妻面を大解放

    このように妻面に窓を開けるだけで、温室内の暖気はスムーズに室外に自然排出される。最上部を開けるとフェーン現象もなくなる。暖気は上に集まるので勢いよく抜け、温室内には冷たい外気が入ってくる。これで、室内温度は外気温+2℃とすることができ、夏場は常に37℃前後は維持できるようになった。もっと妻の上部の三角部(矢切または屋切部)はすべて剥ぎ取ったほうがもっと効果は高い。少なくとも外気温までは下げる必要がある。

    また、窓の内側にはカーテンなどを垂らして雨が入らないような対策をする必要があるかもしれないが、夏場の雨は、台風のような状態でない限り問題ない。冬場には開口面が閉じれるようにビニペットなどで窓枠を施すとよい。


    < 温度と湿度と光合成の関係 >
    冒頭で『ハウス内は40℃を越す(本来なら)“蒸し風呂”と表現するところを、敢えて“乾燥室”』と表現した。それは夏場の温室としては湿度が不足しているという意味である。夏場に何故、細霧システムが必要か、その根拠を説明する。下の表を見て頂きたい、

    表−1 キウリによる光合成速度の検証
    『 風と光合成 』矢吹萬壽著 農文協 から
    葉 温 相対湿度 光合成速度 備  考
    15℃ 60% 60%  
    80% 75%  
    25℃ 60% 75% 湿度60%なら25℃の方が15℃より勝っているので、25℃の方が適温
    80% 85%  
    35℃ 60% 78%  
    80% 86% 35℃の時、湿度を80%にすれば光合成は更に進む

    この検証で読み取れることは、湿度は80%としておくことが重要。しかしながら日本の農業では湿度が高いとカビ病が多くなるといい、寧ろ除湿をする傾向にある。そのような誤った考え方をことを根本的に考え直す必要がある。

     光合成はその化学変化式の通り、炭酸ガスと水と光エネルギーの合成変化である。にも関わらず、農家は果菜を美味しく作るため、その糖度だけを上昇さすことに懸命になっている。その為の手段として、その糖分を濃縮するために水を与えないか、与えてもその量を最小限にとどめて栽培しようとしている。(実際に美味しくするには窒素を還元変化させてアミノ酸の量を増やす必要があるのだが・・・)。また、その他与えない理由として、与えた水が室内の湿度を高くするため、病気の発生率が高くなるという間違った概念に基づいていることも大きな部分を占めている。

    光合成の化学変化式は、炭酸ガス + 水  光 > 炭水化物である。
    化学反応式は 6CO212H2O  葉緑素 + 太陽エネルギー( 686kcal)> C612O6 + 602↑ + 6H2O↑ と表す。

     この変化には水(H2O)が大きく作用していることを見誤ってはいけない。その為には根から十分に水分が取り込めるよう、土壌には適度の湿度が必要である。また、この水分は炭酸ガスや酸素・水分の出入り口である気孔の開閉の調整も行っている。植物体内に水分が十分にあることでその膨圧は高まり、気孔の開閉部は外側に湾曲して気孔は開く。反対に体内に水分が不足してくると膨圧は低下し、筋肉が緩んだように気孔は閉じる。植物はその動作を水分の調整で行っているのである。

     水分が不足した場合、植物は萎れる。萎れた植物は蒸散を止めるため気孔を閉じてしまう。結果、炭酸ガスも吸収できない。ここで光合成速度は極端に減じていく、という悪循環に陥って行く。表―1で特に注意すべきところは葉温度を15℃、25℃、35℃としている。この温度は、植物の環境温度ではない。葉温度つまり植物体の温度ことである。このことを間違えないよう、強調しておく。この表の注目すべきところは、室温が40℃であっても、この葉温が適温であることが重要なのである(室温が35℃であっても葉面散布などを行って植物体の温度を30℃にすることが大事)というところにある。その為には、その温室内の湿度は高く維持しておく必要があるということであり、今までいわれている“乾燥すれば病気が多い”というのとは全く相反するデータである。また、緊急時に葉面散布をするのは葉面からの蒸散を抑えると同時に、乾ききった植物体内に気孔から水を取り込ませ、更に濡れた葉面付着した水滴がその蒸発時に熱を奪い去る現象で葉温が降下することを期待した作業である。

