土 壌 環 境 か ら 見 た 作 物 の 成 疲 れ の 現 象 を 考 え る 

<翻訳>
2012年 3月 1日 .

1.前書き

近年は、インターネット利用することで現地を訪問することもなく、各々の地方の面識もない方々の栽培状況をブログやホームページなどで閲覧することができます。例えば、この方はこのように日々の管理を事細かに忘備録スタイルでTwitterされています。綿密な管理をされていることが分かります。今までは相当量を収穫されているようすが伺えます。しかし、栽培写真では少し気になるところもあります。それは、ここに来て急速に成り疲れが進んでいるようすが伺えることです。いちご栽培では1番果2番果と進み、この2月〜3月という時期は成り疲れがピークになる時期でもあります (写真−@AB)。

その症状の初期状態では先ず、葉先に露が着かず、生長点にチップバーンが発生し、萎黄病やうどん粉病が多発する。更に、葉の周縁の枯れるなど典型的なアルカリ障害の症状が目立っています。これは土壌管理の問題であり、その考え方の基本になるのは、化学を勉強すると必ず教わる『質量保存の法則』『中和反応』という考え方です。それには、土壌から持ち出した養分は必ず元の状態に戻すということを大前提に考えることでもあります。例えば、石灰という要素資材を用いないで放置したままにしておくと果実は肥大せず、果肉も締らず、日持ちもしないという状態の商品になります。

更に、果形はナデ肩になり空洞果でなる。こうなると、大きい果は期待することはできなくなり収量も減じていく。また、収穫が進んでいくと良品率は低下し、遂には葉が倒れ、倒伏・枯れ始めるといったことにもなります。栽培状況はおおむね、このような道を辿っていきます。また、苦土が不足すると葉緑素は形成されず葉の緑色は弱く(薄緑色)なり、窒素が少なければアミノ酸やタンパク質が形成されなくなるので食べても美味しくなく、病気がちな作物になります。加里が少なくても、リン酸が少なくても、鉄分が不足しても、更には塩素が不足しても不具合は生じます。そして、これらの要素は多すぎても困ったことになります。従って、必ずその量は適量に調整しておく必要があります。現在の圃場にどれだけの量の養分が残っているかどうかは精密な土壌分析が必要です。そして、その不足分を補う作業が大変重要なことなのです。これは勘に頼ってできることではありません。

それでは、成り疲れの主な原因として次に考えられることは何なのか?その答えは、土壌のpH変化が重要な部分を占めています。それは、主に硝酸態窒素とカルシウムのバランスの問題であり、これも質量保存の法則と中和反応という化学理論です。イチゴがその生育段階でどの養分を好んで吸収するか、その生育段階での必要となる養分の方が早く少なくなるのです。そして、その肥料が持っている電子が(+)か(−)か?それによって、pHが上がったり下がったりするわけです。この上がったり下がったりするpHの計測では、土耕栽培なら手間のかかる土壌の前処理をしてpHを計測するしか手はないのですが、最近の高設栽培の場合なら簡単に確認することが出来ます。それは、廃液口の所で廃液を取り、そのpHを計測して下さい。多分、pH(H2O)が6.8とか7.0になっていると思います。

6.8なら前記の症状が部分的に、7.0以上なら蔓延していると思います。つい先日、地方のイチゴ栽培農家から私の所にTELがありました。“少しチップバーンが目立ちます・・・・”“落ち口のpHは?”と尋ねると、“6.8で露も着かなくなった”といいます。私が“植え付け直後に、きちんと早めに対策処置をしないと後々苦労するよ!”忠告した通りです。

最後に、この農家の地理的な位置関係も考えておく必要があります。 栃木県塩谷郡高根沢町鬼怒川沿いにあります。上流には鬼怒川温泉郷・中禅寺湖があります。鬼怒川温泉郷の泉質はアルカリ単純温泉が多いようで、pHが10.1と言う泉質もあるようです。一方の中禅寺湖では年間の平均pHは8.2とあります。植物にとっては強過ぎるアルカリです。ここでは冬のデータはありませんが、雪融けシーズンの4月で7.6です。真冬ではアルカリが薄まる雪融け水の流入がないので、pHはもっと高いと思われます。地下水についても、このような水質が水脈として存在しているのではないでしょうか?2006年2月に真岡市のイチゴを視察した際、横の水路の水のpHを計測しました。その時7.2だったことを記憶しています。

