<< 講座 >>

“ pHの調整は、何故植物にとって必要なのか ? ”

更新日: 2010年 5月 5日(印部) .

 INDEX
  前書き .
1. pH(酸度)とは .
2. 作物に適した土壌のpH値.
3. 菌類とその至適pH.
4. 土壌のpHと肥料要素の溶解と利用度.
5. 植物体に於ける硝酸のアンモニア還元.
6. 栽培期間中の培地又は培養液のpH変化.
7. 土壌pHを下げる手立て.
8. 土壌pHと硝酸・石灰の関係.


T.前書き

まず、いちご栽培の土壌pH6.186.537.07を見て戴きます。

写真−@
栽培状況の遠視。なり疲れも無く順調に生育。
  写真−A 同左の近写
生育状況。この時期でも葉に露がついているのが判る。

単位 mg/乾土100g(≒kg/10a)
pH
(KCl)
アンモニア
(NH4-N)
硝酸
(NO3-N)
全リン酸
(P2O5)
加里
(K2O)
石灰
(CaO)
苦土
(MgO)
可給態鉄
(Fe)
備   考
標 準 土 壌 約6.2 2〜3 30 50 50 320 30 2.7
T・K農園 6.18 0.97 3.40 224.51 41.26 241.31 28.22 0.25
 << 処方 >>
炭酸石灰80Kgと硝安75Kgを追肥する。特に、硝酸態窒素を多くすることが大事である。この時、アンモニア態窒素が13Kgほど同時に入ることとなるが、硝安の場合はすぐに硝酸態に変化していくので問題は起こらない。
即効性カルシウムの硝酸石灰を40kg、4Kg/トン当りとして灌水の度に与える。


 写真−B 
栽培状況の遠視。pHは6.53、部分的に多少なり疲れが認められた。
 写真−C 同左の近写
生育状況。6.5位までなら何とか栽培できている。

単位 mg/乾土100g(≒kg/10a)
  pH
(KCl)
アンモニア
(NH4-N)
硝酸
(NO3-N)
全リン酸
(P2O5)
加里
(K2O)
石灰
(CaO)
苦土
(MgO)
可給態鉄
(Fe)
備   考
標 準 土 壌 約6.2 2〜3 30 50 50 320 30 2.7  
Y・M−@ 農園 6.53 1.13 7.20 224.51 63.57 312.86 25.2 0.14  
 << 処方 >>
硝安64Kgを追肥して、硝酸態窒素を多くする事が大事である。この時、アンモニア態窒素が11Kgほど同時に入る事となるが、硝安の場合はすぐに硝酸態に変化していくので問題は起こらない。灌水のときの水のpHは6.0とし、土壌のpHを出来るだけ6.0に近くなるように勤める。


 写真−D
栽培状況の遠視。pHが7.07では悪い。一面にアルカリ障害(成り疲れ)が認められる。
 写真−E 同左の近写
生育状況。葉の周縁が枯れている。これはアルカリの障害、つまり根が傷んでいる。

単位 mg/乾土100g(≒kg/10a)
  pH
(KCl)
アンモニア
(NH4-N)
硝酸
(NO3-N)
全リン酸
(P2O5)
加里
(K2O)
石灰
(CaO)
苦土
(MgO)
可給態鉄
(Fe)
備   考
標 準 土 壌 約6.2 2〜3 30 50 50 320 30 2.7  
Tub.農園 7.07 1.22 14.54 334.03 53.18 373.19 45.36 0  
 << 処方 >>
施肥過多気味。鉄分で代表される微量要素が“0”。
灌水のときの水のpHは5.5とし、土壌のpHが出来るだけ弱酸性になるように勤める。


(5/5)
次に、トマト栽培における土壌分析結果のpH6.07.0の根の状態の写真を見て戴きます。

 写真−F pH6.2付近の正常な根(撮影:’09年 3月11日)
とまとの健全な根の状態。白く見える部分は炭酸カルシウムです。
   写真−G 土壌pH7.0の根(撮影:’10年 4月24日)
とまとのアルカリによる根の障害。褐変して根毛が無い
健全な根の写真。根毛もある。’09年2月7日に土壌検査している。そのときのpHは6.0である。生育も良い。白く見える部分は炭酸カルシウム。   マルチを捲って、土を少し除けてみました。乾き気味だが、根は褐変して重要な毛根が見当たらない。場所によっては根こぶも発生していると言う。

 写真−H 土壌pH6.2前後の樹勢 (撮影:’09年 3月30日)
健全な根の状態の樹勢
   写真−I 土壌pH7.0の樹勢 (撮影:’10年 4月24日)
アルカリによる根の障害の為、葉は萎れ垂れている
根が健全なトマトの樹勢。生育も良い。土壌を採取してから約1ヶ月後に撮影。   根が傷むと、太陽が高くなるに連れ水分の供給が間に合わなくなり、このように萎れてしまう。夕方になると回復すると言う。

