入学金・授業料の不返還条項の有効性

Q.私はコンピューターの専門学校に入学金・授業料として100万円を支払いましたが,その後私立大学に合格したため専門学校の入学を辞退しました。その際,専門学校に入学金等の返還を求めたところ,「一旦納入した入学金,授業料は一切返還しません」との約款を盾にして返金に応じてくれません。法律上,返還を求めることはできないのでしょうか。
A. 本件では,消費者契約法第9条1項の適用が問題になります。

 入学申込者が入学を辞退した場合に入学金等を一切返還しないことは,入学契約の解除に伴う入学申込者に対する損害賠償の予定であると言えます。

 法第9条1項は「当該消費者契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し,又は違約金を定める条項であって,これらを合算した額が,当該条項において設定された解除の事由,時期等の区分に応じ,当該消費者契約と同種の消費者契約の解除に伴い当該事業者に生ずべき平均的な損害の額を超えるもの」について「当該超える部分」を無効としています。平たく言えば,契約解除をしたからといって,通常生じる損害額以上の損害を賠償しなくてもよいということです。

 では,入学金・授業料の不返還の定めは平均的損害を超えると言えるでしょうか。

 まず,授業料についてですが,生徒の再募集が可能であったり,定員を超える人数を合格としている場合等,あなたが入学を辞退したとしても専門学校に損害が生じない場合においては,授業料を返還しないことは平均的な損害を超える損害賠償の予定として無効になると考えられます。従って,この場合は,専門学校に対し,授業料の返還を求めることができます。逆に,時期的に生徒の再募集が不可能で,欠員を生じるのが不可避である場合においては,不返還特約は平均的な損害を超えない損害賠償の予定として有効であり,授業料の返還を求めることができないと考えられます。

 次に,入学金の不返還ですが,入学金の額が入学 手続に要する実費程度であれば平均的な損害を超え ない損害賠償の予定として有効であり,返還を求めることはできないと考えられます。 入学手続に要する実費とは,入学に必要な書類の受付や整理に伴う費用,健康診断や特別なガイダンスに要する費用などが考えられます。 逆に,入学金の額が入学手続に要する実費を超えて高額である場合においては,平均的な損害を超える損害賠償の予定として無効になり,返還を求めることができると考えられます。

 もっとも,入学手続に要する実費をはるかに超えているような高額な入学金の定めは,そもそも,消費者の義務を不当に加重する条項として法10条に反する可能性があります。すなわち,法10条は「民法,商法その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し,消費者の権利を制限し,又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって,民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは,無効とする。」と規定しており,高額な入学金の定めはこの条項に違反する可能性があります。

 以上のような考え方に対して,学校側からは,入学金については,入学する地位を得るための権利金であり,入学辞退をすることはこの権利金を放棄することであるとの反論があります。現在,東京や大阪では私立大学に対する入学金・授業料の返還を求める裁判が提起されており,裁判所がいかなる判断をするか注目されます。

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