注)
河川水温は通常20℃前後となっていますが、4月は3.8℃に変化しています。ですから、雪融け水が相当流入している筈です。因みに雪は5.2位だと思います。また、上水や潅水に使う井戸水のpHについても把握しておいた方が良いでしょう。


参考に、下の写真は処置が良いために成り疲れはありません。但し、そんなに良い状態の写真ではありません。まあまあの状態の写真です。成り疲れのシーズンの2011年2月16日の写真です。

T・Kur.いちご園
 写真−1 (撮影:’12.01.18)
イチゴ(さがほのか)
   写真−2 (撮影:’12.01.17)
イチゴ(さがほのか)
これは今年の写真です。訪問時はCa欠乏が酷く、すぐに硝酸石灰と塩化石灰で強化をしました。中央にコインが見えますが、これは500円玉です。   今年は曇天が多く、生育は少し良くないと言っていました。

 写真−3 (撮影:’11.02.16)
イチゴ(さがほのか)
   写真−4 (撮影:’11.02.16)
イチゴ(さがほのか)
全体写真   低いアングルから見ると・・・

 写真−5 (撮影:’11.02.16)
イチゴ(さがほのか)
   写真−6 (撮影:’11.02.16)
イチゴ(さがほのか)
写真−3を近づいて見ました。   根の状態です。少なくなっていますが、まだ地表に出ています。これが無くなって来ると大変です。本当は通路の付近まで有るのが望ましい。炭酸石灰と硝安を混合して散布すると良い。

 写真−7 (撮影:’09.03.05)
イチゴ(さがほのか)
   写真−8 (撮影:’09.03.20)
イチゴ(さがほのか)
これは3月の写真です。上の写真とは年度が違いますが、大体同じようなレベルの栽培が出来ています。。   果形、葉の艶など問題はありません。

この農家は、潅水の水源に水路(クリーク)の水を使っています。この水源のpHは7.2です。それを通常は6.2〜6.4位まで下げて使用しています。この写真は年度こそ違いますが、1・2・3月と大体このような生育状況です。成り疲れは殆どありません。それでは、何故、上述のような成り疲れに陥ってしまうのか?その状況を、土壌分析の数値に置き換えながら解説したいと思います。


2. 成り疲れの最大原因

先の1.前書きの項でも述べた通り、成疲れの最大要因は土壌pHの上昇に起因するものです。そこで、そのpH上昇の要因について考察します。

1)土壌pHの上昇

養液栽培の場合のpH変化

pHが上下に変化をする過程を、その変化の妨げになる物(有機物)が無い培養液で検証する。
まず、養液栽培の大葉の栽培のpH上昇例をご覧いただく。下表は福岡市M農園の分析例である。

 表−@ pHの変化:ガラス温室200坪,水耕,作物は大葉,養液タンク10トン,水耕ベット内20トン(培養液合計30トン)
(分析:米沢農業研究所)
  分 析 月 日 pH NO3−N P K Ca Mg
標準培養液   6.20 16 4 8 8 4
分 析 結 果
修 正 追 肥
S59.12.04
 
 
6.08
 
(予想6.50)
8.57
4.50
13.07
2.64
1.40
4.04
4.90
3.00
7.90
6.40
1.50
7.90
3.50
0.50
4.00
分 析 結 果 S59.12.10 6.97 6.67 1.95 4.40 4.00 2.00
分 析 結 果 S59.12.18 7.42 5.52 1.49 3.40 3.80 1.90

養液pHの上昇は(−)イオンのNO3−N・Pと(+)イオンのCa・K・Mgの残量とほぼ比例する。生育の良い作物ほどNO3−Nの要求度は高く、その減少がpHの決定に大きく左右しており、特にNO3−NとCaは決定主因になっている。とりわけNO3−Nの影響は大きい。

