A.裁判員制度は国民から選ばれた6人の裁判員が3人の裁判官とともに,刑事事件の一審の審理に参加し,判決を出す制度です。裁判員制度については,施行されたばかりであり,マスコミでもここ最近,連日のように取り上げられています。今回は,誰が裁判員に選ばれるのかという点と選ばれたら何をするのかという点に絞って説明しましょう。
まず,誰が裁判員に選ばれるかですが,裁判員は20歳以上の有権者の中から,無作為に選ばれます。しかし,国家公務員になる資格のない人,禁固以上の刑に処せられたことのある人,国会議員,国務大臣,行政機関の幹部職員,裁判官,検察官,弁護士,都道府県知事,市町村長,自衛官などは裁判員になれません。
裁判員に選任されたら原則として辞退できませんが,法律などで辞退できる場合が定められています。列挙すると次のような場合です。
- 70歳以上の人
- 地方公共団体の議会の議員(ただし会期中のみ)
- 常時通学を要する課程に在学する学生,生徒
- 5年以内に裁判員や検察審査員などの職務に従事した人および1年以内に裁判員候補者として裁判員選任手続の期日に出頭した人(ただし辞退が認められた人は除く)
- 以下の事由があって裁判員の職務を行うこと又は裁判所に行くことが困難な人
- 重い疾病や傷害により裁判所に行くことが困難である
- 同居の親族を介護・養育する必要がある
- 事業上の重要な用務を自分で処理しないと著しい損害が生じるおそれがある
- 親族の結婚式への出席など社会生活上の重要な用務がある
- 妊娠中又は出産の日から8週間を経過していない
- 同居していない親族又は親族以外の同居人を介護・養育する必要がある
- 親族又は同居人が重い病気・けがの治療を受けるための入院等に付き添う必要がある
- 娘が出産する場合の入退院への付き添い,出産への立ち会いの必要がある
- 住所・居所が裁判所の管轄区域外の遠隔地にあり,裁判所に行くことが困難である
- その他,裁判員の職務を行うこと等により,本人又は第三者に身体上,精神上又は経済上の重大な不利益が生ずる
裁判員は原則として,事件ごとに6人選任され,予備に補充裁判員が選任されることがあります。2008年の事件数をもとに試算すると,全国で裁判員又は補充裁判員に選任される確率は1年間で約5500人に1人と言われています。
では,裁判員に選ばれたら何をすることになるのでしょうか。
まず,裁判員は裁判官と一緒に法廷での審理に立ち会います。
法廷では,検察官が起訴状に書いた被告人の犯罪行為を読み上げます。被告人はこれを認めることもあるし,争うこともあります。こうして明らかになった争点について,裁判員は裁判官と一緒に検察側,弁護側が提出する証拠を取り調べます。
証拠には,被告人や目撃者の供述調書・現場見取図・現場写真などの書証,犯行に使用された拳銃・ナイフなどの物証,目撃者・鑑定人・被告人などの人証があります。
例えば,殺人事件で現場見取図が書証として提出された場合,被害者の倒れていた場所,血痕のある場所,血痕の状態,凶器の落ちていた場所などが被告人や目撃者の供述と整合するか確認します。
証人,被告人を取り調べる場合には,裁判員も証人や被告人に対して,疑問点を直接問い質すことができます。
こうして,証拠を取り調べたのち,検察官と弁護人はそれぞれの立場から,証拠に基づいて,被告人の有罪無罪,刑の重さなどについて意見を述べます。
法廷での審理を終えたのち,評議に移り,裁判員と裁判官は別室で被告人が有罪か無罪か,有罪の場合どのような刑にするのか議論して,結論を出します。評議では全員一致の結論を目指しますが,どうしても意見がまとまらない場合は,多数決で結論を出します。ただし,裁判官,裁判員のそれぞれ1名以上の賛成が必要とされていますので,例えば,裁判員1人と裁判官3人が無罪意見,裁判員5人が有罪意見の場合は有罪多数ですが,無罪となります。
評議の結果に基づき,法廷で判決を宣告することになります。宣告は裁判長が行いますが,裁判員も宣告に立ち会います。判決宣告により裁判員の職務は終了します。
裁判が終わるまでどのくらいの日数がかかるか気になるところですが,裁判員裁判の約7割は3日以内に終了すると予測されています。