     この表ー1は温室の中の湿度を60%と80%に設定して、葉の表面温度を変化させた時(温室の温度が高くなった時)、光合成速度つまり植物の疲れ具合はどのように変化するのか?ということを検証した画期的なデーターである。この表を見る限り、例えば冬場なら葉温(ここでは室温と考えてもよいだろう)を15℃に設定した上で、湿度を80%にしておけば70%の光合成速度を得られるということである。更に、高いレベルの光合成速度を求めるなら葉温度を25℃にすれば良いということである。これは、近年のようにオイルの単価が高いなど様々な要件を多面的に検討して最適温を決定すれば費用対効果も大きく期待できるのではないかと言うことである。他方夏場なら、35℃・湿度60%では78%の光合成速度であるが、その湿度を80%まで加湿した場合、適温25℃の時と同様に活性し出す。

    つまり、この表を参考にして四季折々の温度設定をするようにすれば大幅な省エネ効果が得られるということでもある。同様な考え方は、外気温度が上昇してきた場合の処置として相対湿度を上昇さすことによって疲れを大幅に回避できるということでもある。

      
    『夏場の植物は高温のため蒸散作用も最大となる。この時の植物の状態は根の水分供給だけでは不足し、大変な過乾燥状態にさらされる。このような場合には、葉面散布を繰り返して蒸散を抑えながら葉面からも植物に水分を与える必要がある。』


    < 風と風速 >
     植物の葉面には気孔という、人間に例えれば口に相当するものがある。植物はこの気孔から水分を発(蒸散作用)する。この蒸散作用で植物は体液(細胞液)の浸透圧を高め、その力で根から水分とその水分に含まれる栄養素の補給をする(その浸透圧は1.2〜1.5気圧が最適と言われている)。同時に、この気孔は二酸化炭素を取入れたりする所でもある、植物は体内に取込んだ二酸化炭素と水と葉で受けた光エネルギーによって、糖と言われる物質(炭水化物)の生産を行いながら酸素を放出している。そして、その糖を分解し合成を繰り返しながら代謝をして生命を維持している。これが“クエン酸回路”といわれる植物の代謝である。この代謝は光の強度や温度によっても変わるもので、光の量が強なればそれに比例して二酸化炭素の量を増やしてやる必要がある。この気孔はうまく出来ていて、その光の強度に応じて気孔の開閉面積は調節されようになっており、その吸引量を調節するようになっている。

    ところが、人は自力で酸素を吸引する事が出来るが、植物は自力で吸引する事が出来ない、そこで風の力を借ることになる。葉と空気の間には僅かだが風が吹くと摩擦抵抗が生じている(摩擦によって生じる空気の滞留層、この層が葉を包んでいる=葉面境界層という)、無風の場合若しくは、無風に近い状態では気孔は開いていても、植物は二酸化炭素を取り入れることは出来ない、人ならば手で口を塞がれ窒息の状態である。その問題点を解決する風速が0.2〜1.0mm/秒という訳なのである。これ以上の風速になると植物は過乾燥になり、反って生育不良に陥る。

    更に、詳しいことを知りたい人は『風と光合成』矢吹萬壽著 農文協出版などがあります。

    図−A『カーネーションハウス栽培における炭酸ガス濃度の変化』
    この表から察すれば、夜明け前から炭酸ガスをたっぷり蓄えて、日の出と同時にその供給をを開始することがポイントのようです。

    大気の炭酸ガスの濃度は350ppm前後といわれている。夜明けと同時に呼吸が盛んになっているのを示す。このハウス内のCO2濃度はAM8時位から減少し始め、PM2時で最低濃度120ppm位となっている。


    図−B『ハウストマト栽培における炭酸ガス濃度の変化』
    この表から察すれば、トマトは日の出と同時に猛烈に吸収を開始するので炭酸ガス発生機を導入して、夜明け前から充分に蓄えておく必要がある。

    この時期の日本の日の出は概ね7時前後、日の出と同時に温室内の炭酸ガスは一斉に下がり始める。その濃度は9時には140ppmまで降下している。そして、室温が上昇してくると天窓は開き、温室内の空気が入れ替わり始める。と同時に、炭酸ガスも増加し始める。この間、大気並みの量を維持するには、炭酸ガス発生器は必要なことが理解できる。そして、夜明け前にはその炭酸ガス発生器をフル運転してハウス内にCO2を充満させておくことが重要。