分析結果中、12/04日は結果を踏まえ培養液を一端修正した(その時の予想は6.4〜6.5と思われる)ものの、その後10日までの一週間放置し続けたら6.97まで上昇していた。更に放置した処、12月18日には7.42まで上昇した。このように酸性肥料のNO3−N,Pが吸収された結果pHが7.42という高いpHとなっている。

それでは、土壌の場合はどうであろうか?土壌の場合は有機物があったり、単なる水の場合と違い外的に左右する要因があるために中々解明しにくいが、考え方の基本は同じであり、養液のように急激ではないとしても緩やかな上昇傾向になる。

土耕栽培のケース@ 於:福岡県(現)糸島市
写真は、成疲れもなく収量6トンとなった栽培の例
 写真−9
イチゴ(ひみこ)
   写真−10
イチゴ(ひみこ)
全体写真   同左写真を接近して撮影しました。
   
表−A 上掲写真の土壌分析データ(“品種:ひみこ”のハウス栽培に於けるpHの上昇)
<<分析者:米澤農業研究所>>  .
単位mg/乾土100g ( ≒Kg/10a)
分 析 日
肥料投入量
酸度
(pH:Kcl)
アンモニア
(NH4-N)
硝酸
(NO3-N)
全リン酸
(P2O5
加里
(K2O)
石灰
(CaO)
苦土
(MgO)
可給態鉄
(Fe)
追 肥
標準値 6.0〜6.2 2〜3 10 50 50 320 30 2.70  
’77.09.04 6.92 0.67 0.80 34.28 14.64 305.84 57.40 0.163  
 50 Kg
150 Kg
 80 Kg
 20 g
  8.50 8.50
28.50


42.00

43.20
 


2.70
硝 安
過リン酸石灰
硫酸加里
微量要素
修正値   9.17 9.30 62.78 56.64 349.04 57.40 2.863  
この分析は定植前の検査分析である。ここでの留意点はpHが高すぎること。このpHで定植すれば、やがて一か月もすればすぐにアルカリ障害を来す。そのため萎黄病・うどん粉病・チップバーンなどが多発し生育不良となること必至。数値の考察:石灰が適量で硝酸態窒素はほぼ“0”である。このことが、pHが高くなった主な原因である。このとき、数値を修正しておく(硝酸態窒素を標準値の13Kg程度に修正する)必要がある。

’77.10.14 6.12 2.56 0.73 41.37 14.64 230.09 54.94 0.181  
30 Kg
50 Kg
80 Kg
200 Kg
20 g
  5.10 5.10
9.50


40.00

14.00

106.00
 



2.70
硝 安
過リン酸石灰
硫酸加里
炭酸石灰
微量要素
修正値   7.66 5.83 50.87 54.64 350.09 54.94 2.881  
石灰分が大幅に減じている、そのためpHも低くなっている。この月も硝酸態窒素が全然足りない。要素成分が標準値付近になると植物の成長は俄然進みだし、窒素や石灰の養分がよく吸収されるようになる。数値の考察:pHを下げる硝酸態窒素がほぼ“0”でpHを上げる石灰も大幅に欠乏である。従ってpHは6.12、このことはうえ9/4日と比較するとpHの決定がよく理解できる。ただし、ここでは硝安(30Kg)と石灰分を含む過リン酸石灰(50Kg)と炭酸カルシウム(200Kg)を投入したためにその成育は良好に保たれている。

’77.11.19 6.33 4.12 5.80 43.14 22.52 241.32 63.50 0.113  
60 Kg
200 Kg
20 g
        32.40
79.50
 

2.70
硫酸加里
炭酸石灰
微量要素
修正値   4.12 5.80 43.14 54.92 320.82 63.50 2.813  
この月もバランス良く吸収している。特に窒素と石灰が大幅に不足している。pHがわずかに上昇傾向。

’77.12.27 6.47 2.72 2.60 36.64 22.96 248.33 47.38 0.266  
15 Kg
80 Kg
40 Kg
20 g
  2.55 2.55
15.20


21.60

22.40
 


2.70
硝 安
過リン酸石灰
硫酸加里
微量要素
修正値   5.27 5.15 51.84 44.56 270.73 47.38 2.966  
石灰量は先月と一緒だが、わずかにアンモニア態窒素>硝酸態窒素となっていて、そのぶんpHが高くなっている。このような圃場は有機物の投入量が少ないはずである。(重要)有機物の投入量が充分なら窒素の構成は必ずアンモニア態窒素<硝酸態窒素となる。

