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税制と税務行政の民主化を求めます

長野県酷税監視しみん機構(長野県税金オンブズマン)

旅館・ホテル業における固定資産税・非木造家屋評価の問題点

                              関信会 土屋 信行

第1章 非木造家屋の評価方法
 地方税法は固定資産税の算定上、家屋につき「固定資産評価基準」により評価すること
とし、それによれば非木造家屋の評価はおもに
   再建築価格×設計管理費等による補正率×経年減点補正率
とされている。
 再建築価格は同一の家屋を評価の時点で新築するとした場合の建築費である。
設計管理費等による補正率は間接工事費相当額で、非木造家屋においては一律1.10とされ
ている。
 経年減点補正率は減価償却後の残存価額を率であらわしたものである。

第2章 評価額が下がらないしくみ
法人税・所得税では鉄骨鉄筋コンクリート造の旅館・ホテルは法定耐用年数を39年とし残
存価額を1円としているため、39年経過すれば残存価額は1円になる。しかし固定資産税
の経年減点補正率では残存価額を20%とし耐用年数を50年としているため、31年を経過
したところでやっと残存価額が半分になる。
 さらに法人税・所得税の減価償却は取得価額を基準としているのに対し、固定資産税は
再建築価格を基準としているため、年数が経過しても再建築価格があがっていけば評価額
は下がらない。

第3章 評価額が下がるのに34年
 関与先のホテルは、昭和47年に4億2千万円で新築、最初についた固定資産税評価額は
5億円であった。物価上昇にともなって再建築価格はどんどん上昇し最高で11億円までに
なった。
 ちなみに11億円のときの評価は、11億円×1.10×0.648(経年減点補正率)=約7億8
千万円である。ただし「基準年度における価額の据置措置」等により、前年度より高くな
る場合には前年度のまま据え置かれるため評価額は5億円のままとなる。
 このように、年数が経過して建物が劣化しても再建築価格が上昇していくので評価額は
いつまでたっても下がらず、平成18年、建築後34年目にして初めて建築当初の5億円を割
ったのである。

第4章 買い手がつかない理由
 不渡手形を出して銀行取引停止になったホテルがある。
 所有する土地建物が何度か競売に出されたが、最後は670万円でも落札されなかった。
 670万円でも落札されない物件に1億5千万円の評価額がつき年間200万円余の固定資産
税が課されている。
 このホテル、鉄筋3階建てで1階は広々としたロビーにかけ流しの温泉があり、2、3
階が客室となっていて、670万円ならば多少補修したにせよ、都会の金持ちが別荘として
持ってもいいような物件である。
 しかしこの物件、評価額が高いために落札したら不動産取得税、登録免許税で約750万
円、さらに固定資産税が毎年200万円余課されるので買い手がつかない。

第5章 役場も回答に困る
 あるホテルの所有者は高齢で後継者もいないため、ホテル業は廃業しそのホテルに住ん
でいる。
 そのホテルの建物、簿価は3600万円にもかかわらず、固定資産税評価額は9千万円で、
土地とあわせると1億1千万円になる。固定資産税は年間約150万円、借入金の返済もある
ため所有者夫妻の年金で払うには容易な金額ではなく、固定資産税の納付は滞りがちとなっ
ている。
 役場の税務課職員は、売却しての滞納清算をすすめ、次のような会話になった。
 所有者「借入金の返済もあるので6千万円くらいで売れませんか?」
 職員「6千万円は無理でしょう、3千5百万円くらいじゃないですか」
 所有者「3千5百万円でしか売れないものの評価がどうして1億1千万円になるのですか?」
職員「・・・・・」
 3千5百万円でしか売れないといっている当事者がその3倍以上の評価額をつけて固定資
産税を課してくるのだから納得しがたい話である。

第6章 観光地は固定資産税の滞納に悩む
 高齢化の波は観光地にも押し寄せ、後継者がいなくて事業をやめ、買い手もつかない場合に
は確実に固定資産税は払えない。事業を継続しているところも、この不況下で年間数百万円〜
1千数百万円にもなる固定資産税を負担するのは容易ではない。
 長野県下各市町村の市町村民税の徴収率(1−繰越分も含めた滞納額÷平成19年度調停額)
ワースト3は白馬村、野沢温泉村、山ノ内町で6割台、いずれも観光地で滞納の大半は固定資
産税である。このほかに7割台が1村あるが、他の市町村はすべて8割以上である。これを見
ても観光地の困難さは歴然である(長野県統計、平成19年度より)。
 このように実態に即したとは言い難い家屋の評価は、観光地に疲弊をもたらすとともに、観
光地で起業しようとする意欲ある者の参入を阻害することとなる。また、固定資産税評価額は
相続税の評価額にも連動するため、相続人が後を継ごうとする意欲も削いでしまう。

第7章 一刻も早い評価額の見直しを
 この原稿をほぼ書き上げたところで、平成24年度税制改正大綱が発表され、ホテル・旅館
の用に供する家屋に係る固定資産税評価額の見直しを平成27年度の評価替えにおいて対応す
るとあった。
 評価額は少なくとも法人税・所得税の簿価以下になるよう要望したい。
 また、この不況下で以上の弊害をあと3年間も放置するのは死活問題である。少しでも早い
見直しを望んで結びとしたい。

(参考文献)
「固定資産税家屋評価の最新実務Q&A」(富永浩吉著・ぎょうせい)

(注)
この原稿は関東信越税理士会の会報「関東信越税理士界」2012年2月15日付「論陣」欄に掲
載されたものです。



     

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