pHの調整と液肥混入を兼ねた装置−1 | 私達は潅水に使用しているpHの高い用水の調整にはこのような装置を使っています。 降下させる薬品には硝酸や硫酸などを用い、何時も弱酸性に調整をして潅水しています。 また、通常は液肥の混入器としても使用しています。
|
pHの調整と液肥混入を兼ねた装置−2 | 上の写真のものでは間に合わなくなったために、このような1トンタンクにしました。これなら200トン分の液肥が作れます。 |
水耕や礫耕栽培では栽培期間中の養液は常に上昇する傾向にあります。何故このような現象が起こるのか検証をします。
養液中には、アルカリ(+)側を示す、アンモニア態窒素(NH4-N)・加里(K)・石灰(Ca)・苦土(Mg)と酸性(−)側を示す、硝酸態窒素(NO3-N)・リン酸(P)・硫黄(S)が含まれています。
私達は栽培期間中、単なる肥料の濃度だけをみるEC(電気伝導率)ではなく、3日毎に養液の成分を分析しながら、分析を終えた日には不足した成分を補充し、必ず標準養液となるよう調整をしながら監視をしました。その時理解できたことは、植物の生育が旺盛なときは、NO3-Nがもの凄いスピードで吸収されているということが判明し、次に、P・Kが多いことも解りました。
一方、石灰や苦土分は比較的緩やかな吸収であるということもよく理解できました。このことで陰イオンと陽イオンとでは、陰イオンの吸収スピードが早く、結果、pHは常に急激に上昇するという検証の結果でありました。養液栽培農家においては、そのようにpHが上昇した養液を強酸性の硫酸・硝酸などを用いてpHを下げるという作業は至極当たり前のこと(これを放置した場合は根が褐変して壊死してしまいます)で、それに反し、土耕栽培農家ではそのような習慣はありません。しかし、土壌に於いてもそのような現象は少なからず起こっています。
この重大な現象に気がつかず放置した結果、土耕栽培では養液栽培のように根が急激に渇変壊死することはありませんが、作物は成り疲れという負の現象を来たします。作物の成疲れとか株疲れという現象はそういうことを原因とした生理現象なのです。
A硝酸(63%)の場合、1000gの水がpH7.0の時には20mlを加えれば、pHは約1.0下がります。然しながら、この作業を確実を行うためには、次の手順で行って下さい。
『作業手順』
@用意する物、ゴム手袋・防護めがね・バケツたっぷりの水(衣服などに付着したとき、直ぐに洗い流す)
ApH計。(ATC3000A型=旧CP-3型 比色式 アドバンテック製) は取り扱いが簡単です。
B1000gの水のpHを計測します。
C仮に原水がpH7.0の場合、63%の硝酸又は希硫酸を5ml加え、ここでpHを計測します。この作業を計3回行い(ここでは15mlを加えたことになる)、更に1回3mlを加え6.0に到達しない場合さらに2mlを加える。合計何ml加えたかを計算をする。次回からは、この和の量を加えることで作業は一回で済む。原水のpHが変わるたびにこの作業は必ず励行すること(pH5.5〜6.5までが適)。
回数 | pHの測定値 | 加えた硝酸の量 | 変化したpH |
1 | 7.0 | 5cc | A |
2 | A | 5cc | B |
3 | B | 5cc | C |
4 | C | 3cc | D |
5 | D | 2cc | 6.0 |
添加量の合計 | 20cc | 6.0 |
上の方法はタンクにて攪拌する場合です。最近は、高価な理化学用の定量ポンプを使わず、ドサトロンなどと言う、便利で精度の高いものがあります。私達はこのような物を使用しています。使用方法はパンフレットで確認をして下さい。
『調整方法』
@原水のpHが7.0の場合、100gの水に200mlの硝酸(63%)を加えて、よく攪拌して原液とする。
Aドサトロンの倍率調整を100倍に合わせる。
Bポンプを運転し、原液を吸引させれば、先端でpH6.0の水となって出ている筈である。(必ず確認する)
養液栽培において、その養液のpHが常に下がっていく設備を時々見かけます。これは設備の欠陥としかいいようがなく、その原因は、植物の残根の回収不良にあると思われます。残った根がポンプを通過する際粉々になり、その老廃物が腐植し有機酸に変わっているものと思われます。
ミツバ栽培において、次のような経験があります。ミツバを定植した直後、暫くは養液のpHは上昇します。その後、今度は下降に転じるのです。私たちは、この現象は根が常に新陳代謝している。その為、老廃した根の回収が旨く出来ていないのではないかと推測しました。そのうえ、ミツバは収穫が連続しますから、そのたびに栽培ベットのパネルから引き抜かれて洗い場へ持ち込まれます。その根は引き千切った状態となり養液中に残根として残ってしまいます。そして、そのpH降下はひどくなります。