上の写真−(F・H)と(G・I)の土壌分析の比較をすると、、、、、
単位mg / 乾土100g ( ≒Kg/10a )
  酸度
(pH:Kcl)
アンモニア
(NH4-N)
硝酸
(NO3-N)
全リン酸
(P2O5
加里
(K2O)
石灰
(CaO)
苦土
(MgO)
可給態鉄
(Fe)
分析日
標準値 6.0〜6.2 2〜3 30 50 50 320 30 2.70  
写真(F・H) 6.0 3.5 9.3  96.5 33.5 125.9 78.2 0.06 ’09.2.27
写真(G・I) 7.0 0.2 3.6 195.5 27.0 439.2 66.3 0.10 ’10.4. 7
リン酸以外は分析値に大差はない。これを見るとpHが自然に上昇する原因は硝酸態窒素と石灰分の差であることが理解できる。
注) pHが6.0の時の石灰分は125.9となって欠乏状態であるが、ここは硝酸石灰と炭酸カルシウムを与えてその欠乏を回避している。


次ぎの写真は、、、、
灌水の際、その水のpHが7.2のものを用いて常時かけていました。
 写真−J なたまめ
なたまめ
 写真−K トルコキキョウ
トルコキキョウ
灌水の度にpH7.2の水を掛けていました。印のところが縮んでいるのが判る。   左写真と同農家。同じ井戸の水を使用しています。このように先端の印のところがpHの影響を受けて萎縮し、そして枯れています。

 写真−L いちご
なたまめ
   写真−M アルストロメリア
アルストロメリア
灌水のたびにpH7.2の水を掛けていました。葉が縮んで、その先端が枯れているのも確認ができます。
  水路の水(7.1〜7.2)を使用しています。このように生長点がpHの影響(アルカリ障害)を受けて萎縮しています。

作物を栽培するとき、どれだけの方たちが土壌や灌水の際の水のpHのことを考えて栽培をなさっているか、そのようなことを考えて農作業を行っている人たちは多分、ごく少数の人たちだけだと思います。否、この二つの事柄を認識しながら農作業しているのは、我々のグループだけかも知れません。特に水のpHを気にしている人は皆無に等しいような気がします。

土壌のpHについては大体の人たちは理解されています。それは、そのpHが低いときなどには消石灰を用いて土壌のpHを上昇させようとしているのをよく見かけます。しかし、下げることを前提に考えている人は少ないように感じています。それでは、その土壌pHが栽培の過程において常に上下していると思っている人はおられるかどうか。これまた少数だと思います。

私たちはそのようなことまでを考えて、症状に応じては、灌水のpHまでも調整をして掛けています。“何!!、水のpHまで下げなくてはならないのか”このようなことを初めて耳にされた方は不思議に思い、また疑問を抱かれる事と思います。何故、土壌のpHや灌水として与える水のpHまでも調整する必要があるのか?pHが高くなる、つまり7.0以上になると何故、病気になるのか?

簡単にひと言でいうと、、、、
“pHが中性以上になると微量要素の効果が失われ酵素が作用しなくなる。その為に植物代謝が行われなくなるからです”
という事になります。このページではその裏付けなどを含めて解説して見たいと思います。

 まず最初に、7.0以上の水を掛けていた農家の失敗の例や良かった例の過去の結果状況をお示します。その前にお断りしておく事は、私たちは植物の栽培の基本は、水をたっぷりと作物にかけてやることだと考えています。そのようにしないと収量が増加しないからです。また、これは根に酸素の供給を良くするため、光合成を早めるため、肥料の各要素を十分に溶かすため、などその理由は多々あります。そのようなことなので、水のpHが高いということは致命的なことになると私たちは考えているのです(関係ないという研究者・指導者も数多くいらっしゃいますが・・・・)。

 まず、姫路のKoj農園さん、昭和55年からの出会いです。メインは春菊の周年栽培です。出会った当初は畑というよりは砂地という感じの圃場でした。この圃場は海岸線をその海の砂で盛った埋め立て地でした。従って、貝殻も多く混じり、腐植も大変不足した圃場でした。その後、近所の畜産農家から無発酵の牛糞堆肥を大量に貰い、次には中古のバックホーを購入して堆肥作りから始めました。さらに、精密な土壌検査も月に一回必ず私が採取に通いました。そして、コンクリートの50トンタンクも設置しました。

大がかりなタンクが必要となった理由は、ここの農園の栽培には、市内を流れる一級河川の市川から水路水を取り入れて潅水していました。ところが、この市川の水のpHが一年年中7.2前後で安定したままでした。これを6.0〜6.2まで下げた状態で使いました。その結果、下のように見事な土壌となり、安定した収穫が出来るようになったのです。

写真−N しろな菜の栽培
しろな菜の栽培
  写真−O みぶ菜の栽培
みぶ菜の栽培

この圃場の土壌分析結果表 (Koj農園の土作りはほぼこのような数値で推移しています)
単位 mg/乾土100g(≒kg/10a)
  酸度
(pH:Kcl)
アンモニア
(NH4-N)
硝酸
(NO3-N)
全リン酸
>(P25
加里
(K2O)
石灰
(CaO)
苦土
(MgO)
可給態鉄
(Fe)
備   考
標準値 6.0〜6.2 2〜3 30 50 50 320 30 2.70  
Koj農園 6.54 2.35 15.60 419.50 50.43 301.60 43.30  
分析者 : 米澤農業研究所
★印は2.7Kg/10a/月を与えています


