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].微量要素と植物
1.マンガン(Mn)、鉄(Fe)、銅(Cu)が欠乏すると葉の色がなくなる。
葉の緑色は葉緑素の色でもある。葉緑素を230含んでいる葉緑体には、蛋白質と結合した鉄(12分子)、マンガン(2分子)、銅(6分子)が含有され、これらが生命に係る重要な代謝を行っている。従って、鉄、マンガン、銅が欠乏すれば葉緑素は十分に出来なくなり、やがて黄化する。
マンガン欠乏−@ (作物:キウリ) | マンガン欠乏−A (作物:いちご) | |
マンガン欠乏は葉の縁の方から黄化してくるのが特長。 | これも葉の縁から黄化しています。マンガン欠乏になると苺はすっぱく感じます。 |
マンガン欠乏−B (作物:シクラメン) | マンガン欠乏−C (作物:薔薇) | |
マンガン欠乏です。このような状態になると根腐れを来している可能性があります。また、その下の方に見える葉では縁のまわりが反り上がってカップ状になっています。これはMoの欠乏です。このようなときには、潅水の水のpHを5.5〜6.0に調整して潅水してみてください(ホウ素欠乏によるMoの欠乏)。 | マンガン欠乏が相当進んでいます。 |
鉄欠乏(作物:きうり) | 銅欠乏(作物:トマト) | |
鉄欠乏は葉の葉脈の部分だけを残して全面が黄化するのが特長。 | 銅が欠乏すると葉には黄色い斑点が目立つようになります。 |
2.鉄、銅、マンガン、亜鉛が欠乏すると葉緑素の光合成量(炭酸ガスの固定)は減少する。
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植物の葉面には気孔という、人間に例えれば口に相当するものがある。植物はこの気孔から水分を発(蒸散作用)する。この蒸散作用で植物は体液(細胞液)の浸透圧を高め、その力で根から水分とその水分に含まれる栄養素の補給をする。その浸透圧は1.2〜1.5気圧が最適と言われている。同時に、この気孔は二酸化炭素を取入れたりする所でもある。植物は体内に取り込んだ二酸化炭素と水と葉に射した光エネルギーによって、糖といわれる物質(炭水化物)の生産を行いながら酸素を放出している。そして、その糖を分解し合成を繰り返しながら生命を維持している。これは“クエン酸回路”といわれる植物の代謝である。この代謝は光の強度や温度によっても変わるもので、光の量が強ければそれに比例して二酸化炭素の量を増やしてやる必要がある。この気孔はうまい具合に出来ていて、その光の強度に応じて気孔の開閉面積を調節し二酸化炭素の吸引量を調節するようになっている。
ところが、人は意識しなくとも自力で酸素を吸引することが出来る。植物は自力で吸引することが出来ない。葉と空気の間には僅かだが常に摩擦抵抗が生じている。風が吹いても弱い空気の流れでは葉の表面の空気は移動してくれないのである。この摩擦抵抗によって生じる空気の滞留層、つまりこの葉を包んでいる空気の層のことを葉面境界層と呼んでいる。そこで、それを解決するのに植物は風の力を借ることになるわけである。無風の場合、若しくはそれに近い状態では気孔は開いていても植物は二酸化炭素を取り入れることは出来ない。人ならば手で口を塞がれた窒息の状態である。
その問題点を解決する風速が0.2〜1.0m/秒というわけなのである。反対に、これ以上の強い風速になると植物は過乾燥になり生育不良に陥る。
更に、詳しいことを知りたい人は『風と光合成』矢吹萬壽著 農文協出版などがあるので参考にされたい。
図−@『カーネーションハウス栽培における炭酸ガス濃度の変化』 (Kenneth) |
<<炭酸ガスの供給方法>> 大気中の炭酸ガスの濃度は350ppm前後といわれている。このハウス内のCO2濃度は夜明け直後のAM8時位から減少し始め、PM2時で最低濃度120ppm位となっている。 この表から察することは、夜明け前からハウス内に十分な量の炭酸ガスを蓄え、日の出と同時にその量を吸収できるように充満させておくことがポイントのようです。 |
