カ ル シ ウ ム 欠 乏 と 対 策 

                                                          更新日:2009年 8月 1日 


農業を行うにあたって、私達は石灰という物質を軽視しているような気がします。

私は農業従事者と話す機会が良くありますが、今までお会いして満足に石灰を使用されている方は凄く稀な人達だけでした。 またその様な方々でも消石灰とか炭酸苦土石灰のみに頼り、土が固くなったり、苦土過剰になったり、 反って逆の効果(拮抗作用)で悩んでいる人が多かった事も添えて申しておきます。

この項では石灰のみに絞って検証をしていますが、その働きは、例えば果肉の元となるにはペクチン酸と (ペクチン酸カルシウム=中層)、動物なら骨格となるべくリン酸と結合する(リン酸カルシウム=骨)必要がありますので、 石灰のみ単独で施肥すればよいと言うものでもないのです。
この石灰という物質は、多収量を目指す農家にとっては、夢をもたらす大変重要な物質であることに間違いありません。




 写真−@ フリージアの石灰欠乏


<フリージアの石灰(Ca)欠乏>

フリージアはチューリップなどとは違い、球根だけの栄養で花を咲かす事は出来ません。 土壌中の肥料分を十分に吸収して生育していきます。

ところが時々、冬の厳しい寒波を受けますと、 この様に葉の幅が部分的に狭くなる(印部)事があります。 このような現象は石灰が欠乏した土壌で多く見られます。

正常な部分(写真−A・B)と、この狭く括れた不具合な部分(写真−C)の断面を顕微鏡で観察しました。



 写真−A フリージアの正常生育部の組織@
<フリージアの正常生育部@>

植物の葉の断面を顕微鏡写真に写したもの。細胞膜が二重または三重になっているのが良く理解できます。



 写真−B フリージアの正常生育部の組織A
<フリージアの正常生育部A>

植物の葉の正常部分の断面を顕微鏡写真に写したものです。

亀の甲の細胞がきれいに並んで、あたかも万華鏡を覗いたような美しい幾何学的な構造をしています。



 写真−C フリージアの石灰欠乏部の組織
<フリージアの石灰(Ca)欠乏部の組織>

この写真が写真−@の狭く括れた部分の断面顕微鏡写真です。

写真−Bのような、美しい幾何学的な模様はありません。空洞と変形になった細胞だけで形成され、亀の甲型の細胞はどこにも見当たりません。



 写真−D ピーマンの観察−@
<ピーマンの石灰(Ca)欠乏部の観察−@>

更に一例、ピーマンです。

これは、さつま芋とピーマンの写真です。中央(B)のピーマンは明らかに奇形果となっています。この括れた部分と正常な形(A)をしている部分の断面を顕微鏡で覗いてみます。



 写真−E ピーマンの観察−A
<ピーマンの石灰(Ca)欠乏部の観察−A>

正常果。

細胞の形もはっきり見え、空洞は見当たりません。正常に細胞分裂しています。




 写真−F ピーマンの観察−B
<ピーマンの石灰(Ca)欠乏部の観察−B>

写真−Cと同じように細胞の形は全く不揃いで、空洞になっている様子( 印 )も見えます。

この場合も奇形果の原因はCa欠乏です。キウリの曲がりもCa欠乏ですが、ピーマンは曲がる事が出来ませんからこのように奇形となって現れます。奇形果は室温で約3日位で軟らかくなり、やがては腐敗していきます。

上記2例で示すように、石灰欠乏の土壌で植物を栽培すると、何故このように不揃いな細胞になるのか、少し検証をしてみましょう。



 写真−G 細胞(中層組織)の模式図



<石灰(Ca)欠乏の解明−@>

これは細胞の模式図です。

真中の細胞は水色の中層と呼ぶ層で上下・左右の細胞としっかり繋がっています。この水色部分の中層には、ペクチン酸と結合した石灰(Ca)や苦土(Mg)が含まれています。

この石灰や苦土がセメントの壁のような役目をして上下・左右の細胞と真中の細胞を繋げています。それと同時に、細胞内の液(正式には原形質液と言います)が細胞の外に流出しないようにしています。

