商工ローン保証と消費者契約法

Q. 私は半年ほど前,建設会社を経営している友人から「事業資金として100万円借りるので保証人になってほしい。絶対迷惑をかけないから。」と頼まれ,仕方なく「100万円だけならば。」ということで保証人になることを承諾しました。
 数日後,友人が商工ローン会社の担当者と一緒に来て,契約書に署名捺印してほしいと頼まれました。契約書を見ると,「極度額1,000万円」とありましたので,「100万円の間違いではないですか。」と尋ねると,その担当者は「今回は100万円の保証人になってもらうだけです。」と答えたので,私は安心して,その契約書に署名・捺印しました。ところが,最近になって,友人の会社が倒産し,商工ローン会社から「あなたが根保証した会社には2,000万円を貸している。あなたには保証限度額である1,000万円を支払ってほしい。」と迫られて驚いています。私は「担当者は100万円の保証人になるだけだと言っていた。根保証なんて説明は受けていない。おかしいじゃないか。」と抗議しましたが,取り合ってくれません。
 私は1,000万円を支払わなければならないのでしょうか。
A. 本件では,民法上の錯誤無効や詐欺取消の主張も考えられますが,まず,消費者契約法の適用について説明します。消費者契約法は,平成13年4月1日から施行された法律で,事業者と消費者とが契約を締結する際の当事者間のルールを定めたものです。
 商工ローン会社が事業者であることはもちろん,保証人は消費者ですから,消費者契約法の適用があります。本件では,消費者契約法4条の消費者取消権が行使できるかが問題になります。

 消費者取消権とは,消費者と事業者とでは情報の質・量及び交渉力に格段の違いがあることから,一定の場合に消費者側から契約の取消しをすることができる制度です。 取消しが認められる類型としては,

@不実告知,
A断定的判断の提供,
B消費者に不利益な事実の故意による不告知,
C困惑行為があります。
このうち,@からBは消費者がこれらの行為により一定の誤認をしたことが必要とされています。
本件では@の不実告知,すなわち,事業者から重要事項について事実と異なることを告げられたために,消費者がその旨誤認して契約の申込みの意思表示をしたか否かが問題となります。

 本件保証契約は通常の保証とは異なり,一定期間に継続的に発生する不特定の債務を保証する根保証といわれるものです。根保証した保証人は極度額までの保証責任があります。ところが,あなたは100万円の保証をしたと誤認しています。根保証であることは消費者契約の取引条件として「重要事項」に該当することは間違いありません。そこで,担当者が「今回は100万円の保証人になってもらうだけです。」と発言したことは「事実と異なることを告げた」と言えるかですが,あなたが,極度額1,000万円の文字を見て,「100万円の間違いではないですか。」と尋ねた以上,貸金業者の担当者は根保証契約の性質について十分な情報提供をすべきであり,そのような情報提供をしていない以上,「事実と異なることを告げた」と言わざるを得ません。したがって,本件では不実告知の適用があり,あなたが消費者取消権を行使して保証責任を免れることができます。

 消費者契約法は平成13年4月1日以降に締結された契約にのみ適用されます。あなたが保証したのがそれ以前の場合は消費者契約法の適用がなく,消費者取消権は認められません。その場合,本件の商工ローン担当者の行為は詐欺に該当すると考えられますので,保証契約を詐欺取消しすることも可能です。また,100万円の限度では保証責任を認め,その限度を超える保証責任については錯誤無効を主張することも考えられるでしょう。

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