1.植物の糧となるもの 2.必須元素と肥料 3.糧の単位 4.標準培養液について 5.使用する薬品とその量について 6.当量の計算について 7.肥料(薬品)の成分含有量について 8.成分元素含量とイオンの平衡 9.養液栽培の肥培管理 |
10.培養液のpHについて 11.培養液の減水について 12.EC(電気伝導度)計による追肥結果の検証について 13.P(リン)の吸収テスト 14.分析による追肥について 15.微量要素について 16.栽培上の注意事項 17.その他(養液土耕の盲点) |
養液栽培の歴史は古く、1648年ベルギー人ファン・ヘルモントが柳の木を鉢植えした実験で“水こそ養分のすべて”という水説を唱えたことに端を発し、つづいて1669年ウッドワード(英)はハッカを水耕して77日間雨水だけで育てた。更に、彼はテームズ川の水や暗渠水を使った実験を重ねて理論を発展させていく。急速に発展していくのは1860年にザックス(独)が石英砂耕の培養液を、つづいてクノップ(独)が1865年にクノップ培養液を発表してからである。
その後、この培養液開発の歴史には研究・改良が加えられ現在に至っている。一方、わが国では、戦後米国進駐軍が隊員の消費する生鮮野菜の供給を目的に、東京:調布(22ha)と滋賀:大津(10ha)に広大な供給基地が建設された。この野菜供給基地に日本人研究者らが多数派遣されてその技術を習得したとされ、この研究者たちの熱心な普及活動によって近代日本のハイテク農業の基礎は築かれた。
養液栽培で一番重要になるのは、肥培管理の手法である。当時の数少ないその記録を覗いてみると、個々の成分の分析をしながら栽培をしている記録が残っている。それに対し、近年の養液栽培はEC(電気伝導度)を確認しながら培養液を維持管理している。この管理手法は、費用と維持管理そして専門的な知識を必要とする分析の手間を考えると大変簡略で画期的なことであり、簡単で非常に便利な方法である。
これは各方面の諸先生方の研究の賜物であるには違いない。しかし、その便利さの中には大きな落とし穴もあるようだ。私たちもこの考え方に沿って試験を試みることにしたが、どうしても私たちの推奨する(各個別成分の分析)手法と比較してみると少し差があるように感じる。特に長期間になれば更に差は大きくなる。
最近は医学用精密機器分野から参入したメーカーが血液の分析装置の技術を応用し、約30万円くらいで簡単に取り扱いが出来て、しかも大変精度の高い携帯型の養液分析機器も発売されている。是非一度この機会に、この小冊子を片手にその個別分析の手法で栽培を試みられてはどうだろうか。
1. 植物の糧となるもの
空中から CO2,O2 根(葉)から N,P,K,Ca,Mg,S・・・・・多量元素 Fe,Cu,Mn,Mo,Zn,B,Co,(Cl)・・・・・微量元素 Si,Na,Al・・・・・特殊成分元素
2. 必須元素と肥料
必須元素は、肥料となる
例えば、 N → NO3- 又は、NH4+, P → PO43-, K → K+, Ca → Ca2+, Mg → Mg2+, S → SO42- これらはイオンと結合して、 KNO3 =硝酸加里, Ca(No3)2 =硝酸カルシウム, NH4H2PO4 =リン酸1アンモニウム, MgSO4 =硫酸苦土となり、これが肥料
塩 ( と呼ばれるものである。)
3. 糧の単位
当量
イオン分子量の1原子価単位、即ち1電荷単位を当量(エクイパラント)と呼ぶ。つまり、電子1個分当たりの分子量のことである。
例えば、硝酸加里ではKNO3(分子量=101.1)の中にK+が1個含まれているということである。これが8meなら808.8mg、約810mgとなるのである。(詳しくは6.当量の計算へ)
同様にグラム単位でE(グラムエクイパラント)、ミリグラム単位でme(ミリグラムエクイパラント=通称“エム・イー”)と呼ぶ。
なぜ“me”と表現するのか?
植物は根から養分を吸収するとき、K+とかCa2+,NO3-,Cl-などのイオンの形で吸収する。
培養液中の成分濃度を表現するときも、それぞれのイオンの数がわかるように便宜上この様な表現をする。
4. 標準培養液について
何をもって標準養液とするかはいろいろ意見のあるところだが、ここでは園試処方を標準としている。
5. 使用する薬品とその量について
6. 当量の計算ついて
当量は下記のように計算して算出し、その根元としている(単位はg/1000g)。
表−@の原子量を参考にして、
イ.硝酸カルシウム(Calcium Nitrate,4-Hydrate) 分子式 Ca(NO3)2・4H2O = (分子量)236.15
計算 { 40.080 + 2 × (14.008 + 16 × 3) + 4 × (1.008 × 2 + 16) } ÷ 2(注) = 118.08
118.08gが1meであるから8meとするには、
118.08 × 8 = 944.64 即ち、約950g が必要である。
(注) ÷ 2とするのは、Caは2価の金属である。Ca2+とはCaイオンが2個含まれていることを表している。
ロ.硝酸カリウム(Potassuium Nitrate) 分子式 KNO3 = (分子量)101.108
計算 39.100 + 14.008 + 16 × 3 = 101.108
101.108gが1meであるから8meとするには
101.108 × 8 = 808.864 即ち、約810g が必要である。
ハ.リン酸1アンモニウム(Ammonium Phosphate,Monobasic) 分子式 NH4H2PO4 = 115.02
計算 { 14.008 + 1.008 × 4 + 1.008 × 2 + 30.975 + 16 × 4 } ÷ 3(注) = 38.34
38gが1meであるから4meとするには
38.343 × 4 = 153.372 即ち、約155gが必要である。
ニ.硫酸マグネシウム(Magnesium Sulfate,7−Hydrate) 分子式 MgSO4・7H2o = 246.47
計算 { 24.305 + 32.06 + 16 × 4 + 7 × (1.008 × 2 + 16 ) } ÷ 2(注) = 123.238
123.238gが1meであるから4meとするには
123.238 × 4 = 492.953 即ち、約500gが必要である。
ホ.硝酸態窒素(NO3−N)
硝酸態窒素には硝酸カルシウムと硝酸カリウムの中にそれぞれ1meが含まれているのでCa:8me,K:8me各々の和となり、その合計は16meとなる。
