読者からの質問と回答 01151 〜 01160

T.W.さんからの質問 #01160

『はじめよう位相空間』例題 9.7 の数式について教えて下さい.

こんにちは. 『はじめよう位相空間』で勉強中のT.W.です.
また分からない点が出て来たので,教えて下さい.
例題 9.7(120ページ)の下から2行目の数式について,

∫^1_0|f(x)-h(x)|dx ≧ ∫^b_a|f(x)-h(x)|dx 

となるのはなぜでしょうか?
左式は0から1までの定積分,右辺はaからbまでの定積分です.
ご都合のよい時に,お返事くださるとうれしいです.

お答えします:

理由は,a と b を区間 I から選んだからです.
すなわち,区間 [a, b] は区間 I = [0, 1] の部分集合です.
さらに,被積分関数は負の値をとらないので,[a, b] 上の定積分の値が I = [0, 1] 上の定積分の値より大きくなることはありません.
ご回答まで.


K.M.さんからの質問 #01159

第8章「記号 d_2 の2は,2乗の和の平方根を取る定義を表している」 とありますが,意味がわかりません.

『はじめての集合と位相』の p.104 の6行目, ユークリッドの距離関数 d_2 に関して,
「記号 d_2 の 2 は,2乗の和の平方根を取る定義を表している」
とありますが,意味がわかりません.
たとえば,d_1 は 1乗の和の平方根を取る定義を表しているのかな?と思ったのですが, p.104 や p.105 での d_0,d_1,d_∞ の定義を見ると違います.

お答えします:

説明不足だったかも知れません.
一般に,任意の実数 p ≧ 1 に対して,ユークリッドの距離関数の定義における 「2 乗の和の平方根」を「p 乗の和の p 乗根」に変えることにより距離関数 d_p を定義することができます.
その意味で,d_1 は 1 乗の和の 1 乗根をとっていると考えられます.
このとき,異なる2点 x と y に対して,

p < q ならば d_p(x, y) > d_q(x, y)

が成立するのですが,p を大きくしたときの,d_p(x, y) の極限が d_∞(x, y) になることが知られています.
もし興味をお持ちでしたら,次の参考書をご覧下さい.

『解いてみよう位相空間・改訂版』の問題 5.24 〜 5.29 (2017/3/8 追記).

コルモゴロフ・フォミーン著,山崎三郎訳 『函数解析の基礎』第2版,岩波書店,1971. 


K.M.さんからの質問 #01158

第1章,演習問題 16 について教えて下さい.

『はじめての集合と位相』の第1章,演習問題 16 について,
f = f^{-1} となることは確認しましたが,

「f は平面 R^2 の点のどのような対応を表す写像であるかを考えよ.」

に対する答えがわかりません.
((1/2)x + (√3/2)y, (√3/2)x - (1/2)y) = (xcos(π/3) + ysin(π/3) , xsin(2π/3) + ycos(2π/3))
となって,何か意味がありそうな気はするのですが・・・.
平面 R^2上の点 (x, y) を点 ((x + √3y)/2, (√3x - y)/2) にうつす対応という, そのままの答えでよいでしょうか・・・?

お答えします:

それも1つの答えと思います.
想定した解答は「直線 x - √3y = 0 に関して線対称な点にうつす写像」です.
どちらの答えも正しいと思います.
取り急ぎ,回答まで.


S.H.さんからの質問 #01157

第1章,定理1.3 の証明に気になる点があるのですが.つづき.

質問 #01156 のつづき.
たびたび済みません.
定理1.3 で質問させて頂いた件ですが, 合同の定義から合同変換を持つことが言える一方で 等長変換の結果で合同になったからといって,等長変換が合同変換であるとは言えない ということで納得致しました.

