相続放棄と生命保険金

Q. 私の夫は2か月ほど前に亡くなりましたが,最近,夫の債権者から   夫の借金の支払いを求められて困っています。調べたところ,夫は生前,   サラ金やカード会社から合計1200万円借りていることがわかりました。   夫の残した財産は評価額1000万円の自宅と受取人を「法定相続人」   とする1000万円の生命保険だけです。相続人は私と2人の子供です。   私には何の財産もなく,1000万円の支払いなど不可能です。   夫の借金は私が払わなければならないのでしょうか。
A. 相続制度では自宅などのプラス財産のみならず,借金というマイナス財産についても,相続人は法定相続分に従って相続するのが原則です。従って,妻であるあなたは600万円(1/2),2人の子供はそれぞれ300万円(1/4)づつ借金を相続することになります。しかし,借金を相続したくない場合は相続放棄という制度があり,相続人が相続の開始を知ったときから3か月以内(熟慮期間という)に家庭裁判所に相続放棄の申述をすれば借金の相続をしなくて済みます。但し,相続放棄をすればプラス財産も相続できなくなるので自宅も相続することはできません。
Q. 相続放棄をすると生命保険金も相続できなくなってしまうのでしょうか。
A. 結論から言うと,相続放棄をしても,生命保険金は法定相続分に応じて受け取ることができます。従って,あなたは500万円,2人の子供は250万円ずつ生命保険金を受け取ることができます。保険契約者が死亡保険受取人を「法定相続人」と指定した場合,保険金請求権は法定相続人の固有の財産となり,そもそも被相続人(死亡した人)の相続財産には含まれないとされています。仮に,受取人が「妻」とされていれば,保険金請求権は妻の固有財産になるわけです。
Q. 少し安心しました。でも自宅はどうしても諦めなければならないでしょうか。
A. あなたの場合,自宅を手放さずに済むかもしれません。サラ金等からの借金が1200万円あるとのことですが,サラ金などの貸付金利は利息制限法所定の法定利息を超えているケースがほとんどであり,法定利息を超えて支払った利息は元金に充当することができます。そうすると元金が減少し,負債総額が1200万円以下になることが予想されます。この点についてはサラ金にも言い分があるのですが,弁護士に依頼してサラ金に交渉してもらえば,利息制限法に引き直した金額で和解できることも多いのです。引き直した結果,負債総額が1000万円以下になれば相続放棄をせずに死亡保険金で負債を返済することができるかもしれません。  相続放棄の熟慮期間は3か月以内ですが,負債の総額を調べるなど相続財産の調査の必要があれば家庭裁判所に熟慮期間を伸ばしてくれるよう請求することができます。この点を忘れて熟慮期間を過ぎてしまうと相続したことになってしまいますので気を付けてください。

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