    図−C『ハウストマト栽培における炭酸ガス濃度の変化』
    この表から察すれば、トマトは日の出と同時に猛烈に吸収を開始するので炭酸ガス発生機を導入して、夜明け前から充分に蓄えておく必要がある。

    第5花房開花時の炭酸ガス濃度。朝6〜7時のハウス内の炭酸ガス濃度が400ppm以上となっているのは、夜間の植物の呼吸と土壌微生物による土壌呼吸によるもの。

    注)農電研とは、財団法人 電力中央研究所 農電研究所 のこと。電力9社と電源開発会社の出資による設立された組織。


    < 光条件 >
     ハウスなどの施設で作物を栽培している農家に行くと、ハウス内が暑いから、または昼間作物が萎れるからなどとの理由で一日中寒冷紗で覆ったままにしたり、屋根裏面に石灰剤を塗布するなどの遮光をしているケースを良く見かける。これは光強度を無視した状態であって、例えば、トマトを栽培しているのに、その光強度がみつばの栽培程度の光強度しか無いとする。これではトマトは徒長をしてしまい病弱なものとなる。

    作物が萎れるという症状は、根本的には土作りから見直しをすべきで、暑いと言うだけの理由で遮光するのは良くない。遮光をする場合には作物に影響がないよう、表−6、7を参考にして調整をする。それが『光の飽和点と補償点』という理論である。これは我々は高校生物の教科で習っている。

    日本の夏の光強度は10〜12万Luxとされている。また冬では1/10に弱まり1〜2月の高知・静岡で3〜5万Lux、関東圏では1.5万Lux位である。他方、作物の必要な光の強度は、トマトを例にとると7万Luxといわれている。そこで、この夏場の(10〜12万)から7万を引くと3〜5万Luxが余分のエネルギーとなる。

    このエネルギーはただ単に熱を発しているだけの余分なエネルギーと考えても良く、遮光率を定めて覆をした方が良い。ここでは30〜40%カットの寒冷紗または遮光ネットを使用する。処が、曇天の具合や太陽の傾きによって強度は変化してくる訳であるから、展張したままではなく、逐次その強度に合わせて調整をする必要がある。

     表−6       ハウス作物の光飽和点
    Klux 作   物   名
    80 西 瓜 さといも    
    70 とまと      
    55 か ぶ メロン きうり  
    45 かぼちゃ セルリー    
    40 ブドウ(巨峰) 桃(白鳳) 梨(幸水) いちじく
    35 はくさい かんらん な す えんどう
    30 ピーマン 唐辛子    
    25 いんげん レタス    
    20 ふ き 茗 荷 みつば いちご
    15 シクラメン      
    10 シンピジウム プリムラ セントポーリア  
     表−7       ハウス作物の光補償点
    Klux 作   物    名  
    4.0 か ぶ 西 瓜 さといも  
    3.0 とまと      
    2.0 かんらん なす きうり えんどう
    セルリー ふき はくさい レタス
    1.5 かぼちゃ ピーマン いんげん 唐辛子
    1.0 ふ き 茗 荷 みつば いちじく
    0.5 セントポーリア      
    0.4 プリムラ ブドウ(巨峰)    
    0.3 梨(幸水) シンピジウム シクラメン  
    0.2 桃(白鳳)      
    照度(lux)と光合成放射束密度(Wm-2)の単位換算へ


    < 光合成と環境条件 >
     光合成は、光エネルギーをとり入れて行う化学反応であるから、光の強弱、温度の高低、二酸化酸素の濃度によって影響される。

    光合成と光の強さ
     常温(10〜30℃)のもとで、二酸化炭素が十分にあるとき、緑色植物に暗黒の状態から次第に光を強く当てていくと、暗黒では二酸化炭素が放出されているが、光が強くなるに従ってその放出量は減少して、a点でゼロになってしまう。それ以後は、吸収の方が比例的に多くなって行く。そのときの状態をグラフに表したのが図−Cの点線(A)の曲線である。