7. 肥料(薬品)の成分含有量について
肥料を製造するメーカーの成分含有量は各社その量に多少の違いがあり、厳密には使用前に保証成分量を確認する必要がある。
例えば、硝酸カルシウムでは
理論値の計算法について
ex1.硝酸カルシウム 分子式 Ca(NO3)2・4H2O = (分子量)236.15
硝酸 (NO3) 14.008 ÷ { 236.15 ÷ 2 } = 0.1185 ≒ 11.8%
カルシウム (CaO) 40.080 × 1.399注−1 ÷ 236.15 = 0.2369 ≒ 23.6%
ex2.硝酸カリウム 分子式 KNO3 = (分子量)101.10
硝酸 (NO3) 14.008 ÷ 101.108 = 0.13854 ≒ 13.9%
カリウム (K2O) 39.0498 × 1.2046注−2 ÷ 101.108 = 0.4652 ≒ 46.5%
注−1) 1.399(換算係数) = CaO ÷ Ca = (40.080 + 16) ÷ 40.080 = 1.3992
注−2) 1.205(換算係数) = K2O ÷ K2 = (39.100 × 2 + 16) ÷ 39.100 × 2 = 1.2046
8. 成分元素含量とイオンの平衡 ( 関連ページへ )
硝酸石灰 | Ca(NO3)2・4H2O | (分子量:236.15) | NO3−−N | ・・・2mm | Ca+ | ・・・1mm |
硝酸カリウム | KNO3 | (分子量:101.10) | NO3−−N | ・・・1mm | K+ | ・・・1mm |
リン酸1アンモン | NH4H2PO4 | (分子量:115.02) | P− | ・・・1mm | NH4+−N | ・・・1mm |
硫酸マグネシウム | MgSO4・7H2O | (分子量:246.47) | S− | ・・・1mm | Mg+ | ・・・1mm |
硝酸石灰 | Ca(NO3)2・4H2O | 950g中 | NO3−−N | ・・・8mm | Ca+ | ・・・4mm |
硝酸カリウム | KNO3 | 810g中 | NO3−−N | ・・・8mm | K+ | ・・・8mm |
リン酸1アンモン | NH4H2PO4 | 155g中 | P− | ・・・1.3mm | NH4+−N | ・・・1.3mm |
硫酸マグネシウム | MgSO4・7H2O | 500g中 | S− | ・・・2mm | Mg+ | ・・・2mm |
ここで、mm(ミリ・モー)とme(エム・イー)の関係は1価の元素では全く対等であるものの2価の元素では1mmは2meとなる。例えば、硝酸カルシウムは1個のCa2+に2個のNO3−が結合をしている。
(−)イオン | (NO3−−N) | (P3−) | (S2−) | ||||
8 + 8 | + | 1.3 | + | 2 | = | 19.3mm |
(+)イオン | (NH4+−N) | (K+) | (Ca2+) | (Mg2+) | |||||
1.3 | + | 8 | + | 4 | + | 2 | = | 15.3mm |
∴ (−)イオン19.3 > (+)イオン15.3 ⇒ 弱酸性となり約pH6.2で安定する。
通常、植物に与えるNO3-Nの濃度は16mmよりも12mmの方で良好な生育を得ている。硝酸加里と硝酸カルシウムだけで追肥をした場合、NO3-Nを12mm以上とするにはK+は8mm、Ca2+は2mm以上の濃度となるが、ここで16mm養液の追肥をした場合でも、その中のNO3-Nイオン(16-12=4mm)は栽培中に素早く吸収されて自然に平衡されていく。(栽培期間中の養液分析の実際のNO3-Nを参照 <22日間のデータによるとNO3-NはCaの約3.4倍の吸収量であることが理解できる>)
(−)イオン : 19.3mm − (NO3-N 8mm + 8mm - 12mm) = 15.3mm
(+)イオン : 15.3mm
(−)イオン15.3 > (+)イオン15.3 ⇒ 約pH7.0 ( pHが上昇していく大きな要因 )
となり(−)イオンと(+)イオンは等価となりながらイオンは平衡されていく。このイオンの平衡過程19.3mm(pH7.0)⇒15.3mm(pH6.2)の中で栽培をする事が望ましい。そして、このイオン平衡が礫、水耕栽培において良好な生育が得られる要因でもある。
注)培養液のpHが6.8になった時点でその降下処理は完了したと思いがちだが、本来は“pHが上昇してきた”ということは“イオンのバランスが壊れつつある”と言うシグナルでもある。このような場合本来なら、培養液分析をして成分の調整をすべきであり、それでもpHが下がらない場合は、硫酸(S根)か硝酸(N)、燐酸(P)、塩酸(Cl)などの強酸類を用いて6.0迄下げねばならない。
9. 養液栽培の肥培管理
(a)硝酸石灰 | |||||
(b)硝酸加里 | |||||
(c)硫酸苦土 | |||||
(d)リン酸1アンモン |
(a,b) (c) (d) を3グループにして、別々に熱湯で溶き、水に加えて1000gとすると標準培養液となる。この30.000gが約1ヶ月の量である。
*注)(a) (b) (c) (d)を同一容器に一度に入れて混合撹拌すると、化学反応(リン酸と石灰・苦土が化合してリン酸石灰・リン酸苦土となる)により沈殿を生じて不溶となり肥効が激減する。
この培養液の1000g当たりのの各肥料成分量は、
アンモニア・・・18.2g 硝酸・・・224g リン酸・・・96g 加里・・・375g 石灰・・・225g 苦土・・・81g となり、Nを10 とした時の N : P : K 比は 10 : 3.9 : 15.5 である。
1)肥料の成分
硝酸態窒素 | |||
リン酸 | |||
加里 | |||
石灰 | |||
苦土 |
は、いずれも各要素が平均的の吸収されるものではないから、必ず残留成分の分析をして5項目の肥料成分中1項目でも、それぞれの濃度(me)の1/2まで減じた場合には、その基準濃度まで薬品を添加して修正する。
<参考>
@:通常は、リン酸が一番早く1/2近くまでなる。
A:NO3−N は、一般には12me前後にて栽培することが多い。
*)微量要素は必ず施肥すこと。
微量要素は鉄(Fe),マンガン(Mn),亜鉛(Zn),銅(Cu),モリブデン(Mo),ホウ素(B)の6元素が必ず含有していなければならない。また、鉄,マンガン,亜鉛,銅は必ず有機でなければならない。
以上に欠けるものは、微量要素として適当でない。
