譜読み その3
メダカ : 今回で、譜読みも3回目ですね。
若 芽 : 前回まではタイプ別の対策を提案したが、今日は、楽譜の読み方のコツをいろいろと並べてみようと思う。
メダカ : まとめ、ですね。
若 芽 : まとめ、と言うほどたいした内容じゃないけどな。当たり前のことばかりなんだが、中には一つくらい拾い物もあるかもしれないぞ。
メダカ : では、お願いします。
若 芽 : うん。メダカ、君は初めて楽譜を見る時に、何を見るかね?
メダカ : そりゃあ、普通、音を見るでしょう。ドかレかってことですよ。それにだいたいリズムも一緒に見ます。すごく変なリズムじゃなきゃ。
若 芽 : その時に指づかいも一緒に見るべきだな。
メダカ : ええ? 一度にそんなに見られませんよ。
若 芽 : じゃあ君は一本指で弾いているのか?
メダカ : そんな訳ないでしょう。
若 芽 : じゃあ、どうせどの指を使うか考えなきゃならないじゃないか。
メダカ : そりゃあそうですけど、初めはありあわせの指で間に合わせるんですよ。それに「譜読み その1」で、先生は初めは両手で弾けって言ったじゃないですか。両手で弾きながら指づかいまで見られませんよ!
若 芽 : そんなに興奮しなくてもいいじゃないか。よし、わかった。じゃあ少し慣れてからでいいや。でも、できるだけ早いうちに、指づかいを正しく弾くようにするんだぞ。音が読めているのに弾けないという場合は、たいてい指づかいに問題がある。
メダカ : わかりました。できるだけ早く正しい指づかいで弾くようにするんですね。
若 芽 : そうだ。
メダカ : あ、先生。指づかいが書いてない楽譜はどうするんですか?
若 芽 : 自分で指づかいを決めて書き込むように。若芽は時々伴奏を頼まれるんだが、伴奏の楽譜にはなぜか指づかいが書いてない。(というか若芽が見たことないだけかもしれないけど。)けど指づかいをちゃんと書き込めれば、もう半分は弾けたようなもんだ。
メダカ : (疑いのまなざし)
若 芽 : 若芽はそうなの。誰でもそうだとは断言できないけどさ。
メダカ : とにかく、指づかいが大事だということですね。
若 芽 : その通り。
メダカ : 他には、どんなコツがあるんですか?
若 芽 : 和音は前回やった「相対的に読む」だな。3度はお団子みたいに重なっているし、5度は三つのお団子の真中が抜けた感じだから、慣れればすぐにわかるようになる。
メダカ : ああ、なるほど。ドミソだったらお団子三つですね。
若 芽 : あと、加線が多くて読めない音がポツンポツンとあったら、そういうのにはドレミをふってもいいだろう。全部の音にふるのはマズイと思うけど。
メダカ : ああ、飛んでいる加線の音って読めませんよねえ。そうだ、先生。僕は#とか♭が多い調だと、どこに#や♭を付ければいいかわからなくなるんですけど。
若 芽 : #4つのホ長調なんかで、ファドソの#はわかっても最後の一つがレなのかラなのか迷うんだろう。
メダカ : そうなんです。いつも頭が混乱してしまいます。
若 芽 : これは覚えるのが一番いいんだけどな。
メダカ : 覚えられれば、苦労してませんよ。何か名案はないんですか?
若 芽 : 名案とはいえないと思うけど、ここだけの話にできるか?
メダカ : ここだけの話ですか? わかりました。内緒にします。
若 芽 : 若芽は中学生の時にツェルニーの譜読みをするのに、黒鍵を弾く音符には全部、鉛筆で〇を付けていた。
メダカ : 〇ですか? 全部?
若 芽 : うん。付けてみるといろいろ考えなくてすむのですごく楽なんだな。でも、先生にはちょっと〇を付けた楽譜は見せられなくて、レッスンに行く時には全部消していたけどな。
メダカ : ああ、それで鉛筆なんですね。消えるように。
若 芽 : よく小節の初めのほうに臨時記号が付いていて、終わりのほうで同じ音が出てきたりすると#なんかを落とすことがあるだろう。そういうのも、楽譜を見て#や♭を機械的に拾っていくと(〇を付けていくと)意外と落とさないで弾けるんだ。
メダカ : いいかも…。
若 芽 : いや、若芽は音符に〇を付けるのを薦めているんじゃないぞ。
メダカ : わかってますって。内緒にしますから。でも、#が5つとかの調の時にはどうするんです? 〇を付ける音符のほうが多いですよ?
若 芽 : そういう時は、#や♭が付いてない音符に〇を付けるに決まってるだろう。
メダカ : やっぱり。
若 芽 : 〇を付けてみると、なんとなくキマリみたいなのがわかってきて、そのうち全部に〇を付けなくてすむようになる。で、わかりにくいところだけに、印を付けるようになるんだな。
メダカ : わかりにくいところというと?