葉は周縁が巻き上がりカップ状になる。また、縮れた状態になるのが特長。代表的なものには、桑の萎縮病、苺の萎黄病がある。モリブデンの重要性は、植物に吸収された硝酸態窒素が亜硝酸 → 次亜硝酸 → ヒドロキシルアミンなどを経てアミノ酸に変化し、最終的に蛋白質に合成される。その最初の入口の触媒作用をするのが硝酸還元酵素(モリブデン・フラビン蛋白酵素)という酵素であり、その触媒を促すのがモリブデンという金属である。
*)硝酸還元酵素(英名:Nitrite reductase)
Moを構成要素 とし、最適pHは8.0とされる。土壌中にMoが欠乏すると、硝酸態窒素(NO3)は亜硝酸(NO2)に変化(この変化を還元という=酸素分子が奪われること)できないので、硝酸の含有率は増加する。それを食した場合、その生体の危険度は増していく。
注) 硝酸が残留した野菜を食べた場合、苦く感じる。症状として翌朝に目が覚めたとき目脂がでる。酷くなれば、体が震えるなどの症状がある。
シクラメンのモリブデン欠乏 |
キウリのモリブデン欠乏 |
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モリブデンは窒素がたんぱく質に変化しょうとするときに最初に必要とされる金属です。また、モリブデンは紫色を発色するときに必要な金属です。その鮮明さを作り出すときに必要となる大変重要な金属です。特に、強い紫色が好まれる『なす』『ぶどう』『紫色の花』などは特に必要とします。 | 写真中央部の葉は周縁が反り上がってカップ状になっています。 |
5.硼素(B)が欠乏すると・・・・・
・菜種の不稔
・白菜の中肋の褐変
・大根の黒斑
・白菜・キャベツの芯腐れ
・トマト果の黒斑(果は硬くなる、尻腐れと類似している)
〃 蔕の処で縦や横に裂開する(裂口は褐色)
・きうりの成長点のかんざし状
・果樹では、果実の落果率が増える。
のような症状が発生します。
トマトの黒斑点(B欠乏) |
トマトの尻腐れ(Ca欠乏) | |
硼素がさらに酷くなると尻腐れのようになります。しかし、この写真は尻腐れとは明らかに違います。このようなトマトは果が硬くなります。 | こちらの写真はCa欠乏による尻腐れです。また、赤い矢印のように先の尖った果が発生するのも特長です。 |
6.亜鉛(Zn)が欠乏すると・・・・・
・葉の葉脈と葉脈の間に縞状の黄化が発生(下部の葉に顕著に発生)
・生長点は生育不良で細くなる。(亜鉛は生長ホルモンの分泌を促す)
トマトの亜鉛欠乏 |
トマトの生長点が細くなる現象 |
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葉脈間の色抜けが特長。3月8日には殆ど見えなかった症状が、23日になるとハウス全体に発生する。果実が大きくなると、それに伴い症状が広がって行った。 | 生長ホルモンは子孫(実)に優先移動し、次が新芽です。結実が多くなったり、わき芽を整理しなかった場合にはこのような現象が多くなる。 |
7.微量要素と花の色
1) 花の色
@兎の毛の分析では、黒を発色するにはFe(鉄)・Cu(銅)・Co(コバルト)・Ni(ニッケル)が必要因子となり、黄色ではFe・Mo(モリブデン)・Ti(チタン)・Niが、白色はFe・Niで構成されている。
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シクラメンの花弁色@ |
→ | シクラメンの花弁色A |
普通に栽培した色(少し紫がかった色になっている)。これに有機態のチタンを加えると・・・(右の写真へ) | チタンを加えた花弁。チタンを加えると黄色になると言うのは前述の通り、赤に黄を加えると朱色になりここでは、紫の混ざった暗い赤色に黄色が加われば当然鮮明な赤を創出できる。 |
カーネーションの花の色(ニューレッド) |
→ | 鉄(Fe)分を与えなかったニューレッドの花の色 |
(礫耕栽培)普通に栽培したカーネーションの花の色は赤、この花に鉄分を与えないで栽培すると・・・(右写真へ) | (礫耕栽培)鉄分を2週間与えなかったらピンク色の花になりました。しかし当然のこと、このような花の日持ちは悪くなります。 |
