醤油ができるまで

醤油は、和食の基本である「さしすせそ」のうちのひとつとして日本の食卓に欠かせないものとなっています。しかし、その醤油が造られていく過程をご自身の目で見たことがある方は少ないのではないでしょうか。ここでは、「栄醤油」の醸造工程をご紹介することで、より醤油を身近な存在として知ってもらいたいと思います。

大豆・小麦・塩

原料は大豆・小麦・塩。いたってシンプルですが、これらが「麹菌(こうじきん)」をはじめとした微生物たちのちからによりかたちを変えていくことで、醤油独特のまろやかな塩味や口の中に広がるこうばしい香りが造りだされるのです。そのために、微生物たちがちからを発揮しやすい環境作りから始めていきます。

小麦を炒って砕く

小麦はまず、レンガづくりの大きな炒り機に入れます。その中で、熱せられた砂と小麦を一緒に混ぜ合わせることで、小麦に均等に火が通ります。この時、あたりにとても香ばしい匂いがたちこめます。それから、炒ったことでぷっくりと膨らんだ小麦を、歯車がついた機械で細かく砕きます。これらの過程を経ることで、麹菌たちが働きやすくなるのです。

塩水をつくる

地下100メートルからくみ上げた清冽な井戸水を使って塩水をつくります。桶いっぱいの水に大きなざるを浮かべて、その上に山盛りの塩を乗せます。するとだんだんと塩が溶けだしていって、かき混ぜなくても数時間後には塩水のできあがりです。こうしたところに、昔の人の知恵がいきています。濃い塩分は、悪い菌の繁殖を防ぎます。

大豆を蒸す

大豆は一晩水に漬けたあと、朝一番から大きな釜で蒸していきます。朝日が差し込む工場のなか、あたり一面水蒸気と大豆の甘い香りでいっぱいになります。大豆に含まれるたんぱく質は旨味の大部分を占める役割があって、蒸すことで分解されやすくなりますし、殺菌の意味もあります。蒸加減は醤油のできあがりに大きく影響するので、指でつぶして慎重に見極めなければなりません。大豆の種類や年によって異なるため、長年の経験がものをいいます。

さて、これで原料の準備が完了しました。

麹をつくる

いよいよ、醤油造りに欠かせない「麹(こうじ)」づくりにとりかかります。麹とは、蒸した大豆と炒って砕いた小麦を混ぜ、そのなかに「麹菌」を繁殖させたもの。麹菌から出る「酵素」が大豆と小麦を分解していくことで、醤油の旨味や香りが生みだされます。

まずは蒸したての大豆を冷まし、砕いた小麦と混ぜながらそこへ麹菌の素となる「種麹」を振りかけてはスコップでざっくざっくとひっくり返し……それの繰り返し。その後はコンテナにうつして「室(むろ)」へ移動させます。室の中でおよそ3日間。その間にどんどん麹菌が増えていくので、時々混ぜたりほぐしたりしながら手入れをして温度が上がりすぎないよう下がりすぎないよう気をつけて麹が育つのを手助けします。

大豆と小麦がふかふかして緑色に変わり、しっかり菌が植え付けられたら麹のできあがりです。麹を室から取り出すとき、あたりは緑色の煙に包まれます。

発酵・熟成

できあがった麹を塩水を入れた木桶のなかに落とし、混ぜます。これを「諸味」と言います。2メートル程もある大きな木桶が立ち並ぶ、古くてうす暗い醤油蔵。ここで諸味は長い熟成期間を過ごします。木桶は100年以上も使っているし、蔵は壁も床も土でできていて正直古い建物ですが、しかし、ここには長い時間をかけて棲みついた微生物たちが息づいていて、それが私たちにとっては貴重な財産なのです。

ここでの主役は微生物たちですが、とは言え私たち人間もただ待つだけではありません。桶の様子を見てまわり、季節や諸味の状態にあわせ、長い棒でつくようにしてかき混ぜて空気を送り込み、微生物たちの働きを手助けしてあげます。醤油造りは、人間と微生物が協力しあって行われるのです。

微生物たちは暖かい環境が好きなので、夏になると特に元気に働いて、あちこちの桶からぷくぷくと泡のはじける小さな音がします。この性質を利用して熟成期間を縮める方法もありますが、私たちは昔ながらのやり方で、およそ1年半、じっくりと時間をかけて熟成させます。その間に、大豆と小麦がどんどん分解されていって、醤油のもつ五大味「旨味・甘味・苦味・塩味・酸味」のバランスが生みだされます。

圧搾

こうして十分に熟成した諸味を、布でできた袋に入れて、ふねと呼ばれるバスタブのような物の中に積み重ねていきます。すると、諸味自身の重みと重石のちからで、醤油が絞り出されます。この時の透き通った醤油が「生醤油(きじょうゆ)」と呼ばれるものです。

火入れ

先程の生醤油を殺菌のために加熱することを「火入れ」と言います。こうして微生物たちの動きをとめておかないと、瓶に詰めてからもどんどん発酵していってしまうからです。ここで、透き通った色みから深みのある琥珀色へと変化すると同時に、醤油の、あの何とも言えないこうばしい香りが生まれます、。

瓶詰め

できあがった醤油を瓶につめて、ラベルを貼れば「栄醤油」のできあがりです。醤油は空気に触れると酸化して、色が悪くなったり風味が落ちたりしてしまうので、開封前は冷暗所、開封後は冷蔵庫での保存がおすすめです。

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