有機物(ピートモス)の施用と窒素成分の化学変化 




近年の農業では、化学肥料を使わずに無農薬・有機栽培が持てはやされているようです。

戦後の日本では、石油も物資も乏しく牛・馬が畦を立て、馬車を引いていた時代ならいざ知らず、田植機や畦立機のような効率的に仕事を処理できる、便利な管理機械が使えるこの時代に、高品質・多収量を放棄して終戦直後の時代に帰って行かれたプロの農家の人が増えてきている今日の農業事情に少しがっかりし、又心配をもしています。

しかしながら、有機農法の理論も考えてみると大変理屈に合っています。私達は、この有機農法と化学農法を融合させるべきだと考えています。

そこで、今回は少し高額でしたが10a当り30袋(6qbf)のピートモス(有機物)を使って栽培しました。有機物を施用した場合と、しない場合とにおいて、植物生命の源であり蛋白質の主構成因子でもある窒素成分が土壌の中でどのように変化していくのか、土壌分析結果を見ながら考察して見たいと思います。特に土壌を安定さすということがどのようなことなのか、答えを見出すことが出来ます。

私たちプロの農家は、古来の農法を見つめ、そして現代の化学性をも受け入れて高品質・多収量の農業を目指されんことを希望します。

まず、この表で注視して欲しいのは、有機物を投入した時と、しない時の窒素の形態です。有機物は通常なら一作毎に約6.000Kg(湿物)/10a、乾物なら3.000Kg/10a当り投入します。これ以上は、土の中の分解菌では処理できません。この量が限界です、それ以上を投入すると害が出ます。そしてこの時、キノコが絶対に立たない完熟の有機物を使って下さい。

キノコが立つ時期は、アンモニアの害による病気が発生して、どうする手立てもありません。また、有機物には色々な肥料成分が含まれます。特に椎茸やしめじ等のキノコの排大鋸屑は栄養過多(特に窒素分)となっていますので、継続的に長く使うと成分過多、つまり施肥過剰の状態になります。 有機物の成分量を参考にし、良く肥料の養分を計算をして使うようにして下さい。

肥料過多の場合には化学肥料のその成分を減らすようにするとか、或いは、成分の無いピートモスを使うようにして過多になった成分を薄めるような手立てをして下さい。特に、ここでは栽培期間中に尿素を施した例がありました。非常に興味あるデータとなっています。その分析結果も数値として顕著に現れていますからご参照下さい。

結論的には、“土が安定する”とは、植物の蛋白源である窒素成分のうち、硝酸態窒素が約30Kg/10aあれば安定するということであります。そして、その硝酸態窒素を作るには堆肥やその他の有機物を用いて硝酸化成をすることが土作りの重要なポイントになるわけです。硝酸化成となる土壌微生物はその生命を維持していくためには、有機物に含まれる炭素や窒素などの化合物を自体内に取り込んでいき、それによって増殖していった菌類たちが活発に働き出すわけです。

 表−@ 目標値(土壌中の肥料成分の欠乏・標準・過剰・極限量)
(解説)
土壌分析を行った後、この標準値より少ない場合はこの数値まで施肥をして修正する(肥料一覧表を参照)
分析値が標準より多く析出された場合はそのまま放置する。pHは修正しなくてもよい。数値が揃えば6.2前後になる。
単位 mg/乾土100g(≒kg/10a)
  酸 度
(pH)
アンモニア
(NH4-N)
硝酸
(NO3-N)
全リン酸
(P2O5
加里
(K2O)
石灰
(CaO)
苦土
(MgO)
可給態鉄
(Fe)
欠 乏   1.0 30 5.0 280 20  
標 準 6.0〜6.2 2〜3 30 50 50 320 30 2.7
過 剰   4.2 35 58.2 75.1 380.8 36  
極限量   2〜3 40 60 80 400 40  


