アパートの賃借人が行方不明になったら

Q.私はアパート経営をしておりますが、アパートの賃借人が3か月ほど前から行方不明となり、家賃も滞納しています。賃貸借契約書には、家賃を1か月以上滞納した場合、大家は催告をしないで契約を解除し、明け渡しを求めることができると定めてあります。また、家屋内に残された動産類につき、所有権を放棄するとの条項もあります。
 この契約書に従って、直ちに賃貸借契約を解除し、部屋の鍵を取り替えてしまい、部屋に残された家財道具等は全て廃棄してしまおうと考えていますが、問題ないでしょうか。
A. ちょっと、待ってください。あなたのやろうとしていることは法的にかなり問題があります。

  まず、家賃不払いを理由に契約を解除する場合、原則として、以下の条件を充たさなければなりません。

@軽微とは言えない程度の家賃の不払いがあること A相当の期間を定めて家賃の支払いを催告すること Bその期間内に家賃の支払いがないこと C契約解除の意思表示をすること

@の軽微とは言えない程度ですが、裁判例では、家賃不払いの期間・回数、滞納している理由、解除の意思表示後の賃借人の対応など様々な事情を考慮して、信頼関係が破壊されているかを判断します。本件では、行方不明となって3か月も経ち、その間家賃を滞納しているのですから、信頼関係は破壊されていると言え、もはや軽微とは言えない程度の家賃不払いが認められます。

Aの相当期間ですが、通常は1週間程度でしょう。

Cの解除の意思表示ですが、家賃の催告とともに「○日以内に支払いなき場合は契約を解除する」との配達証明付内容証明郵便で行うのが通常です。

  ところで、本件の契約書には、家賃を1か月以上滞納した場合、催告せずに解除できるとの条項(無催告解除約款)があり、その有効性が問題となります。裁判例では、催告なしに解除しても不合理とは認められない事情がある場合に限り、無催告解除も有効であるとしています。本件では、賃借人が行方不明となって家賃を3か月滞納しているという事情があり、無催告解除が有効と認められる可能性もありますが、念のため、催告した上で解除する方がよいでしょう。

  さらに、本件で問題なのは、賃借人が行方不明であり、解除の通知を出しても、相手方に到達せず、解除の効力が生じないことです。従って、このままでは契約を解除することはできず、部屋の明け渡しを求めることはできません。このような場合、面倒でも、契約を解除し、建物の明け渡しを求める訴えを起こし、公示送達という方法(裁判所に2週間訴状を掲示することで相手方に訴状が送達されたとみなされる)で訴状を送達します。あなたの主張が認められ、勝訴判決を得れば、その判決に基づいて建物明け渡しの強制執行手続を裁判所に申し立て、裁判所の執行官が建物明け渡しの執行を行います。

  問題は、部屋に残された家財道具等を廃棄することができるかです。本件では、契約書に動産所有権放棄条項があり、この条項の有効性が問題になりますが、正式な強制執行手続を踏んだ上、部屋の残置物を処分する限度においては一応有効と解されます。しかし、実務上の安全策としては、訴訟で滞納家賃の支払いを求め、その勝訴判決に基づいて部屋の動産に対して強制執行を申し立て、競売してその代金を滞納家賃に充当することにより、残置物も処分する方法を取ることが良いでしょう。

  以上のように、賃借人が行方不明になってしまった場合、部屋の明け渡しを求めるには訴訟を提起した上、さらに強制執行の申立てを裁判所にしなければなりません。面倒だからといって、無断で賃借人の部屋に入って家財道具を運び出し、処分することは、住居侵入罪、窃盗罪に該当する犯罪行為であり、民事上は不法行為となり損害賠償責任が生じますので、慎重な対応が必要です。

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