進化停止のパラドックス

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複雑化にしても、変異と自然選択にしても、常に進化してゆく筈の生物が何故、種として長期間安定してしまうのかは、 「進化停止のパラドックス」と呼べるでしょう。

恐竜も哺乳類も、生物の化石は完成された状態で記録に現れ、長い間変化せず、やがて姿を消します。連続的変化ではないのです。 二つの種の間の進化途中の生物はほとんど発見されていません。

クロマニヨン人は現代人と同じであり、ネアンデルタール人との中間はないのです。昔教科書で習った、 エオヒップス(曙馬)からサラブレッドへの馬の進化の列は、各々がその環境で安定した種であり、変化の最中とは言えません。 翅が進化の途中でまだ飛べないトンボなど、想像すら出来ていない!(注1)

以前こちらで述べたように、 中間の首の長さのキリンや首長龍も容易には見つからないです。恐竜たちは1億年もの間、ほとんど変化しませんでした。(注2)


これは前回の「起こり易い谷」を考えることで、一旦谷に落ち込んだものは、なかなか隣の谷へ移ることは出来ない、と解釈出来ます。 落ち込んだ生物は、起こり易さの地形が変化するまで、そのまま一見安定した姿を保ち続けるのでしょう。

しかし「起こり易い谷」の中の生物は、じっとしているのでなく、常にうごめいています。起こり易さの地形が変化し、 隣にもっと深い谷が出来るか、自分の谷が浅くなってくるかすれば、すぐにより深い谷へとなだれ込んで行くでしょう。

この「起こり易さ」の勾配が、進化の方向を決める「圧力」だと思われます。

ここで二つ要因が出てきます。第一は、生物が 「常にうごめいている」原動力は何か、第二は「起こり易さの地形を変化させる」  要因は何かです。「起こり易い谷」は僕が考えたアイデア(だと思う)なので、 ちょっと無理があるかも知れません。


(注1)長い目で見れば、全ての進化は連続的であるとも言えます。恐竜の時代に既に存在した単弓類から哺乳類を経て人間までの過程は、馬の「進化」と同様に並べることが出来ます。問題は、それは滑らかな連続だったか、階段状だったか、夫々の段差はどの程度だったかでしょう。

(注2)細かい段差なら連続と考えてもいいではないか、という議論では、中間型が見つからない説明がつきません。陸上からまた海へと戻ったクジラでは、ほぼ完全な四肢を持つダラニステスと、イルカのような流線型のガヴィオシータスまでの「中間型」4種は、全て同じ時代に生存していました。

安定した時期と変異の時期があるという「断続平衡説」もあり、断続の理由として環境の断続的変化、または小さな変異がある程度蓄積されてから生物が変化する、などがあります。しかしいずれにしても今回の「問題」である、変異の「原動力」と進化の「圧力」を十分説明はしていません。

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