行方不明の相続人

Q.先日,父が亡くなりました。母に先立たれてからは一人暮らしをしており,住んでいた家とその敷地(父名義の登記があります。),それに,わずかばかりの現金と銀行預金を遺してくれました。
  私は兄,弟との三人兄弟の真ん中だったのですが,兄は昭和49年に,仕事で内地に出張したまま消息を絶ってしまいました。両親は兄が生きていると信じて,長らく尋ね人の広告を出したりしていましたが,今に至るまで行方不明で,兄はもう,生きてはいないと思います。なお,兄には子供がいませんでした。
  父の遺言がなかったので,弟との間では,土地建物を私のものとし,現金と銀行預金については弟のものとするという内容で円満に話し合いが成立しているのですが,今後どうすればよいでしょう。
A. 弟さんとされたような,相続財産の割りあてを決める話し合いを「遺産分割協議」といいます。そして,相続人全員の協議が整えば,その結果通りに遺産を分割することが法律上認められています。
 そこで,お兄さんが実際に亡くなっておられるのであれば,あなたと弟さんという,相続人全員の協議が整ったとして,話し合いの結果通りに財産を分けるのに,特に届出等の手続きは必要ありません。ただ,後々の手続きの為の証拠として,協議内容を「遺産分割協議書」として書面にし,それぞれの実印を押印しておきます。こうして,現金については協議に基づき弟さんが引き取ればよく,不動産についても,あなたが引渡しを受けて使用することはできますが,不動産の登記をあなたに移す際に問題が生じます。
 相続と遺産分割を原因とする所有権移転登記をするためには,遺産分割協議書などのほかに,相続人の範囲を確定するために,相続人があなたと弟さんの二人だけであることを証明する書類も提出しなければなりません。しかし,お兄さんは生きているとすれば80歳くらいで,単に行方不明だというだけでは,まだ生きている可能性を否定でません。従って,このままでは登記ができないのです。なお,登記を被相続人名義のままにしておくことが許されないわけではなく,実際そのような事例も少なくないのですが,売却や抵当権設定などの処分をしようとする場合に不便ですので,なるべく早く登記をすることが望ましいといえます。そして,このような場合には,お兄さんについて失踪宣告を申し立てるという手段があります。失踪宣告とは,長期間行方不明の人がいる場合に,法律関係を安定させるために,その人を法律上死亡したとみなす制度です。もちろん,法律上死んだと扱うだけですから,後で生きていたことがわかった場合には取り消すことができます。
 行方不明の期間が7年間(戦争や災害の場合には1年間)以上であればよいので,お兄さんは要件を満たしています。
Q. 失踪宣告は,どのように申し立てればよいのですか。
A.失踪宣告の申立ては,失踪者の最後の住所地の家庭裁判所に対してします。そして,家庭裁判所調査官による調査を経て,問題がなければ,生きているなら名乗り出てくれ,と掲示する公示催告という手続きをします。
 それで失踪者が現れなければ,失踪宣告の審判が下されます。これによって,失踪者は失踪から7年間経過した日に死亡したとみなされるので,市町村長等,戸籍に関する事務を取り扱う者に,届出をします。なお,形式的な事務手続きについては,家庭裁判所でアドバイスを受けられます。こうして,少し時間はかかりますが,除籍謄本等によって,お兄さんが法律上死亡したものと扱われていることが証明できるので,登記をあなたに移すことができるようになります。
Q. 銀行預金については,どうすればよいですか。
A.銀行預金に関しては,法律上は遺産分割の対象となる財産に含まれず,相続分に従って分割されることになっているのですが,銀行は遺産分割協議による帰属の決定も認めています。そこで,遺産分割協議書などの書類を提出して,弟さんに預金名義の変更をすることができます。

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