ですが・・・ (3辺が等しいことから)三角形が合同である,という事を使うには 合同変換の存在を要請すると思います.
その三角形の合同の証明で「等長変換であるから合同変換である」というようなやり方をしてしまうと 循環論法になってしまいます. あくまで等長変換は3辺が等しいことを示すだけで 等長変換が合同変換である前提の必要なく, 三角形の合同を証明できるという認識で間違いありませんでしょうか.
ですが,仮に3辺が等しい事実だけから三角形の合同を証明したとして, それは定理1.3とほぼ同内容のものになるのではと思いました.
そうすると教科書では省略されていますが, もし三角形の合同の証明まで丁寧にやったとしたら,合同を示した時点で, 合同変換が存在し,それは最初の等長変換 f と一致するというような証明も可能かと思いますがいかがでしょうか.

お答えします:

定理1.3の証明に関して,有意義なご意見,ありがとうございます.
第2のご質問を読んで,最初のご質問の真意がよく分かりました. S.H.さんの言われる通りだと思います.

定理1.3の証明では,「3辺相等ならば合同」を既習のこととして使って,

(*) 三角形 ABC = 三角形 f(A)f(B)f(C)(ただし,= は合同の意味)

と書きました.
S.H.さんのご意見は,2ページでは,2つの図形が合同であるとは, 合同変換によって重ね合わせられることだと定義したので, (*) の理由としては,三角形 ABC を三角形 f(A)f(B)f(C) に重ねる合同変換の存在を 示すべきであって,そうすると,その合同変換が最初の等長変換 f と一致する. また,その証明は本質的に後半の証明と同じだということだと思います.

ご意見の通りだと思います.
『高校と大学をむすぶ幾何学』にも同様に記述がありますが, どちらも,そのように証明を書く方が適切と思いました. 今後,改訂の機会に恵まれましたら(それは,売れ行きいかんにかかっています!), そのように直したいと思います.

有意義なご質問に重ねて御礼申し上げます.
ありがとうございました.


S.H.さんからの質問 #01156

第1章,定理1.3 の証明に気になる点があるのですが.

『はじめよう位相空間』を読んで気になる点がありましたので ご質問のメールをお送りします.
p.7 の定理1.3 ですが、p.2 の合同の定義からすると, 証明の4行目で合同を示した時点で残りの証明は不要のように感じます.
この場合は「合同」の意味あるいは定義が異なるという認識でよろしいでしょうか?

お答えします:

定理1.3 は「等長変換が合同変換である」ことを主張しています. したがって,合同の定義ではなく,合同変換の定義を使う必要があります.
合同変換とは,平行移動,回転,鏡映およびそれらの合成写像のことです(p.1).
したがって,定理1.3 の証明では,
「任意の等長変換 f が,平行移動,回転,鏡映またはそれらの合成写像である」
ことを示す必要があります.
4行目までの段階では, 「任意の等長変換 f が,任意の三角形を合同な三角形にうつす」 ことしか示していないので,まだ証明は完成していません. いかがでしょうか.

『はじめよう位相空間』『高校と大学をむすぶ幾何学』のご購読に,御礼申し上げます.

質問 #01157 に続きます.


T.O.さんからの質問 #01155

第7章,定理7.18 (Tukey の補題) の証明について教えて下さい.

はじめまして.この度, 『はじめての集合と位相』を読ませていただいたところ, 疑問点ができました.
「位相空間・質問箱」があることが分かったので質問させてください.
Tukey の補題の証明の 91ページ,下から7行目の数式

・・・∪C ⊆ {f(A) : A \in C} ⊆ B

なのですが,f(A) は普通の(集合族でない)集合なはずで, {f(A) : A ¥in C} は集合族だと思うのですが, そう考えると普通の集合であるまわりの B や ∪C と部分集合の記号でつながるはずがないので, その点がよく分かりません.
{f(A) : A ¥in C} の前に ∪ をつければいいのかなとも思ったのですが,読み間違いな気もします. 教えていただけないでしょうか.

いまのままでは,ルベーグ積分や確率などの集合・位相を要求する本に進めない, というところで独習しやすい本を書いてくださって,感謝して楽しんで読ませていただいています. 今後もがんばってください.