    緑色植物は光合成とともに、常に呼吸を行っている。直線の(B)は光の強さを示している。a点は光合成による二酸化炭素の呼吸量と、呼吸による放出量が一致する点で、このときの光の強さを補償点という。b点では光合成量が最大に達していて、それ以上の増加は見られない。このときの光の強さを光飽和点という。

     本来、この植物の光合成による二酸化炭素の吸収量のグラフは、曲線(C)になる筈である。しかし、直線(B)の呼吸(暗黒の状態ではCO2を放出)があるために結果としての曲線(A)つまり図−Bとなる。

    図−B 光合成速度と呼吸速度-1
    光合成速度と呼吸速度
    図−C 光合成速度と呼吸速度-2
    光合成速度と呼吸速度


    < 葉緑体の光定位運動 >
     植物は、光飽和点程度の適量の光の強さであればよく成長をするが、夏の季節のようにその強度が強すぎる場合、植物に存在する葉緑体は回避行動をとろうとする。例えば、木もれ日の射す場所で生息するミツバ(光飽和点20Klux)を春先から夏にかけて覆いをしないで栽培すれば、必ず葉っぱにクロロシスが発生する。この不具合状態のときのようすが葉緑体の回避行動時のようすである。そのようなとき、寒冷紗などで遮光をしてやれば回復をする。これは多くの作物で見受けられる症状であるが、その葉緑体は細胞壁側へ回避してしまう。そのような行動を葉緑体の光定位運動といっている。従って、光強度の調整は、温度の調整などと同じように最適の状態に調整しておく必要がある。

     写真−C みつば 撮影:16年 4月15日
    みつば
     写真−D みつば 撮影:16年 5月 8日
    みつば
    ミツバは木陰の沢などのように薄暗い場所を好んで生息する作物です。その光飽和点は2kluxと言われています。確認テストを行いました。
    葉っぱは、お椀のように内側に巻き込みクロロシスが見えます。
    遮光率50%のネットで覆いました。このように葉っぱの反りはなくなり、緑も回復しています。遮光の必要性は大いにあるようです。その差が顕著に感じ取れます。


    葉緑体の光定位運動の模式図 (資料:放送大学『植物の科学:第9回 形態の可塑性』 から引用)

    葉緑体の光定位運動の模式図
    光が強ければ細胞壁の方へ移動し身を守ろうと行動する。弱い光のところでは、葉緑体は光を効率的に取り込もうと分散する


     どうしてこのような行動を起こすのか?

     葉っぱに直射日光が強く当たると、光合成で炭水化物を作るだけではそのエネルギーを使いきれない。余ったエネルギー(光飽和点以上のエネルギー)は余分なエネルギーとなり、反って葉焼けを来すことになる。 そのため葉緑素はその害を回避しようと適切な場所に移動しようとする。

     つまり、光が強ければ葉緑体はその陽射しを避けようとし、弱くなればまた光源に集まろうとする。弱すぎればもっと光を得ようと陽に向かって背高く伸びようとする(その場合、光合成量が足りないので徒長する=温・湿度と栄養と光量は相関関係が大いにある)。

    光合成に関するWeb
    植物の生活“光合成” NHK高校講座|生物|光をめぐる競争 〜植物たちの戦略〜
      NHK高校講座|理科総合|〜光合成と地球環境〜


     14) 全体的な管理

     
    項目
    関連事項
    掲載ページ
    やるべき事
    やってはいけない事
    又は、好ましくない事
    特   記
    14 全体的
    な管理
    (2)
  • 土壌分析で管理⇒標準値に修正
  • 要素欠乏にしない(相助効果)
  • 土壌pHはH2Oを採用する
  • 肥料を入れすぎない
  • 浸透圧に悪影響
  • 拮抗作用の懸念
  • トベネックの樽の法則を遵守
  • 養分のバランスが重要⇒標準値にする
  • 無理に<石灰/苦土>比,<苦土/加里>比を合わせない⇒根の浸透圧の方が重要
  • < 土壌分析による管理 >
     全体的な管理の中で先ず、優先的にすべきことは“土作りである”。この土作りを経験に基づいて行おうと思っても、中々やれるものではない。その解決方法が土壌分析である。圃場の状態を数値化しておくことである。その数値化したデータに基づいて不足した成分だけを投与つまり施肥していくわけだからそこに間違いは生じない。しかしながら、分析の方法土壌サンプルの採取法が間違っていれば、正確な数値は得られない。このような不正確な方法で分析をすれば、反って危険な処置になってしまう。参考の為に、その失敗例をお披露目する。そのときの土壌分析結果(サンプル@が対象物)は、、、、、