 表−A ピートモス施用前の分析 (昭和 62.03.25)
分析者:米澤農業研究所 .
*(注)No.1は2連棟のハウスを1サンプルとして、No.2は5連棟を1サンプルとして分析した。
(解説)
ここではピートモスはまだ投入していない。No.1で見られるように、窒素成分は 『 アンモニア 硝酸 』 となっている。ここでは有機物が無いため硝酸化成菌が不活性の状態である事を示す。有機物を投入すると下表のように、硝酸化成菌は活性化して『 アンモニア 硝酸 』となってくる。
単位mg/乾土100g(≒Kg/10a)
サンプルNo. 酸度
(pH)
アンモニア
(NH4-N)
硝酸
(NO3-N)
全リン酸
(P2O5
加里
(K2O)
石灰
(CaO)
苦土
(MgO)
可給態鉄
(Fe)
No.1@+A 7.0 14.33 6.73 508.10 35.19 561.20 20.16 0
No.2@〜D 7.1 14.78 17.87 490.38 22.28 326.59  6.04 0


 表−B No.1−@を分析して土壌の変化を観察
分析者:米澤農業研究所 .
単位mg/乾土100g(≒Kg/10a)
分 析 日 酸度
(pH)
アンモニア
(NH4-N)
硝酸
(NO3-N)
全リン酸
(P2O5)
加里
(K2O)
石灰
(CaO)
苦土
(MgO)
可給態鉄
(Fe)
昭和 62.03.25 7.0 14.33  6.73 508.10 35.19 561.20 20.16 0.00
昭和 62.06.13 6.5 3.01 6.33 384.03 22.28 547.17 42.33 0.25
昭和 62.10.08 6.8 2.94 36.69 389.94 58.86 547.17 65.72 0.85


 表−C No.1−Aを分析して土壌の変化を観察
分析者:米澤農業研究所 .
単位mg/乾土100g(≒Kg/10a)
分 析 日 酸度
(pH)
アンモニア
(NH4-N)
硝酸
(NO3-N)
全リン酸
(P2O5)
加里
(K2O)
石灰
(CaO)
苦土
(MgO)
可給態鉄
(Fe)
昭和 62.03.25 7.0 14.33 6.73 >508.10 35.19 561.20 20.16 0.00
昭和 62.06.13 6.7 2.94 18.34 460.83 17.59 541.55 14.11 0.20
昭和 62.10.08 6.8 2.57 13.67 354.49 30.49 392.84 50.40 0.92


 表−D No.2−@を分析して土壌の変化を観察
分析者:米澤農業研究所 .
(注)
@ は尿素を施肥したためにアンモニア態窒素が大過剰となり障害が大であった。
A アンモニア害のために微量要素が吸収されていない。
単位mg/乾土100g(≒Kg/10a)
分 析 日 酸度
(pH)
アンモニア
(NH4-N)
硝酸
(NO3-N)
全リン酸
(P2O5)
加里
(K2O)
石灰
(CaO)
苦土
(MgO)
可給態鉄
(Fe)
昭和 62.03.25 7.1 14.78 17.87 490.38 22.28 326.59 6.04 0.00
昭和 62.06.26 6.3 (注)@23.52 26.68 366.30 39.88 502.27 32.25 (注)A2.80
昭和 62.08.07 7.0 3.60 34.02 395.84 26.97 498.66 60.68 0.98
昭和 62.11.16 7.0 3.67 19.87 472.65 35.19 391.43 49.39 1.10


 表−E No.2−Aを分析して土壌の変化を観察
分析者:米澤農業研究所 .
(注)
@ は尿素を施肥したためにアンモニア態窒素が大過剰となり障害が大であった。
A アンモニア害のために微量要素が吸収されていない。
単位mg/乾土100g(≒Kg/10a)
分 析 日 酸度
(pH)
アンモニア
(NH4-N)
硝酸
(NO3-N)
全リン酸
(P2O5)
加里
(K2O)
石灰
(CaO)
苦土
(MgO)
可給態鉄
(Fe)
昭和 62.03.25 7.1 14.78 17.87 490.38 22.28 326.59 6.04 0.00
昭和 62.06.26 6.5 (注)@22.79 7.33 384.03 26.98 433.12 26.12 (注)A3.20
昭和 62.08.07 7.1 2.94 11.67 386.98 28.15 420.90 36.28 0.84
昭和 62.08.26 6.5 4.41 18.67 295.41 32.84 474.21 35.28 0.85
昭和 62.10.24 7.0 5.88 23.21 508.10 >37.53 462.99 45.36 1.30


