INDEX
T.アルカリ障害とは . U.アルカリ性土壌と微量要素と多量要素の関係 . |
V.アルカリ性の原因 . W.アルカリ性土壌の矯正 . |
近年一部の圃場において石灰系肥料の多量施肥によるアルカリ障害、又は灌漑用水がアルカリ性のために土壌中の石灰含有量が過剰でもないのにアルカリ障害を発生しているような実例が見られる。この実情と対策について検討してみる。
特に困るのは栽培途中にpHが徐々に上昇する現象である。これは俗に言う“成り疲れ”を来たす現象で、土壌中の酸とアルカリが不均衡になっていく極めて自然な現象である。然しながら、我々が農産物の生産において本当に高品質・多収量を求めようとするなら、この現象はどうしても克服しなければならない栽培上の生理現象なのである。
更に、私は農家の皆さんや指導をなさっている方々が意外とこの事実をご存知ないという現状を懸念している。
植物の種類により若干の相違はあるもののその障害は、一般的に土壌ではpH(KCL)が7.0以上、散水に使用する水では7.4〜7.5以上で発生し、その拮抗作用により、加里・苦土・亜鉛・鉄・ホウ素の吸収は阻害されて、一見その症状は病気ではないかという状態である。
植物の種類での症状は、
ナス科・・・・・硼素欠乏による褐色斑点が葉に発生する。
ウリ科・・・・・キウリでは葉脈を除く葉全面が黄褐色化する鉄欠乏が発生する。
西瓜では葉及び果に褐色斑点の硼素欠乏が発生する。
イチゴ・・・・・葉の周縁がアルカリ度に応じて広狭に褐変する。
共通点として朝方全く結露しいないのが特徴で、そのような状況下では大幅に収穫が減じる。
ま た、土壌のpH(KCL)が6.8〜7.0の間ではその症状は局部的に発生する。更に、注ー*)土壌のpHが6.5以下であっても、用水のpHが7.4〜7.5以上であればアルカリ障害は発生し、特に多量の灌水を必要とするような乾燥傾向にある圃場では、その灌水の度合いに応じて被害が甚大になる。また、同じ地区でも全く同じ用水を使用しながら、水位が高く土壌が湿った傾向にある圃場では(用水の使用量が少ないから)殆ど発生していないという例も見受けられる。
注ー*)『潅水量が多ければ、病気になる・根腐れを来す』という誤った風説の根元となっている。
写真−@ キウリのアルカリ障害(Fe欠乏)−@ 海砂を使用したために一面のFe欠乏。 |
写真−A キウリのアルカリ障害(Fe欠乏)−A 写真−@の撮影から10日目に撮影した。 |
写真−B 苺のアルカリ障害(Mo欠乏)−@ 灌水のpHが7.0以上だったり、pHの調整をしていない籾殻くん炭(強アルカリを示す)を使用した場合には、必ず発生する。 |
写真−C 苺のアルカリ障害−A 土壌のpHが7.07(at KCl)の生育状況 |
表−1 灌水の水によるアルカリ障害の土壌 <分析者:米澤農業研究所>
単位mg/乾土100g(≒Kg/10a) | |||||||||
分 析 日 | pH (KCL) |
アンモニア (NH4-N) |
硝酸 (NO3-N) |
全リン酸 (P2O5) |
加里 (K2O) |
石灰 (CaO) |
苦土 (MgO) |
可給態鉄 (Fe) |
作 物 |
57.01.18 A | 6.90 | 1.29 | 5.86 | 407.96 | 57.24 | 594.87 | 59.47 | 0.00 | 苺 |
〃 B | 7.25 | 1.00 | 14.67 | 134.16 | 60.40 | 462.99 | 48.38 | 0.50 | 〃 |
〃 C | 6.21 | 1.22 | 8.00 | 224.51 | 49.85 | 324.09 | 44.35 | 0.29 | 〃 |
〃 D | 5.53 | 1.51 | 8.33 | 257.37 | 45.62 | 273.58 | 39.31 | 0.58 | 〃 |
標準 | 6.0〜6.2 | 2〜3 | 30 | 50 | 50 | 320 | 30 | 2.7 |
1.pH(KCL)7.0以上のアルカリ土壌中における微量要素は、植物に吸収され難くなる。
2.拮抗に起因するもの
石灰 → 加里、苦土、硼素、亜鉛、鉄が欠乏する。 加里 → 石灰、苦土。
3.生理的な障害によるもの
鉄が根中に蓄積して地上部に移行しない → 鉄欠乏
4.化学的な変化によるもの
水酸化鉄・・・・・・・・・Fe(OH)2,Fe(OH)3 ・・・・微溶
1.用水のpH
(1)石灰岩地帯の用水
(2)砂岩地帯の用水
(3)塩水を多く含む地層帯の用水
(4)家庭雑排水が混入する用水
(5)工場用水の混入用水
(6)畜舎や鶏舎の排水が混入する用水
(7)側溝を通って来る用水やコンクリート製のタンクに蓄えられた用水
(1)(2)(3)は、近郊に温泉施設がある場合、Ca泉質か、Na泉質かを確認する。
(1)石灰系肥料の多量施肥
表−2 <分析者:米澤農業研究所>
上記の表は有機石灰を多量施肥した状態の土壌分析表である。いずれの7点とも’80年4月以降、灌水に使用する水のpHを希硫酸で5.5として使用していたが、土壌のpHを下げるのには更に1年以上の月日を必要とした。
(2)土壌そのものがアルカリ性を示す圃場
沖縄県南部地区の干拓地(地下水位が高い圃場)
3.