注)以上の微量要素のほか『コバルト(Co)』・『臭素(Br)』を添加する場合もある。
10. 培養液のpHについて
1)培養液のpHは常に上昇する。そのpHは5.5 〜 6.5の間で栽培しなければならない。
イ.pHが7.0以上になると作物の根は褐変し壊死する。また、4.5以下になると肥料成分は吸収が鈍化する。何れ場合も作物の生育に著しい支障を来たす。
ロ.pHが5.5以下になれば、水酸化カリウム(苛性加里:KOH・・・強アルカリ性)か又は水酸化ナトリウム(苛性ソーダ:NaOH・・・強アルカリ性)でpHを6.5前後に、pHが6.5以上になれば硫酸(H2SO4か又は硝酸(HNO3)を用いてpH6.0前後に下げなければならない。
注)正リン酸(H3PO4)で下げる事もあるが、この場合はリン酸が必要な時に限る。一般的には、リン酸は高価な薬品なので避けた方が良いと思うし、このケースでは養分の中で一番要求の高い窒素を含む安価な硝酸を使うのが得策である。又、上げる場合でもナトリウムが必要な時を除いて、要求度が高く安価な苛性加里を使うのが良い。
■写真−@ pH7.5付近の根圏 (撮影:'12.03.28) |
写真−A pH6.8付近の根圏 (撮影:'12.04.06) |
アドバイスを求められた時の根圏の様子。今までは残根が物語る通り、収量も良かったようだ。しかし、『栽培に於けるpH調整の理論』が抜けており、 完全に、成り疲れを来している。根が褐変化し活動する根は見当たらない。当然、昼間は萎れる。廃液のpHを計測すると7.49。 そこで、ロックウール内部のpH目標を6.0〜6.5とし、 | 養液(水だけの場合も同様)をpH5.5に調整して、夕刻から朝10時くらいまでベットを満水にし、pH降下(中和)作業を毎晩行う。朝10時いっきに落水する。 すると、7日目に何とか6.6付近まで下げることができた。このように、10日目くらいから白い根が確認され、毛根も見られるようになった。この頃から萎れも無くなったという。 |
■写真−B pH7.5付近の樹勢 (撮影:'12.03.28) |
写真−A pH6.8付近の樹勢 (撮影:'12.04.06) |
pH7.5付近の樹勢。樹木で言えば枝になる部分が垂れている。葉先の部分も垂れており、全体的に元気がない。 | pH6.8付近の樹勢、枝になる部分の角度は良い。葉先の部分もピンと立っている。この日は快晴にもかかわらず、萎れる事も無く、全体的に元気も良い。 |
■ 表:ミニトマト栽培に於ける養液のpHとEC変化(ロックウール培地) |
■色の部分(3/25〜3/31)ではpHが高いため根が傷たみ、養分の吸収が進んでいない。そのために代謝が出来ていない(EC欄の(A)−(B)を参照)。
■色はpHが安定して養分の吸収が進んでいる期間。4/1からはpHが降下して根が回復し、養分の吸収が始まったようだ。
しかしながら、再び養分の吸収活動が始まると、それに比例してpHは上昇して6.9〜7.1となっている。そうすると今度は、6/7日では吸収が鈍化する傾向が見られる。(EC1.0前後の吸収があったものが0.3となっている)この様にpHに変化があると、2〜3日後にECの変化が表れる。これは根の状態を示していると思って良い。
注)
この表から、養液のチェックは廃液を回収して調べるのではなく、根に触れている培地の中の養液を取り出して分析する必要があるということが読み取れる。
2)培養液pHの変化
培養液の肥料成分中
酸性肥料は NO3 , P , SO4
アルカリ性肥料は K , Ca , Mg である。
正しく調整された標準培養液のpHは、原水のpHにより若干の違いはあるものの6.0〜6.2前後となる。下表、E表は福岡市M農園の分析例である。
修 正 追 肥 計 |
4.50 13.07 |
1.40 4.04 |
3.00 7.90 |
1.50 7.90 |
0.50 4.00 |
||
養液pHの上昇は(−)イオンのNO3−N・Pと(+)イオンのCa・K・Mgの残量とほぼ比例する。生育の良い作物ほどNO3−Nの要求度は高く、その減少がpHを押し上げている原因である。特にNO3−NとCaはその決定の主要因になっている。分析結果中、NO3−N,Pの最低は12/18日であり、酸性肥料のNO3−N,Pが吸収された結果pHが7.42と上昇している。逆に、追肥をしないのにpHが次第に下降していく栽培設備を時々見受ける。これは重大な欠陥として残根の処理が出来ていないなど構造上の欠陥によるものが多い。
3)pHの下げ方
培養液のpHを下げるには、希硫酸(1gの水にH2SO4を1g加えたもの、1:1=H2O:H2SO4)16mlを培養液1トンに加えれば、pHは1.0下がる。但し、これは培養液pHが6.5前後のときである。pHが6.5から7.0に、また7.0以上になるに従って、pHを1.0下げるには培養液1トン当たり上記の1.5〜3.0倍位必要になる。
4)追肥量の計算について
追肥は6項.当量の計算を参考にして算出する。例として、表−Eの“修正追肥”を算出する
@ NO3−N = K + Ca = 3.0 + 1.5 = 4.5me となる。
A P = (4.0 − 2.64) × 38g = 51.68g
B K = (8.0 − 4.9) × 101g = 313.1g
C Ca = (8.0 − 6.4) × 118g = 188.8g
D Mg = (4.0 − 3.5) × 123g = 61.5g
上記、表ーEの水量は地下タンクに10トン、ベットに20トンの合計水量30トンなので、各々の総量は・・・
追肥総量(g) = (タンク量の水量 + ベッドの水量 ) × 各g数 から
@ 硝酸態窒素= CaとKの合計量で添加されたことになる。
A リン酸 = 30 × 51.68g = 1.550g ・・・ リン酸1アンモン
B 加里 = 30 × 313.1g = 9.393g ・・・ 硝酸加里
C 石灰 = 30 × 188.8g = 5.664g ・・・ 硝酸石灰
D 苦土 = 30 × 61.5g = 1.845g ・・・ 硫酸苦土 となる。
11. 培養液の減水について
培養液の水分は植物の呼吸による蒸散作用で日ごと大量に減水するので必ず補水する必要がある。その場合、必ず水だけを加えること。培養液が1トン減少したので、別に調製した培養液1トンを加えるという誤った方法が行われている農園を見受ける。これには“肥料成分はすべて培養液の減少量に比例して吸収される”ということの前提に基づいているのであろう。処が、下のF表を見てみると、果たして“そう”であろうか?