 表−F No.2−Bを分析して土壌の変化を観察
分析者:米澤農業研究所 .
単位mg/乾土100g(≒Kg/10a)
分 析 日 酸度
(pH)
アンモニア
(NH4-N)
硝酸
(NO3-N)
全リン酸
(P2O5)
加里
(K2O)
石灰
(CaO)
苦土
(MgO)
可給態鉄
(Fe)
昭和 62.03.25 7.1 14.78 17.87 490.38 22.28 326.59 6.04 0.00
昭和 62.07.08 6.8 4.78 6.71 437.20 15.25 433.34 30.24 1.80
昭和 62.08.26 6.5 4.24 16.81 425.39 26.97 420.90 42.33 0.92
昭和 62.10.24 7.0 6.61 44.02 484.47 50.43 434.92 42.33 0.98
昭和 62.10.24 7.0 5.88 23.21 508.10 37.53 462.99 45.36 1.30


 表−G No.2−Cを分析して土壌の変化を観察
分析者:米澤農業研究所 .
単位mg/乾土100g(≒Kg/10a)
分 析 日 酸度
(pH)
アンモニア
(NH4-N)
硝酸
(NO3-N)
全リン酸
(P2O5)
加里
(K2O)
石灰
(CaO)
苦土
(MgO)
可給態鉄
(Fe)
昭和 62.03.25 7.1 14.78 17.87 490.38 22.28 326.59 6.04 0.00
昭和 62.07.08 6.7 6.25 7.40 449.02 17.59 530.33 40.32 2.80
昭和 62.08.26 6.5 4.41 34.02 348.58 35.19 533.14 38.30 0.88
昭和 62.10.24 6.7 3.67 32.02 437.3 53.96 491.05 40.32 1.00


 表−H No.2−Dを分析して土壌の変化を観察
分析者:米澤農業研究所 .
単位mg/乾土100g(≒Kg/10a)
分 析 日 酸度
(pH)
アンモニア
(NH4-N)
硝酸
(NO3-N)
全リン酸
(P2O5)
加里
(K2O)
石灰
(CaO)
苦土
(MgO)
可給態鉄
(Fe)
昭和 62.03.25 7.1 14.78 17.87 490.38 22.28 326.59 6.04 0.00
昭和 62.07.08 6.6 4.41 10.00 360.40 22.28 347.94 11.59 1.72
昭和 62.10.24 6.9 5.88 34.68 437.20 52.78 465.79 58.46 1.25

『アンモニア態窒素の硝酸化』
畑作に於いて、殆どの作物が好硝酸態窒素作物であることは良く知られている。健全な作物を栽培するにはアンモニア態窒素を速やかに還元して硝酸態窒素へ変化させねばならない。そのためには硝酸化成菌の助けを借らねばならず、そのための有機物の施用は大変重要な作業なのです。

アンモニア態窒素と硝酸態窒素の変化は表−Bによると、約2ヶ月後(6/13)の分析から見え始め10/08の分析では完全な形の硝酸化となっている。結果、当初の1回、2回目の分析時の栽培(チンゲン菜)では石灰過剰に起因する症状で苦労したものの、8月の植付けから夏の最中にも係わらず良作となり、市場では最高値で取引された。

尚、硝酸態窒素の植物体内に於ける蛋白質形成を速やかに進めるために次の作業を行った。
@鉄などの微量要素を毎月キレートではなく有機酸として20g/10a投与した。にも係わらず、Feの項目では分析する度に欠乏の状態である。(注)Fe欠は残量であり、20g/10a使用すればその月は補給されている。
A潅水に使う原水のpHが7.0であった為、10トンのタンクを設置して、pHを必ず6.0付近に調整して潅水を行った。(土壌のpHと肥料要素の溶解と利用度)


= 完 =




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