     表−@ 分析結果表 <分析日:1989年 4月30日>
    単位 mg/乾土100g(≒kg/10a)
      酸 度
    (pH)
    アンモニア
    (NH4-N)
    硝酸
    (NO3-N)
    全リン酸
    (P2O5)
    加里
    (K2O)
    石灰
    (CaO)
    苦土
    (MgO)
    可給態鉄
    (Fe)
    標準 6.0〜6.2 2〜3/td> 30 50 50 320 30 2.7
    サンプル@
    Ca大欠乏
    6.7 5.07 12.0 307.22 42.23 171.16 22.17 0.48
    @の不足量
    Caを追肥
    --- 4.76 4.76 0.00 8.1 150.00 8.00 ---
    予備サンプルにて
    再分析
    --- --- --- --- --- 378.81 50.40 ---
    実際の修正値
    Ca大過剰
    --- 9.83 16.76 307.22 50.33 528.81 58.40 ---
    分析者:米沢農業研究所

     石灰の極限量の400kgを大きく超え、528.81kgとなった途端に昼間萎凋するようになった例である。

    土壌分析の結果表では、石灰の分析値は171.16kgであった。不足量は標準値の320kgをマイナスすれば約150kgとなる。そこで、その量を追肥した訳だが、どうも生育がおかしいという事で調査し、失敗に気が付く。予め保存しておいた予備サンプル注)−1で再分析した処378.81kgと検出したのである。“しまった、追肥が多すぎた”つまり、石灰量が530kgとなったわけである。昼間萎凋する筈である。

    注)−1 検体物としての土壌は、今回のように再分析する事があるので予め多く乾燥して二つに分け、一つを分析に、もう一つは一定期間保存をする。

    写真−@ 石灰過剰の為に昼間萎凋
    石灰過剰の為に昼間萎凋
     写真−A 石灰過剰の為に昼間萎凋
    石灰過剰の為に昼間萎凋

    この失敗の原因を実は私は少し予知していた。それは次の表に示す通りである。石灰と硝酸態窒素を特に見て頂きたい・・・

     表−A 分析結果表(pHから見た石灰量) <分析日:1989年 4月30日他>
    分析者:米沢農業研究所
    単位 mg/乾土100g(≒kg/10a)
      酸 度
    (pH)>
    アンモニア
    (NH4-N)
    硝酸
    (NO3-N)
    全リン酸
    (P2O5)
    加里
    (K2O)
    石灰
    (CaO)
    苦土
    (MgO)
    可給態鉄
    (Fe)
    標準値 6.20 1 20.00 50.00 50.00 320.00 30 2.70
    サンプルB 6.66 7.79 21.01 277.77 67.21 373.20 66.53 0.36
    再分析C 6.70 5.07 12.00 307.22 42.23 378.81 50.40 0.48
    サンプル@ 6.70 5.07 12.00 307.22 42.23 171.16 22.17 0.48
    サンプルD 7.02 1.29  9.80 451.77 58.29 371.79 73.58 0
    サンプルE 7.07 1.22 14.54 334.03 56.18 373.19 45.36 0
    サンプルA 7.10 4.41 22.68 159.52 77.42 179.58 18.14 0.60

     表−AはpHから検討した石灰の量である。この表によると、問題のサンプル@はpHに対し、石灰量の量が少なすぎる。過去の分析表で類似参考にできるものを列記したが、これと対比するとpHが6.7なら350〜380kgが妥当な所。サンプルAは同時に分析した土壌(この分も少ない値である)。

