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色と思想について  
 

 日常、私たちが用いている色の文化の背景には、その土地の宗教や思想による影響があります。その色に、どのような思想が含まれるか、また、どのように伝来し浸透していったかを調べてみると、基本となる五色が浮かび上がってきます。
 基本となる五色――青・赤・黄・白・黒が、国や文化によってどのように使われてきたかを、私たちの文化に近いところから紐解いていきたいと思います。

●五行と色
 五行とは、中国古来からの思想で儒教を中心とする思想家の間で発展したものです。のちに陰陽思想と結びついて陰陽五行思想となって日本に伝来し、日本では陰陽道として展開していきました。
 五行では、木・火・土・金・水の五要素が世界のあらゆるものを構成する基礎となるという考えに基づいた思想です。その五要素には、青・赤・黄・白・黒という色が配当されます。この五色(ごしき)を「正色(せいしき)」といいます。「間色(かんしき)」と呼ばれる色のグループもあり、「緑」「紅」「黄」「縹(はなだ)」「紫(紫は、古来、黒と赤を混ぜた色のことをいった)」と配当されます。

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【図61】色の五行配当

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【図62】四季と陰陽五行配当

色と方角を詳しく分けると以下のようになります。
 東(震(しん))…青・若草・碧色
 東南(巽(そん))…青・緑
 南(離(り))…赤・橙・紫  古代から朱色によって代表される
 中央…黄・ベージュ  五黄土星
 北東(艮(ごん))…黄と黒  八白土星
 南西(坤(こん))…黄と黒  二黒土星
 西(兌(だ))…白・金・赤銅
 北西(乾(けん))…白・金銀
 北(坎(かん))…黒・紫  神聖な方角・黒は最上位 
  (古代の黒は現代では紫で表現されることが多い。神社や寺院の五色は黒を紫に置きか
   えている)


●五大要素と色
 インドでは仏教による五大要素という思想があります。五大要素は、地・水・火・風・空で成り立っています。これには、黄・白・赤・黒・黄という色が配当されます。
 これらは、五行思想と同様に、方角にも対応して考えられます。五行では、東が青、西が白、南が赤、北が黒、そして中央が黄色として考えられています。五大要素でも同じ対応で考えてられます。また、中国では、天上の四方にいる星辰、東方の青竜(青)、南方の朱雀(赤)、西方の白虎(白)、北方の玄武(黒)の四神と、天上には北斗七星・北極星(黄)が五要素とされています。
 インドの仏教では、阿しゅく如来(青)・大日如来(黄)・宝生如来(赤)・阿弥陀如来(白)・不空成就(黒)を五大要素に色と方角に対応して考えられています。

中国
共通
インド
青龍
阿しゅく如来
朱雀
宝生如来
 
 
中心
大日如来
白虎
西
阿弥陀如来
玄武
不空成就如来




● チベット砂マンダラの色
 インドの仏教思想は、チベットに伝わり密教として発展していきました。チベット密教でのマンダラの彩色は、五大要素の思想に基づいています。
砂マンダラを制作するとき、墨打ちという下絵段階で五色の糸を使います。五智如来(阿しゅく如来・宝生如来・大日如来・阿弥陀如・不空成就如来)の自性が糸にしみこむと考えられています。五色は、阿しゅく如来の青(青黒)、大日如来の白、宝生如来の黄、阿弥陀如来の赤、不空成就の緑として対応します。
 方角と色の対応ですが、砂マンダラの種類によって変ることがあります。基本として、 東が青、南が黄色、西が赤、北が緑これに白をくわえた5色で彩色されます。黒が加わることもあります。
 金剛界マンダラの場合、東の青は阿しゅく如来、南の黄色が宝生如来、西の赤色が阿弥陀如来、北の不空成就が緑として彩色されます。金剛界以外のマンダラで、五仏が登場しないものも、五仏と同体関係を持つことが多く、それに応じて塗り分けられます。ただし、5色には元素の色や、マンダラの楼閣を載せた須弥山の色、儀礼の色などと結びつける解釈もあります。
 カーラチャクラ・マンダラは、その他のマンダラと異なる考えをもちます。東が黒、南が赤、西が黄色、北が白、中央が緑と青という彩色法をとります。



●六道輪廻における色
 仏教の教えで、十界という教えがあります。人の心の中にも仏界が存在するとし、歓心十界図などに表しました。歓心十界図は、心内の極楽浄土を、やはり心内に存在する地獄などと共に、併せて瞑想することにより悟りを開く、そのための具として描かれたものです。
 その十界のうち六道というのもがあり、人は、生前の罪により、地獄界、餓鬼界、畜生界、修羅界、人界、天界のいずれかに転生し、この六道で生を繰り返す(六道輪廻)といわれています。この六道輪廻の思想の中にも、色が用いられています。

