◆宇宙ショーへようこそ感想(ネタバレ有り) その2


その1から続き

「宇宙ショーへようこそ」の主軸のドラマは周と夏紀の仲直りの話であり、それ自体は、ストレートに解りやすい物語になっているが、「宇宙ショーへようこそ」にはそれ以外にも清、倫子、康二とインクなどキャラごとに複数の物語とドラマが詰め込まれている。

その中でも、ポチとネッポの二人の大人の確執のドラマが大きなウエイトを占めて織り込まれている。
ネッポはいわば敵のボス、事件の切っ掛けにもなる存在であり、ポチがネッポの友人であったことも含めて、物語全体にこの二人の存在が大きく絡んでいることは言うまでもない。
本編では、はっきりと明らかにされないが、ポチとネッポは研究者仲間であったが、過去に何らかの意見の違いからか、研究者としてお互い袂を分かち、今に至ることだけは、匂わされている。
そしてクライマックスの対決で、ペットスターの力を手にして弱い生物を宇宙で生き残れる完全な生物につくり変えようとするするネッポと、他者の力を借りずに自力で生きることの重要性を説くポチとの決定的な対立が描かれる。
このネッポとポチ二人の対立は、周に対して弱い存在でいて欲しかった、甘えて欲しかったという夏紀のいわば傲りと、最初の入国審査で「自分のことは自分でやろう」と答える周の強さというぴょん吉をきっかけに起きた夏紀と周の二人のケンカ、確執の原因にピタリと重なっている。
そして同時に、過去に色々あったであろう二人の男の間にある友情と確執は、周と夏紀の仲直りの様にシンプルには修復されないという、子供と大人の世界、目線の対比にもなっているのだ。

一見して、わかりやすい子供向けのテーマとシンプルなドラマを周と夏紀を中心に主軸として置きながら、そこから視線をずらすと、その主軸の影であり対比となる隠し味として、主軸のドラマとテーマを下支えするもうひとつの別の大人の物語が、二重構造で用意されている。
このように必ずしも「宇宙ショーへようこそ」という作品の構成は、必ずしもシンプルとは言い切れ無い。

しかしそれでも「宇宙ショーへようこそ」という作品の基本的なテーマ、物語は全く難解ではなく、シンプルでむしろ単純だ。
なんとなら、それは、既に言葉やセリフで直接語られているものばかりと言っていいかもしれない。
けれど、それを伝えるために、言葉やセリフ以外の部分でも、二重三重の仕掛けで構成され、細やかな描写を積み重ねることで、一本の作品の中に何度も繰り返し描かれ、とんでもない厚みを生み出している。
そういった作り方をしているからこそかもしれないが、一度目や二度目の視聴では、それほどでもなかった月でバイトをする子供たちの姿が、三度目の視聴では、確実に変わって見えてきて、一度目で見た時とは別の感情が湧いてくるから、不思議である。

「宇宙ショーへようこそ」という作品は一度見ただけでも、そのテーマを理解することはおそらく簡単だ。
しかし、その単純なテーマを描くためにひとつの作品に詰め込まれたものは、一度見ただけではおそらく全て把握し切れないほど大量に書き込まれている。

過去にの舛成監督の作品は、一度見ただけでは飽たりず、何度見ても楽しめる、見るたびに何か発見があるというのがその特徴であり、魅力として挙げることができる。
「宇宙ショーへようこそ」もその例にもれず、何度も見返すことで、一度見ただけでは理解できなかったこと、見逃していたものを発見でき、何度見ても楽しめるように作られている。
そして、それは、映画、劇場作品という舞台を得て、過去最高の濃度と情報量に達してしまっている。

この濃度、情報量の多さには、確かに面食らうかもしれない。
しかし、それこそが「宇宙ショーへようこそ」という作品の持つ圧倒的なパワーであり、他の作品では絶対に味わえない最大の魅力の一つなのではないだろうか。


続く



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