お答えします:

ありがとうございます.
ご指摘の通り,91ページ,下から7行目の数式の中の,

(誤)・・・ ⊆ {f(A) : A \in C} ⊆ B

(正)・・・ ⊆ ∪{f(A) : A \in C} ⊆ B

のミスプリントです.
間違いを知らせて頂きまして,ありがとうございました.
正誤表にて訂正します.
最後になりましたが,本書のご購読に御礼申し上げます.
また,励ましのお言葉に感謝しています. 読者の皆様の力を借りて,よりよい本にしていきたいと思います.
T.O.さんの勉強が進むことを祈っています.


T.W.さんからの質問 #01154

第7章,演習問題2の解き方のヒントを下さい.

質問 #01153 のつづき.
『はじめよう位相空間』第7章,演習問題2の解き方のヒントをください.
R^2 の場合に限定しても,証明の道筋が見えなくなっています.
例えば,U(X, p, d_1, ε) の境界が U(X, p, d_2, ε) に含まれていれば,包含関係を示せると思うのですが, これも示す方法が分かりません.

ヒントを与えます:

ヒントをということでしたので,ヒントだけ書きます.
一般に,集合の包含関係 A ⊆ B を示すための基本的な方法は, A の任意の要素が B の要素であることを示すことです. この場合は,任意の点 q に対して,

q ∈ U(X, p, d_1, ε) ならば q ∈ U(X, p, d_2, ε)

が成立することを示すのがよいと思います.
補題 5.20 の不等式が使えるのではないでしょうか.
回答まで.


T.W.さんからの質問 #01153

第6章,演習問題8の解き方が正しいかどうか,ヒントを下さい.

『はじめよう位相空間』をはじめから通して読んでいます. 以前に教えていただいた所から少しだけ進めましたが, またわからない所が出て来たので,教えて下さい.
第6章,演習問題8の解き方が合っているか,ヒントをください.
d_∞(f, g) = 2 のため,g(x) = ax + 2 にして,あとは, d_1(f, g) = 1 となるような a を見つければ良いかなと思ったのですが, 途中計算が複雑になりすぎてどうしても解けません.
根本的なアプローチが間違っている気がしています.

ヒントを与えます:

ヒントをということでしたので,ヒントだけ書きます.
よい考えですが,T.W.さんが言われる通り,計算が複雑になります. そこで,-1 ≦ b ≦ 0 を満たす b をとり,グラフが2点 (0, -b) と (1, -1) を通る1次関数を g としてみてはどうでしょうか. 条件を満たす b の値が見つかると思います.
うまく解決できることを祈っています.


T.K.さんからの質問 #01152

第6章,集合全体のクラス V が集合でないことを担保するのは正則性公理でしょうか.

はじめまして,先生の著書 『はじめての集合と位相』を使わせていただき, 数学を独学している者です. 内容について,ひとつ質問がありますので,この度メールさせていただくことにしました.

先生の本の註 1.13 には「通常の集合論の公理系から導かれる命題の中に, 任意の集合 A は ¬(A ∈ A) を満たすという結果がある」と書かれてあり, その後の第6章の冒頭(p.70)には「もし V が集合ならば,VV が成り立つので, 註1.13 に矛盾する. ゆえに,V はクラスだが集合ではない」という内容のことが書かれてあります.
ところで註1.13 にある「任意の集合 A は ¬(A ∈ A) を満たす」というのは, ZF 集合論における正則性公理から証明される定理ですから, これら2箇所(註1.13 と第6章冒頭の記述)を1つにまとめると, 「通常の集合論の公理系の中の正則性公理から (∀A)(¬(A ∈ A)) が定理として導かれ,そして, この定理より,V が proper class(すなわち,集合でないクラス)であることが導かれる」 という意味に解釈できるのではないかと思われます(この解釈がそもそも誤っておりましたらば,すみません).
つまり『はじめての集合と位相』の記述の仕方だと,
「クラス V が proper class になることを担保しているのは正則性公理である」
というように読めてしまうのではないか.これが私が懸念している点なのであります.
しかし,V が proper class であること(そしてそれゆえ ZF 集合論においてラッセル・パラドクスなどが生じないこと)を ZF 集合論において担保しているのは,正則性公理ではなくて, 分出公理であったと思います(参考文献:彌永昌吉・彌永健一著『集合と位相』岩波基礎数学選書). 間違ったことを申し上げておりましたらば申し訳ないのですが,お手隙の際に,上記の件についてご検討頂ければ幸いに存じます.