8.微量要素の施肥について
微量要素は、動物においても植物においてもその生命を維持するために大変重要な役目をしている。
栽培をするうえで、本来なら各々の要素を一点づつ分析しながら栽培したした方が最良なのだが、それでは大変な手間と費用がかかる。そこで、私たちは今までの各要素を分析した経験から鉄だけを分析すればその他の注−1)要素は概ね鉄の存在量に比例して増減していることが分かった。鉄を分析して3Kg/10a以下となると鉄欠が発生するので他要素はあらかじめ算出したデーターに基づいて調製をしている。さらに分かったことは、過去何千点と可給態鉄の分析を行った結果、その殆んどの含有量は1Kg/10a以下が大半であった。わたしたちは、『地力とはこの微量要素である』と考えているし、微量要素は養液栽培のみならず土耕栽培においても是非とも投与すべき重要な栄養素の一部であると強く考えている。
注−1)一定比例して吸収されることを贅沢吸収、逆に多量要素のようにステージごとにバラバラに吸収されることを選択吸収とよぶ。
9.肥料成分の土壌中に於ける拮抗作用について
1)拮抗とは
『拮抗』とは辞典によると、力・勢力がほぼ等しく互いに張り合っていることある。農業では例えば、圃場に石灰が過分に存在した場合には苦土や加里などの要素が著しく阻害されると解釈されている。
加里過剰では、、、 | → | 石灰 ・苦土 | |
石 灰 〃 | → | 苦土 ・加里 ・ホウ素 ・亜鉛 ・鉄 | |
苦 土 〃 | → | 石灰 ・加里 | |
アンモニア 〃 | → | 加里 ・ホウ素 ・モリブデン | |
リ ン 酸 〃 | → | 加里 ・銅 ・亜鉛 ・鉄 | |
塩 素 〃 | → | リン酸 が影響をうける。 |
これとは逆の事柄で相乗(又は相助)効果がという言葉がある。
図−B トベネックの桶の法則 |
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]T.炭素率
炭素(C)/窒素(N)比のことであり、この比率は表−@に示す通りである。
微生物は炭素率の高い有機物を分解する際、セルロースなどの炭水化物を分解して炭酸ガスを放出する。このときのエネルギー源が窒素と考えられている。また、この窒素とセルロースを分解して生ずる有機酸から蛋白質を合成して菌体をつくり増殖している。
種 類 | 炭素率 | 全炭素(%) | 全窒素(%) |
杉オガクズ | 636 | 50.9 | 0.08 |
ラワンオガクズ | 4,366 | 48.0 | 0.11 |
檜オガクズ | 1,296 | 51.6 | 0.04 |
米マツオガクズ | 1,666 | 50.0 | 0.03 |
米マツバーク | 728 | 51.0 | 0.07 |
イナワラ | 74 | 42.3 | 0.57 |
籾殻 | 72 | 39.8 | 0.55 |
堆肥イナワラ | 19.4 | 6.2 | 0.32 |
麦ワラ | 18.5 | 6.1 | 0.33 |
落葉 | 21.4 | 7.5 |
0.34 |
平均堆厩肥 |
20.3 | 7.9 | 0.39 |
牛 糞 | 23 | 41.4 | 1.8 |
豚 糞 | 11 | 41.5 | 3.9 |
鶏 糞 | 9 | 42.2 | 4.6 |
例-1 杉オガクズ1Kgに対し鶏糞を何kg投与すればC/N率10となるか?
杉オガクズ1kgの中には、
全炭素(C)・・・509g 全窒素・・・0.8g が含まれている。
鶏糞1kg中には、
全炭素(C)・・・422g 全窒素(N)・・・46g が含まれている。
必要鶏糞を χ とすれば、、、、
(509 + 422 × χ) ÷ (0.8 + 46 × χ) = 10
509 + 422 χ = 8 + 460 χ
422 χ − 460 χ = 8 − 509
−38 χ = −501
∴ χ = 13.1842 kgとなる。
例-2 杉オガクズ3kgに対して鶏糞1kgを混合したときNは何g補給しなければならないか?