(1)pHの上昇
石灰、苦土、アンモニア態窒素が過剰。実際には石灰が影響の殆どの部分を占める。
(2)pHの下降
硝酸態窒素、硫酸根、リン酸が過剰。過剰なリン酸はアルミナ、鉄、銅、亜鉛、マンガン等の金属と固く化合して難溶性リン酸になる。
(3)pHの理論
H2O → H+(酸性化) + OH−(アルカリ性化)
一度土壌をアルカリ性化すると表−2に示すように用水のpHを硫酸などで下げて灌水を行っても、とうてい1年以内にpHを好適なpHとすることは甚だ困難なことで、石灰質系肥料の施肥は精密な土壌分析をした後でなければ大変危険である。特に、最近は不正確な簡易分析が一般に普及しているので、その数値については注意を要する。
アルカリ性化した土壌の対策には、
1.ピートモスの大量投入
表−2のような施肥過多の圃場の場合、まず最初に考えなければならないことは土壌中の肥料成分を薄めてしまう作業である。本来なら肥料分の少ない山土を入れる、いわゆる客土をすべきところだが、このような場合はピートモスを用いる。ピートモスはpHの調整がされていない物を用い、10aにして6qbf(約35Kg)を50袋を一度に投入し良く攪拌する。次の作付けは半分の25〜30袋を用いる。
この作業の目的は
@肥料成分を希釈する。
2.
1)希硫酸法
@使用する硫酸は必ず、工業用の希硫酸(H2O:H2SO4=1:1=50%)を使用する。濃硫酸は使用しない・・・混合法を間違えば爆発するなどの危険を伴う。
ApH(KCl)が7.2以下では希硫酸を用いて約6.0とし、
また、灌水の際に液肥を加える場合、その用水のpHが上昇する時がある。これは液肥にアンモニア態窒素が多く含まれているためである。このような場合も上記の要領でpHの調整をする必要があるが、出来るなら硝酸態窒素を主体にしたものと交換した方が賢明である(特に追肥では)。この作業は通常の場合でも、用水のpHが高いと根を傷めるので必ず励行する事。
添加する希硫酸(1:1)の量は使用する水または液肥により変わるが、例えば、、、、
B希硫酸と植物の関係
希硫酸を加えて灌水することにより、植物に何らかの悪影響を及ぼすのではないかとの質問を度々受けるが、、、、、
(イ)植物はたんぱく質を形成する18個のアミノ酸の中には硫黄(S)を必須とメチオン、シスチンを有している。従って、植物にとってこの硫黄は無くてはならない大変重要な金属である。硫酸苦土・硫酸加里も同じように考えて良い。
(ロ)養液栽培では、培養液はアルカリ性化していくので1週間に1度必ず養液分析して、大略トン当たり希硫酸(1:1)を約8mlを加えてそのpHを約0.5下げるのが慣例である。(この作業を怠ると必ず根を傷めてしまう。栽培上の重要な作業である。)このことから10aでは礫耕の培養液の標準は30トン必要であり、
8ml × 30トン × 1回 × 4週 = 960ml となり、これらの硫黄はすべて植物に吸収されている。
このことから、土壌における作物についても希硫酸約1000ml迄は同様に何ら悪影響を及ばす事はない。
2)硝酸法
養液栽培ではpHを下げる場合、硝酸態窒素の追肥をも兼ねて工業用の硝酸を用いる。
これも(1:1)に希釈した希硝酸を用いる。使用法は希硫酸法と同様に水1トン当たり、先ず希硝酸(1:1)約20mlを加えてpHを測定し、所望のpHまで希硝酸を加えていく。
使用量について、硝酸法は硫酸法と違いその量に制限は無い。(窒素の量は硫黄の量に比べ大量に必要)
通常、畑作の土壌では各々の石灰量が同じであればその圃場に存在する硝酸態窒素の多少でその圃場のpHはほぼ決まる。
という式が成り立つ。つまり、30cmの表土に対して、その仮比重を1.0とした場合の土の重量は300,000,000g(300トン)となる。そこに炭酸カルシウムまたは炭酸苦土石灰(100/50=成分50%)を300Kg加えればpHが6.5となり、そこにpHを下げる要因の硝酸態窒素が加わるのでpHは0.3〜0.5下降し6.0〜6.2になる。逆に、pH上昇要因のアンモニア態窒素が加わればpHは上昇して6.7〜6.9位になるということである。
私たちが用いている分析表の石灰の標準量は300〜340Kg/10a(≒乾土100g)としている。このことから考えると、CaO300Kgは炭酸カルシウム600Kgのことである。つまり、上の計算からすると、その炭酸カルシウム(苦土石灰)の量は表土30cm、比重は一般的に植物を育てるのに最適と言われている0.5くらいがその対象量である。