修 正 追 肥 計 |
A |
3.70 12.27 |
0.80 4.08 |
3.00 8.20 |
0.70 8.00 |
0.70 4.00 |
||
修 正 追 肥 計 B/A(残存%) |
C |
2.20 12.68 85.41 |
0.60 4.03 84.06 |
1.00 8.13 86.95 |
1.20 8.00 85.00 |
0.50 4.00 87.50 |
||
修 正 追 肥 計 D/C(残存%) |
E |
5.50 13.12 60.09 |
1.20 4.05 70.71 |
4.00 8.00 49.20 |
1.50 8.10 82.50 |
0.50 4.10 90.00 |
||
修 正 追 肥 計 F/E(残存%) |
G |
3.80 12.85 68.97 |
1.00 4.09 76.29 |
3.00 8.90 73.75 |
0.80 8.00 88.88 |
0.00 3.70 90.24 |
||
修 正 追 肥 計 H/G(残存%) |
I |
2.60 12.13 74.16 |
0.80 4.08 80.19 |
2.00 8.43 72.24 |
0.60 8.00 92.50 |
0.70 4.00 89.18 |
||
修 正 追 肥 計 J/I(残存%) |
2.60 13.27 87.96 |
0.60 4.03 84.06 |
1.50 8.28 80.42 |
1.10 8.00 86.25 |
0.70 4.00 82.50 |
|||
22日間の追肥量の合計 | ||||||||
NO3−Nを10として |
@分析は、ほぼ4〜5日間隔で行った。
AECは無視し、分析結果に基づき追肥をして標準量にする。
Bその結果、肥料成分の残存量は
NO3−Nが最低60.09〜最高87.96%、
Pに於いては70.71〜84.06%、
Kでは49.20〜86.95%となっており、
Mgは82.50〜90.24%である。
また、N:P:Kが殆ど同じように吸収されるのは4/19日の85.41:84.06:86.95%だけである。
実際に培養液の分析を行ないながら栽培すると、このように植物の肥料成分の要求はその生育ステージや天候、若しくは室内の温湿度によってバラバラで決して均等に吸収されるものではないことが良く理解できる。そして、このような成分バランスの変化を理解しないで、ただ単に養液が減ったからといって、その減水分を培養液で補った結果、下表−Gのような成分値となっている。
12. EC(電気伝導度=電導度)計による追肥結果の検証について
表−FやGのように養液の減水を補うのに標準養液を用いたり、肥料成分を補うのにECメーターの計測に基づいて追肥をした場合どのような結果をもたらすのか、培養液の分析結果を見ながら更に検証する。
ECとは
ECというのは、1cm2の銅板2枚を1cmの間隔にして平行に並べ、各々を(+)と(−)の電極とする。その2極を水中に浸け、直流電流を通じる。その際、その水に電気を通し易い物質(イオン)が溶けていると水中には電流が流れ、他方の極の銅板に電気が流れる。この電流の強弱をメーターで表示したものでがECある。呼び方はムーオといい、電気抵抗オーム(Ω)の逆数である。単位はm/s (メートル/秒)で表す。
*注)純水はイオンを含まないので電気は通さない。また、逆にイオンを含んだ物質があれば電導度は高くなる。つまり、有機物も塩分もすべてイオンを含むので電導度の上昇を来たす要因である。故に、残根を水中に残すと培養液のEC値は高くなり、そのときpHも有機酸のため低くなる。
ECによる肥培管理
培養液中には,NO3−N,P,K,Ca,Mg,SO4などの肥料成分がイオンの形で溶解しているので電気を通す。濃度は高いほど良く通す。従って、電導度も高くなる。この肥料成分のイオンが、作物に吸収されて濃度が低くなると、当然のこと電導度も低くなるので規定濃度まで標準養液を追肥することになる。
ECによる肥培管理の危険性−@
ECはイオンの数つまり濃度で決まる。この肥培管理法はECが低下したときには標準濃度の培養液を加えることである。また、この作業は培養液が減水したとき標準養液を加えるのと何ら変わることがない事でもある。この結果、来たした不都合が表−Gである。これを更に続けてEC管理した場合どうなるか、下表にて検証する。
肥料成分は、過大になっても過少になっても、その肥料成分の吸収量は急激に鈍化して植物は生育不良になる。最大値とはこれ以上になると、そして最少値とはこれ以下になると急激に肥料成分の吸収率が低下をして生育に障害を来たすことを示している。但し、この数値は各肥料成分の単独使用に於けるme値を示すが、実際には単独使用での栽培はあり得ない。我々の混合使用に於けるPの吸収量テストによると、meは図−@の通り最少値は3me、最大値では6meとなった。
■ECによる肥培管理の危険性−A
EC管理の注意点は、土耕栽培であれ養液栽培であれ、栽培過程に於いて根圏のpHを一時的にでも中性からアルカリ性側にしてしまえばその影響で根を痛めてしまう。その場合、養液は根の腐植分を含んでしまうのでECは必ず上昇をする。そして、その後その腐植酸の影響でpHは下降する。ここで、要素が不足しているのにECが高いと言う現象にもなる。
表:ミニトマト栽培に於ける養液のpHとEC変化(ロックウール培地)
(B)ロックウール内部から抽出した養液のことであり、この部分のpH及びECを主に監視した。 (C)廃液の落口トラップに集まった養液のこと。 |
< 左表の解説 > ★ 養液はかけ流し方式 ・茶色ゾーンの栽培は順調。 ・緑ゾーンになるとpHの修正に失敗している(10/23〜11/3)。pHの(B)(C)でpH7.0超となっている。 ・この後、根痛みが始まり養分の吸収鈍化がはじまる。茶と緑ゾーンの『EC:ロックウール/給液』を比較するとそのことが理解できる。 ・グレーゾーンでは給液のpHを更に下げて修正するも、傷んだ根は急激には戻らない。RW内のpHは下がったが、廃液がまだ高め。これはRW内の傷んだ根の残根の腐植酸がpHに影響を与えている。ECも思うように吸収されていない。しかも、その期間が長く続いている。11/22位からは回復基調にある。 |
■写真−D pH6.5付近の根圏 (撮影:'10.11.11) |
写真−E pH6.5付近の樹姿 (撮影:'10.11.24) |
pH修正作業から約1ヶ月経過、途中修正に失敗があったが、何とか細根も安定して出て来た。(データは上表を参照) | 生育も良い。 |
表:葉野菜に於ける養液のpHとEC変化(湛液水耕栽培) | < 左表の解説 > 養液のpH修正をしなかった場合、そのECは?−A ・茶色ゾーンの9/14・15日はpHが高いため根を傷めたようだ。ECがほとんど下がっていない。(根が活動していない) ・緑ゾーンの10/6日にpHが6.5まで下がると4日後の10/9日に根が動き出したのか、ECが下がり始めた。 注) |
13. リン(P)の吸収テスト( 於 : 福岡市 M 農園 S 59年 )
いったい、養液の分析を何日毎に行えばよいのか?下の図は、その判断をするために肥料の吸収が一番速いといわれるPを用いて日を追って検証してみた。
4meあった濃度が2meまで減少するのに何日を要するのか?
