読者からの質問と回答 01101 〜 01110
定理 8.15:部分空間の開集合について教えて下さい.
集合と位相の入門書を探していて
『はじめよう位相空間』を見つけて,
解読に勤しんでいます.
どうしても疑問が晴れない問題がありましたので是非教えてください.
定理 8.15 (2) の証明,p. 110 の 10行目です.
距離空間 Y の部分空間 X について,次のように書かれています.
(2) 補題 8.8 と (1) を使って証明する. いま,A = H ∩ X である Y の閉集合 H が存在したとする. このとき,G = Y - H とおくと,G は Y の開集合であって X - A = G ∩ X が成り立つ. (1) より X - A は X の開集合である. ゆえに A は X の閉集合である.
上記の説明で,どうして,X - A が X の開集合だと言えるのでしょうか.
そこが分かりません.
(1) A が X の開集合 ⇔ A = G ∩ X である Y の開集合 G が存在する.
をどのように用いたら,そうなるのかが理解できません.
お答えします:
X - A がなぜ X の開集合と言えるかというご質問です.
最後に,
『はじめよう位相空間』をご購読頂きまして,ありがとうございます.
Kさんの勉強は進むことを祈っています.
例 11.4:開区間がコンパクトでない理由について教えて下さい.
ある会社のエンジニアで,数学について,はほぼ独学です.
『はじめよう位相空間』 の 145ページの例 11.4 に,
開区間 J = (-1, 1) がコンパクトでないことを示すために,
U_n = (-n/(n+1), n/(n+1)) (n ∈ N)
と定めて作った J の開被覆 {U_n : n ∈ N} の例があります.
この開被覆が有限部分被覆を持たない理由がよく分かりません.
なぜなら,U_ n の最後は (-1, 1) なので,この1つを取り出せば,それだけで有限被覆となると思います.
質問は以上です.
お答えします:
上のご質問の中で誤解があると思われる点は,「U_n の最後は (-1, 1) なので・・・」の部分です. 問題の開被覆 {U_n : n ∈ N} の元を順番に書くと,次のようになります.
U_1 = (-1/2, 1/2),
U_2 = (-2/3, 2/3),
U_3 = (-3/4, 3/4),
・・・
U_n = (-n/(n+1), n/(n+1)),
・・・
・・・
自然数の集合には最大元はありませんので,「U_n の最後」というものは存在しません.
したがって,上記の集合の中からどのように有限個を選んでも,その和集合は J = (-1, 1) になりません.
例えば,U_1, U_3, U_8 の3個を選んだとすると,その和集合は,
U_1 ∪ U_2 ∪ U_8 = (-8/9, 8/9)
なので,{U_1, U_3, U_8} は J の被覆にはなりません.
以上が,開被覆 {U_n : n ∈ N} が有限部分被覆を持たない理由です.
いかがでしょうか.
独学で頑張っておられるとのこと,T.K.さんの勉強が進むことを祈っています.
また,
『はじめよう位相空間』のご購読,ありがとうございます.
1次関数の逆関数の求め方を教えて下さい.
はじめまして.工学専攻で,独学で位相空間を勉強しています.
『はじめよう位相空間』 の例 5.3 の位相同型写像 f が
x |---> (c - d)x/(a - b) + (ad - cb)/(a - b)
になる理由を教えて下さい.
また,その後の問1で,どのようにすれば f の逆関数 f^{-1} が求められるのですか?
逆関数の式の立て方がうまくイメージできないので教えて下さい.
お答えします:
区間 I = [a, b] を I' = [c, d] に位相同型にうつす1次関数の例は, a を c にうつし,d を b にうつす1次関数です. したがって,1次関数の標準形 y = sx + t において, 上の条件から傾き s と切片 t を求めると,例 5.3 で与えた1次関数 f の方程式が得られます.
詳しく言うと,
x = a のとき y = c だから,c = sa + t
x = b のとき y = d だから,d = sb + t
これらを s, t に関する連立方程式と考えて解くと,
s = (c - d)/(a - b),
t = (ad - cb)/(a - b).
ゆえに,求める1次関数 f は,
y = (c - d)x/(a - b) + (ad -cb)/(a - b).
最後の式を x について解くと,
x = (a - b)y/(c -d) - (ad - cb)/(c - d).
次に,x と y を入れ替えると,f の逆関数の方程式が得られます.
あるいは,f の逆の対応なので,c を a にうつし,
d を b にうつす1次関数を求めても同じ答えが得られます.