この表のように、石灰量がほぼ同じ量の時、硝酸の量が増えるとそのpHは下降している。アルカリ性化した土壌へ窒素肥料を施す場合は必ず硝酸態窒素系の肥料を使用すべきで、この時アンモニア態窒素系の肥料を施した場合には硝酸化成が遅れ、結果としてサンプルE・Fの比較でも判るように硝酸が欠乏となってpHは上昇し作物の生育を悪化させてしまう。
・ 硝酸加里
3)水田化
圃場がアルカリ性土壌となれば1作終了後、1ヵ月間は湛水して水田化する。2〜3日の湛水では水溶性、可溶性の石灰が溶出して逆にpHが上昇する。また単なる灌水では陽イオンの成分は流亡しない。
下表−4は
@
湛水中の圃場の土壌は空気と隔てられているために還元作用を受けて酸性化する。
還元とは酸素を奪い、水素を与える。
水田を湛水している時ぷくぷくと水泡が水底から出てくる現象の多くは硫化水素である。これは土壌の水素が活性化することを意味する。水素(H+)が加わることはpHが降下することでもある。
水素(H+)が無くなる事はpHが上昇することでもある。
故に、圃場を湛水することは酸化した土壌を還元して酸性化しpHを下げて肥料の吸収を促進する。
V−3−(2)に示したようにリン酸は酸性化の要因であるが、土壌中のリン酸は金属、特にアルミナ・鉄・マンガン・銅・亜鉛と結合して難溶性となっており、そのため植物に利用できる水溶性リン酸は極めて少なくなっている。
ここで注目すべきは、 “分析値に表れる
■ 色セル部のTotal-P2O5(全リン酸)の値は多ければ多いほど、吸収される水溶性のリン酸の数値(%)は少なくなる”という現象をしっかり理解して戴きたい。
となり、リン酸が遊離するため土壌は酸性化となって行く。
Bアルカリ性化の最大の要因である石灰が流亡する。但し、地下水位が高い時は期待できない。
C 石灰多吸収作物の栽培。
アンモニア → 加里、硼素、モリブデンが欠乏する。 苦土 → 石灰、加里。
リン酸 → 加里、銅、亜鉛、鉄。 塩素 → リン酸。
水酸化銅・・・・・・・・・CuOH,Cu(OH)2 ・・・・・・不溶
水酸化マンガン・・・・Mn(OH)2 ・・・・・・・・・・・不溶
水酸化モリブデン・・・Mo(OH)2 ・・・・・・・・・・・微溶
水酸化亜鉛・・・・・・・Zn(OH)2 ・・・・・・・・・・微溶
硼素・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・難溶
石灰分を多く含むためpHが高くなりアルカリ障害を来たす。
ナトリウム分を多く含むためpHが高くなりアルカリ障害を来たす。
ナトリウム分を多く含むためpHが高くなりアルカリ障害を来たす。(海水はpH8.3)
コンクリート製品の製造・石灰質肥料などの工場・・・(1)に同じ
海砂の堆積所・・・(2)に同じ
アンモニア水によりアルカリ及びアンモニアの害を来たす。
セメント材の強アルカリ分が溶出している、新設したものには特に注意する。
注)硫黄(S)の泉質などもあるので、この場合は酸性に注意すること。
*) F−@ 〜 F−C は同一圃場単位mg/乾土100g(≒Kg/10a)
分 析 日
pH
(KCL)アンモニア
(NH4-N)硝酸
(NO3-N)全リン酸
(P2O5)加里
(K2O)石灰
(CaO)苦土
(MgO)可給態鉄
(Fe)作 物
55.11.12 E−@
7.65
1.44
34.68
212.76
31.34
1,165.89
114.14
0.00
キウリ
56.05.15 E−A
7.46
1.51
20.67
202.75
47.74
1,060.66
26.20
0.00
〃
56.07.30 E−B
7.40
0.79
10.80
298.44
69.72
775.85
51.40
0.00
〃
55.09.13 F−@
7.44
2.01
16.74
215.71
55.13
547.17
54.43
0.00
キウリ
55.11.09 F−A
7.24
1.36
2.00
93.37
29.13
460.41
73.58
0.00
〃
56.07.29 F−B
6.94
1.29
12.67
83.78
30.23
371.79
37.29
0.12
〃
56.11.05 F−C
7.27
2.95
13.00
104.04