’78.01.30 5.59 3.60 1.67 28.37 20.37 183.79 49.39 0.178  
15 Kg
100 Kg
50 Kg
300 Kg
20 g
  2.55 2.55
19.00


27.00

26.00

159.00
 



2.70
硝 安
過リン酸石灰
硫酸加里
炭酸石灰
微量要素
修正値   6.15 4.22 47.37 47.37 368.79 49.39 2.878  
石灰が大量に吸収されている。その為にpHが下限域まで下がっている。その原因は石灰の大欠乏である。ただし、前月過リン酸80Kgを投入しているので栽培的には問題ない。今月も過リン酸石灰と炭酸石灰を追肥して養分の修正をしておくこと。
この頃の標準窒素全量は約10Kgとして設計している(その後、すぐに20Kgに変更)。 但し、吸収が余りにも旺盛な場合は極限量の30Kgで対応施肥するケースもある。

この表の見方は、まず植え付け前の分析(9/4日)ではpHを下げる要因の硝酸態窒素が無く、その割に石灰が適量存在するので、当然のことながらpHは高くなっている。それを修正して10月に再度分析すれば計算通りpHは落ち着いている。しかし、この内容を見ると、安心しては居られない。植え付け間もない背丈の筈なのに、かなりの量の養分が吸収されて減じている。

以後の分析値でも、石灰量の増減とアンモニア及び硝酸の量が多いか少ないかで、微妙にpHが上下しているのが理解できる。 特に、圃場のpHを落ち着かせると言う意味では、この硝酸態窒素を如何にうまく加えていくかと言う調整が大変重要な意味を持っていると言う事がお分かり頂けると思う。

以上のような理解の仕方で下の表も見ていただきたい。

土耕栽培のケース−A 於:香川県(現)東さぬき市
イチゴの成長が余りにも早く、炭酸石灰と硝安ではその欠乏を止めることができない。そこで、今回の栽培では硝酸石灰・硝酸加里等の速効性肥料を用いて窒素と石灰・加里分を効率的に吸収させ、バックアップを強化することとした。
 写真−11
イチゴ(宝交早生)
   写真−12
イチゴ(宝交早生)
全体写真   同左写真を近づいて見ました。


表−B ハウスいちご栽培に於けるpHの上昇(品種:宝交早生)
<<分析者:米澤農業研究所>>  .
単位mg/乾土100g( ≒ Kg/10a )
分 析 日
肥料投入量
酸度
(pH:Kcl)
アンモニア
(NH4-N)
硝酸
(NO3-N)
全リン酸
(P2O5
加里
(K2O)
石灰
(CaO)
苦土
(MgO)
可給態鉄
(Fe)
追 肥
標準値 6.0〜6.2 2〜3 20 50 50 320 30 2.70  
’80.09.02 5.95 1.25 0.20 189.71 15.64 204.84 26.21    
180 Kg
55 Kg
270 Kg
70 Kg
20 g
  12.60   12.60 12.60
29.76


143.10



14.00




2.70
いちご配合
硫酸加里
炭酸石灰
塩化苦土
微量要素
修正値   13.85 0.20 203.31 58.00 347.94 40.21 2.70  
硫酸根は硫酸加里で補いました。苦土分は、通常は苦土石灰か硫酸苦土を用いますが、念のため今回は塩化苦土で塩素を加えました。

’80.09.28                  
5 Kg   0.85 0.85           硝 安
修正値 分析をしないで硝安5Kgを1,000倍にて1回だけ灌水する。定植は9月21日
定植して活着した後の生長を早めるために硝安を施したという(農家談)。

’80.10.25 5.77 3.60 1.40 99.25 32.19 211.85 32.26    
40 Kg
10 Kg
25 Kg
53 Kg
185 Kg
30 g
  2.80
1.70

0.42

1.70

7.79
2.80 2.80

13.53



14.04
95.40



0.26





4.05
いちご配合
硝 安
硫酸加里
硝酸石灰
炭酸石灰
微量要素
修正値   8.52 10.89 102.05 48.52 321.29 32.52 4.05  
石灰が大幅に減じている。硝酸態窒素が全然足りない。

