譜読み その2
「音符を読む その2」をまだお読みでない方は、そちらを先に読んだほうがわかりやすいと思います。
メダカ : 今日は、譜読みの2回目ですね。今回はどんな内容ですか?
若 芽 : 前回は「初めての練習は片手」派の話をしたが、譜読みの遅い人には別のタイプもいる。「楽譜を見ないで、鍵盤ばかり見て弾く」派だ。
メダカ : え? だって楽譜を見なかったら、何の音を弾けばいいかわからないじゃないですか。
若 芽 : 耳が良くて聴いた音をそのまま鍵盤に置きかえられる人や、先生が弾いてくれた手の動きを覚えてそのまま弾く人もいるゾ。
メダカ : ええ? そんなことができるんですか?
若 芽 : 小さい子供なんかは得意だ。
メダカ : へえー。
若 芽 : だけど、そういうケースじゃなくても、楽譜を見ない人はいるんだ。
メダカ : と言いますと?
若 芽 : 初めは音符を見て弾いているんだけど、音符を読みながらだとなかなか弾けるようにならない。そうしているうちに、音符を覚えるより先に音を、というか鍵盤の位置を覚えてしまう。そうすると楽譜は見なくても弾けるので、見る必要がなくなるという訳だ?
メダカ : ふうん。そうですね。覚えてしまったら、苦手な音符は読みたくないですよね。
若 芽 : では、なぜ音符を読みながらだとピアノが弾けないのかわかるか?
メダカ : さあ。
若 芽 : 人間の目は2つあるが、右目で楽譜、左目でピアノの鍵盤を一度に見ることができるか?
メダカ : はあ? そんなの無理に決まってるでしょう!
若 芽 : 無理だよな。だから、ピアノを弾くには、1.楽譜を見る。2.音符を読む。3.鍵盤を見る(音符と対応する鍵盤を探す)。4.使う指を考える(決める)。5.音を出す(ピアノを弾く)。と、これだけ必要になる。
メダカ : え? そんなこと、いちいちやってます?
若 芽 : ほらな。メダカはそんなことやっていないだろ? 一つずつの音符に対していちいち音符を読む、鍵盤を見る、音を出す、なんてやっていたら、弾けるようになるまでにすごく時間がかかるもんな。
メダカ : そうですよねえ。
若 芽 : そこで、音符を読まずに弾く方法の登場だ。
メダカ : はあー? 音符を読まないって? じゃあ、やっぱりさっき言っていた聴いて覚えるってことですか?
若 芽 : そうじゃない。相対的に弾くんだ。
メダカ : 「相対的に弾く」ですか? この前「ソルフェージュの教室」では「相対的に読む」をやりましたね。
若 芽 : 今回は実践編だ。実践だから読まずに弾く。
メダカ : はあ?
若 芽 : 初めの音がドだとしよう。で、それを右手の1(親指)で弾くとする。メダカ、やってみなさい。
メダカ : こうですか? (ドー、と1の指で弾く。)
若 芽 : 次の音が2度上だったら、2の指(人差し指)を動かして弾く。
メダカ : ああ、上隣りの音を弾くわけだから指も隣りの2の指ってことですね。(レー、と2の指で弾く。)
若 芽 : うん。その時大事なのは、手を見ずに弾くってことだ。
メダカ : 手を見ないというと、鍵盤を見ないということですか? 全然見ないんですか?
若 芽 : 絶対見てはいけないって訳じゃないが、見ないですめば見ないほうがいい。目が楽譜と鍵盤を行ったり来たりしていたら、どこを弾いていたかわからなくなるだろ?
メダカ : ああ、そうですね。じゃあ、目は楽譜をずっと見ているってことですか?
若 芽 : 可能な限りな。次に行くぞ。今は2の指でレを弾いているな? 次の音も2度上がっているとしよう。そうしたら?
メダカ : また上隣りだから2の隣りの3の指(中指)です。(ミー、と弾く。)
若 芽 : じゃあ、2度下は?
メダカ : 今度は下がっているから、2の指(人差し指)に戻ります。(レー、と弾く。)
若 芽 : つまりそういうことだ。
メダカ : そういうことって?
若 芽 : だから、音符が2度上がったり下がったりしていたら、指も隣りの指を動かせばいいってことだよ。
メダカ : でも、音が飛んでいることもあるじゃないですか。
若 芽 : もちろん、そういう場合もある。一つずつ順番にやるんだ。一度にやろうとするとわからなくなるぞ。まず、並んでいる(順次進行の)音を鍵盤を見ないで自由に弾けるようにする。それができてから、飛んでいる(跳躍進行の)音のことを考えるようにすれば、バッチリ。
メダカ : ふうん、わかりました。第1段階として、鍵盤を見ずに隣りの音を順番に弾けるようにするってことですね。具体的な練習は、どうすればいいでしょうか。「ドレミファソ」を何度も弾いてみるんですか?
若 芽 : まあ、そういうことだが、「ドレミファソ」だけを弾くんじゃなくて、どの位置でも弾けるようにしないとな。
メダカ : どの位置でも、ってことは「ドレミファソ」「レミファソラ」「ミファソラシ」ってことですか?