下図−@・Aによると、生育状態を考慮した上で、3〜7日毎の培養液の分析が適当であると判断できる。
図−@ |
< 最高濃度の検証 > 12/26日(7.2me)を確認。1/7日(6.2me)までは緩やかに吸収しているが 、1/7日の6me付近から1/22日の3me付近までは急激に吸収している。 この図から理解できることは、 |
図−A | < 最低濃度の検証 > 6/3日(4.3me)〜4日(3.8me)までは順調に吸収されている。 5日(2.6me)6/6日(2.4me)までの旺盛な吸収は少し悪くなり、6/7〜9日(2.2me)になると、ほとんど吸収しないことがこの図で読み取れる。 次に、6/10日に2.8meまで追肥すると吸収率は良くないものの再び吸収し始める。 < 結論 > |
14. 分析による追肥について
1.利点
・培養液をほとんど更新することがなく環境保全型の農業である。
・分析の結果を見て追肥をするので、その都度最適の濃度を再現することができる。
・pHは常に最適pH(5.5〜6.5)に調整し保つことができる。
・倍養液濃度による障害(病気)がほとんど発生しない。
・農薬(殺菌剤)の散布をほとんどすることがない。
・栽培ベッドなどの消毒関連の回数を大幅に減らすことができる。
2.欠点
簡易分析法では誤差が大きく公定分析法で行う必要があり、一般では不可能。しかし、巻頭で紹介の分析器もあるので利用願いたい。また、公立の分析センターに依頼すると日にちが掛かり費用も高価。
15. 微量要素について
微量要素としての鉄(Fe),マンガン(Mn),亜鉛(Zn),銅(Cu),モリブデン(Mo),ホウ素(B)は必要欠くべからざるものである。
参考:海水でのCuは0.01ppm,Znは0.0007ppm,Moは0.007ppmと極めて微量しか確認できない。
養液栽培用としての要求される微量要素は
@ Fe,Mn,Zn,Cu,Mo,Bの6種類は最低限含有していること。
A Fe,Mn,Zn,Cuは全てが有機結合していなければならない。無機か有機か購入の際、付帯している説明書で確認すること。
無機の金属のまま培養液に投入すると、多量要素として加えたPと化合して白濁し、肥効がなくなる。
B 微量要素はできるだけ有機酸態のものを使った方が、植物の代謝を害することがない。
C 水溶液または、粉末を水溶液にしたものが、保存中にすでに沈殿した物やカビが発生した物は使用できない。
■ 有機酸微量要素の吸収力(現地レポート)
微量要素は、必ずキレート剤と化合させて使う必要があり、そうしないと野菜には吸収されない。また、有機酸微量要素は有機酸とキレート化合していても、例えば野菜が植わっていないなど吸収されないまま時間が経過すると水の酸素と化合して酸化鉄となり沈殿してしまう。これが、有機酸鉄(クエン酸鉄)は不安定だと言われる所以である。一般的には、このような不安定なことが常識であると考えられている。
しかし、有機酸鉄=有機酸微量要素の場合は強烈な吸収作用がある。所謂、クエン酸効果と言われるものである。このクエン酸効果で微量要素は野菜に強烈に吸収されてしまう。野菜がベットに植わっていた場合、アッと言う間に無くなってしまうのである。つまり、水中の酸素と化合する前に野菜に吸収されてしまう。だから、沈殿をすることは無い。しかし困ったことに、この吸収スピードの良さこそが欠点ともなる。以下はその実験的な写真である。
写真−@ (EDTA−Fe) (撮影:'11.08.05) |
写真−A (EDTA−Fe) (撮影:'11.08.05) |
ベッドのパネルを除けてその底を良く見ると、このように日数経過と共に次第に沈殿物が溜まって来る。現場は、砂でも入ったのかなと考えていたという。 | 沈殿物を取り出し、クエン酸で溶かしてFe試験紙で反応を試みると、このように陽性を示した。含有量は10ppmを示している。不明な沈殿物は植物に吸収されなかった“EDTA-Fe”と判明した。 |
写真−B (撮影:'11.08.07) |
写真−C (撮影:'11.08.07) |
栽培ベットの全景。この栽培ベットに有機酸微量要素を3ppmで流し込んだところ、10m流れた所で0ppmと計測できた。そのため、この45mのベットでは5ヶ所に分割して流し込む必要がある。そして、微量要素を流し込む前に、万が一の過剰害を避けるため、先ずはミニプラントを作り確認作業をすることとした。 | これなら、しくじっても大丈夫。ここで吸収試験を予め行い、安全確認をして1日遅れで本ベットに投与する。そのための俄か作りの12リットル簡易水槽。グリーンアップを3ppm注入し、3分後にFe試験紙で計測すると0ppmとなっていた。 |
8月、一年で一番条件の悪い猛暑シーズンに於ける栽培テストである。過去の夏季栽培ではまったくの休止の状態だったという。ここの設備の最大の問題は、培養液の冷却装置がないため、これではこの期の栽培は“無理かなあ〜”と考えていたが、何とか誤魔化しながら試みた。水温が27℃までは何とか栽培出来た。それでも、昼食から帰って来たらもう萎れている、といった状態。更には、14時から15時になると液温は28℃となる。この時点で完全に代謝が止まってしまう。慌ててクエン酸の葉面散布で回復させ、そのほか1時間ごとの葉面散布で誤魔化し、ギリギリのセーフ状態。室温も37℃位までなら何とかできたが、38℃以上となると、もうお手上げ状態になる。葉面散布で植物体の温度を下げること必至。 |
写真−D (撮影:'11.08.07) |
写真−E (撮影:'11.11.16) |
モニターリングポイント(4)の近写。 | 後日、吸収試験(判定写真撮り)の為の俄作りの10リットルの簡易水槽。このように根が未発達の状態でも、その吸収力は・・・ |
写真−F (撮影:'11.11.16) |