’80.11.11 6.38 1.58 2.66 184.39 30.23 241.31 28.08 0.09  
20 Kg
40 Kg
40 Kg
200 Kg
40 Kg
30 g
  3.40

0.32
3.40

5.88
 
21.64


10.60
106.00
21.20


0.20

4.00





4.05
硝 安
硫酸加里
硝酸石灰
炭酸石灰
苦土石灰
微量要素
修正値   5.30 11.94 184.39 51.87 379.11 32.28 4.14  
この月もバランス良く吸収している。特に窒素と石灰が大幅に不足している。pHがわずかに上昇傾向。

’80.12.12 6.55 2.01 1.46 160.75 45.62 244.12 32.25 0.00  
10 Kg
20 Kg
80 Kg
100 Kg
20 g
  2.55

0.64
2.55
2.78
11.76
 
9.32


21.20
53.00


0.40




2.70
硝 安
硝酸加里
硝酸石灰
炭酸石灰
微量要素
修正値   5.20 18.55 160.75 54.94 318.32 32.65 2.70  
石灰量は先月と一緒だがアンモニア態窒素>硝酸態窒素となっているため、その分pHが高くなっている。微妙だが、こんな感じで理解しておくと良いと思う。(土壌の場合のpHは腐植など他にも低下・上昇の要因があるため、養液栽培のようにいい切れない部分がある)

’81.01.13 6.63 3.24 4.00 184.39 40.16 256.74 37.29 0.00  
10 Kg
30 Kg
55 Kg
  1.70

0.44
1.70
4.17
8.08
 
13.98


14.57


0.27
  硝 安
硝酸加里
硝酸石灰
修正値   17.95 184.39 54.14 271.31 37.56    
限界pHまで来てしまった。窒素がどんどん吸収されているのが理解できる。この養分要求が最大となる時期に、石灰を指示通り施用していないのが気になる。

’81.03.09 5.72 2.23 4.20 198.28 25.82 228.68 31.24 0.11  
10 Kg
30 Kg
50 Kg
100 Kg
30 g
  1.70

0.40
1.70
4.17
7.35
 
13.98


13.25
53.00


0.25




4.05
硝 安
硝酸加里
硝酸石灰
炭酸石灰
微量要素
修正値   4.33 17.42 198.28 39.80 294.93 31.49 4.16  
先月、石灰を十分用いなかったために大欠乏になっている。そのため、pHも急激に下降している。(pH5.72は低限ギリギリ)

1月は石灰分を271.31Kgに調整している。今回の3月9日の分析値は228.68Kgである。つまり、この55日間で吸収された石灰量は僅かに42.63Kg、炭酸石灰換算で80Kgである。今までは、30日で200〜300Kg(炭酸石灰換算)と吸収している。この間が極端に少なくなっているのにお気付きだろうか?これは、土壌はその養分が少なくなってくると、その養分を離そうとしない。

だから養分が少なくなると効果は極端に減少して来ると言う現象が起きる。逆に、多ければ害を与えるようになる。だから、適度に入れておく必要があるのだ。その値が300〜400Kgである。この表でも修正量を347Kg(9月2日)とか380Kg(11月11日)としている。標準値以内にしておけば、何でこんなに吸収するの?と疑いたくなる位吸収する。これには肥料の浸透圧が大きく影響をしている

良く吸えば早く成長する。早く成長すれば、また良く吸収するのである。このように乗数的に好循環して行く、特に、有機酸微量要素を使用すれば更に元気が良くなり呼吸(光合成速度)も早くなる・・・だから、出荷より手入れを優先しないと大変な事態になるのである。

この当時の標準窒素全量は約10Kgとして設計している。(その後、20Kg、30Kgに変更)
硝安は毎回確実に吸収されているのが良く理解できる。特に、収穫時期を迎えると漸次その吸収量は増加している。(石灰も同様だが特に窒素の方が早い⇒このことがpH上昇の主因となっている)

作物の持ち出し量の増加に比例して養分吸収量は増加するので土壌分析をしてその量を確定し、不足分を補填しておくことが重要(質量保存の法則)

