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砂の特性  
   砂絵は、多種多様な絵画の手法の中でも、他には見られない魅力のある手法のひとつです。通常、絵画は筆や鉛筆、ペンなどの道具を使って描くことが多いのですが、砂絵は直接手に触れ指先で砂の感触を楽しみながら描いていくというところに、面白さがあるのではないでしょうか。人や動物は、周囲の資源を利用するために、自分と周囲の関係を調整する能力を持っているとされています。この周囲の資源の情報を「アフォーダンス(affordance)」といいます。鉛筆や筆で描く絵画と違い、直接に指で触れて描く砂絵が面白く感じるのは、あまり普段では感じることのできないアフォーダンスの出会いがあるからなのだと思われます。
  中国の古い考えに五行という思想があります。日本には陰陽五行として導入され、暦や干支などの形で生活に取り込まれました。五行では、万物は木・火・土・金・水の五つの要素で成り立っていると考えます。砂という素材が、そのうちどの要素に値するのか考えると、その特性を理解することにつながります。例えば、砂の城のように水を含ませて固まらせた砂は、固体の形態を持ち、「土」であるといえます。また、砂時計や砂漠の砂の動き、砂を手にとって指の間から落ちていく様子は、液体のような形態をとり「水」といえるのではないかと思われます。西洋文化にある四大元素の考え――火・風(空気)・水・地(土)においても同様に考えられます。砂は、変容する素材であり、「土」と「水」との間に存在するものといえます。
  S・R・シェパードは、砂は液体でもなく固体でもなく、陸と海との中間にある物質と考えます。砂は、「意識」の象徴である陸と、壮大な「無意識」の象徴である海が出会う地点にあり、意識と無意識の間でメッセージを送るための象徴的な媒体であるとしています。したがって、ナバホやチベットの儀式や、心理療法である箱庭療法で砂が使われることは適切なのであると述べています。砂は、人間の心の中の、意識と無意識の間を行き来する素材であるといえるのではないでしょうか。
  図形についても、意識と無意識の中を行き来して生み出されているといえます。人類には、共通して見られる図形というものがあります。チベットやナバホには共通して見られるマンダラ図があり、ケルトの文様で見られる組紐のような図形が日本の水引の組紐として存在します。また、共通して見られるものとして、黄金比のような比率の存在があげられます。黄金比は、人間にとって最も安定した美しい比率とされ、建築物や絵画の中に多く見られます。そして、自然界にもこの比率が存在し、オウムガイの殻の形状やひまわりの中心部分の形状、銀河系などの螺旋にこの比率が見られます。美しいと思われる図形や比率は、人間が生活している環境の中で自然から学び、無意識の領域に蓄積されたものが外の世界へと表出されたものです。遠く離れた異文化の中で、よく似た図形があらわれることに、なんら不思議なことはないのです。
  絵画としての砂絵を考えると、他の手法の絵画と違う大きな点で、残すことを目的に考えられていなかったことがあげられます。それは、砂という素材が「土」と「水」の間にあるもので、変容するものであるというところにあります。砂絵制作の例では、便宜上保存できるものとして紹介しました。出来上がった砂絵は固定されたもので、本来の意味を持つ砂絵ではないとも考えられます。古来、砂絵がそうであったように、砂絵には作品を制作する過程に意味があり、残すことの必要性がないのはそのところにあるのではないかと思われます。砂絵の魅力は、制作時に感じる意識と無意識の間で変容する砂の形の過程に意味があるようです。それが砂絵たる所以なのではないでしょうか。

 

【参考文献/引用図版】
佐々木正人著「レイアウトの法則 アートとアフォーダンス」春秋社2003.7
S.R.シェパード『一粒の砂のなかに――果てなき世界』
    (岡田康伸編「現代のエスプリ別冊 箱庭療法シリーズT箱庭療法の現代的意義」至文堂 2002.5)



 

 



p074
五行の色の配当

 

 

 

p068
ユングが考える心的構造

 


                 
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