*ペクチン(pectin)とはギリシャ語のpectus(ゼリー)に由来している。種々の果実に含まれ、身近にはジャムやゼリーの製造(増量剤)に用いられていますから、一度ビンのラベルを見てください。



 写真−H 細胞分裂メカニズムの模式図@
<石灰(Ca)欠乏の解明−A>

これは細胞の分裂過程の模式図です。

石灰や苦土が土の中に十分に含まれていると、写真左側のように親細胞は均等に分裂をして親と同じような大きさの子細胞になります。(ソラマメの根端では、この時間は19.5時間しかかからないと言います)

処が、石灰や苦土が欠乏状態にありますと、右側のように中層の数が細胞分裂と共に比例して増加しません。

そのため中層は薄くなったり(葉が薄くなる現象)、親細胞より小さくなったり(奇形果・キウリが曲がる)中層がないため細胞内の液が外に流出して細胞が壊死するような現象(軟果・尻腐れ・日持ちが悪いなど)が出てきます。



 写真−I 細胞分裂メカニズムの模式図A
<石灰(Ca)欠乏の解明−B>

これは写真Hを別の見方をしてみました。

石灰や苦土の欠乏は、中層の欠陥細胞となって、細胞が大と小に分れたり、空洞となっていることを示した模式図です。

このように、石灰や苦土は細胞分裂、即ち植物の成長には欠くことのできないもので、畑では元肥だけでなく必ず炭酸石灰(石灰分だけが必要の時)・炭酸苦土石灰(苦土分も必要な時)・過燐酸石灰(リン酸も必要な時)等の追肥をしなければなりません。

その量は必ず土壌の分析を参考にし、勘に頼らないようにして下さい。



 写真−J キウリが湾曲した状態の細胞分裂
<石灰(Ca)欠乏の解明−C>

これは四葉(キウリ)の断面写真です。

凹凸、各側の種子を比較してみますと、凸部の種子は大きく、凹部が小さくなっています。この現象は、凸部の部分は表側で太陽光線量が多く、凹部は裏側で光量が少なかったためです。

土壌中の石灰が少ない故に、このような所で成分の奪い合いをしているようです。凸部は細胞分裂が盛んなために石灰をより多く要求しながら生育は進みます。凹部は生育が進まなかったものです。

そのため凸部の種子や細胞の方が大きく、表裏で細胞は不均衡となり、湾曲したキウリとなったものです。我々のデーターは石灰をきちんと投入すれば曲がりの率は激減しました。

また、最近はキウリを筒に入れて真っ直ぐしたり、重石をぶら下げて栽培するような治具もあるようですが、皆さんはその様な事やっていませんか?
キウリは、本来真っ直ぐになるものなのです。



 写真−K トマトの尻腐れ病
このような先の尖ったトマトがそのまま大きくならずに熟したのをフルーツトマトと言いませんか?
<トマトの石灰欠乏>

俗に言う尻腐れ病です。その下の左側の果(印部)は、お尻が尖った通称ピーマントマトとなっています。



 写真−L トマトの硼素欠乏
 
<トマトの硼素欠乏>

良く間違いますが、これは尻腐れではありません。尻腐れと違う点は尻のところが割れたように筋が入っています。そのような果は硬い感じになります。



写真−Mトマトの石灰欠乏
 
<トマトの石灰欠乏>

この写真は極端な石灰の欠乏です。永年の間、水田だったところにハウスを建てて、トマトを定植しました。勿論、過去には石灰など投入したことはありませんでした。定植前の分析の結果です。
pH   4.98
NH4-N   6.62(注@)
NO3-N   1.13(注@)
P2O5  70.92
K2O  10.59
CaO  96.60(注A) →300〜350Kg/10aが標準
MgO  31.65
Fe   0.52

(単位=Kg/10a当り)
注@ NH4-N>NO3-Nの窒素比は有機物の使用が少ない場合に生じる。果菜には硝酸態窒素が重要。
注A 石灰欠乏によるpH4.98への低下。