     表−B 分析結果表(石灰から見たpH) <分析日:1989年 4月30日他>
    分析者:米沢農業研究所
    単位 mg/乾土100g(≒kg/10a)
      酸 度
    (pH)
    アンモニア
    (NH4-N)
    硝酸
    (NO3-N)
    全リン酸
    (P2O5)
    加里
    (K2O)
    石灰
    (CaO)
    苦土
    (MgO)
    可給態鉄
    (Fe)
    標準値 6.20 1 20.00 50.00 50.00 320.00 30 2.70
    サンプルE 4.28 2.59 1.13 59.14 15.24 157.13 44.35 0.56
    サンプル@ 6.70 5.07 12.00 307.22 42.23 171.16 22.17 0.48
    サンプルB 5.51 5.66 6.54 236.40 41.86 176.78 42.34 0.14
    サンプルA 7.10 4.41 22.68 159.52 77.42 179.58 18.14 0.60
    サンプルD 5.95 1.03 3.20 67.90 38.70 196.42 26.20 0.24
    サンプルC 5.71 1.65 1.46 223.42 39.88 202.73 27.72 0.17

    表−Bは石灰量から検討したpHである。問題のサンプル@は石灰量の割合に対し、pHが高すぎる。過去の分析表で類似参考にできるものを列記したが、この資料と対比すると石灰量が171.6kgならpHは5.2前後が妥当な所。サンプルAはpHをさげる硝酸が22.68kgと多いからpH5.0位が妥当なpHだろう。

    石灰欠乏時の症状について
     昭和57年、琵琶湖の東岸にある水田にトマト栽培のハウスを建設した際、その初回栽培時の土壌分析があるので開示をする。
    各々の農家は、水田稲作圃場に対してはあまり肥料を投入したがらない傾向にある。分析をしてみるとそのことが読み取れる。

     一枚の田んぼに300坪のビニールハウスを2棟建設した。1棟には土壌の修正を、もう1棟のハウスの方は放置して定植した。
    結果、、、、

     表−C 写真−B・C(とまと)
    分析者:ナガサト産業(株)分析室
    単位 mg/乾土100g(≒kg/10a)
    分 析 日 酸 度
    (pH)
    アンモニア
    (NH4-N)
    硝酸
    (NO3-N)
    全リン酸
    (P2O5)
    加里
    (K2O)
    石灰
    (CaO)
    苦土
    (MgO)
    可給態鉄
    (Fe)
    1982年2月27日
    4.98 6.62 1.13 70.92 10.59 92.60 31.65 2.73
    欠乏   1.0 30 5.0 280 20  
    標準 6.0〜6.2 2〜3 30 50 50 320 30 2.7
    過剰   4.2 35 58.2 75.1 380.8 36  
    極限量   2〜3 40 60 80 400 40  

    写真−B とまと <撮影:'82年3月>
    とまと

    永年の間、水田だったところにハウスを建ててトマトを定植した。過去には石灰など施肥したことはないという。定植前の分析値である。(本人曰く、当圃場には、写真ーCの圃場よりは出来の良い苗を選抜した植えたという)

     表−D 写真−Bのとまと) 分析者:ナガサト産業(株)
    参考:EC 0.08 '82/02/27 欠乏値 標準値
    酸 度(pH=Kcl) 4.98   6.0〜6.2
    アンモニア(NH4-N) 6.62 1.0 2〜3
    硝酸(NO3-N)p 1.13 30
    全リン酸(P2O5) 70.92 30 50
    加里(K2O) 10.59 5.0 50
    石灰(CaO) 92.60 280 320
    苦土(MgO) 31.65 20 30
    可給態鉄(Fe) 0.52    
    単位 mg/乾土100g(≒kg/10a)

    写真−C とまと <撮影:'82年3月>
    とまと

    うえ圃場を修正する。

     表−E 写真−Bの修正土壌
      '82/02/27 施肥量 修正値 標準値 肥料名 (kg)
    酸 度(pH=Kcl) 4.98     6〜6.2  
    アンモニア(NH4-N) 6.62     2〜3  
    硝酸(NO3-N) 1.13 5.56 6.69 30 硝酸加里 40kg
    全リン酸(P2O5) 70.92     50  
    加里(K2O) 10.59 18.64
    16.23
    45.46 50 硫酸加里
    60kg
    石灰(CaO) 92.60 233.2 325.8 350 苦土石灰
    440kg
    苦土(MgO) 31.65 44 75.65 30
    可給態鉄(Fe) 0.52 2.7 2.7 2.7 微量要素
    単位 mg/乾土100g(≒kg/10a)