写真−G (撮影:'11.11.16) |
その判定紙の写真がコレ。写真−Eの生育状況に3ppm加えて5分後に計測したら、ほぼ0ppmに・・・・。 | 7分では完全に0ppmを示した。 |
このように、強力な吸収効果を示す有機酸微量要素は養液中では不安定だといわれているのが定説。しかし、その吸収力は不安定さをも吹き飛ばしてくれる。クエン酸の強烈な効果吸収力と微量要素による代謝の促進効果が植物の成長速度をより速める大きな要因となっている。しかしながら、それ故に過剰の害も出易い。 |
写真−H (撮影:'08.12.23) |
写真−I (撮影:'11.11.10) |
過剰の害。 以下2枚の写真は現場からの報告。濃度を間違えれたり、何も考えずに投与を続ければ、このように生長点を中心にして黄色くなる。酷い場合はドライフラワーみたいになる。 |
これは土耕栽培における過剰害。 潅水パイプを挟んで反対の通り(写真では上側)にも正常に成長したものが植わっている。この正常な生育分に合わせて養分潅水したため、吸収されなかった余分な微量要素が蓄積されて過剰障害を来したようだ。 |
写真−J (撮影:'08.06.16) |
写真−K (撮影:'11.07.14) |
微量要素の過剰ではないが、土壌中の養分が過剰の場合、強いクエン酸効果にて吸収が増大する。結果、体内で逆浸透圧現象がすすみ不具合を来している。そして、その不具合は必ず幼い未成熟の組織に発生する。 | 写真−J同様、組織が未完成(生長不良)の部位が枯れる。 |
写真−L (撮影:'11.10.06) |
写真−M (撮影:'11.10.07) |
濃度障害で葉の萎れを来した写真。土のような緩衝物が無い場合、液肥が少し濃かっただけでこの様になる。(液肥濃度の計算は出来ていたが、その量を目安で掛けたため、結果的に掛け過ぎて濃度障害を来している) | この場合、早いうちに水で洗い流せば元に戻るが、時間が経過すると組織が壊死して焼けてしまう。写真−Kは組織が壊死していなかったため直ぐに処置したら、このように完治した。 |
16. 栽培上の注意事項
1.礫耕栽培
@ 液温は18℃〜20℃に設定する。最低下限は13℃(以下は生育不良)、最高上限は24℃(以上では石灰欠乏)を超えないこと。エネルギーロスを少なくするには、夏は20℃、冬は18℃に設定する。
A 注排水は1回/時間とし、注水30分・排水30分を標準とする。
B 注排水の回数は、冬季3〜4回/日,夏季は4回/日以上とし、夜間は適宜行う。
C 培養液の溶存酸素(DO)は、礫耕栽培では考える必要がない。
D 礫の深さは、カイワレ大根5cm,軟弱野菜10cm,果菜15cm位で良い。
E カイワレでは、通風を良くするべくベッド面の高さをできるだけ礫面と同じにする。通風が悪いと高温時に立枯れを来たす原因になる。
F 礫の消毒は、病気の心配をするのであれば、礫を十分に水洗いしたうえ礫1m3当たり水酸化加里または高級サラシ粉1kgをタンク内で溶かして使用する(ホルマリンは殆ど効果がない)。
G 定植時の水位を礫面のレベルにすると、根は培養液中に広がって活着が良くなる。水位を下げた場合の根の状態は筆の先のようになり活着が悪い。
H 軟弱野菜を直播するときは、播種後ホースに如露を取り付けて種子に当てて、種子が礫間に落ちるようにすると種子を礫で覆う必要がない。
I 病気の予防としては、ベンレートを30ppm濃度にして1回/月、投入する方法がある。
J 殺虫剤は薬液が培養液に混入するのを防止するため、くん煙として使用出来るものを使用する。
2.水耕栽培
原則として礫耕に準ずるが、特に、、、
@ 培養液の排水(循環のための排水を含む)は、必ずベットの底部から落として残根などの不純物を除去できるようにする。
A 水耕栽培で生育不良(初期は昼間に萎凋する)となるのは、病害の場合を除き、その殆どが溶存酸素の不足が原因である。溶存酸素は常に70%以上に保つようにする。そのためには、定植後は1時間に15分、それ以後は昼間の萎凋の度合い見て1時間に15分の2回、更には連続循環としていく。また、夏季は日中必ず連続運転とする。
B 特に、タンクのない設備では溶存酸素の量に留意し、空気が培養液に十分に混入するよう留意をすること。
3.養液栽培における溶存酸素(DO)について
“溶存酸素”のことを略して“DO”と読むが、DOとはDissolved Oxigenの略で、溶液中に溶け込んだ酸素分子のことを表している。その割合を溶存酸素濃度と呼び、1リットルの溶液の中に1mgの酸素分子が含まれていれば1mg/gと表す。
注)1kgの溶液中に1mgの酸素分子が溶け込んでいる状態では1ppmと表す。
溶液に空気を混入または圧入すると、空気中の酸素分子は液の中に溶け込むが、ある値以上は溶け込まない。この状態を飽和と呼び、飽和度100%と表す。この時のDO濃度を飽和DO濃度と表している。この値は下の<< 付表 >>のように溶液の種類や濃度・液温・外気圧によって変化するので補正をする必要がある。
礫耕栽培では、礫の凸凹部分や隙間に酸素が付着した状態になるので培養液中のDOは考える必要はない。しかし、水耕栽培ではそのような条件下にないので根は水中に溶けている酸素を得て呼吸をしなければならない。水中の酸素量は空気中の酸素量に比べると極めて少ないので、場合によっては酸素欠乏になったり生育が抑えられたり、生育障害を来たすことがある。それ故、養液栽培では、培養液の溶存酸素を効率よく供給する工夫が大変重要である。
下図は水耕栽培の設備・配管図である。栽培植物が給水口から排水口に至るまでどの程度の培養液のDOを吸収しているか、を表した図である。赤で表した数字がDOの吸収率である。それによると例えば、出荷直前のミツバでは給水口95%から排水口74%まで(22.1%)下降している。