お答えします:

ご質問の註 1.13 と第 6 章冒頭の記述ですが,私が意図した通りに読み取って頂いたと思います.

答から言いますと,V が proper class であることは,分出公理からも導かれますが, 正則性公理からも導かれます.

前者の場合は,V を集合とすると,分出公理から {x ∈ V : ¬(x ∈ x)} が集合になり, 矛盾(ラッセル・パラドクス)が生じます.
後者の場合は,V を集合とすると,(∃A)(A ∈ A) が導かれますが, これは,T.K.さんが書かれた正則性公理から導かれる命題 (∀A)(¬(A ∈ A)) に矛盾します.
したがって,V が proper class であることは分出公理によって担保されているが, それとは別に,正則性公理によっても担保されていることが分かります. 一般にある公理から導かれる命題が,それ以外の他の公理からも導かれることは珍しいことではありません. 上で紹介されている彌永先生の参考書の 125, 126 ページからも,その事情がわかると思います.

本書『はじめての集合と位相』は,読者が初めて学ぶ学生であることを想定して, 出来る限り公理的集合論に言及しないように書きました. そのため,本書の第6章では,V が集合でないことの根拠として, 註 1.13 ですでに述べている正則性公理からの結果の方を採用しました.
以上,答えになったでしょうか.

最後になりましたが,『はじめての集合と位相』のご購読に,御礼申し上げます.
取り急ぎ,ご回答まで.

後日,上記の回答に対して, 質問者から大変ていねいな御礼のメールを頂きました.
有意義なご質問に感謝いたします.


K.M.さんからの質問 #01151

『はじめての集合と位相』第1章,演習問題 16 について教えて下さい.

質問 #01150 のつづき.
『はじめての集合と位相』の第1章の演習問題で解けない問題があります.

問題16. 集合 A, B, C に対して, A ∩ C = B ∩ C かつ A ∪ C = B ∪ C ならば,A = B であることを示せ.

示すべきことは (A ⊆ B) ∧ (B ⊆ A) だと思うのですが,全くわかりません・・・. それともシンプルに解けるのでしょうか?

お答えします:

K.M.さんの方針は正しいと思います.

A ⊆ B を示すために,A の任意の要素が B の要素であることを示せばよい.
任意の x ∈ A をとる.2つの場合に分けて考える.
Case 1. x ∈ C のとき:
x ∈ A ∩ C = B ∩ C ⊆ B だから,x ∈ B.(等号のところで,仮定を使いました.)
Case 2. x ∈ C でないとき:
x ∈ A - C = (A ∪ C) - C = (B ∪ C) - C = B - C ⊆ B だから,x ∈ B.(2番目の等号のところで,仮定を使いました.)
ゆえに,いずれの場合も x ∈ B だから,A ⊆ B が示された.
同様に,B ⊆ A を示せば,証明は完成します.

上の証明を次のように書くこともできます.

A = (A ∩ C) ∪ (A - C)
 = (A ∩ C) ∪ ((A ∪ C) - C)
 = (B ∩ C) ∪ ((B ∪ C) - C) (ここで仮定を使いました.)
 = (B ∩ C) ∪ (B - C) = B. 

最後になりましたが,『はじめての集合と位相』のご購読に,御礼申し上げます.
集合・位相の勉強が進むことを祈っています.


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