従業員のけんかと雇用主の使用者責任

Q.先日,取引先から当社の従業員と先方の社員が居酒屋でけんかをして,先方の社員が怪我をしたので治療費などを賠償してほしいという連絡がありました。びっくりして当社の従業員に事情を聞くと,取引先の社屋でその社員と商談のあと,意気投合して居酒屋に飲みに行った際口論となり,かっとして殴ってしまったとのことでした。勤務時間外のことですし,当社に使用者責任はないと思うのですが,どうなのでしょうか。
A. 人を殴って怪我をさせた場合,加害者は被害者に対して,不法行為に基づく損害賠償責任を負います(民法709条)。ところで,ある事業のために他人を使用する者は,選任・監督について相当の注意をしていたり,相当の注意をしても損害を生ずべきであったという事情がない限り,被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負います(民法715条1項「使用者責任」)。そうすると,本件のように従業員が人を殴って怪我をさせた場合,それが「事業の執行について」なされた場合は前記免責事由がない限り,御社は使用者責任を負います。
 したがって,御社が使用者責任を負うか否かの最大の決め手は,従業員の不法行為が「事業の執行について」なされたか否かとなります。不法行為が「事業の執行について」なされたか否かを判断する基準として最高裁がある事件で示した基準は「事業の執行行為を契機とし,これと密接な関連を有すると認められる行為」であるか否かというものです。要するに,その不法行為と事業の執行行為との間に密接関連性があるか否かです。
 御社の従業員は取引先の社員と取引先の社屋で商談のあと居酒屋に飲みに行った際,口論となって暴行したとのことですが,勤務時間外だとしても,商談の続きも兼ねて居酒屋に行ったのであれば事業の執行行為と密接関連性があり,使用者責任が認められ易いでしょう。
しかし,仕事と全く関係なく,純粋にプライベートで飲みに行き,居酒屋でも商談の話が出なかったという事情であれば,使用者責任は認められにくいでしょう。
 要するに,本件のようなけんかの場合,密接関連性はけんかの原因や場所,時間などを総合的に判断して決することになります。具体的には,けんかの原因が今商談していることに関連することか,けんかの場所は仕事をしていた場所に近接しているか,その場所に行った目的は仕事のためか,仕事が終わってからどの程度の時間が経過しているかなどです。
  「事業の執行について」行われた不法行為だとしても,条文上,被用者が前記の免責事由を立証したときは免責されることになっていますが,実際は無過失責任に近い運用がなされており,戦後免責が認められた事例は報告されていません。
  御社が損害賠償した場合,御社は従業員に対し,賠償した費用を求償することができます(民法715条3項)。

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