注)ベッドHの数値はミツバを出荷のため、既に半分程度抜き去ってしまった。その為83%(DO吸収率13.5%)となっている。
図−B 培養液中の溶存酸素の計測(測定機器:JENWAY社<英国>製 Model 9070型)
晩春から夏季・初秋の高温時にDOが70%以下になると、、、昼間萎凋する → 水分上昇の低下 → 養分吸収が低下 → 枯死
尚、DOの測定では、高価な測定器には複雑な操作が必要とするものがあるので、より簡単に使える『ポナールキット DO』(同仁薬化学製)が携帯用で市販されている。操作は粒剤を使用するだけなので簡単である。
塩化物イオン(ppm) | 0 | 5,000 | 10,000 | 15,000 | 17,000 | 20,000 | 塩化物イオンが100ppmごとに増減する溶存酸素の量 (ppm) |
塩分注)(‰) | 0 | 9.035 | 18.080 | 27.105 | 30.715 | 36.130 | |
比重(25℃) | --- | 14.15 | 13.40 | 12.63 | 11.87 | 11.57 | |
温度(℃) | 溶 存 酸 素 量 (ppm) | ||||||
0 | 14.15 | 13.40 | 12.63 | 11.87 | 11.57 | 11.10 | 0.0153 |
5 | 12.37 | 11.72 | 11.06 | 10.40 | 10.15 | 9.74 | 0.0131 |
10 | 10.92 | 10.36 | 9.79 | 9.23 | 9.01 | 8.66 | 0.0113 |
15 | 9.76 | 9.27 | 8.78 | 8.29 | 8.10 | 7.79 | 0.0099 |
20 | 8.84 | 8.41 | 7.97 | 7.54 | 7.37 | 7.00 | 0.0087 |
25 | 8.11 | 7.72 | 7.32 | 6.95 | 6.78 | 6.52 | 0.0079 |
30 | 7.53 | 7.16 | 6.78 | 6.41 | 6.28 | 6.08 | 0.0075 |
31 | 7.43 | 7.06 | 6.66 | 6.31 | 6.17 | 6.93 | 0.0075 |
32 | 7.32 | 6.96 | 6.59 | 6.21 | 6.08 | 5.84 | 0.0074 |
33 | 7.23 | 6.86 | 6.49 | 6.12 | 5.98 | 5.75 | 0.0074 |
34 | 7.13 | 6.77 | 6.40 | 6.03 | 5.90 | 5.65 | 0.0074 |
35 | 7.04 | 6.67 | 6.30 | 5.93 | 5.81 | 5.56 | 0.0074 |
5.倍養液の白濁化について
@ 硝酸加里、硝酸石灰、硫酸苦土、リン酸一アンモンの4種の肥料を同時に同じ容器で溶解すると、“リン酸石灰、・リン酸苦土” となり白濁沈殿する。この場合、リン酸・石灰・苦土の肥効は激減する。
A 無機の鉄はリン酸と化合して、リン酸第二鉄となり白濁し次第に沈殿して茶褐色の沈殿物となる。
@ 硝酸石灰には純白色でなく茶色のものがある、そのようなものは鉄分を含有しているので、リン酸を加えたとき化合して白濁する。
A タンク内の配管やタンクの上蓋等に鉄製品が使用されていると培養液中の硝酸や硫酸が気化することで侵食し、その鉄製品に錆が生じ、その錆とリン酸が化合して白濁する。故に、このような所にはステンレスや砲金以外の金属製品は絶対に使用できない。
B コンクリートタンク新設時の白濁
コンクリートタンク新設時に培養液を調製すると白濁して、pHが上昇することがある。この現象はセメントのアルカリ分(石灰)とリン酸との化合によるものである。(この場合の処置:新設後必ず行う。水1トン当たり1kgの過リン酸石灰の上澄液、か又はリン酸を投入して時々攪拌して約1週間放置して、その後、水を入れ替える)
C 使用する培養液の原水に鉄分が多量含有されているとき。
D 殺菌剤が培養液に混入した時、殺菌剤の種類には白濁するものがある。
6.井戸水のpHが倍養液のpHに及ぼす影響。
@ 井戸水のpHが6.5〜7.5前後の範囲であれば殆ど影響がない、そのpHは6.2前後となる。
酸性イオン | アルカリ性イオン | ||
NO3−N PO4−P SO4−S |
16me 4me 4me |
NH4−N K Ca Mg |
1.3me 8me 8me 4me |
計 | 24me | 計 | 21.3me |
17. その他
最後に、以上学んだことを念頭に置いたうえで近年急速に普及してきた養液土耕栽培とロックウール養液栽培について、少し考察してみる。
養液土耕は栽培のあり方、肥料の調製の仕方などを養液栽培と比較すると考え方としては全く一致している。つまり、栽培は礫でも、砂でも、スポンジでも、ロックウールなどでも肥培管理さえ完全であれば、それが根を支えるものであれば培地は何でも良いということである。ところが、養液土耕では養液栽培と比較して決定的に違う点とその問題点が何点かある。
両者が決定的に違うのは有機物の有無である。養液栽培は有機物はないが養液土耕にはある。この違いを化学的に検証すれば、窒素などの肥料の施し方を考えなければならないということである。
■養液栽培 | ⇒ | 有機物がない | ⇒ | 硝酸化成されない | ⇒ | 窒素は必ず硝酸態窒素で施す。 | ||
つまり | ⇒ | 有機物がないので | ⇒ | 土壌の緩衝作用がなく | ⇒ | 肥料の反応も早く、成長も早い | ⇒ | よって、素早い肥培・栽培管理が必要。 |
■養液土耕 | ⇒ | 有機物がある | ⇒ | 緩衝作用がある | ⇒ | 硝酸化成がある | ⇒ | 窒素は硝酸態窒素で施すべき。 |