 奈良のTe農園さん、ここも昭和55年頃です。いちごの栽培です。この農家は何の問題も無い農家です。栽培技術は申し分ありません、品評会に出品しては必ず何か賞を貰ってくるほどの卓越した技術でした。そんなことで地元の出荷組合の役員でもありました。しかし、萎黄病には泣いておられました。“いやいや!萎黄病は病気ではないですw”と私がいうと“嘘、そんな〜”という言葉が返ってきたのを記憶しています。

その後、その家に1週間ほど泊まる機会がありましたから、連日・連夜栽培談義をしました。結局、私は萎黄病の苺の株を貰って帰り、自宅で一ヶ月ほど養生(その当時使った液肥pH調整液)しました。そして、その回復した株を返しに行きました。それをTeさんはシゲシゲと見て“これなら、ええわ〜”という言葉が返ってきました。これでやっと、この事実をこのプロ中のプロ職人に認めてもらったわけです。

それでは、その原因は何であったか、それは灌水に使っていた横の水路の水のpHが7.2だったのです。私は、それを議論していたときには既に知っていました。水路の水のpHは計測していました。その話を信用するか、しないかの問題だったのです。結局、話の通り『pH調整をする』ということで、井戸を掘ることになりました。井戸水はpH6.5で安定している、しかも水位は高い(約20m位掘ったらは出る)ことなど自圃場の状況を本人は良く知っていました。

それでも当初は直径にして2m位の土管を2個買ってきて、畑に自分で穴を掘って2トン位のタンクを造りましたからネ〜。この野郎〜と思いましたよ・・・、そこでpH調整をやり始めたのですが、手間が掛ってとても間に合いません、とうとう削井をする事にしました。pH6.5の水が出ました。それ以来、萎黄病は無縁のこととなりました。何しろ、このような達人でも萎黄病には困リ果てて、その度にハウスの中で座り込んで、、、“何でかな〜”と考え込んでいたといっていました。

 残念ながら、その当時のいちごの写真はありませんが下の写真はその後作のとまとの写真です。
  写真−P とまと
トマト
  写真−Q とまと
トマト

 その時の土壌分析結果表
分析者 :米澤農業研究所
単位 mg/乾土100g(≒kg/10a)
  酸度
(pH:Kcl)
アンモニア
(NH4-N)
硝酸
(NO3-N)
全リン酸
(P2O5
加里
(K2O)
石灰
(CaO)
苦土
(MgO)
可給態鉄
(Fe)
分析日
標準値 6.0〜6.2 2〜3 30 50 50 320 30 2.70  
Te農園 5.71 1.65 1.46 223.42 39.88 202.73 27.72 0.17 1986年

効果の出ない例もありました。それは、私がこの仕事を本格的に始めた頃です。支援状態としてはそれなりに収穫がありましたから失敗ではありませんが、仕事の達成度からすれば失敗でしょう。その理由のひとつに、私たちは灌水をたっぷりと行います。当時の状況として“水の調整をすべきである”ということをあまり認識していませんでした。それは、そもそもの私たちの研究所の水は、pH6.3〜6.5で安定しています。そのため、他府県においての河川や湧出水でもそのpHは同程度のものであるという認識でした。

当時、私たちはまだ全国的な展開も出来ていませんでしたから全国の状況が全く把握できていませんでした。その現地の灌水のpHが高いとなどいう情報が抜けていました。勿論、そのようなケースに何回か出会えば、その状況を比較検討すれば直ぐに解決できる理論は備わっていました。それがはっきりと見えてきたのが、香川県でいちごの栽培支援に携わったときでした。

後日、振り返って考えてみて、愛媛県(K・T農園さん)のきうりの栽培、そして福岡県(H農園)ではいちごの栽培、この2件は毎月、日を決めて土壌分析をしていました。あれだけ緻密な施肥設計をしていたにもかかわらず、今ひとつ生育状態が良くなかったのです。最終的に愛媛は後で分かりましたが7.2、福岡は確認していませんが、症状から察するには、おそらくこのような高いpHの水が原因ではなかったか、と考えているます。

また、和歌山(Ta農園さん)のトマトのロックウール栽培でも、今一効果が上がりませんでした。ご存知のように、このシステムは無機の培地に養液を流し込みながら栽培します。従って、培養液の分析は掛け流しですからする必要はありませんが、ここでは、培地の中に含まれる養液のpHを監視していました。このpHがいつも7.4あるのです。これを6.2〜6.5まで下げるような工夫、つまり、改造をしなければならないのですが、それが全く出来ませんでした。ベットのシートが鼠に食い破られていて、栽培ベットをプール状態にして低く調整して養液を貯め置くことができません。結局、このトマトはアルカリ障害による硼素欠乏が止まりませんでした。奇形果が多く、秀品率の悪い作柄でした。

 このようにいくつかの例を比較してみて、この“植物とpHとの関係”を重要視しなければならないということが良く理解出来たのでした。

実例その後)
高知県(Min農園のロックウール栽培施設では、根圏のpH調整および酸素の供給に留意して管理したところ良質のトマトの収穫が大幅増となった) <2011/1月記>