    残りの良くない苗を植えたにもかかわらず見事に回復して、その差が歴然と判別ができる。写真−Bにも直ぐに追肥したという。


    参考)
    土壌pHの矯正をする場合に、その石灰をどの位施用すべきかを決定するのに緩衝曲線図を用いる方法がある。この図は一定量の土壌に種々の量のCaを加え、その時のpHを計測して曲線図にしたものである。

    図−@
    『緩衝曲線図』
    (土壌・肥料・植物栄養事典:博友社から)

    その図によると、pH6.5は土壌10gに対してその係数は0.005gである。従って、炭酸カルシウム(成分50%)を加えた場合、

    0.005g × 300,000,000/10g(表土30cm) × 100/50 = 300,000g = 300kg という式が成り立つ

     つまり、30cmの表土に対して、その仮比重を1.0とした場合の土の重量は300,000,000g(300トン)となる。そこに炭酸カルシウムまたは炭酸苦土石灰(100/50=成分50%)を300kg加えればpHが6.5となり、そこにpHを下げる要因の硝酸態窒素が加わるのでpHは0.3〜0.5下降し6.0〜6.2になる。逆に、pH上昇要因のアンモニア態窒素が加わればpHは上昇して6.7〜6.9位になるということである。

    私たちが用いている分析表の石灰の標準量は300〜340kg/10a(≒乾土100g)としている。このことから考えると、CaO300kgは炭酸カルシウム600kgのことである。つまり、上の計算からすると、その炭酸カルシウム(苦土石灰)の量は表土30cm、比重は一般的に植物を育てるのに最適といわれている0.5くらいがその対象量である。

    上記の例のように、いかに正確に土壌サンプルを採取し、また分析法も簡易法ではなく、公定分析法による精密検定が最重要課題になるといったことがお分かりと思う。

    下に、土壌中の肥料成分の欠乏・標準・過剰・極限量を示す。最近はイオン交換容量とか、Ca/Mg比とかMg/K比とか是正する項目があるようだが、下記に示す分析項目で十分である。またECについては有機物の投入量によっても、またNaCl等によっても大きく変化するので、参考程度に考えておけば良い。

    < pH計測におけるH2O測定とKcl測定 >
     pHの表示にはH2O表示とKcl表示がある。H2Oは活性酸度のことであり、その抽出には純水または蒸留水を用いる。リトマス試験紙で測定するように被測定溶液に直接試薬を添加し、反応色にて比較したうえでその数値を読み取ることもできる(指示薬法)。 一方、Kclは置換性酸度と呼ばれるもので、抽出液に塩化カリ液を用いて電極で計測する。Kcl規定液を用いて水素(H+)原子と加里(K+)原子を交換させ、 その(K+)を検出する。このことを置換性酸度とか交換性酸度という。

    活性酸度:土壌中に遊離状態で存在する水素イオンの量のめやす。
    置換性酸度: 粘土や腐植のマイナス荷電に静電的に保持された水素イオンの量を反映する。塩基性イオンによる飽和度が低いほどpH(KCl)は低い。

     表−F H2OとKclの差を少ない順に列記した。
    pH測定におけるH2OとKclの差
    例えば、分析日140902圃場番号@はKclで6.7であってもH2O計測では7.3である。また、140811BはKclで6.4であってもH2O計測では6.8である。このような状態では生育が旺盛となったとき、H2O7.0を超えてしまう。そのときから不都合な状態に陥っていくことは必至である。つまり、このpHをH2Oで考えるべきか、Kclで考えるべきか、元肥による土作りの考え方を根本から見直さなければならないし、そのようなpH議論がなされていない。ついでながら、このTroug表はどちらで表示されているのかという議論・疑問もある。


    < 濃度障害と根と浸透圧 >
     上記のように、過度に肥料成分が入ってしまうと蒸散の多い昼間は写真−@、Aのように萎凋してしまう。これは土壌の肥料濃度が高くなり、それに比例して根からの水分の吸収が悪くなるからだ。この症状だけを見ると水分不足で萎れていると思うだろう。しかし違う、このような時に水を与えれば余計に肥料分は溶解し、さらに土壌の濃度は高くなる。

    このような場合の対処法は、10時と14時出来るなら15時くらいにもう一度、葉面散布をする。それで葉から蒸散で失われる水分を防止する。そして同時に、葉面から水分を供給するわけである。そのようなことを繰り返しながら肥料分が順次減少して行くのを待つのである。その時、作物は生長しているわけだから当然のこと養分も必要になる。特に、このようなケースではCaと微量要素が欠乏してくる。葉面散布の際、肥料を溶解して同時に散布すると良い。

