年次有給休暇

Q.私は,現在勤めている会社を退職し,別の会社に転職しようと思っているのですが,年休が20日残っています。そこで,残っている年休を利用して転職活動をしようと思い,申請を出したところ,「そんな有給休暇は認められない」と言われました。本当に転職活動のための有給休暇は認められないのでしょうか。
A.  年休は,会社の就業規則等に年休の定めがなくとも,労働基準法所定の要件を満たすことにより当然に労働者に認められる権利であり,働き始めた日から,6か月継続して勤務し,所定労働日の8割以上出勤した労働者に法律上当然に生じ,最低付与日数は,継続勤務6か月で10日になります。その後,1年ごとに1日ずつ加算され,2年6か月以上継続勤務した者に対しては,1年ごとに2日ずつ加算されます。上限は20日です(労働基準法39条1項2項)。
 もっとも,年休は年度ごとに付与されるものなので,ある年の労働日数が,所定労働日の8割に満たなかった場合には,翌年の年休は付与されないことになります。
 このような年休は,パートタイマーに対しても出勤日数に応じて認められます。
 また,法律上は,年休をどのような目的で使おうと構いません。しかも,年休をとる時期は,その日数が残っていれば,いつ取ってもいいのです。したがって、退職間際に転職活動のために,年休を取ること自体には問題はありません。
 年休の取得には,申請を出し,これに対して許可をもらう,という手続をとっている会社が多いと思われますが,法律上は,法所定の要件を満たし,季節を特定して具体的時期を指定(時季指定)すれば,原則として年休が成立します。しかし,時季指定による年休成立が,客観的に事業の正常な運営を妨げる場合に該当すれば,使用者は,年休日の時季を変更することができます。
 したがって,使用者が,客観的に事業の正常な運営を妨げるおそれもないのに,年休の使途を理由に年休取得を認めないといっても,それは法的には意味はなく,労働者がこれを無視して休んだとしても,使用者はそれを欠勤として扱うことはできません。
 前述したとおり,使用者には,年休の時季を変更する権利(時季変更権)が認められます。たとえば,夏期は繁忙期であるため,年休取得を秋期に変更したり,当該月の上旬から下旬に変更したりすることです。この時季変更権が認められるためには,単に日常的に業務が忙しいとか慢性的に人手が足りないというだけでは足りず,事業の規模,内容,その労働者が担当する職務の内容,業務の繁閑,予定された年休の日数,他の労働者の休暇との調整など諸般の事情を総合判断する必要があり,代替勤務者の確保をしたり,勤務割を変更したりするなどの配慮を何ら行わないまま,年休を認めないという措置は許されません。
 また,使用者の時季変更権は,他の時季に年休を与える可能性があることが前提なので,年休日を見込んで先日付けの退職願を出した場合,この可能性はなくなります。つまり,使用者は退職予定日を超えて時季変更権を行使することはできません。
 したがって,あなたの年休は認められることになります。
 なお,休暇が長期にわたる場合には,それが長期になるほど,代替勤務者の確保が困難になるなど業務に支障を来す蓋然性が高くなるため,事業の正常な運営を妨げるとして,使用者の時季変更権が認められる可能性が高くなります。
 いずれにしても,年休の取得については,使用者との調整が必要であり,今回のケースでは,法律上の問題はないとしても,退職に際しての年休取得ということで,残務の整理・引継ぎをしっかり行った上で年休を取得すべきでしょう。  

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