C/N + χ = 10
(509 × 3 + 422) ÷ (0.8 × 3 + 46 + χ) = 10
(1527 + 422) ÷ (2.4 + 46 + χ) = 10
1949 ÷ (48.4 + χ) = 10
484 + 10 χ = 1949
10 χ = (1949 − 484)
χ = 146.5g ∴ 硝安(34%)なら、146.5 ÷ 0.34 = 430.88gとなる。
]U.土壌分析と追肥
追肥 計 |
32.60 52.87 |
212.00 314.42 |
20.00 41.17 |
硫酸加里:60 苦土石灰:200 炭酸石灰:200 |
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追肥 計 |
3.40 6.34 |
3.40 6.27 |
27.00 55.03 |
212.00 307.40 |
20.00 38.14 |
硝安:20 硫酸加里:50 苦土石灰:200 炭酸石灰:200 |
|||
追肥 計 |
159.00 321.75 |
30.00 44.11 |
苦土石灰:300 |
||||||
追肥 計 |
42.40 342.05 |
8.00 31.18 |
苦土石灰:80 |
||||||
追肥 計 |
106.00 316.45 |
20.00 40.16 |
苦土石灰:200 |
||||||
追肥 計 |
6.80 6.80 |
6.80 7.39 |
159.00 321.75 |
10.00 29.15 |
硝安:40 苦土石灰:100 炭酸石灰:200 |
||||
追肥 計 |
10.82 46.57 |
16.40 34.04 |
硫酸苦土:100 硫酸加里:20 |
||||||
]V.土壌の消毒
1.蒸気消毒
2.熱湯消毒
3.薬品消毒
4.太陽熱利用温室内高温消毒(石灰窒素を併用)
5.病原体、および他の植物加害生物駆除に要する温度
6.土壌消毒後の微生物とその処置
消毒後の微生物の回復作業に有益菌の投与が必要と思われるが、薬品消毒の場合は薬効が長く持続するのでその効果が消滅するまで処置できない。蒸気・熱湯・太陽熱の消毒の場合は一旦滅菌した有益菌を回復させる作業はすぐにでもできる。特に、硝酸化成菌はアンモニア態窒素を硝酸態窒素に還元するのに大変重要な役割をしており、土壌消毒後の作業においてもこれらの菌を増殖させる必要がある。
そのため、この圃場に無消毒の土壌を投入した場合には、また雑菌を持ち込むことになる。この相反する行為をどのように思考整理するかということに行き詰まる。そこで、考え方を少し整理すると、詰まるところ、手法@として、消毒は行うが菌は外部から持ち込まない。自然増殖するのを待つ。手法Aとして土壌消毒はしない。つまり、各々の菌類は共生させておいて、お互い拮抗させながら均衡を保つ。
このAの方法が耐病性に対しても強いと思うし、例えば、人間が結核菌の有無判定にツベリクリン反応を行い、そのとき陰性だったとしたらわざわざBCG接種をして抵抗性を持たせ、仮に病気が発生しても軽微に済むようしているのと同様に考えたらどうだろうか。ウィルスフリー苗を使って栽培しても病気に侵されているという報告が各地から結構多く寄せられるが、そういう意味では、この消毒殺菌という作業は、仮に抵抗力を持たない植物に菌が侵入してきたときの方が余計に恐怖を感じるのではないか。
私は冒頭でも述べている通り、病気と言う現象は二次的なものであって、その一次的な原因は『要素の欠乏か過剰』である。従って、土づくりに専念すれば、ほぼこの問題は解決できると考えている。
有効な除塩の手段としてなら『熱湯とその消毒』を薦める。その土壌分析データーを紹介する。この分析データーは簡易分析と思われ、分析の数値には不安定な要素もあるようだが除塩の比較にはなると思う。
PH(H2O) |
NH4-N |
NO3-N |
P2O5 |
Fe |
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PH(H2O) |
NH4-N |
NO3-N |
P2O5 |
Fe |
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PH(H2O) |
NH4-N |
NO3-N |
P2O5 |
Fe |
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PH(H2O) |
NH4-N |
NO3-N |
P2O5 |
Fe |
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]W.根と浸透圧
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