■土耕 | ⇒ | 有機物がある | ⇒ | 緩衝作用がある | ⇒ | 窒素は硝酸態窒素で施すべき(アンモニア態でも良いがその量は全窒素量の30%以下) | ||
つまり | ⇒ | 有機物があるので | ⇒ | 緩衝作用があり | ⇒ | 肥料の反応が比較的遅く、生育変化も同様に遅いが、その変化をしっかり読まなくてはいけない。 |
養液土耕について
問題点@
栽培中の培地pHの調整が養液栽培のように簡単に出来ないこと。
★ 対策(成り疲れ・病気の原因であるアルカリ障害の回避の為にもpH調整は絶対に必要)
栽培期間中の培地pH、特に収穫最期の培地は7.0前後になっていると思われるので、このpHを6.0〜6.5に維持するべく対策が必要である。→ 高設なら培地のpHは排水口の排水を抜き取り、リトマス試験紙かpH計で計測すると培地pHは判る
(注)-1 本当は、水トールなどの機器を使って培地中の養分を抜き取り計測する)。
(注)-2 培地を採土して乾燥させ、土壌1:精製水3〜5を加えその懸濁液のpHを計測する。
問題点A
その問題(土壌pH中和)を解決するために、土壌pH7.0のときには用水のpHを5.5迄下げてベットを満水の状態にして浸し一昼夜放置したうえで、翌朝その水を一気に落とす。培地がpH6.5まで降下するよう努める。
(注)-1 pHは高ければ高いほど降下させるのに手がかかる。出来るだけpHは低いときに対策をとるのが得策。作物は7.0に浸してはいけない。奇形が多くなるし、果菜の品質が落ちる。
問題点B
ベットのシートは水抜けのよいシートを選定する。水抜けが悪いと、なかなか排水が出来ないため、いつまでも加湿気味で根腐れを来たす(根圏の酸素不足)。
下の写真@〜Cがその様子
写真−@ (A)ベット 撮影:'07.04.03 |
写真−A (A)ベット 撮影:'07.04.03 |
ベッドのシートを設備メーカーの標準仕様からアグリシートに変えて、水の抜けを良くし、出来るだけpHが6.0になるように中和処理に勤めた。(成り疲れなし) | 写真−@(A)ベットの近写 |
写真−B (B)ベット 撮影:'07.04.03 |
写真−C (C)ベット 撮影:'07.04.03 |
(B)ベット | (A)(B)ベットと同様の処理をしたが、シートを替えていないベットでは水の抜けが悪く、このように根腐れを来たし生育不良となった。 |
問題点C
液肥として標準養液を与え続けるために液肥の落ちる部分だけに肥料成分が偏り、培地全体のバランスが取れなくなる。それを続けた場合、根が濃度の高い培地の部分に触れると根腐れを来たす。(ベッド全体に液肥がかかるようにすべき)
水耕栽培施設の問題点として
ロックウールやピートモスまたはナッツの廃材、木の皮などの有機物を培地にした養液栽培施設を見受けるが、この設備の廃液の落口や培地の中心部から養液を取り出してpHメーターでそのpHを計測してみると、ロックウールなどの無機質ではそのpHは高め(7.0〜7.2)に、有機物では低め(6.0〜5.2)となっている。これではアルカリ障害や酸性害(特にカルシウム欠乏)が発生するので、培養液および培地のpHを調整する必要がある。また培地、特にロックウールなどの無機質培地ではpHの調整をしないで市販されている物があった。参考までに各々の培地のpH値を計測してみた。
培 地 材 | 試料の量 | 抽出水量 | 抽出水のpH | 表示したpH | 浸した日数 | 判 定 | |
ロックウール(G社) | 15g | 160cc | 6.4 | ⇒ | 6.6 | 7日間 | ○ |
ロックファイバー | 15g | 80cc 注−2) | 6.5 | ⇒ | 7.4 | 〃 | 調整が必要 |
もみがら薫炭 | 約40cc 注−3) | 500cc | 5.2 | ⇒ | 7.6 | 〃 | 調整が必要 |
注−1)
もみがら薫炭を使って培地とし、そこにいちご苗を定植した農家が“根の廻りが遅い(定植から1ヶ月ほどして成長が始まってくる)”と言うのでそのpHを計測してみた。そのために、全くの簡易的に計測したものであるので正確とは言えないが、一応の指針とはなるのではないか。
この“1ヶ月ほどして成長が始まってくる”原因は、培地として使った燻炭をpH調整しないまま苗を植えたため、アルカリ障害を来たしたいちごは1ヶ月間も生育停止の状態となっていたものとよみとれる。そしてその間の薫炭培地は養液の栽培ベットの中で標準養液(pH6.2)に浸されていることになるので、その時間の経過と共に培地は中和され、アルカリ障害も解消される。その後、この根圏は中和されて改善されたため、生育が止まっていたものが根は復活し、再成長し始めたものと思われる。実際に定植後の苗の状態はアルカリ障害の様相を呈して、生育は止まっていた。(燻炭はそのpHが12と強アルカリのため、必ず中和処理が必要)早速、このことをシステムメーカーへ提案したところ、翌年には培地がpH調整した無機質のものに変わっており、その後については問題がないと聞いている。(尚、本システムはNET循環式が導入されていた)
注−2)
この量を80ccとしたため、これを160ccにやり直して7日間浸し、pHが7.0以下になるかどうか、再検証の必要がある。
注−3)
薫炭を軽く押さえた程度の圧縮として、その量を目分した。
全国のこのような軽便的な養液栽培の設備を見て廻ると、以上のような問題点を含んだ設備が殆どである。また、精度の高い液肥混入器は備わっているものの、その管理はECによる管理が基本であり、また、成長を左右するpHについての調整器は殆どの所で付属していなかった。このpHがどれだけ植物栽培に対して影響を与えているのか、そのような生物化学的な事柄に配慮している設備は少ないように感じたのだった。