ピアノのレッスン室 1


 耳の訓練

メダカ : 若芽先生、ピアノの練習で一番大切なことは何ですか?

若 芽 : ピアノを練習するのに一番重要なことは『耳の訓練』だね。

メダカ : 『耳の訓練』ですか? 『指の訓練』ではないんですか?

若 芽 : 指がいくら動いても、耳でそれをフォローできなければ、なんにもならないぞ。

メダカ : はあ、そういうもんですか。で、耳の訓練というと絶対音感とかいうヤツのことですか?

若 芽 : メダカ、君は「絶対音感」を誤解しているな。絶対音感さえあれば優秀な音楽家である、というのは間違いだ。もちろん、絶対音感がないのが優秀な音楽家だ、というのも間違いだけどな。絶対音感は一つの要素にすぎない。絶対音感があるなしに関わらず優秀な音楽家は存在する。つまり、絶対音感は優秀な音楽家になる絶対条件ではないのだ。わかるね?

メダカ : はあ、それで先生、絶対音感のことではないのなら、耳の訓練とはどういうことでしょうか?

若 芽 : 音を聴くということだ。

メダカ : はあ?

(若芽、すましている。)

メダカ : 先生、あのーォ、目は瞑れますが耳は塞げません。ですから、見ないということはできますが、聞かないということはできないと思うんですけど。

若 芽 : メダカ、君にはあそこにある時計の秒針の音が聞こえていたかね。

メダカ : えっ?

(レッスン室の壁には陶器の時計が掛かっていて、確かに秒針が大きな音を立てていた。)

メダカ : ああ、大きな音で鳴っていますね。

若 芽 : 今、私が君の注意を惹いたから気が付いたんだろう?

メダカ : ええ、そういえばそうです。

若 芽 : ほら、君は今まであの時計の秒針の音を聞いていなかったじゃないか?

メダカ : ああ、そうですね。そうでした、聞こえていませんでした。

若 芽 : 君はさっき耳は塞げないと言ったけどな、だからこそ耳は意識しない音は聞こえないようにできているんだと思うぞ。世の中にある全ての音を聞いていたら脳は恐ろしい情報量を処理しなくてはならなくなるしな。

メダカ : なるほど。

若 芽 : だから自分で弾いたピアノの音を集中して聴く訓練が必要なんだよ。分かるね?

メダカ : はあ。では具体的にはピアノの音の何を聴き取れば良いのでしょうか。

若 芽 : ピアノの調律は自分ではできないから(調律師の人はもちろんできるが)音の高さは気にしなくていい。気になる場合は仕方ないけど。音の質、つまり音質や音色、強弱などを聴くようにすればいいと思う。それとメロディの繋がり方とか和音の響き方なんかだな。あ、もちろんリズムが正確であるかとか、拍子はきちんと刻めているかなんてのも重要だな。

メダカ : 先生、初心者にはそれを全部聴くというのは無理なのでは?

若 芽 : 君も時にはいいことを言うではないか。初心者の場合は、自分が弾いた音が気持ちいい音か気持ち悪い音か聴いてみればいい。ピアノの音は本来キレイなものだから、ちゃんと弾けば気持ちいい音が出るものだ。もちろん調律してないとか、古すぎるとか使いすぎているとかして変な音しか出ないピアノもあるけどな。

メダカ : はあ、なるほど。では自分の音がキレイかキタナイかよく聴くことが大事だということですね。

若 芽 : その通り。

メダカ : 先生どうもありがとうございました。皆さん、自分の音に耳をすませてピアノの練習に励みましょう。では、また今度。



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