なお,逆関数の求め方は,高校数学 III の教科書に説明されています.
あわせて,
D.I.さんからの質問 01038も参考にして下さい.
以上で,答えになったでしょうか.
R^n と R^n+r が位相同型であることは,どのように示せばよいでしょうか?
いつもお世話になっております.
質問があります.R を実数全体の集合とする.
(1) 任意の r ∈ R^n に対して,
R^n と R^n + r : = {x + r ∈ R^n : x ∈ R^n} とが位相同型であること,
(2) 任意の n 次直交行列 A に対し,
R^n と AR^n : = {Ax : x ∈ R^n} とが位相同型であること,
(3) 任意の 0 < r ∈ R に対して,
R^n と rR^n : = {rx : x ∈ R^n} とが位相同型であること,
はどのように示せばよいでしょうか?
同相写像として,
(1) の場合は,f(x) : = x + r,
(2) の場合は,g(x) : = Ax,
(3) の場合は,h(x) : = rx,
と定義すれば,これらが全単射になる事は分かりますが,開集合の逆像が開集合になっていることは,
どのように示すのですか?
お答えします:
R^n 上のユークリッドの距離に関して,次を示すのが簡単と思います.
(1), (2) の場合は,写像 f と g が全射,等距離写像であること,
(3) の場合は,h が全単射で,h と h の逆写像が共にリプシッツ写像であること.
『はじめよう位相空間』の例 7.14 で説明したように,全射,等距離写像は位相同型写像です.
また,補題 4.9 よりリプシッツ写像は連続ですので,上記を示せば,
それぞれの空間が位相同型であることが証明されたことになります.
最後の質問ですが,2つの位相空間 X, Y が位相同型であるとは,X から Y への位相同型写像が存在することを言います.
また,(1) を例にとると,空間 R^n + r という表現はあまり使わないように思います.
空間 R^n + r は空間 R^n と同じなので,(1) の主張は
(1) 任意の r ∈ R^n に対して,写像
f: R^n --> R^n ; f(x) = x + r が位相同型写像であること,
と捉える方が自然だと思います.
この場合,f は確かに位相同型写像ですが,「f は合同変換である」と言うことができます.
以上,お答えまで.
Tychonoff 空間 X から Hausdorff 空間 Y の上への開連続写像が与えられたとき,X の可算近傍基底を持つ点の像は Y のゼロ集合でしょうか?
先日に続きまして,また質問です.
If f is an open continuous mapping from a Tychonoff space X onto a Hausdorff space Y. If X is first countable at x, then {f(x)} is a zero-set of Y.
これは,成り立つでしょうか?
Y での連続写像の作り方が分かりません. 教えていただければ,助かります.お答えします:
反例があります.
Y が Tychonoff の場合は成立しますので,Y として Hausdorff, non-Tychonoff space を考える必要があります.
詳しくは,
こちらの pdf ファイルをご覧下さい.
擬コンパクト Hausdorff 空間において,可算個の開集合の共通部分として表される点は可算近傍基底を持つでしょうか?
久しぶりに論文を読もうと思ったら,分からないところばかりで困っています. もしお時間がありましたら,お助けください.
Let X be a regular pseudocompact space, and x ∈ X a G_δ-point.
Then X is first countable at x.
ということですが,証明はどうすればよいでしょうか?
空間 X が Tychonoff の場合は問題ないのですが,regular のときにどうするのか悩んでいます.
お答えします:
私の予想ですが,この論文の著者は pseudocompact 性を「無限個の空でない開集合からなる局所有限族が存在しない」として定義しているのではないでしょうか. その場合の証明は問題ありません. もし通常の「任意の実数値連続関数が有界」という定義ならば,上の主張は成立しないと思います. Engelking の教科書の Problem 2.7.17 (a), (b) が反例になります.
以下,上記の (a), (b) の中の記号を用いる.
(a) のヒントに書かれている Mysior の例において,2点 z_0 と z_0' は可算近傍基を持つ(それが鍵).
次に,(b) のヒントの中の van Dowen の商空間 X を,(a) の Mysior の例 Z を使って構成する.
このとき,X は regular で X 上の実数値連続関数はすべて定値関数.
ゆえに,X は pseudocompact.
ここで,集合 Z_0' を1点に同一視した点を p_0 とする.
このとき,z_0, z_0' が Z で可算近傍基を持つことから,{p_0} は X の G_δ 集合.
