Apr 2012

フルオラスシリカゲルに固定化したナノパラジウム触媒

Caiらは下図に示すような新しいフルオラスナノパラジウム触媒を合成し、これが鈴木−宮浦反応のよい触媒であることを示しました。また、この触媒はフルオラス液ー液分離で回収され、触媒活性が低下することなく3回まで再使用できることも明らかにしています。残念ながらこの文献は入手しておらず、アブストラクトを読んだだけなので詳細を見てみないとわかりませんが、この触媒がフルオラス液−液抽出で回収できることに驚きました。
An Efficient and Recyclable Fluorous Palladium Catalyst for the Room-Temperature Suzuki Reaction, Wan, L.; Cai, C. Catalysis. Lett. 2011, 141, 839-843.

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最近、Caiらは、このフルオラスナノパラジウム触媒をフルオラスシリカゲル上に固定化し、これを用いた鈴木−宮浦反応についても検討を行っています。反応溶媒が重要で、最終的にメタノール−水(2:1)中で反応は円滑に進行し、収率良くカップリング成績体を得ています。また、ろ過によって回収された触媒は活性が低下することなく5回の再使用が可能です。さらに生成物に含まれるPdの量が非常に低いこと(0.8 ppm以下)も確認しています。反応温度が80℃ですが、この溶媒系ですからフルオラスシリカゲルから触媒がリリースして反応しているということはなさそうですね。
Perfluoro-tagged nano-palladium catalyst immobilized on fluorous silica gel: Application in the Suzuki–Miyaura reaction, Wan, L.; Cai, C. Catalysis Commun. 2012, 20, 105-108.

回収・再使用ができる不斉有機触媒

FuらはO-ベンゾイルスレオニンを触媒とする水中での不斉アルドール反応を検討しています。触媒量は1 mol%、ラージスケール(400 mmol)での検討も行っています。収率、ジアステレオ選択性、アンチ体の鏡像隊過剰率は良好です。反応後、塩酸を加えてからエーテル抽出によって生成物を取り出し、水層にトリエチルアミンを加えると触媒が結晶として析出するそうで、これを吸引ろ別し、精製することなく同じ反応を繰り返して行っています。触媒活性が低下することなく6回も回収・再使用が可能だそうです。実験の部を見てみると、触媒を100gも合成しています。ラージスケールの実験はケトンと芳香族アルデヒド、それぞれ400 mmolですから生成物は53-101 gにもなるのですが、フラッシュカラムクロマトで精製です。回収・再使用の実験も1 mol%の触媒を結晶として回収するということもあり、200 mmolスケールです。実験のスケールに圧倒されました。どうでもいいことですが、「Daicel」が「Dicael」になっています。

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Simple and inexpensive threonine-based organocatalysts as highly active and recoverable catalysts for large-scale asymmetric direct stoichiometric aldol reactions on water, Wu, C.; Long, X.; Li, S.; Fu, X. Tetrahedron : Asymmetry 2012, 23, 315-328.

キーボードケミストリー?

株式会社ワイエムシィからのメールに馴染みのない「キーボードケミストリー」の文字が?
リンクを見てみると、コンピュータ制御の象徴である「Keyboard」と化学「Chemistry」を結びつけてワイエムシィが作成した造語で、ワイエムシィが創造しようとしている「ボタンを押すだけで実現する化学反応」を表象した言葉だそうです。

ワイエムシィは、「キーボードケミストリー」を実現した新しい化学反応方法であるフローリアクションを提案していて、反応の条件設定や反応の開始・停止等をキーボード操作で行えるだけでなく、フラスコ内での反応では得られない革新的な成果が得られるということです。

マイクロフロー系の反応も興味ありますが、金銭的な問題でなかなか手が出せないでいます。

AJIPHASE®

長鎖アルキル基の疎水性を利用して生成物を単離する液相のペプチド合成法の開発に関する論文。味の素なので、この液相ペプチド合成プロトコールをAJIPHASE®と称しています。長鎖アルコキシ基をアンカー分子に導入してFmocストラテジーで液相ペプチド合成を行い、各段階の反応後にアセトニトリルやメタノールを加えることで合成中間体を析出させて単離するというものです。ヘキサペプチドを伸長する11段階の総収率は83%。Supplementary Dataを見ると1mmol以下のスケールで行っているようですが、スケールアップも問題なさそうです。フルオラス合成と同様にアンカー部分の分子量が大きいので扱っている重さの割にはモル数は少ないというのはありますが。

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Development of an efficient liquid-phase peptide synthesis protocol using a novel fluorene-derived anchor support compound with Fmoc chemistry; AJIPHASE®, Takahashi, D.; Yamamoto, T. Tetrahedron Lett. 2012, 53, 1936-1939.

新しいフルオラスミックスチャー合成法

Curranらによるフッ素原子数が5個のフルオラスTIPS基だけを用いた新しいフルオラスミッスチャー合成法によるSch725674マクロラクトンの全立体異性体の合成に関する論文がJACSのJust Acceptedに。
3つのヒドロキシ基の保護に普通のTIPS基(T
Hと略)とフルオラスTIPS基(TF; C6F13やC8F17ではなくC2F5を有する)を用い、分子内のTF保護基の数を変えることによって、それぞれの分子のフッ素数が異なるようにしているところがミソです。一つのシリーズのみ図示します。4シリーズで全16種類の合成を行っています。
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A minimal fluorous tagging strategy enables the synthesis of the complete stereoisomer library of Sch725674 macrolactones, Jared D. Moretti, Xiao Wang, and Dennis P. Curran, J. Am. Chem. Soc., Just Accepted Manuscript

有機合成化学ミニシンポジウム

4月20日、東京理科大学で行われた有機合成ミニシンポジウムに参加しました。演者は早稲田大学栄誉フェローの竜田邦明先生で、演題は「天然生理活性物質の全合成:最近の進歩」でした。反応溶媒の混合比やらTLCの展開溶媒の設定など、どうしてこのようなものが出て来るのか?裏での膨大な仕事量を想像してしまいました。また、どうして天然物を合成するのかという先生の考えには感銘を受けました。

武内先生を囲む会が開催されました。

4月14日の19時から武内先生を囲む会が開かれました。3月の退職記念祝賀会に出席できなかった生物分子科学研究室の1、2期生を中心に15名程度が集まりました。なつかしい顔もあり、うれしさのあまり深酒となりました。皆さんお疲れ様でした。これからもよろしくお願いします。

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