1. pH(酸度)とは

 pHとはHydrogen(水素)のPower(力とか冪の意味)で、(べき)とは、ある数字又は式を何回か繰り返し合わせたものである。
 例えば、10-3 = 1/10 × 1/10 × 1/10 などのことである。(pHは H の逆対数値である)
 つまり、10-3とは10倍に薄めることを3回繰り返すと言う意味である。


   pH“1” を (10倍にうすめる)→ pH“2”(10倍にうすめる)→ pH“3”(10倍にうすめる)〜〜〜〜〜 pH“7”
    ↓                ↓             ↓                 ↓
   1/10 →→→→→→→→→→→→→→1/100→→→→→→→→→→→1/1000 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜1/10000000
    ↓                ↓             ↓                 ↓
   1×10−1              1×10−2           1×10−3               1×10−7(中性)


2. 作物に適した土壌のpH値

作物に一番適したpHのことを『至適pH』といいます。

殆んどの作物での至適pHは弱酸性と考えた方が良い。一般的には下の表のように、ナスはpH6.8〜7.3、ダイコンは6.1〜7.8、キャベツでは6.0〜7.5などとなっているが、これらの高い数値では、良いというよりは“それらのpHでも何んとか栽培ができる”ということのようだ。しかし、私たちの経験では、植物は7.0(H2O計測の場合)を超えるとやっぱり病気、つまりアルカリ障害を来すことが多い。 そして、その栽培を上手に行っていくためには、根圏は弱酸性になるよう、つまり硝酸化成に努めるべく土づくりをすべきである。

 表−F
作  物 p H   作  物 p H
エンドウ 5.5〜6.1 ナ  ス 6.8〜7.3
ソラマメ スイカ 6.2〜6.9
カンショ 6.0〜6.5 ダイコン 6.1〜7.8
バレイショ タマネギ 6.2〜6.9
トマト 6.5 キャベツ 6.0〜7.5
キウリ 5.5〜7.0 ホウレンソウ 7.0
イチゴ 6.06.5    


3. 菌類とその至適pH

 表−G
菌  類 p H   菌  類 p H
硝酸菌 6.8〜7.3 根粒菌 6.5〜7.5
糸状菌 5.0〜6.0 亜硝酸菌 6.7〜7.9
細菌・放線菌 6.5〜7.5    


4.土壌のpHと肥料要素の溶解と利用度

 表−H Troug表
Trougの図です。幅の広いところでその肥料効果は最大になる。(平均的に効果があるpHはH2O計測で6.8です。これ以上の値ではアルカリ障害が発生し根を傷めます。)   
 
左はTroug表です。pHにはKcl測定とH2O測定があります。ここでは一般的なKclで解説します。

幅の広いところで、その肥料効果は最大になります。ここに表記している窒素のうち、生育に大きく影響を及ぼす硝酸態窒素はpHに関係なく良く溶解します(米沢が附記)。

多量要素は6.8以上のほぼ中性以上のアルカリ側で良く溶解します。一方、微量要素はモリブデンを除き弱酸性側で良く溶けています。pHが6.0以下になるとCa・Mg・Moは溶解し難くなり、反対に7.0を超えるとFe・Mn・B・Cu・Znが不溶となっています。平均して全体的に良く溶けるpHは6.5となっています。

土耕栽培でのpHは、その圃場の土壌を10か所以上採土してその平均値で表します。これを仮に6.8に設定するということは、7.4の所もあれば6.4の所もあるということになります。これでは、不作と良作が混在するということにもなりかねません。また、栽培過程での土壌は、生育が良くなればなるほどそのpH上昇スピードは速くなります。pH6.2から6.6などにはすぐに到達してしまいます。そのような理由で、その根圏のpHは6.0〜6.2が一番良いのです。


5.土の酸度と活性酸度と置換性酸度

pHの酸度表示には活性酸度(H2O)と置換性酸度(Kcl)がある。ここで極めて重要なことはその差が0.2〜0.3の差がある。そして、この差は7.0付近では重要な意味を示してくる。

表ーHのtroug表の通り、みなさん方の圃場のpHが6.8か、または7.2か、そして置換性酸度の数値を採用するか活性酸度を採用するか、このことは大変重要な判断基準である。植物はpH7.0を境にして酸性側で良作に、アルカリ側なら必ず病気を発する。このpH7.0を境にした僅か0.2〜0.3の数値の攻防は決して無視できないものだと考えている。

土壌コロイドとは土の粒子のことです。岩石などが風化して細かい粒子(この時はまだ電子を帯びていません)になり、そこに生物の死骸などの有機物が混ざったものが土壌です。このような土壌はマイナスの電子で覆われています。だから雷(+)は地面に落ちるのです。自動車の車体はプラスの電気で帯びています。碍子は電子を帯びていません。圃場が(+)なら雷は落ちません。肥料を入れすぎたからといって、圃場に水を張って脱塩しようとしても、なかなか抜けてくれないのは、肥料分の(+)と土壌の(−)電子が結びついているからです。昔から言う、雷が落ちた圃場は翌年良くなるといった事は落雷によって電子の結合に変化が生じたものかもしれません。満更、嘘でもないかも、、、、。