次に、データ上の問題点は石灰量の施肥量(赤字の数字部分)がこの重要時期の1月、2月、3月でありながら、石灰の修正が300Kgを下回っている。この期間には施肥効率の良い硝酸石灰や硝酸加里を使用して施肥を効率的に考えているものの、ここは肥料の効果を持続するためにも遅効性の炭酸石灰・苦土石灰を多用し、数値として350Kgまで投与する必要があった。(速効性肥料の硝酸石灰や硝酸加里を用いて吸収を早め、要素の持続性は炭酸カルシウムや硫酸加里などの遅効性肥料を用いながら安定的な要素の供給を行う)

また、収穫増加時期である2〜4月には確実に土壌分析をしてより的確な施肥をすべきであったと思われる。栽培途中のいちごの出来具合については糖度が常に12%はあり、出荷先の市場では品質的にも問題ないということであり、商品的には高い評価を得ていた。(出荷を優先せず、圃場の手入れや作物の管理を先にやる。これは、出荷作業を優先し作物の手入れを怠たるとイチゴが成り疲れを来し、後々その不手入れの影響を受けて大幅な出荷減になる。パック詰め作業を省力化するためには摘果を進め、大玉狙いに切り替えるなどの対策・工夫が必要になる。作物の手入れを3日間放置した場合、その回復には放置した3倍の10日間を要すと考える)
 

3.纏め

pH変化
土壌のpHでは、表−@の養液栽培ほど急激ではないが徐々に上昇しているのが分かる。これは月に一度土壌分析することで作物吸収による持ち出された養分の補てんはできているはずである。つまり、ここでは(+)(−)のイオン修正は出来ており、そのpHは6.2位に修正しているはずである。にも拘わらず、ジワジワと以前にも増して上昇している。この原因は日が経つに連れ、根張りも良くなるとともに分株もすすみ果実の成長の進み着果量も多くなる。

その結果、土壌のイオンバランスは急激に壊れpHは上昇傾向になるということである。これとき、分析をせずにそのまま放置したとすればpHはそれにも増して急激に上昇することとなる。いちごの株は疲れ果ててその生育は急激に悪くなって行くものと予想される。その懸念が具体的になって来たのが表−Bの1月13日である。2番果、3番果のこの時期ではイオン修正出来ている土壌にも関わらず、このような状態に陥っている(pH6.63で限界点)。このような時は、潅水時のpHを5.2位まで下げて中和反応(弱酸性にする作業)を進めるか、一端休憩をして地力の回復を待ち(硝酸態窒素が増えて土壌pHが弱酸性になる)、再び1.5〜2ケ月後から収穫を再開するかである。このような状況を常に繰り返しているのではないだろうか?特に、いちごは根が小さく、高いpHには弱く非常に栽培しにくい作物であることには間違いないようだ。土壌のpHが高い時に追い打ちをかけるように高pHの水を掛けたのではイチゴはひとたまりもないのではなかろうか、、、、、。

次いでながら、市場の価格について意見を述べるならば、いちごの年間平均店頭価格は概ね1円/gである。この農業々界の価格の優等生としての鶏卵の価格が良く取り上げられるが、その鶏卵も最近は少し上昇傾向にある。対して、いちごは30年も前から、ズ〜〜と1円である。否、最近は少し下降気味である。いちごにはパック詰めという省力化できない作業があり、少しは値上げしないと成り立たないようになっている。鶏卵は価格が下落しても対応できるのは、給餌作業(いちご栽培なら施肥)やゲージから卵を集める作業(イチゴ栽培なら収穫)から選別・洗浄・梱包(同パック詰め出荷作業)までのほとんどの工程で機械導入による合理化ができて量産可能な部分が多くあるからだ。お年寄りの農家さんといちごの価格談義をしたことがあるが、そのときおじいちゃんがいっておられたことは、“わしら30年前の1円/gの時は子供を学校にやって、まだ蓄えが出来たよ〜・・・そのことからいうと、今の若い人たちが可哀そうだ〜”と話しておられた。更に、“分かるよな〜〜3反で百姓して食べていけたのは、その当時、イチゴだけだっよね〜・・・・”と、、、、、、


 = 完 = 




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