    図−A 根と浸透圧

    肥料は浸透圧が2.2気圧以上になると必ず濃度障害を来し、0.5気圧以下となると肥料としての機能を果たさない。それは、必ず1.2気圧となるよう浸透圧の計算をしながら肥料は溶解すること。

    次に、下に示す表は、我々が45年も前から標準土壌として使っているものである。このデータで今も何ら問題がないので参考にされたい。

    表−G 土壌中の肥料成分の欠乏・標準・過剰・極限量
    単位 mg/乾土100g(≒kg/10a)
      酸 度
    (pH)
    アンモニア
    (NH4-N)p
    硝酸
    (NO3-N)p
    全リン酸
    (P2O5)p
    加里
    (K2O)p
    石灰
    (CaO)p
    苦土
    (MgO)p
    可給態鉄
    (Fe)p
    欠乏   1.0 30 5.0 280 20  
    標準 6.0〜6.2 2〜3 30 50 50 320 30 2.7
    過剰   4.2 35 58.2 75.1 380.8 36  
    極限量   2〜3 40 60 80 400 40  


    < 肥料成分の土壌中に於ける拮抗と相助現象について >
    1)拮抗とは
    拮抗を辞書で引くと、力・勢力がほぼ等しく、互いに張り合っている事とある。農業の業界では、ニアンスが少し違うようである。私達の場合は、例えば圃場に石灰が過分に存在した場合、苦土や加里などの要素が著しく阻害されると解釈されている。しかしながら、現象がはっきりと症状として現れる場合と、それほど現れない場合があるのも注意すべきところである。

    拮抗性を示す要素
    ・銅(Cu)
    カリウム(K) ・カルシウム(Ca) ・マグネシウム(Mg)      
    カルシウム(Ca) ・マグネシウム(Mg) ・カリウム(K) ・ホウ素(B) ・亜鉛(Zn) ・鉄(Fe)
    マグネシウム(Mg) ・カリウム(K) ・ホウ素(B)      
    アンモニウム(NH4 ・カルシウム(Ca) ・カリウム(K) ・モリブデン(Mo)    
    リン酸(P) ・カリウム(K) ・亜鉛(Zn) ・鉄(Fe)  
    塩素(Cl) ・リン酸(P)        
    鉄(Fe) ・マンガン(Mn) ・アンモニウム(NH4 ・硫酸(SO4    
    銅(Cu) ・鉄(Fe)        


    2)相助とは
    拮抗とは全く逆の現象で、相乗現象とも言う。このことは栽培期間中、もっとも歓迎すべき事柄であり、施肥方法もこの現象を最大限に利用できるよう努力し、また苦労もするわけである。

    相助性を示す要素
    カリウム(K) ・ホウ素(B) ・鉄(Fe)      
    カルシウム(Ca) ・カリウム(K)        
    マグネシウム(Mg) ・カルシウム(Ca) ・ケイ素(Si)      
    窒素(N) ・マグネシウム(Mg)        
    リン酸(P) ・モリブデン(Mo)        
    ケイ素(Si) ・マグネシウム(Mg)        


    近代の農芸化学の先駆者リービッヒが唱えた最少律の法則、その事柄を見事に桶を以って表現したのが、トベーネックで“桶の法則”と呼ばれ、施肥技術の原点と言われる。

     図−B トベネックの最小律
    (桶の法則) この図は、高い収量を得るには、各栄養素が互いに均衡の取れた状態であるべきということをうまく表現している。

    水を収穫量にたとえ、桶の側板を各要素や栽培環境として、その高さが土壌に含まれる要素量や環境条件としている。ここでは、苦土と窒素が欠乏した為に肥効を悪くして、特に少ない苦土のレベルの収量(減収)となったという状況を表している。


    以上、長い資料になってしまった。まだ、書き足りないところがかなりあるが、その部分は各ページにも詳しく掲載しているので、その部分を参考にして頂きたい。以上列記した事柄に注意して普段の農作業に取り組めば、必ずや豊穣が期待できるはずである。


     = 完 = 



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