      肥料の入れすぎには気をつけましょう。   活性酸度(H2O)にて測定する場合は抽出液に純水、又は蒸留水を使用する。リトマス試験紙で測定するように、被測定溶液に直接試薬を入れ数値を読み取ることが出来る。

置換性酸度(Kcl)は抽出液に塩化加里液を使用する。Kcl規定液を用いて水素(H)原子と加里(K)原子を交換させ、その(K)を検出する。このことを置換性とか交換性酸度という。


土壌分析表のpHの項を見る際、良く注意しなければならないのは、、、、
活性酸度pH(H2O)>置換性酸度pH(Kcl)の差が1ポイント近く表示されるケースがある、この差は有機物の多少で変動はあるものの、通常のこの差は0.3〜0.5位であるべきで、このようなケースでは念のために機器を調整チェックし、再検定をする。

(チェックポイント)
@ 土壌の前処理工程に於いて、振とう器にて120回/分×30分=3600回振とう処理したか?
A pHメーターの計測前校正(使用前には必ず校正を励行)。
B pHメーターの電極に使用する、過飽和塩化加里液のチェック(60℃に加温して補充)
                           以上、良く見かけるので注意すること。


 表−I 分析の例(H2O測定とKCl測定の差異 

< 分析:住化分析センター >
 
左は分析例です。
pHのH2O測定とKCl測定の差を、その差が小さい順に並べました。
もう少し、ECや腐食・CECと比例するかな、と考えましたが、、、、一概にそうはなっていませんでした。

pHにはH2O測定とKCl測定があることは先に述べたとおりです。H2O測定は、土壌から遊離しているプロトン(H+)だけを計測した値であり、KCl測定は、土壌に吸着されているプロトン(H+)をもKClのカリウムイオンと交換し遊離させて測定した値です。従って、水素イオンの濃度は、KCl測定の方が高くなっています。

農業では、土壌に吸着されたプロトンをも考慮したうえでのKCl値とした方が良いのではないかと考えられています。従来からの土壌分析表ではH2O測定の表示がないものが多くあり、そこにはKCl表示が広く取り入れられているようです。

上の表−Eでよく考えていただきたいのは、赤枠140811BのpH差0.4を一般の分析表で検討した場合、pHがKclは6.4で安全域で大丈夫ということになります。しかし、H2O測定なら危険域の6.8、これでは、もう一か月もすれば7.0超えは必至です。そうすると、作物はアルカリ障害を来し病気は必至となります。また、青枠121009@の差0.6なら6.7のものがH2Oで7.3となっています。このようなアルカリ側にある圃場では相当疲れた作物のはずです。このような症状を皆さん方は『成疲れ』とか『株疲れ』と表現しています。


6.pHが作用する『植物体に於ける硝酸のアンモニア還元』への影響

 人でも植物でも生物は全て、蛋白質が不足してくると病気がちになる。人は蛋白質を動物性蛋白質及び植物性蛋白質として、それを食して得ている。また動物では動物性だけを得れば代謝が行えるもの(肉食動物)、植物性だけで行えるもの(草食動物)がある。植物は動物のように移動することができない。動けない植物は、その場で栄養素を取り入れ必要な物質(蛋白質など)を自分の体内で作り出さなければならず、そのため体外から窒素のような多量要素や微量要素を取り入れながら物質生産している。

『 植物体に於ける硝酸のアンモニア還元 』

植物体に於ける硝酸のアンモニア還元

アンモニア態窒素が土壌に存在した場合、それは硝酸化成菌によって硝酸態窒素に変えられる。この時、大量の酸素と餌となる蛋白質つまり有機物が必要となる。硝酸態となった窒素は植物の体内に取り込まれて、体内では上記のような過程で蛋白質となっていく。この“植物体に於ける硝酸のアンモニア還元”という過程は植物が健全になるという植物健康とその品質の観点から見たとき、この還元過程は極めて重要な理論となる。

この還元過程に於いて、植物体内に取り込まれた硝酸態窒素はモリブデンフラビン酵素(硝酸還元酵素とも呼ぶ)の力を借りて亜硝酸に変化していく。この硝化作用で重要になるのがモリブデン(Mo)という金属の働きである。このMoが圃場に存在しないとき亜硝酸の形成は激減する。また、存在していても、極度にpHが低い場合には欠乏となる。

ところが、表中のMoはpHが高いほうが効果があるはずである。しかし、実際にはpHの高い水を掛けた場合はMoの欠乏が多く見受けられ、例えばいちご萎黄病、他の作物でもうどん粉病生長点の葉の先端が枯れたようになり萎縮する症状などが多く現れる。この直接の原因は、硼素の仕業である。硼素(B)はpHが高い場合、不溶となる。このBはCaやMgと共に組織の壁である中葉組織を作っている。

、、、と同時にBは栄養の通り道の導管や師管を保護する重要な働きがあるとされている。そのためにBが欠乏したり、土壌や灌水のpHが高かったりすると硼素が効かなくなり、導管・師管は壊されて当然のことながら栄養は上下せず、細胞組織は壊死してしまう。そこにはカビも生えてくる。そのような過程がうどん粉や灰色かびの正体である。Moについても通り道である導管が破損しているために移動することができず、同じように欠乏となり萎黄病や萎縮症状となるのである。