若 芽 : 臨時記号が多くて#なのか♭なのかあるいはナチュラルなのかわかりにくい音があるだろ? そういう音には、今でも#とか♭とか鉛筆で書いてしまうな。そのほうが早く音が覚えられるし。
メダカ : 全部に〇じゃなくて、わからないポイントだけ印を付けるようになっていくわけですね。〇を付けるのも労力が要りますからねえ。
若 芽 : 〇の話はそのくらいにして、次は指のほうから、アプローチしてみよう。
メダカ : 指、ですか? でも、それは前回の「相対的に弾く」でやりましたよ。
若 芽 : 前回は5本の指と音の相対的な関係についてだったけど、今回は指、一本ずつのことだ。
メダカ : はあ?
若 芽 : 左手によく出てくる伴奏の形を例に説明しよう。ドミソ、ドファラ、シレソ、ドミソ、と一つずつ順番に弾く場合、5の指(小指)はどういう風に動くかな。
メダカ : 左手で弾くんですから、5の指で弾く音はド、ド、シ、ド、です。
若 芽 : 1の指(親指)は?
メダカ : ソ、ラ、ソ、ソです。
若 芽 : で、残りの音は一本の指で弾くわけじゃないけど、ひとまとめに考えておく。ほら、もうわかっただろ?
メダカ : 何がですか?
若 芽 : 音を一つずつ弾く場合、ドミソドファラと弾くと、二つ目のドはソの後だからソ・ドと取ることが多いと思う。特に初心者のかたは。でも、ドはその前に同じ5の指で弾いているんだから、前のドをまた弾けばいいだけなんだ。
メダカ : なるほど。てことは、次のシも、1の指で弾いたラから取ろうとすると難しいですけど、ドを弾いた5の指を一つ左へずらせば簡単ってことですね。
若 芽 : そうだ。この場合に限らず、指一本ずつの立場に立ってみれば、音が順番に、あるいは3度ずつくらいで動いていることは多いからな。立体的に音の動きをとらえるんだ。
メダカ : 指一本ずつの立場?
若 芽 : 家族がみんな、いつも同じ行動をしているわけじゃないだろ? おとうさんもおかあさんもおにいさんもおねえさんも赤ちゃんも、さ。
メダカ : 先生、それって、指のことですよね。
若 芽 : 当然だ。
メダカ : でも、いきなり5本の指それぞれの立場に立って弾け、と言われても。
若 芽 : ああ、そうだよな。一度に5本の指全部を考えなくてもいいんだ。初めは左手なら5の指、あるいは一番低い音の流れを掴むといいかもしれない。バラバラに弾いている分散和音を和音に直して弾いてみるとよくわかると思うゾ。
メダカ : はあ。やってみます。ところで、若芽先生、今まではこういう考え方で練習していけば、いつの日にか譜読みが早くなる、という方法が多かったように思うんですが。
若 芽 : ああ、そうだな。
メダカ : すぐに、今練習している曲が弾けるような切り札のようなものはないですか?
若 芽 : そんな魔法みたいなことができれば、若芽がやっている。
メダカ : ですよね。(がっかり)
若 芽 : でも、練習時間を節約したいということなら、方法はあるぞ。
メダカ : え? あるんですか? どうするんです?
若 芽 : 4小節ずつ(曲によっては2小節ずつでも8小節ずつでも可)に区切って、『4小節ずつを徹底的に弾けるようする』というのを繰り返すのが、いちばん練習時間が短くてすむ。
メダカ : 徹底的に、というと?
若 芽 : 右手、左手、両手の繰り返しだ。
メダカ : 何回くらい弾くんですか?
若 芽 : そりゃあ、弾けるようになるまでだろ? でも、最低でも3回ずつくらいはやったほうがいいだろうな。
メダカ : はあ、わかりました。でも、そうやって弾いても上手くいかない部分があったらどうしましょう。
若 芽 : そりゃあ、もっと短く区切って弾くんだな。2つの音だけを弾くとか。
メダカ : 2つの音だけって、どういうことです?
若 芽 : 和音がパッとは取れないことがあるだろ? そういう時には、前の音と取れない和音だけを繰り返して、指に覚えこませるんだ。
メダカ : ああ、なるほど。他には何かありませんか?
若 芽 : 「片手ずつ弾く時には速く弾いて、両手で弾く時にはゆっくり弾く」もいいかも。
メダカ : どういうことですか?
若 芽 : 両手で速く弾くのは無理でも、片手だったら速く弾けるだろう? サッと弾いてやっぱり手に覚えこませるんだ。その代わりってわけじゃないけど、両手で弾く時はゆっくり、できるだけ無駄な動きをしないように弾く。
メダカ : ああ、わかった。僕、次の音に飛ぼうとして、次の音がわからなくてうろうろすることがあります。
若 芽 : だから、うろうろしないですむくらい、ゆっくり弾くんだ。
メダカ : なるほど。
若 芽 : 音楽は、だいたい繰り返しの部分があるから、そうやって弾いていると同じパターンがまた出てくるしさ。
メダカ : ああ、そうですね。二部形式とか三部形式とか。
若 芽 : そういうことだ。同じ部分を見つけると譜読みは楽になるよな。
メダカ : 今回もまた、ずいぶんと長くなってしまいましたが、皆さん、いかがでしたか。少しは役に立つことがありましたでしょうか。「譜読み」は今回で終わりです。では、さようなら〜。
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