41.16
368.98
53.42
0.16
〃
標準
6.0〜6.2
2〜3
30
50
50
320
30
2.7
pHに関係する水溶性リン酸は極めて少量しか存在しないので、実際にそのpH値に影響を及ぼすのは硝酸態窒素と硫酸根の量の多少である。
A土壌中のアンモニア態窒素を素早く硝酸態窒素に変化させる。(硝化作用の促進) ---→ この工程が最重要事項
pH(KCl)が7.2以上では 〃 約5.5として使用する。(5.0以下では障害を来たすことになるので注意)
pH7.0の使用水1トンに対して希硫酸(1:1)を約40ml加えることで、そのpHは約5.0となる筈である。正確を期する為、先ず用水1トンに対し20mlの希硫酸(1:1)を加えて良く攪拌し、そこでpHを計測し確認する。次に同希硫酸を5ml加え良く攪拌し、再度pHを確認する。これを何回か繰り返して所望のpHが確認されたとき、今まで加えた希硫酸の量を算出する。
参考)
この図は一定量の土壌に種々の量のCaOを加え、その時のpHを計測して曲線図にしたものである。
その図によると、pH6.5は土壌10gに対してその係数は0.005gである。従って、炭酸カルシウム(成分50%)を加えた場合、
0.005g × 300,000,000/10g(表土30cm) × 100/50 = 300,000g = 300Kg
単位mg/乾土100g(≒Kg/10a)
サンプル No.
pH
(KCl)硝酸
(NO3-N)石灰
(CaO)
A
5.41
20.55
329.71
B
6.21
8.00
324.09
C
6.42
9.33
346.54
D
6.50
19.00
383.01
E
6.81
11.20
392.84
F
7.26
3.80
397.04
標準土壌
6.0〜6.2
30
320
・ 硝安
・ 硝酸石灰(このケースの場合、石灰を含有しているのでここでは使用できない)
単位mg/乾土100g(≒Kg/10a)
分 析 日
pH
(KCl)アンモニア
(NH4-N)硝酸
(NO3-N)全リン酸
(P2O5)加里
(K2O)石灰
(CaO)苦土
(MgO)
53.01.07 A
5.78
9.41
47.36
721.02
63.58
462.99
49.39
53.02.23 B
5.14
8.09
20.55
531.90
57.66
329.71
45.36
流亡率(%)
14.02
56.61
26.23
9.31
28.79
8.16
空気に隔てられて還元される・・・・酸素が無くなる(水素が加わる)。・・・ 正確には、分子又は原子から電子が加わる事をいう。
NO3−N → NO2−N+Ø → NO2−N(亜硝酸)
NH2OH → NH2+H+Ø → NH3(アンモニア)
空気に触れると酸化する・・・・酸素が加わる(水素が無くなる)・・・ 正確には、分子又は原子から電子が無くなる事をいう。
C + 2 Cl → C Cl4 , C + O2 → CO2 , CH4 → C + 2H2 など
酸化される
還元される
酸素と化合する
水素と化合する
水素を奪われる
酸素を奪われる
重要! 電子を失う
重要! 電子を得る
酸化数が増加する
酸化数が減少する
A水田化すると
注)P2O5の項のTotalは全リン酸、H2Oは水溶性リン酸、%は水溶性/全リン酸を示す。
p H
NH4−N
NO3−N
P2O5
K2O
CaO
MgO
H2O
KCl
Total
H2O
%
滋賀ー@
5.88
5.78
9.41
47.36
721.02
10.05
1.39
63.58
462.99
49.39
唐 津
7.70
7.36
2.43
14.08
709.20
13.59
1.91
47.74
636.96
120.96
滋賀ーA
4.50
4.13
6.69
31.35
487.58
15.96
3.27
39.06
260.96
43.34
滋賀ーB
6.08
5.41
4.19
5.45
341.59
18.91
5.53
7.88
310.06
46.37
リン酸第二鉄
→
リン酸第一鉄
+
遊離リン酸(水溶)
FePO4(難溶)
Fe3(PO4)2(易溶)
(乾土)
(湛水中)
カンラン、トウモロコシ等を栽培して成長した処で根もろ共引き抜いて圃場の外に持ち出し廃棄する(すき込んではいけない=植物体の石灰が再び入ってしまう)。