学校でのいじめによる子供の怪我と損害賠償

Q.私の長男は市立中学の3年生ですが,先日,学校の昼休み中,教室で同じクラスのY君から暴行を受け,左目を失明する大怪我をしました。   後で分かったことですが,長男は大分前から,Y君からいじめを受けていました。Y君,Y君の両親はもちろん,学校,担任教諭に対しても損害賠償を求めたいと思いますが,可能でしょうか。
A.まず,Y君に対する損害賠償請求について検討します。民法は,故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者はこれによって生じた損害を賠償する責任を負うと規定しています(不法行為責任・民法709条)。ただし,加害者が責任を負うのは責任能力がある場合に限られ,子供に責任能力が備わるのはだいたい12歳から13歳ぐらいとされています。中学3年生は14〜15歳ですから,一応,責任能力はあると考えてよいでしょう。ただ,Y君に損害賠償請求できるとしても,中学生には支払能力がないのが通常であり,Y君の両親に対して損害賠償を請求できるか検討する必要があります。

 この点,最高裁判所は, 「未成年者が責任能力を有する場合であっても,監督義務者の義務違反と当該未成年者の不法行為によって生じた結果との間に相当因果関係が認められるときは監督義務者も不法行為責任を負う」との判決を下しています。 そこで,学校で起きた子供同士の事故の場合,両親に監督義務違反が認められるかが問題となりますが,学校では,子供は教師の監督下に置かれており,学校事故の場合には両親に監督義務違反はないというのが一般です。  しかし,本件のように被害者が大分前からY君からいじめを受けているような場合,事情によってはY君の両親が被害結果を予見し,防止できた場合もあり(例えば,担任が両親に対し,Y君が被害者をいじめていると再三注意していたのに,両親は放置していた場合など),そのような場合にY君の両親に監督義務違反が認められます。本件では,両親に監督義務違反が認められれば,それと被害結果との相当因果関係も認められるでしょう。

 次に,学校,教諭に対する損害賠償請求について検討します。国公立学校においては,校長や教師は国または地方公共団体の公務員であり,公務員が職務を行うについて加えた損害は,国または公共団体が賠償責任を負うことになっています(国家賠償法1条)。従って,学校事故については,学校の設置者である国や地方公共団体が責任を負うことになっています。本件では市立中学を設置した市が賠償責任を負うことになります。しかし,公務員個人(本件では校長や教諭個人)は賠償責任を負いません。

 では,担任の教諭・校長がいじめの事実があったにもかかわらず,これを見過ごし,あるいは,いじめの事実を認識していながらも被害結果が生じてしまった場合,学校に賠償責任を問えるでしょうか。

 学校側がいじめの事実を把握していた場合は加害生徒・父母に対する単なる口頭注意にとどまらず,校内での適切ないじめ防止措置を取っていたか,いじめの事実を把握していなかった場合は日頃から生徒の動静を観察し,いじめが行われているかどうかについて細心の注意をしていたかが問題になります。

学校側がこれら防止措置を取らなかったり,いじめを把握する注意を怠っていた結果,本件事故が生じた場合は,学校に賠償責任が認められるでしょう。

 なお,本件事故は昼休み中の事故であり,教師の監督下になかったから学校側に過失はないという学校側からの反論もあるでしょうが,大分前からいじめがあり,そのいじめの延長として本件事故が生じている以上,昼休み中であったというだけで学校側の責任を否定することにはならないでしょう。

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