十界
六道界
四悪界
(しあくかい)
三悪界
地獄界
餓鬼界
畜生界
 
修羅界
 
人界
天界
四聖界
(ししょうかい)
三乗
二乗
声聞界
 
縁覚界
 
 
菩薩界
 
 
 
仏界
  



●ナバホの砂絵の色
 ナバホの砂絵は、7色の天然の砂(赤、青、黄、白、黒、ピンク、濃茶)が用いられます。

黒・青…男性の色
白・黄…女性の色
黄・青・黒・白の組み合わせ…太陽の家の色を構成している
白…東  青…南  黄…西  黒…北

 白は、全般的な象徴性を持たないもの、夜明けの色、輪郭の色とされ、ピンクは5つめの色とされ、閃光の色によく使われます。また、白の変りに置かれることが多いとされています。
また、目的によって、色の用途は入れ替えられます。患者の性、制作の目的が悪を追い払うことか、利益を誘導することかによって変わります。


●古代ギリシャの四大元素と色
 古代ギリシャには、四元素説という「物質は、火、水、土、空気の四元素からなる」という説が考えられていました。それらの物質を四大元素といいます。この四大元素には、結合させる『愛』と分離させる『争い』があるとされています。それにより、集合離散をくりかえし、この4つの元素は新しく生まれることもなく、消滅することもないとされています。その思想は、プラトン、アリストテレスらに継承され論じられていきました。また、アラビア、エジプトにも影響を与え、錬金術の考えのもとになりました。
 四大元素にも色が対応し、火-黄-東、空気-赤-南、水-黒-西、土-白-北という思想があります。五行や五大要素の思想とは異なり、西洋文化と東洋文化の違いが表されています。いずれにしろ、酷似している思想の存在について、東西の観念がシルクロードによって伝わったのだろうと考えられる説もあります。


 

古代ギリシャ

ナバホ

中国

インド

チベット

チベット

四元素

チャント

五行

仏教 五大要素

一般のマンダラ

カーラチャクラマンダラ

青龍

阿しゅく如来

阿しゅく如来

 

不空成就

大日如来

空気(風)

朱雀

宝生如来

宝生如来

 

宝生如来

西

白虎

阿弥陀如来

阿弥陀如来

 

大日如来

大地(土)

玄武

不空成就

不空成就

 

阿弥陀如来

中央

 

 

 

北極星
北斗七星

大日如来

大日如来

 

阿しゅく如来

虚空

阿しゅく如来

 




【参考文献/引用図版】
【図61】稲田義行著「現代に息づく陰陽五行」日本実業出版社2003.3
【図62】稲田義行著「現代に息づく陰陽五行」日本実業出版社2003.3
【図63】北畠耀著『「色」とは? 色彩科学文化史入門』
    (杉山久仁彦制作「デスクトップカラーハンドブック05/06」株式会社ナナオ 2005.8 非売品)
【図64】文殊師利大乗仏教会 HPサイト http://www.mmba.jp/index.html
【図65】文殊師利大乗仏教会 HPサイト http://www.mmba.jp/index.html
【図66】マルティン・ブラウエン「図説マンダラ大全――チベット仏教の神秘――」東洋書林 2002.9.10
【図67】フランク・J・ニューカム画「ナバホ『射弓の歌』の砂絵」美術出版社1998.11
【図67】網野 善彦ら 編「いまは昔 むかしは今 人生の階段」福音館書店 1999.2
宮崎建司著『東西南北の神々――四神相応』(木場明志監修「陰陽五行 淡交ムック」淡交社1997.11)
藤田義仁著『色彩と方角のパワー』(木場明志監修「陰陽五行 淡交ムック」淡交社1997.11)
河野亮仙著『儀礼と芸能のアルケオロジー――インド文化圏の辺縁としてのチベット』
          (色川大吉編「チベット・曼荼羅の世界――その芸術・宗教・生活」小学館 1989.3)
久武哲也著『砂絵の文化――その機能とイメージの比較』(「イメージと文化」甲南大学総合研究所1991.12)
マルティン・ブラウエン著「図説 曼荼羅大全――チベット仏教の神秘」東洋書林2002.9
エニアグラムとマンダラ http://www7.ocn.ne.jp/~mandara/

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

r051
【図63】五行の色の配当

 

 

 

 

 

 

 

 


 

p029
【図64】
薬師瑠璃光浄土砂マンダラ

 

p028
【図65】
怖畏金剛砂マンダラ

 

p030
【図66】カーラチャクラ・マンダラ
200×200cm

 

 

 

 

 

 

 

 

sand200
【図68】『円頓歓心十法界図』
元興寺文化財研究所蔵

 

 


 

 

 

 

ナバホの砂絵
【図67】ナバホの砂絵

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                 
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