次に、植物体内の亜硝酸はのイオンを受け、亜硝酸還元酵素が働いて、次亜硝酸に変わる。そこでもFeとCuが必要で、アンモニアに変わるまでにはその他Mnの働きを必要とする。このように還元作用の全てが酵素作用と無機金属のイオンの力を必要とするわけで、この時、上に示したTourgの表にもあるように土壌と灌水の用水が弱酸性でないと上手く蛋白質を作ることができないことになるのである。

それ故、pHが高い場合を考えてみると、特に6.8位から病気モードに入り、7.0を超えると病気となっていくのである。但し、ここでは病気と表現をするのであるが、正確には“アルカリ障害から2次的に病気を来たした現象”と表現したいのである。そこで、その 『 病気の発生するpHつまり6.8〜7.0 』 と 『 Troug表の微量要素の効果が薄れてくる範囲のpH 』 を比べてみると、その範囲がピタリと合致してくるのである。

一般言う“作物の栽培は5.5〜6.5で栽培せよ”という根拠は、その言葉の裏を返せば、その範囲でpHを調整した方が“微量要素の効果を最大限に得られる”ということである。反対に、その範囲となる5.5〜6.5はCaやMg・P・Kにとっては効果がやや弱くなるpHの範囲でもある。


7.栽培期間中の培地又は培養液のpH変化

土耕栽培をしている人たちはその圃場のpHが低いと消石灰などを使ってそのpHを上げようとする。そして、土壌のpHのことを問うといつも言われる事は“うちの土はpHが低いから・・・”と、いとも簡単に片付けられる。果たして、土壌のpHをそんなに簡単に片付けても良いものだろうか?そのことについて、追跡しやすい養液栽培のデータがあるのでその資料を見ながら解説をしてみたい。

培養液の肥料成分中

酸性肥料は       NO3 , P , SO4
アルカリ性肥料は    K , Ca , Mg  である。

正しく調整された標準培養液(園芸試験場処方)のpHは、原水のpHにより若干違いはあるが、6.0〜6.2前後となる。

下表、J表は福岡市Mae.農園の分析の1例である。
  表−J pHの変化:ガラス温室200坪,水耕,作物は大葉,養液タンク10トン,水耕ベット内20トン(培養液合計30トン) 分析:米沢農業研究所
 
分 析 月 日
pH
NO3−N
P
K
Ca
Mg
標 準 養 液
   6.20 16.00  4.00  8.00  8.00  4.00
分 析 結 果
(残存率%)
修 正 追 肥
S59.12.04  6.08
 

(予想)6.40 .
 8.57
 (53.56%)
 4.50
13.07
 2.64
 (66.00%)
 1.40
 4.04
 4.90
 (61.25%)
 3.00
 7.90
 6.40
 (80.00%)
 1.50
 7.90
 3.50
 (87.50%)
 0.50
 4.00
分 析 結 果 S59.12.10  6.97  6.67  1.95  4.40  4.00  2.00
分 析 結 果 S59.12.18  7.42  5.52  1.49  3.40  3.80  1.90

養液のpHは(−)イオンのNO3−N・Pと(+)イオンのCa・K・Mgの残ったイオン数の差にほぼ比例して決定する。生育の良い作物ほどNO3−Nの要求度は高く、その現象がpHを押し上げている原因である。特にNO3−NとCaはその決定主要因になっている。

1) この資料は、その日の天気状態や気温そして栽培ステージが分からないのでデータとしては不備と言わざるを得ないが、それでも、このデータは15日間に於けるpHの変化を良く表している。

2) 12/4日に計測して6.08と確認されたものに追肥をして標準状態(pHは恐らく6.4位)に修正したのだが、pHは再び上昇して12/10日には6.97となっている。更に、一週間後の18日に計測したところ7.42と高いpHが確認されている。

3) 分析結果中、NO3−NとPの最低は12/18日であり、酸性肥料のNO3−N,Pが吸収された結果pHが7.42と上昇している。つまり、(−)イオンの硝酸態窒素とリン酸は約1/3に、(+)イオンの加里・石灰・苦土は約1/2である。この(+)イオンが養液中に多くなる事によって、培養液はアルカリ側になって行くのである。

4) 但し、追肥をしないのにpHが次第に下降していく栽培設備を時々見受ける。このような設備の殆どは水耕の設備でだが、これは残根の処理が出来ていないなど、構造上の欠陥によるものが多い。

この様に、栽培の全期間に於いてそのpHはいつも上下している。特に、土耕栽培では土壌コロイドという存在が緩衝材となり、そのpHが緩やかな変化としてしか現れないため分かり難い。しかしながら、そこには養液栽培ほど急激な変化ではないが、そのpHは次第に上昇をしているという事を認識すべきである。そして、そのpHが7.0付近なったとき成り疲れという現象を来たしているのである。


8.土壌pHを下げる手立て

培地のpHを下げる場合、養液栽培の場合は水が相手なので手立ては簡単である。硫酸や硝酸そしてリン酸などを添加して下げればよい訳である。他方、土壌などの培地を下げる場合はそのように簡単には出来ず、その手立ての答えを得るには、まず土壌のpHがどのような過程で上がっていくのか?という事柄を解明したら良いと考える。