ところが,sequential fan が first countable でないことを示す論法と同様にして,p_0 は X で可算近傍基を持たないことがわかる.
以上で,いかがでしょうか.
順序体 (R^N)/I_p が第1可算公理を満たさないことの証明を教えて下さい.
自然数の集合 N 上の収束しない極大フィルター p が与えられたとき,
I_p = {f ∈ R^N : {n ∈ N : f(n) = 0} ∈ p}
は環 R^N の極大イデアルであること,
また,剰余体 K_p = (R^N)/I_p は順序体であることが知られています.
このとき,K_p が順序位相に関して第1可算公理をみたさないことの証明を教えて下さい.
お答えします:
ご質問の主張は下記のテキストの Theorem 13.8 の系として導かれますが,直接証明を与えます.
L. Gillman and M. Jerison, Rings of Continuous Functions,
van Nostrand, New York (1960).
任意の f ∈ R^N に対して,f の剰余類を [f] で表す.
このとき,f, g ∈ R^N に対して,
[f] = [g] <=> {n ∈ N : f(n) = g(n)} ∈ p,
[f] < [g] <=> {n ∈ N : f(n) < g(n)} ∈ p.
K_p が順序位相に関して第1可算公理を満たさないことを示すためには,次の事実を証明すればよい.
事実.
任意の可算集合 {[f_n] : n ∈ N} ⊆ K_p に対して,
もし [0] < [f_n] (n ∈ N) ならば,
[0] < [g] ≦ [f_n] (n ∈ N) をみたす [g] ∈ K_p が存在する.
証明.
p は収束しないから,有限集合を元として含まない.
各 n ∈ N に対し,上の事実と [0] < [f_n] であることから,
A_n = {i ≧ n : f_n(i) > 0} ∈ p.
いま,B_n = A_1 ∩ A_2 ∩・・・∩ A_n (n ∈ N) とおくと,
(1) ∀n ∈ N (B_n ∈ p),
(2) ∀n ∈ N (B_n ⊇ B_{n+1}),
(3) ∩{B_n : n ∈ N} = φ,
(4) ∀n ∈ N ∀m ≦ n ∀i ∈ B_n (f_m(i) > 0).
したがって,g ∈ R^N を,
i ∈ N − B_1 ならば,g(i) = 1,
i ∈ B_n − B_{n+1} ならば,0 < g(i) < min {f_m(i) : m ≦ n}
を満たすように定めることができる.
このとき,[g] > [0] かつ,すべての n ∈ N に対し,[g] < [f_n].
証明終.
直積位相と箱位相の定義の違いは何なのでしょうか?
『解いてみよう位相空間』を拝読しております.
p. 187 の直積位相の定義について,とてもシンプルで分かりやすく感じております.
実は,他書にて box topology(箱位相)の定義を見かけました.
それはまるで『解いてみよう位相空間』の直積位相の定義そのもののように感じます.
そして product topology(直積位相)の定義も記載されてますが,それは射影を使って複雑に定義されています.
さらに,松坂和夫著の『集合位相入門』の直積位相の定義も射影で複雑そうに定義してあります.
それでもしかしたら,『解いてみよう位相空間』の直積位相の定義は箱位相の定義なのだろうかと少し混乱しております.
そこで質問なのですが,『解いてみよう位相空間』の直積位相の定義は,他書の直積位相の定義と同じものなのでしょうか?
もし同じならば,箱位相の定義と直積位相の定義の違いは何なのでしょうか?
お答えします:
位相空間の族が与えられたとき,それらの直積上には「直積位相」と「箱位相」の2つの異なる位相が定義できます.
ただし,有限個の位相空間の直積上では,それら2つの位相は一致します.
『解いてみよう位相空間』では,有限個の位相空間の直積しか扱っていないので,同じ定義になっています.
無限個の位相空間の直積に対しては,2つの位相を区別して考える必要があります.
一見したところでは「箱位相」の方が定義は簡単ですが,実りある結果がほとんど得られません.
一方,「直積位相」は定義は複雑ですが,多くの場面にうまく使えることが実証されています.
したがって,位相空間の族の直積に対しては,通常は「直積位相」を与えます.
以上,答えになったでしょうか.
開基を定義は,位相が定められていることが前提でしょうか?
開基の定義についての質問です.
定義1.
位相空間 X の開集合の族 B が次の条件 (*) を満たすとき,
B は X の開基底または開基であるという.
