ピアノのレッスン室 5


 力を抜く その3

メダカ : 若芽先生、脱力についても、もう3回目ですね。

若 芽 : そうだね。メダカ、君、完全な脱力はできたの?

メダカ : まあ、なんとか。

若 芽 : じゃあ、一応次へ行くことにするぞ。

メダカ : はい、お願いします。

若 芽 : まず、肩から指先までブラーンとさせて。それができたらあやつり人形のように手首だけ意識して持ち上げる。そしてそのまま鍵盤の上に持っていく。

メダカ : こうですか?

若 芽 : うーん、いまいちだな。よし、秘密兵器を出そう。

メダカ : 秘密兵器って、それですか? 髪をくくるただのゴムじゃないですか。

若 芽 : そんなことはないぞ。黒じゃなくてピンクの髪ゴムだ。

メダカ : はあ? 色の問題じゃないでしょう。それのどこが秘密兵器なんですか!

若 芽 : これは髪の毛を結わえるために輪になっている。少し太めのものがいいな。細いと弾力がないからな。これを手首に通す。ほら、やってみて。そうそう。そして、髪ゴムの結び目を、先生が持つわけだ。あ、別に結び目じゃなくてもいいけどな。とにかく輪の一箇所を持つ。メダカ、腕の力を抜いてみなさい。

 (メダカが腕の力を抜くと、手首に引っ掛けられた髪ゴムの輪が、メダカの手の重さで伸びる。)

若 芽 : ちゃんと力が抜けるようになったな。よしよし。人間の腕は結構重いということがわかるだろ?

メダカ : 髪ゴムが伸びない人は脱力ができてないってことですね。

若 芽 : その通り。それから、このまま髪ゴムの輪を引っ張り上げたままさっきやったみたいに、鍵盤の上に持っていく。指先が鍵盤に触れるようにしよう。

メダカ : 指先が鍵盤に触りました。

若 芽 : 力は抜いたままだよ。で、先生は手をパッと離す。

 (バチッ! という音の一瞬後に、メダカの手の重さで鍵盤が沈んで不協和音が鳴る。)

メダカ : いてっ! 若芽先生、ひどいな、痛いじゃないですか。

若 芽 : そうなんだ。この秘密兵器の唯一の弱点は痛いことだ。

メダカ : もう!

若 芽 : でも、今、手全体が鍵盤の上に落ちただろ? その感じを忘れずに今度は髪ゴムを使わずに自分でやってみる。手首の部分だけ意識してな。

メダカ : 手の重さを手首だけで支えているって感じですね。

若 芽 : そうだ。鍵盤に指先が触る時には、手の形は力を抜いた時の内側に丸まった形だよ。

メダカ : これでいいでしょうか。

若 芽 : うん、いいだろう。ここでもう一度確認。肩に力は入っていないかね。

メダカ : あ、少し。(メダカ、肩から力を抜く。)

若 芽 : 肘のあたりも楽にするように。

メダカ : ばっちりです。

若 芽 : ばっちりねえ。まあ、いいか。手首以外はみんな力が抜けた状態になっているね。

メダカ : はい。先生、手首の高さはどのくらいでしょう。

若 芽 : 初めは、手の甲が平らなくらいでいいと思う。少しは下がってもいいけど、これから鍵盤に手の重さを乗せるので、あんまり手首を下げてしまうと、乗せるというよりぶら下げるになってしまうからな。

メダカ : 少し手首のほうが上がっているかな?

若 芽 : 極端に上がっていなけりゃいいよ。少し高いくらいの方がいいかも。それで、今は手首のところで少し引っ張りあげている状態だけど、手の形をそのまま維持して手首の力を抜く。すると、手首で支えていた手の重さが指先にかかって、鍵盤が沈むだろ?

(メダカの手が鍵盤の底に沈んで、不協和音が鳴る。)

若 芽 : ほら、無駄な力が要らずに音が出ただろ?

メダカ : 手全体を落とすって感じですね。

若 芽 : だけど手首が落ちたらダメだぞ。手首は初めの高さを維持する。揺らしてもダメだ。

メダカ : わかりました。あ、先生、僕は手も大きくて重いから手の重さだけで音が出ましたが、小さい子は手が軽いですから、音は出ないんじゃないですか?

若 芽 : そうだな。小さい子は説明しても良くわからないし上手く力が抜けないことが多い。でもな、確かに脱力は重要だけど、弾いてるうちに自然と力は抜けるようになるもんだよ。

メダカ : えー! じゃあ、僕が苦労してやったことは?

若 芽 : メダカは脱力がきちんとできなかったじゃないか。だからちゃんと意識してやる、ということが必要なんだ。それに、なんとなくできている、というのは本当にできていると言うことじゃない。コントロールできるってことに意味がある。無駄な力だけを抜くんだって言っているだろ?

メダカ : そうでした。

若 芽 : だから、練習していればそのうち力は抜けると思うけど、どうしても脱力が上手くいかないと思っている人は、一度脱力について意識的に感じてみるといいと思うぞ。

メダカ : つまり、この「力を抜く その2 その3」ですね。

若 芽 : うん。完璧な脱力状態を実感して脱力をコントロールできるようになると、ピアノを弾いている時でも、力が入っていると思ったら力を抜くことができるだろう? しかし、くれぐれも言っておくが、初めから力を抜くことに固執しない方がいいぞ。小さい子は特にあんまり細かいことばかり注意するとピアノが嫌になってしまうからな。

メダカ : 自分で力が抜けないことを自覚しているような人がやってみるのは効果があるかもしれませんね。

若 芽 : 若芽もそう思う。レッスンで見ていると、無駄な力を使って弾いている生徒さんはすぐわかるから、本人があまり気にしていないなら、先生は時々肩をポンと叩いてやったり、肘をつついて力が入っていることを教えてあげれば、そのうち力が抜けてくるもんだ。

メダカ : なるほど。先生、次回は実際に弾いている場合の脱力について、注意する点など、お願いします。では、さようなら。


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