養液栽培でpHが次第に上昇していくという過程は6項−3)の通りであった。それでは土壌のpHはどのような過程を経て上昇していくのかと言うと、これも全く同じ過程にある。唯、養液と土耕の違いが出てくるのは、土耕ではそこに存在する有機物の量によって大きく影響される。栽培中に土壌や養液のpHが上昇する大きな要因は硝酸態窒素などの(−)イオンと石灰などの(+)イオンの吸収差異が関係しているという事は6項−3)の検証結果から理解できる。つまり、それらの吸収差異が(−)イオン > (+)イオンとなるからである。

その様な土壌pH決定のメカニズムが分かって来ると、硝酸態窒素をいかにタイムリーに供給するかという理論に行き着く。ここで考えなければならない理論がある。それは有機物と土壌のページから“V.土壌の物理的、化学的性質の改善”である。特に、4.項の緩衝作用の増大(pHが急激に上昇しない)が重要となる。

この4.項の緩衝作用の増大(pHが急激に上昇しない)では、堆肥を十分に投入することとある。それでは、そのようにすれば土壌がどのように変化をしていくのか?。まず、投入する量である。10a当りにして、乾燥堆肥で3.000Kg湿ったものなら6.000Kgを毎年入れる。唯、堆肥は自分ですき返したりしながら完熟にする必要がある。この完熟が出来ていないには反ってアンモニアの害を及ぼすこととなる。

この堆肥はタダで貰って来て、完全発酵堆肥を自家製造すれば安あがりだが、買うとなると結構高くつく。そこで同じ高くつくのなら、そのまま使えて絶対間違いの無いピートモスをお勧めする。ピートモスは一番大きい物で6qbf(pH調整していないもの、約35Kg)を30〜50袋、投入すると良い。このピートモスの利点は肥料分がない為に栄養分の偏りを修正できる。例えば土壌分析をした場合、リン酸は大過剰のケースが殆んどである。

そこで、このピートモスを使って土壌がどのように変化をするのか、資料に基づいて検証する。

    
 表−K 1号ハウス−@を分析して土壌の変化を観察(チンゲン菜)
(分析者:米澤農業研究所)
単位mg/乾土100g(≒Kg/10a)
 分 析 日 (PH) アンモニア
(NH4-N)
硝酸
(NO3-N)
全リン酸
(P2O5)
加里
(K2O)
石灰
(CaO)
苦土
(MgO)
可給態鉄
(Fe)
備  考
S 62.03.25 7.0 14.33  6.73 508.10 35.19 561.20 20.16 0.00  
S 62.06.13 6.5  3.01  6.33 384.03 22.28 547.17 42.33 0.25  
S 62.10.08 6.8  2.94 36.69 389.94 58.86 547.17 65.72 0.85  


    
 表−L 1号ハウス−Aを分析して土壌の変化を観察(チンゲン菜)
(分析者:米澤農業研究所)
単位mg/乾土100g(≒Kg/10a)
分 析 日 酸度
(pH)
アンモニア
(NH4-N)
硝酸
(NO3-N)
全リン酸
(P25)
加里(K2O) 石灰
(CaO)
苦土
(MgO)
可給態鉄
(Fe)
備  考
S 62.03.25 7.0 14.33  6.73 508.10 35.19 561.20 20.16 0.00  
S 62.06.13 6.7 2.94 18.34 460.83 17.59 541.55 14.11 0.20  
S 62.10.08 6.8 2.57 13.67 354.49 30.49 392.84 50.40 0.92  

土壌分析は2連棟のハウスを初回はハウス全体を一つとして分析した。2回目からは管理が別になるというので各棟ごとに分析をした。

1987年3月25日、初めて本人に会い、分析を行った。結果はアンモニア態窒素(14.33) > 硝酸態窒素(6.73)であった。それもアンモニアの大過剰の状態である。N氏本人に聞いたところ、今までに有機物など入れたことがないという。理由は圃場が東大阪のど真ん中に位置し、3方向にはアパートや民家があり、堆肥など持ち込めないという。至極当然のこととはいいながら、農業をしていくのに有機物がないのでは良い作は望めない。そこで、当時、ピートモスの輸入が盛んになってきていたのでその資材を使うことを思い立った。

同年6月13日、一作終わって分析した処、何とかアンモニア態窒素(3.01) < 硝酸態窒素(6.33)の状態であった。但し、このデータは栽培終了時点でのデータであるから、実情とすればかなりの改善された土壌となっているといえる。ここで不足した養分の補給を行い修正する。

同年10月8日、2回目の栽培が終わり分析した。そのときは完全にアンモニア態窒素(2.94) < 硝酸態窒素(36.69)という構図になっており完璧といえる。この時の商品は品質に申し分なく、市場価格が@100〜120/株と聞いている。