(*) 任意の開集合 G と任意の点 x ∈ G に対して,x ∈ B ⊂ G となる B ∈ B が存在する.
上の定義1では X に位相があらかじめ与えられていると解釈できます. しかし,開基を定義する際には位相は全く与えられてないそうなので困惑しております. そこで,下の定義2を採用すればよいかもと思いましたが,確かめ切れません.
定義2. 集合 X の部分集合族 B が次の2条件 (1), (2) をみたすとき, B は X の開基であるという.開基の定義はどのようにすれば辻褄が合うでしょうか?
お答えします:
「開基」の概念と「位相の生成」の概念を混同しておられるように思います.
1.開基について:
開基は位相空間に対して定義される概念です.
上の定義1は正確です.
2.位相の生成について:
位相の与えられていない集合 X に,定義2の条件 (1), (2) をみたす部分集合族 B が与えられたとする.
このとき,B から「一定の方法」で X の位相 T を作って,
最初に与えた B が位相空間 (X, T) の開基であるようにすることができる.
このように位相 T を作ることを「位相の生成」という.
上の説明中の「一定の方法」ついては,たとえば,次の参考書で勉強されることをお勧めします.
『解いてみよう位相空間』:第10章,
『はじめての集合と位相』:第15章,
松坂和夫著『集合位相入門』岩波書店:第4章,第3節.
位相の族を含む最小の位相の存在と,それに含まれる最大の位相の存在について教えて下さい.
次の問題が解けません. 私の考えを書きますので,ご意見を賜れれば幸いです.
問題: {T_α} を X の位相の集合とする. そのとき,すべての T_α を含む X の最小の位相が一意的に存在する事を示せ. また,すべての T_α に含まれる X の最大の位相が一意的に存在する事を示せ.
前者は T_α を含んで最小なのだから ∪T_α.
後者は T_α に含まれる最大のものだから ∩T_α かなと予想したのですが,
これらが位相をなす事を示せばいいのでしょうか?
もしそうなら一意性はどのように言えばいいのでしょうか?
∪T_α も ∩T_α も既に一つしかありませんので一意性は言う必要は内容に思いますが・・・.
翌日の追伸: T_1: = {φ, X, {a}}, T_2: = {φ, X, {b}} (a≠b) とすると,T_1 ∪ T_2 は位相の定義をみたさない. したがって,上の前者のアイデアはまずいと思います.
後者について,∩T_α が位相であることを示してみました.
証明:
φ, X ∈ ∩T_α であることは明らか.
もし S_λ ∈ ∩T_α (λ∈Λ) ならば,共通部分の定義より,任意の λ と任意の α に対して, S_λ∈T_α.
よって位相の定義より,∪_{λ∈Λ}S_λ ∈ T_α.
すべての α に対してこれが成り立つので,∪_{λ∈Λ}S_λ ∈ ∩T_α.
もし S_1, S_2 ∈ ∩T_α ならば S_1 ∩ S_2 ∈ ∩T_α であることも同様に示される.
ゆえに,T: = ∩T_α は X の位相である.
次に,すべての T_α に含まれるような任意の位相 U をとると,共通部分の定義より U ⊆ ∩T_α.
すなわち,U ⊆ T.
ゆえに,T はすべての T_α に含まれる最大の位相である.(証明終).
これで正しいでしょうか?
お答えします:
ご質問と追伸,拝見致しました.両方にお答えします.
まず,最小の位相や最大の位相は,もしそれらの存在が証明できれば,最大と最小の定義からそれらの一意性が導かれます. したがって,存在だけを証明すれば十分です.
簡単な具体例で考えることは大切です.
前者について,K.M.さんが言われる通り,
T_1 ∪ T_2 は一般に位相にならないので単に和集合をとっただけは不十分です.
そこで次のように考えます.
すべての T_α を含む X の位相全体の族を D とする.
X の離散位相は D に属するので,D は空ではない.
D に属するすべての位相の共通部分を T とおく.
すなわち,T = ∩{ U : U ∈ D}.
このとき,T はすべての T_α を含む X の最小の位相である.
後者について,追伸の中のK.M.さんの証明が正解です.
ご質問の事実は,与えられた集合上の位相全体の集合が,包含関係の順序に関して完備束をなすことを示しています. 下記のテキストにも詳しい解説があります.
松坂和夫著『集合・位相入門』岩波書店 165-169ページ.