若 芽 : うん。一つずつずれていくのは良いな。「ドシラソファ」「シラソファミ」と下がってくることも忘れないように。あ、そうだ。一つずれるつもりが二つずれてしまった、ということがないように気を付けないといけないぞ。
メダカ : ずれる時も鍵盤を見てはいけないってことですか?
若 芽 : もちろんだ。「鍵盤を見ないで弾くための基礎練習」は、基本的には鍵盤を見ないでやる。初めの時と、正しく弾けているかを確認する必要がある時は手を見ても良いけど。
メダカ : うーん。ちょっとキビシイかも。でも、やってみます。
若 芽 : では、次は一つ飛びに挑戦だ。「ドミソ」「レファラ」「ミソシ」などと1−3−5の指で(左は5−3−1)ずれてみようかな。上りと下りを一緒にやるなら、「ドミソミド」「レファラファレ」「ミソシソミ」でも、いいかも。
メダカ : なんか、発声練習みたいですねえ。あ、わかった。その後は2−4の指で「レファ」「ミソ」ってやるんでしょ?
若 芽 : 「レファ」「ミソ」じゃ短過ぎるだろう。1−3.2−4.3−5と動かして「ドミレファミソ」「レファミソファラ」くらいやらないとな。
メダカ : なんかハノンみたいな気分になってきましたね。
若 芽 : そうか? ハノンよりは簡単だろ?
メダカ : そりゃあそうですけど。
若 芽 : で、この基礎練習をマスターして鍵盤を見なくてすむようになれば、最初に言ったピアノを弾くためにしなくてはいけなかった5つのことが、1.楽譜を見る。2.指を決める。3.音を出す。で終わりだ。
メダカ : なるほど。楽譜はずっと見ているわけですから、「楽譜を見る」と「鍵盤を見る」を繰り返さなくてもいいし、使う指を決めて動かせば音が出るってわけですね。
若 芽 : そう、その通り。
メダカ : ほんとに、音符を読まずに弾くんだ。すげー。
若 芽 : 音符は読んでいないかもしれないが、音程は読んでいるんだゾ。
メダカ : ああ、それで「相対的」なんですね。
若 芽 : うん。どこの位置でも、鍵盤の幅は変わらないからな。初めの音が1の指で、次が2度上がっているなら、2の指を動かせばいいし、そこから3度上がっていれば、4の指を動かせばいいということだ。
メダカ : 一つの鍵盤に一つの指、と決まっている場合はわかりましたが、難しくなってくると音が飛びますよね。そういう時はどうしましょう。
若 芽 : たとえば、1−2でドミを弾くことなんかは、よくあると思う。この場合は、1−2で3度の幅(鍵盤の距離)を覚えてしまえばいい。ここまでくるとやっぱハノンかな。
メダカ : ええ? ハノンですか?
若 芽 : なんだ? ずいぶん嫌そうだな。
メダカ : いえ、そんなことはありませんよ。ハノン大好き!
若 芽 : (ウソの下手なヤツだ。)ハノンは同じことを何度も繰り返して一つ(一音)ずつ上がって(あるいは下がって)いくだろう? その時に「何度」を弾いているか注意しながら鍵盤を見ずに練習すると、鍵盤の幅を覚えられることになってる。
メダカ : へえ。たとえば1番なら、「ドミファソラソファミ」だから1−2の指で3度が弾けるようになるということですか。
若 芽 : そう。5番なら「ドラソラファソミファ」だから1−5で6度の幅をとっているわけだ。
メダカ : この幅がわかると鍵盤をあんまり見ずに弾けるんですね。若芽先生っ! 僕、重大なことに気付きました。
若 芽 : なんだ? 重大なことってのは。言ってみなさい。
メダカ : 絶対的に音符を読めても、それですぐピアノの音が出るわけじゃないんですねっ! ドだとわかっても鍵盤でドを探さなくちゃいけませんもんねっ。その点、相対的に読めば、ドを探さなくても前の音からどれだけ離れているかわかるから、使う指や指の幅で、すぐ音を出せるってことなんですねっ!
若 芽 : まあまあ、メダカ、少し落ち着いて。その通り! なんだが、デメリットもないわけではない。
メダカ : え? デメリット?
若 芽 : 実際には音程だけを読んでピアノを弾くことには限界がある。一つずれたままで弾きつづけるのは、ちとマズイだろ?
メダカ : ああ、ずれているのに気付かないのはマズイですね。
若 芽 : だから、「絶対的に読む」ことも必要なんだ。でも、そのこととは別に、鍵盤を見ないで弾くというのはとても大事なことだ。だから、鍵盤をできるだけ見ないで、楽譜を見続けられれば(鍵盤を見ても、すぐに楽譜に目を戻せれば)、譜読みはずっと早くなると思うぞ。
メダカ : なるほど。なんか、今回はずいぶん長くなってしまったと思っていましたが、大事なことが2つあったんですね。「相対的に弾く」と「鍵盤を見ないで弾く」。
若 芽 : メダカ、やっと君は助手らしくなってきたな。
メダカ : (無視) 本日はここまでです。「楽譜を見ないで鍵盤ばかり見て弾く」派の方は参考になったでしょうか。「譜読み」についてはまだ続きます。では、さようなら。
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