賃借している建物が競売になった場合

Q.私は市内の商業ビルの一店舗を借りて飲食店を出店していますが、最近、裁判所の執行官という人から、このビルが競売に掛けられたので、私のこのビルに関する権利関係を調査しに来るとの連絡がありました。競売に掛けられたということは、このビルから退去させられるのでしょうか。また、私は大家に敷金300万円を差し入れていますが、退去させられるのであれば、この敷金は返してもらえるのでしょうか。
A. ご相談内容からは詳細が不明ですので、まず大きく、
   @賃借したビルが入居時点で既に差押えされている場合、
   A入居時点では差押えされていない場合
  に分けて検討します。

  まず、@ですが、競売によってこのビルを買い受けた人に賃借権を対抗できず、買受人に求められれば店舗を明け渡さなければなりません。敷金の返還ですが、本件では賃借人が買受人に対し賃借権を対抗できない結果、買受人は敷金返還義務を引き継がず、買受人に対しては敷金の返還を求めることはできません。大家に対しては敷金返還を求めることができますが、差押えを受けた大家から敷金を回収することは困難でしょう。

  次にAですが、さらに、(1)入居時にはビルに抵当権設定登記がなされていなかった場合、(2)入居時に既に抵当権設定登記がなされていた場合に分けて考えます。

  まず、(1)の場合は、競売になっても、賃借人は賃借権を買受人に対抗できるので、買受人が当然に賃貸人の地位を承継し、新賃貸人となります。賃貸借契約に付随して敷金契約も買受人に承継されるので、賃借人は賃貸借が終了して店舗を明け渡したときに、買受人に対し敷金の返還を求めることができます。

  次に、(2)の場合、複雑ですが、さらに、ア.賃貸借契約の時期が短期賃貸借制度の廃止時期(平成16年4月1日)より前であった場合、イ.それが同制度の廃止時期の後であった場合に分け、ア.についてはさらに、差押えられた時の賃貸借契約の賃貸期間が3年以内(短期賃貸借)の場合、賃貸期間の定めがない場合、賃貸期間が3年を超える場合に分けて考えます。

  まず、ア.の場合ですが、a.差押え後ビルが競落されるまでの間に賃貸期間が満了してしまう場合、b.競落後に賃貸期間が満了する場合に分けます。a.の場合は、賃貸借契約の更新を抵当権者に対抗できず、買受人にも賃借権を対抗できません。敷金の返還も買受人に求めることができず、大家に求めるほかありません。b.の場合、買受人は賃貸借契約を承継し、賃借人は賃貸期間満了まで居住できます。敷金の返還も買受人に求めることができますが、契約の更新を対抗することはできません。

  次に、ア.の場合ですが、期間の定めがない建物賃貸借(当初から賃貸期間を定めなかった場合のみならず、契約で定めた賃貸期間が満了したが、そのまま賃借を継続している場合も含みます。)は短期賃貸借に該当し、買受人は期間の定めのない賃貸借を承継することになります。この場合、正当事由があれば、買受人は6か月の解約申入期間で賃貸借を終了させることができ、競売で取得したことは正当事由のプラス要素とされます。

  さらに、ア.の場合は前記1.と同様、賃借人は買受人に賃借権を対抗できず、敷金の返還を求めることもできません。

  次に、イ.の場合ですが、賃借権設定登記がある場合、賃借権設定登記がない場合に分け、はさらに、a.賃借権設定前の全抵当権者の同意の登記がある場合とb.それがない場合に分けます。

  a.の場合、買受人は賃貸借と敷金返還義務を承継します。b.との場合は買受人は賃貸借も敷金返還義務も承継しませんが、賃借人は競落後6か月間の居住は保証されます。

  大変複雑な場合分けになってしまいましたが、本件は今年法改正がなされた部分(短期賃貸借制度の廃止)に関係し、大変理解しにくいところですので、専門家に相談されることをお勧めします。

▲ ページTOPへ