表−Hでも同じようにアンモニア態窒素(2.94)(2.57) < 硝酸態窒素(18.34)(13.67)となり、これも理想形である。
終了時点でのpHについても6.5〜6.8(KCl)であり、栽培終了直後としては、断然落ち着いている。窒素配分もこのようになれば理想形である。この栽培では、石灰の過剰が気になるものの窒素だけを見るならば、このような土作りをして農業をすれば毎日が楽しくなるはずである。

このように、有機物をたっぷり使った有機農業は病気が少ないというが、その最大の要因はこの硝酸態窒素の存在である。この硝酸態窒素こそが土壌を安定させていると言うことがこのデータを検証すればお分かりであろう。但し、収量を上げ、その形を整える石灰をどのようにして補給するかと言ったところまで言及しないと、本当のプロ農家とはいえないのである。

以上のようにして対処していけば、pHの高い圃場は必ず良い方向に向かう。また、pHが高くない圃場であっても、この硝酸化成という過程は植物の耐病性という観点から見ても大変重要な要因であるので、是非とも、この有機物の大量投入に勤めていただきたい。

尚、pHが高くなってしまった圃場の灌水方法は、
1)  土壌のpH(KCl)が7.2以上では → 灌水は5.5 とし、
2)       〃    が7.2以下では →  〃 6.0 として、栽培期間中は必ず(中和作業を兼ねながら)行うこと。
     <<注意>> 灌水のpHは絶対に5.5以下にしないこと、5.0以下になると石灰欠乏などの障害を来たす。


9.土壌pHと硝酸・石灰の関係

土壌pHの矯正(上げる)をするのに石灰資材を施す、その石灰をどの位施すべきかを決定するのに緩衝曲線図を用いる方法がある。
この図は一定量の土壌に種々の量のCa(炭酸カルシウム)を加え、その時のpHを計測して曲線図にしたものである。

『緩衝曲線図』

その図によると炭酸カルシウムの場合、pH6.5のとき、10gに対してその係数は0.005gである。従って、

0.005g × 00.000.000/10 × 100/50 = 300.000g = 300kg という式が成り立つ

つまり、30cmの表土に対してその仮比重が1.0とした場合の土の重量は300.000.000g(300トン)となり、そこに炭酸カルシウムか、または炭酸苦土石灰(100/50=成分50%)を300kg加えればpHが6.5となる。そこにpHを下げる要因の硝酸態窒素が加わるのでpHは0.3〜0.5下降し6.0〜6.2になる。

逆に、pHを上げる要因のアンモニア態窒素が加わればpHは上昇して6.7〜6.9位にはなるだろう。このようにして私たちが用いている分析表の石灰の標準量は300〜340kg/10a(≒乾土100g)としているのである。

次に、畑作の土壌では各々の石灰量が同じであればその圃場に存在する硝酸態窒素の多少でその圃場のpHはほぼ決まるという関係が成り立つ。

                   
 表−M 土壌pHと硝酸・石灰の関係
分析者:米澤農業研究所
単位mg/乾土100g(≒Kg/10a)
サンプルNo. pH
(KCl)
硝酸
(NO3-N)
石灰
(CaO)
A
5.41
20.55
329.71
B 6.21 8.00 324.09
C 6.42 9.33 346.54
D 6.50 19.00 383.01
E 6.81 11.20 392.84
7.26 3.80 397.04
標準土壌 6.0〜6.2 (20)〜30 320

この表のように、石灰量がほぼ同じ量の時、硝酸の量が増えるとそのpHは下降している。アルカリ性化した土壌へ窒素肥料を施す場合は必ず硝酸態窒素系の肥料を使用すべきで、この時アンモニア態窒素系の肥料を施した場合には硝酸化成が遅れ、結果としてサンプルE・Fの比較でも判るように硝酸が欠乏となって、pHは上昇し作物の生育を悪化させてしまう。そのような不都合を来たさないように、窒素の硝酸化を速やかに行うために有機物を十分に使用することが大切である。

<< 最後に >>
農家の皆さんたちは“窒素を入れたら害が出る”と良くいわれます。しかしながら、私たちは果菜栽培に於いて、一般の常識からいえばかなりの量の窒素を使用していると思うが、それでも害が有ったとの報告は一件もない。

そのようなことから、その言葉の意味を深く考えてみると農家の皆さんたちは窒素を使う場合、アンモニア態窒素を主成分にした液肥や配合肥料などを使うことが多い。そのためにアンモニアの害が出た経験がある。また、それでほかの農家が困ったのを見た経験がある。つまり、ここの部分の本当の意味は、“アンモニア態窒素を入れたら・・・・”と表現すべきではないだろうか、と思うのである。

また、私たちが栽培条件の一要因としてこだわる、この水のpHについて私が感じることは、各地の計測したpHの数値と“水を掛ける、掛けない”といれることを比較したところ、概略、pH7.0が7.0以上の高いところでは“水は控えめに・・・”、pHが6.0〜6.5の地域では“あまり気にしていない。むしろ多めに掛ける”といった違いが認められる。特に、pHの高い地方の灌水作業は大変敏感になっているというのが私の感想であり、私の“pHを下げてたっぷり灌水したら・・・”という提案に対しても拒否反応の割合が多い。


 = 完 =




    KISHIMA’S Home Page “ INDEX ”ページへもどるへ戻る
このページのTOPへ戻ります