そこで今度は、パネルごと洗い場に運び出すようにしました。それでもpHは下ります。それならと言うので、更に、栗石・目潰し石・細かい砂利・砂の順で敷き詰めた濾過槽を作りました。残根は良く取れますがすぐに目詰まりを来し、砂の入れ替えが大変でした。そこで、砂の上にウレタンフォーム(スポンジ布団の廃品)を敷いて見ました。やっぱり下がります。このような幾度の方法でやってみましたが、pHの下降を止める事はできませんでした。結論的には、残痕はできるだけ除きましたが“pHは薬品で調整するしかない”という結論になりました。
pHを上げる際の薬品には@苛性加里(水酸化カリウム)かA苛性ソーダ(水酸化ナトリウム)を使います。@はカリウム塩Aはナトリウム塩です。ここでも、カリウム塩は多量に必要な要素ですから、苛性加里を使いたいと思います。粉末のもの、液状のものあります。 『作業手順』は粉末の場合でも、液体の場合でも、上記下げる場合に準じて確認しながら行って下さい。
(方法は<< pH7.0の用水1000gをpH6.0まで下げる >>へ)
pHの変化は養液栽培では急激に、土耕栽培では緩やかに上昇する。
養液栽培ではpHが急速に上がったり、又は下がったりします。これは、栽培を養液だけで行いますから、土のように緩衝になるものがありません。つまり迅速な化学の変化がストレートにpHの変化として現れていると考えたら良いと思います。これが、土耕の場合ですと土壌にはコロイドと呼ばれる土の粒子があります。
その土壌コロイドは腐植を含んでいますからマイナスの電子を帯びています。従って、プラスの電子を持ったCaやKまたはMgなどの金属は土壌コロイドのマイナス電子としっかり引き合っています。このような状況の中で植物がCa2+などを吸収するとき、その電子間の誘引度が緩やかな変化として現れてきたものだと考えて下さい。つまり、この土壌コロイドが、肥料の吸収を邪魔しているとも考えても良いでしょう。
堆肥などの有機物を多く投入すると硝酸態窒素(マイナス電子)が多くなり土壌は弱酸性となり安定する。
更に、極めて重要な事は、土に有機物を大量に投入した場合、硝酸化成菌が活発に活動しはじめ、そのために土壌は急激に活性化をするということです。土壌が活性化するということは、例えば皆さんは主にN:P:Kを含んだ配合肥料を使用します。この場合、窒素分はアンモニア態窒素として入ってしまうことが多いと思います。
このアンモニア態窒素を投入した場合の土壌の状態は、@有機物を投入していない状態での土壌では、そのアンモニア(+)分はそのまま土壌に残ります。従って、土壌pHは高いままになります。一方、A有機物を多く投入する土壌では、その有機物を得て活発になった硝酸化成菌がアンモニア態窒素(+)を硝酸態窒素(−)にどんどん変えていきます。このことを硝酸化成といいます。つまり、陽イオンが多かった圃場は陰イオンの多い圃場に変化するのです。この硝酸化成することが土壌を安定させるということなのです。
ここで注意!
このように書いたら、、、それなら、窒素の追肥には、硝安のような硝酸態窒素を主成分とした肥料を用いたとします。硝酸態窒素は吸収性が強く一度に多くの量を用いた場合その浸透圧は高くなりすぎて“葉焼け”を来すことがあります。硝酸態窒素は何回にも分けて用いる必要があります。
有機栽培の留意点
最近は化学肥料を使わない有機栽培が急速に普及し注目されています。有機栽培は土壌を安定させて大変良いのですが、それはまだ入り口付近をウロウロしている理論の状態です。本当はそこに例えば、骨格となるCaを入れ、光合成を増進させる葉緑素の核となるMgや光合成の為のエネルギー源となるPを、そして植物体の水分調整をするKを投与しながら、最終的に収量の多く取れる体系づくりが重要なことなのです。
微量要素の効果を最大限に発揮させるには土壌とその栽培に使用する用水のpHを弱酸性に設定し、酵素の働きを促すことが重要なことです。
微量要素を加えることによって植物は体内の酵素を活性化しながら吸収した硝酸態窒素をアミノ酸から蛋白質へと変化(これを窒素の還元といいます)して、その体力は維持されるのです。勿論、アミノ酸の多い植物になりますから当然のこと味も良くなるわけです。これが「植物体に於ける硝酸→アンモニアの還元」という理論なのです。また、その物質の還元に深く係わってくるが酵素なのです。
その酵素(一種の蛋白質)は微量要素の力を借りて働いているのです。更に、微量要素は土壌や散水する際の水のpHによってその溶解度が変わってきます。ですから、微量要素の至適pH(5.0〜6.5迄但し、モリブデンはアルカリ側で良く反応する)は、大変重要なことなのです。つまり、地力とは微量要素と言っても過言ではないのです。しかも、この重要な微量要素が阻害原因となるEDTAをキレートとしたもの(EDTA)ではうまく機能をしないということが植物栽培上極めて重要な部分であり、また大変多くの問題点を残している部分なのです。