写真−N トマトの石灰欠乏の修正
 
<トマトの石灰欠乏の修正>

この写真は、上の石灰欠乏を修正したものです。(農家本人曰く)上記写真Mの方には良い苗を選抜して植えた。にも係わらず、7日位で差が見えてきた。慌ててMにも追肥したという。
pH   6.0〜6.2(予想)
NH4-N   8.62
NO3-N   6.73
P2O5  70.92
K2O  47.43
CaO 312.60 →300〜350Kg/10aが標準(修正ができている)
MgO  97.65 →苦土石灰を投入したため約50Kgが追肥となる
Fe   2.73

(単位=Kg/10a当り)
注)上記の分析値は追肥設計からの計算値です
  <追肥の設計>
 硝安25Kg 炭酸石灰450Kg 硫酸加里 60Kg 有機酸微量要素20g /10a 


カルシウム欠乏の対策

葉面散布の場合
使用薬品;塩化カルシウム( CaCl2・2H2O )  工業用の25Kg袋

冬になると、ホームセンターで売っている、融雪剤の塩カル(食物添加用)でも良い。塩カルは少しベタベタするので、展着剤の効用もある。
注意)
@ その粘着性のため果実や葉が汚れたようになります。例えば、ぶどうなどのように粉をふいたようなブルームが必要とされるもののように拭き取れない・洗浄出来ないものには不向きです。
A 硝酸カルシウムは葉面散布には不向きです、使用しないこと事。肥料一覧表を参照下さい。

使用法 ; 1.000gの水に3Kg(0.3%溶液)とする。

散布法 ; 表裏均等によく付着するようにする。

お勧め ; 同時に、微量要素(200cc)を混入するとさらに良い。

石灰を土壌に施す場合は、
・即効性を求める場合には ⇒ 硝酸カルシウムや塩化カルシウムを、、、、
・遅効性でもよい場合には ⇒ 炭酸カルシウムまたは苦土石灰と硝安を同時散布する。

炭酸カルシウムや炭酸苦土石灰のカルシウム成分は硝安の硝酸と反応して、、、、

となり、最終的には植物に有益なCO2を発生する。


この化学変化は緩慢に移行し、特に(A)型の場合の前提となるのは多量の硝酸態窒素が必要となることである。その施肥量は土壌状態により変わってくるので土壌分析を行ったうえ、施肥量を決定する。また、使ってはいけない石灰もあるので注意すること

良く質問を受ける項目 ;

塩素成分を含んだ薬品を植物に使用した場合、塩素の障害を来すのではないかという質問が良くあります。
元々、塩素は植物にとって大変重要な元素です。例えば、カーネーションの栽培において、潅水を井戸水のみに頼って行った場合、 首曲がりの現象が現れることがあります。この症状は塩素の欠乏ですが、そのような場合の塩素の補給には、塩化カルシウム(石灰;理論値として38.3%含有)を散布するか塩化加里を使うか、それとも散水をしばらく水道水に切り替えるなどします。そうすると塩素が補給されて真っ直ぐな首茎になります。

この塩化カルシウムを推奨するのは安価で入手し易いからです。(水道水はカルキという塩素系の薬品での消毒します)

    ■ メモ
 塩素(Cl)について
1774年 スウェーデンのカール・ヴィルヘルム・シェーレは塩酸と二酸化マンガンを加熱させ緑がかった黄色いガスを発生さすこ
       とに成功。この時、氏はまだ元素とは気が付いていない。

1810年 ハンフリー・デービー(イギリス王立研究所化学教授)が元素であると認める。
       気体が黄緑色である点から、ギリシャ語で「黄緑色」を意味する(Chloros)を取ってChlorineと命名した。

1954年 微量要素としての塩素(Cl)の発見。

病気の際、黄色く色が抜けたようになる症状をクロロシス(萎黄病・黄白化現象)と表現するが、これはこのクローロスに由来し、現在ではこのように日本語にもなっている。


= 完 =




    KISHIMA’S Home Page “ INDEX ”ページへもどるへ戻る
このページのTOPへ戻ります