任意後見契約,財産管理等委任契約,ホームロイヤー契約
Q.私は現在,一人暮らしをしています。長年連れ添った夫は昨年他界し,息子,娘もそれぞれ結婚して家庭を持っています。最近物忘れがひどくなり,このまま認知症になるのではないかと心配です。幸い,私には夫が残してくれた自宅,預貯金,賃貸アパートの賃料収入と年金があるので生活には困りません。しばらくは住み慣れた自宅で一人暮らしを続け,ゆくゆくは老人ホームに入所しようと思っています。ただ,いろいろと心配事があります。最近,テレビなどで振り込め詐欺だとかお年寄りをねらった悪徳商法を見聞きしますが,こうした被害に遭わないか不安です。子供たちは遠方に住んでいるのでいざというときに頼りになりません。アパートの管理は管理会社に任せていますが,私が認知症になってからもきちんとやってくれるか心配です。また,息子と娘は仲が悪く,私が死んだ後,遺産を巡って争いにならないかも心配です。今のうちに何とか備えておきたいのですが,今後どうしたらよいでしょうか。
A.
ご心配のとおり,人は年を取ると,物事の判断能力が低下し,自分の財産を適切に管理できなくなったり,詐欺の被害に遭いやすくなります。認知症になれば,不動産や預貯金の管理はもちろん,病院と医療契約を締結したり,老人ホームや介護施設に入所する契約を締結することもできません。超高齢社会を迎え,このようなご心配をされている高齢者は多いと思われます。
法律では,物事の判断能力の低下の程度に応じて,成年後見,保佐,補助という制度があり,それぞれ後見人,保佐人,補助人と呼ばれる人が家庭裁判所で選任され,本人の法律行為を援助することができます。
ただし,これらの制度は,実際に判断能力が低下しないと利用できないので,判断能力が低下する前に信頼できる人を自ら選任し,いざというときはその人に自己の財産を託して管理してもらいたいという,いわゆる「老い支度」をしたい人のニーズには合いません。
そこで,そのようなニーズに合わせてできた制度が任意後見制度です。任意後見制度は,今は元気だが,判断能力の低下に備えて,予め後見人となる人を指定して,その人と公正証書で任意後見契約を締結しておき,いざ判断能力が低下したときに,後見人候補者などが家庭裁判所に任意後見監督人の選任を申し立て,これが選任されたときから,後見人候補者が任意後見人となり,本人の生活,療養監護および財産の管理に関する事務を行うというものです。任意後見契約を弁護士等の専門家と締結しておけば,判断能力が低下したときには,スムーズに弁護士等が任意後見人として本人の療養看護や財産管理を開始することができます。任意後見人は任意後見監督人や家庭裁判所によって監督されますので,さらに安心です。
しかし,任意後見契約を締結した後も本人が十分な判断能力を有している間は,任意後見は開始しません。任意後見人候補者は,契約後は本人との接触がなくなってしまうと,本人の心身の状態及び生活状況の変化ならびに判断能力の減退の程度などを適切に把握することが困難となり,本人の保護のために適切な時期に任意後見を開始するタイミングを失ってしまいます。そこで,本人と任意後見人候補者との間に一定の関係を構築しておき,任意後見の開始時期を失することが無いようにしておく必要があります。また,本人が判断能力は低下していないが,身体が不自由になり,自分で財産管理を適切にできなくなった場合には,未だ任意後見は開始しないので,財産管理等を誰かに委任する必要がでてきます。
そこでお勧めなのが,任意後見契約と同時にホームロイヤー契約や財産管理等委任契約を弁護士と締結しておくことです。
ホームロイヤー契約とは,弁護士は本人に対し,定期的に安否の確認をし,本人は弁護士に対し,日常の暮らしにおいて生じる法律問題を相談することができる契約です。まだ元気で自分自身で財産管理をできるうちは,弁護士と任意後見契約のほかにホームロイヤー契約を締結しておき,現在・将来の財産管理についての問題,遺言の内容,訪問販売や高額商品購入の勧誘などへの対応,親族・知人からの借金の申し入れに対する対応など日常生活で生じる法律問題について,電話などで手軽に相談することができます。また,この契約によって弁護士は本人の生活状況や心身の状態を把握でき,前述した任意後見開始の時期も適切に判断することが可能になります。
さらに,本人の身体が不自由になった場合には,弁護士と財産管理等委任契約を締結すれば,弁護士に一部又は全部の財産の管理を委託することができます。
ホームロイヤー契約や財産管理等委任契約を弁護士と締結し,日頃から弁護士と意思疎通していれば,死後の事務処理や遺言の作成も依頼しやすくなります。
このように,本人が元気なうちに,任意後見契約,ホームロイヤー契約,財産管理等委任契約を弁護士と締結しておけば,自分自身で「老後の安心設計」をすることができ,さらに遺言作成とその執行を弁護士に依頼することによって,自分の死後,自分の意思どおりに遺産を分けることができます。
ご相談のケースもこれら契約を弁護士と締結すること,および遺言書の作成と執行を弁護士に依頼することを検討されてみてはいかがでしょうか。
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